(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

4-2-2.β2刺激薬・エピネフリン

前文

急性期のβ2刺激薬・エピネフリンの使用に関連する主要な15の文献を検討した。

推奨:吸入β2刺激薬は有効である

携帯のMDIで1回1〜2パフ。特にスペーサーを用いての吸入が副作用もなく有効である。最初の1時間は20分ごと,以後1時間ごとを目安に改善まで吸入とする。この際,正しい方法で吸入されていることが重要である。ネブライザーによる吸入は効果的で,酸素吸入に連動させて持続的に吸入させることができる。抗コリン薬の吸入を追加すると相加的な気管支拡張効果が得られる場合もある。

なお,カテコラミン製剤(エピネフリン,イソプロテレノールなど)との併用は,不整脈,場合によっては心停止を起こすという報告から効能書には禁忌とされており,必要な場合に限り慎重に併用する。

科学的証拠

β2刺激薬について主に検討した12文献のうちエビデンスの質としてはIIが9編,IIIが2編,IとIVがそれぞれ1編である。文献1(二重盲検であるが)と文献8はランダム化がはっきり記載されていないのでIIIと判定し,また文献13はメタアナリシスであることよりIとし,また文献11は対象試験ではないためIVとなるが,吸入法による効率の差を科学的に検討した研究であるので取り上げた。

β2刺激薬の気管支拡張作用はどの研究でも認められるため推奨の判定ではいずれの文献報告もAまたはBとなる。

まず本邦のみならず海外の喘息治療・管理ガイドラインでは急性期治療としてβ2刺激薬は吸入による投与を推奨しているが,その投与法について静注と吸入とを比較した研究3編4),5),15)では吸入による投与の方が副作用が少なく効果は十分に発揮されることが示されており,ガイドラインで推奨している急性期にβ2刺激薬を吸入で投与することが適切であるといえる。ただし文献6では喀痰が気管内に詰まっているような発作状態での吸入では薬剤が発作状態の気道に到達せず十分な気管支拡張作用が発揮されない可能性も指摘しており,重積状態でかつ喀痰量の多いような状況では吸入以外の治療にも重点を置く必要性があると思われる。

次に吸入法としてどのような方法が適切であるかを検討した文献としては5編7),8),9),10),11)をあげることができる。このなかでMDIの吸入に際してスペーサーを用いることで,その気管支拡張作用が増大することが2編9),10)で示されており,ガイドラインで推奨しているスペーサーを用いての吸入が支持される。またさらに同じスペーサーを用いても文献11でゆっくり吸入して息こらえをすることで肺への薬剤沈着が増加することを示しており,これもガイドラインで正しい方法で吸入されていることが重要としていることが合理的であるといえる。また他の吸入法としてネブライザーによる吸入は効果的であることを推奨したが,文献7文献8でMDIと同等あるいはそれ以上の効果が期待できることが示されており,