(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

4-2-3.ステロイド薬

喘息急性増悪に対するステロイド薬の使用に関する主要な文献として21編を検討した。急性期のステロイド薬による治療としては自宅での経口ステロイド薬による救急対処も考慮した。

推奨:ステロイド薬は有効である

自宅でのステロイド薬について以下のように推奨する。

家庭での対応として(1)歩行,会話が困難な高度喘息発作,(2)気管支拡張薬で3時間以内に症状が軽快しない,(3)β2刺激薬を1〜2時間おきに必要とする,(4)症状が悪化していく,(5)現在中等度の喘息発作でも以前に意識喪失を伴う重篤発作を起こしたことがあるハイリスクグループに属する患者が発作を起こした場合などでは自宅での気管支拡張薬の治療に加え,経口ステロイド薬(プレドニゾロン15〜30mg)を内服のうえ直ちに救急外来を受診する。

推奨:救急外来でのステロイド薬の静注は有効である

気管支拡張薬の効果が失われた増悪例,中等度以上の発作,すでにステロイド薬を投与している例に使用する。初回量は,ヒドロコルチゾン200〜500mg,またはメチルプレドニゾロン40〜80mgを必要に応じて4〜6時間ごとに静注する。ただしステロイド薬の明らかな効果発現には4時間を要する。最初のヒドロコルチゾンあるいはメチルプレドニゾロンの静注で症状が増悪する場合は,その薬剤による発作誘発例の可能性を考慮し,他のヒドロコルチゾン薬ないし他のステロイド薬(デキサメタゾン,ベタメタゾンなど)に変更する。ステロイド薬の全身投与の適応は,中等度以上の発作,ステロイド薬の全身投与を必要とする重症喘息発作の既往,入院を必要とする高度重症喘息発作の既往,その他ハイリスクグループに属する症例などである。

科学的証拠

21編の文献のエビデンスの質としては19編がIであり,IIIと判定されるものが2編であった。喘息急性発作における副腎皮質ステロイド薬の有効性に関しては本邦および海外のガイドラインでも普遍的に認められており,文献すべてその使用を推奨するものである。ただし本邦のガイドラインでは救急外来ではステロイド薬の点滴静注を推奨しているので,投与法が相違する場合はC判定とした。以上のステロイド薬の投与法として経口,静注,吸入さらにステロイド薬の使用量を総合的に検討し,ガイドラインで推奨する治療法に対する位置づけを判定した結果,Aが8編,Bが8編,Cが4編,Dが1編であった。

まずステロイドが急性期の治療で有効性に関する検討では17編はA,Bであり支持している。科学的には急性期のステロイド薬による治療は支持される。

次に急性期のステロイド薬により気管支拡張作用を発揮するかとの検討では拡張作用ありとするものが1編6)に対して直接的な拡張作用なしとする研究が 4編6),8),9),10)である。ただし文献6でも気道閉塞が改善を認めるには数時間を要しており,ステロイド自体の直接的な気管支拡張作用ではなく炎症抑制による気道閉塞の改善が大きな要因として含まれている。他の研究ではより短時間で観察した場合,あるいは十分のβ2刺激薬吸入後にはステロイド薬に気管支拡張作用が認められないことを示している。すなわち急性期の治療で認められるステロイド薬の効果は主に炎症の抑制作用によると考えられる。したがってステロイド薬を抗炎症薬として位置づけて気管支拡張薬の効果が失われた増悪例,あるいは中等度以上の発作やすでにステロイド薬を投与している例に気管支拡張薬とともにステロイド薬を使用するガイドラインの勧告は合理的である。またさらに治療対象となる患者に関して検討すると,ステロイド薬を有効とする論文の対象としているのは文献3以外はすべて中等症から重症の喘息発作の患者であり,ガイドラインの中等症以上の治療にステロイド薬を使用する方法も正しいと考えられる。ただし軽症発作に対する全身性ステロイド薬の使用はまた別に検討され,論じられるべきである。

次に急性期におけるステロイド薬の投与法と投与量について検討する。まず点滴によるステロイド薬の投与量に焦点をあて検討すると,初期量としてヒドロコルチゾンで2〜8mg/kg6),7),11),メチルプレドニゾロン40〜125mg8),10),12),15)で急性期の治療的として有効であり,維持量ではヒドロコルチゾンで0.5mg/kg/時6)6mg/kg/日11)400mg/日7),メチルプレドニゾロン1mg/kg/6時9)80mg/日15)で有効性を示している。さらにメチルプレドニゾロン15mg/6時の低い容量では40mg〜125mg/6時と比較すると明らかに効果が低下すること10),一方でメチルプレドニゾロンのパルス療法と経口プレドニゾロンと比較した場合にステロイド薬を大量に使用するパルス療法でもその効果は統計学的に有意差がないことが示されている。以上よりガイドラインとして推奨するヒドロコルチゾン200〜500mg,またはメチルプレドニゾロン40〜80mgを初期量として必要に応じて4〜6時間ごとに静注する投与量・投与法が科学的にも合理的である。

静注以外の投与法として経口ステロイド薬を急性期に使用した研究が7編1),2),3),12),13),14),15)ある。このうち文献1 - 2は急性期の経口ステロイド薬として40mgのプレドニゾロンの有効性を示しており,急性期の自宅での対処として重症発作,遷延する発作,またはハイリスクグループの患者では経口プレドニゾロンを推奨している。さらに経口ステロイド薬が点滴静注と同等に有効とする研究が4編12),13),14),15)あり,投与量について検討すると文献12でのメチルプレドニゾロンの投与量は160〜320mgである。また文献13では初期治療としてステロイド薬の静注にその後の維持薬として経口ステロイド薬を加えた治療の有効性を示している。急性期のステロイド薬投与として経口法も静注と同等の有効性があるか否かについてさらに検討されるべきであろう。

またステロイド薬の投与法として吸入法による治療を取り上げその有効性を示す研究として経口ステロイド薬と比較した文献3プラセボを対象とした文献4の2編がある。文献3は軽症発作を対象としていること,文献4は頻回のβ2刺激薬と多量のステロイド吸入による臨床研究であるため,ガイドラインの推奨に対する評価としてはC(どちらとも評価できない)と考える。軽症発作に対するステロイド薬治療および投与法としての吸入療法については現時点ではまだ十分なエビデンスは得られていない。

結論

ガイドラインの推奨するステロイドを中等症以上の発作に対して有効量をさだめ点滴投与することは十分なエビデンスがあり,科学的に正しく合理性を有している。

ただし,前述した軽症発作でのステロイド薬の使用,中等症発作に対する経口ステロイド薬の適正に関してはさらに検討されるべきであろう。また一部で研究報告されている急性期の吸入ステロイド薬の取り扱いについては未だ十分なエビデンスがなく,これもさらに多くの研究が必要である。

気管支喘息急性増悪における副腎皮質ステロイド薬の検討
文献対象
  1. 例数
  2. 年齢
  3. 対象
試験デザイン
  1. 方法
  2. 観察期間(導入+試験)
  3. その他(効果判定など)
結果・考案・副作用評価
O'Driscollら1)
1993
  1. 35
  2. 32(18〜55)
  3. 喘息急性発作
  1. ステロイド薬の減量を急に中止(下記のプラセボ)または漸減。40mg/日のプレドニゾロンを10日間服用したあと,11日目から35mg/日に減量,以後7日間かけて漸減したのち中止。
  2. 0+4週
  3. ピークフロー,症状スコア
  1. 実薬で漸減した場合,治療前の平均ピークフロー183L/分が,10日間の治療ののち,起床時の平均ピークフロー396L/分に改善。その後28日間の経過観察中,有意の悪化も改善もなし。症状スコアも10日間で有意に改善し,その後安定した。
  2. 急に中止した場合,治療前の平均ピークフロー164/分が,10日間の治療ののち,起床時の平均ピークフロー391 L/分に改善。その後28日間の経過観察中,有意の悪化も改善もない。症状スコアも10日間で有意に改善し,その後安定した。
  3. 両群で有意差なし
II
B
Hattonら2)
1995
  1. 35
  2. 16〜80
  3. 喘息急性発作
  1. 急性発作に対しプレドニゾロン 40mg経口投与ピークフローがbest ピークフローまたは前値の15%以内に戻り48h以上安定後BDP400〜2,000mg吸入して退院させる。
  2. 0+4週
  3. 理学所見,ピークフロー,FDC,FEV1.0,TLC
  1. 減量による喘息の再増悪は漸減(実薬)群:5(n=19),プラセボ群:3(n=16)
  2. 14日間で経口プレドニゾロン漸減した群と急激に中止した群で,増悪例数,ピークフロー,FDC,FEV1.0,TLCの変化について4W後までfollowup,差がなかった。
  3. 漸減(=5mg2日毎)
II
B
Ramsdellら7)
1983
  1. 19
  2. 対照21-32(25.5)
    喘息19-35(24.3)
  3. 喘息患者(安定期)
  1. 健常者10人と喘息患者9人(安定期)を対象。6時間にわたりコルチゾル(8mg/kg)あるいは生理的食塩プラセボ投与し,その後イソプレテレノール(240μg)。
  2. 0+10時間
  3. 理学所見,ピークフロー,RV/ TLC
  1. ステロイド薬で6時間後のピークフローやRV/TLCに改善傾向あるも有意でない。
  2. イソプレテレノールは強い気管支拡張作用を示す。
II
B
Brittonら8)
1976
  1. 26
  2. 低用量43+1.3
    中等度量46+3.4
    高用量39+4.6
  3. 気管支喘息の重症発作
  1. 26人の重症喘息患者で気管支拡張薬に対する反応の悪い患者を対象。低用量(36.2mg),中等度量(61.2mg),または高用量(175.5mg)ステロイド治療(静注)の比較(ヒドロコルチゾン力価mg/kg)
  2. 0+10日
  3. スパイロメトリー,ピークフロー,PR
  1. 急性期のコルチコステロイド薬は有効
  2. (高用量)と(中等度量または低用量)と有意差なし
III
A
Youngerら9)
1987
  1. 48
  2. 6〜16
  3. 気管支喘息性急性増悪(重症)
  1. Isoetharineネブライザー吸入+アミノフィリン持続点滴+プラセボ(n=15)/メチルプレドニゾロン(1mg /kg/6時)(n=13)
  2. 0+36時間
  3. スパイロメトリー,入院率
  1. ステロイド薬治療により36時間でのforced expiratory flow rate during25%to 75%of forced vital capacity(FEF25-75)有意に改善(P<0.05)
  2. プラセボ群は4週間以内の再入院が有意に多い(8対2再増悪,P< 0.05)
II
A
Haskellら10)
1983
  1. 25
  2. (1)低用量
    41.0+9.0
    (2)中等度量
    35.8+9.2
    (3)高用量
    39.0+4.7
  3. 喘息重積発作
  1. メチルプレドニゾロンを3日間にわたり6時間毎に以下の量で投与:
    (1)低用量15mg:
    (2)中等度量40mg:
    (3)高用量125mg:
  2. 0+3日
  3. 理学所見,FEV1.0
  1. FEV1.0は(3)群では1日目に改善,(2)群では2日目に改善,(1)群では有意な改善なし
  2. 3群比較より(3)群の125mgメチルプレドニゾロン/6時間を推奨
II
A
Raimondiら11)
1986
  1. 40
  2. 高用量30+1
    中等度量28+1
  3. 喘息発作(重症)
  1. ヒドロコルチゾンの量(静注)を高用量(80mg/ kg/日)または中等度量(6mg/kg/日)と2群に分けて5日間投与し検討
  2. 0+5日
  3. FVC,FEV1.0
  1. ステロイド薬は有効
  2. 呼吸機能は両群で有意差なし
  3. ヒドロコルチゾン(6mg/kg/日)で有効性あり
II
A
Rattoら12)
1988
  1. 70
  2. 経口19〜64(40)
    静注18〜63(38)
  3. 喘息重積発作
  1. メチルプレドニゾロン1日量として160または320 mg経口または500または1,000mg経静脈投与を72時間にわたり投与
  2. 0+72時間
  3. 理学所見,FEV1.0
  1. 投与3時間でFEV1.0の改善を認めるようになり各群での有意差はない
  2. 急性期でも経口ステロイド薬は有効
II
B
Bowlerら13)
1992
  1. 66
  2. (m+SD)
    高用量31+15
    中等度量33+12
    低用量29+14
  3. 喘息発作
  1. アミノフィリン
    サルブタモールと併用して最初2日はヒドロコルチゾン(静注)(qid)[50mg(低用量),100 mg(中等度量),and 500 mg(高用量)]その後各々の群に経口プレドニゾロン20,40,または60mg/日を投与
  2. 0+12日
  3. ピークフロー,FEV1.0,visual analogue dyspnoea scores(VAS)
  1. ステロイド薬有効
  2. ピークフロー,ASに関しては有意に改善
  3. ヒドロコルチゾン50mg静注×4回/日×2日に続けて経口プレドニゾロンと他の高容量ステロイドとの有意な差を認めなかった
II
A
Jonssonら15)
1988
  1. 22
  2. A群64.7+11.1
    B群61.5+10.1
  3. 喘息発作
  1. A群:メチルプレドニゾロン80mg/24h+アミノフィリン(点滴静注)n=11
    B群:同じ力価の徐放性テオフィリンの経口薬+メチルプレドニゾロン,80mg(分2経口)n=11
  2. 0+4日
  3. dyspnea index,FEV1.0
  1. FEV1.0とdyspnea indexはB群で改善率が高い傾向あったが,有意な差ではない
  2. A群,B群ともに治療としては有効
  3. 経口投与でもよい
II
B

4-2-3.文献.成人喘息の急性憎悪(発作)に対する対応.副腎皮質ステロイド
  1. O'Driscoll BR, Kalra S, Wilson M, Pickering CA, Carroll KB, Woodcock AA. Double blind trial of steroid tapering in acute asthma. The Lancet Vol.341 1993;324-327. (評価 II-B)
  2. Hatton MQ, Vathenen AS, Allen MJ, Davies S, Cooke NJ. A comparison of 'abruptly stopping' with 'tailing off' oral corticosteroids in acute asthma. Respir Med 1995; 89(2): 101-4. (評価 II-B)
  3. Levy ML, Stevenson C, Maslen T. Comparison of short courses of oral prednisolone and fluticasone propionate in the treatment of adults with acute exacerbations of asthma in primary care. Thorax 1996; 51(11): 1087-92. (評価 II-C)
  4. G Rodrigo, C Rodrigo. Inhaled Flunisolide for acute severe asthma. Am J Respir Crit Care Med 1998; 157: 698-703. (評価 II-C)
  5. Marquette CH, Stach B, Cardot E, Bervar JF, Saulnier F, Lafitte JJ, Goldstein P, Wallaert B, Tonnel AB. High-dose and Low-dose systemic Corticosteroids are equally efficient in acute severe asthma. Eur Resp J 1995; 8: 22-27. (評価 II-A)
  6. McFadden ER Jr, Kiser R, deGroot WJ, Holmes B, Kiker R, Viser G. A controlled study of the effects of single doses of hydrocortisone on the resolution of acute attacks of asthma. Am J Med 1976 ; 60(1): 52-9. (評価 II-C)
  7. Ramsdell JW, Berry CC, Clausen JL. The immediate effects of cortisol on pulmonary function in normals and asthmatics. J Allergy Clin Immunol 1983 ; 72 (1): 69-74. (評価 II-B)
  8. Britton MG, Collins JV, Brown D, Fairhurst NP, Lambert RG. High-dose corticosteroids in severe acute asthma. Br Med J 1976; 10; 2(6027): 73-4. (評価 III-A)
  9. Younger RE, Gerber PS, Herrod HG, Cohen RM, Crawford LV. Intravenous methylprednisolone efficacy in status asthmaticus of childhood. Pediatrics 1987 ; 80 (2): 225-30. (評価 II-A)
  10. Haskell RJ, Wong BM, Hansen JE. A double-blind, randomized clinical trial of methylprednisolone in status asthmaticus. Arch Intern Med 1983 ; 143 (7): 1324-7. (評価 II-A)
  11. Raimondi AC, Figueroa-Casas JC, Roncoroni AJ. Comparison between high and moderate doses of hydrocortisone in the treatment of status asthmaticus. Chest 1986; 89: 832-835. (評価 II-A)
  12. Ratto D, Alfaro C, Sipsey J, Glovsky MM, Sharma OP. Are intravenous corticosteroids required in status asthmaticus? JAMA 1988; 22-29; 260(4): 527-9. (評価 II-B)
  13. Bowler SD, Mitchell CA, Armstrong JG. Corticosteroids in acute severe asthma: effective-ness of low doses. Thorax 1992 ; 47 (8): 584-7. (評価 II-A)
  14. Harrison BD, Stokes TC, Hart GJ, Vaughan DA, Ali NJ, Robinson AA. Need for intravenous hydrocortisone in addition to oral prednisolone in patients admitted to hospital with severe asthma without ventilatory failure. Lancet 1986 ; 25;1 (8474): 181-4. (評価 II-B)
  15. Jonsson S, Kjartansson G, Gislason D, Helgason H. Comparison of the oral and intravenous routes for treating asthma with methylprednisolone and theophylline. Chest 1988 ; 94(4): 723-6. (評価 II-B)

 

 
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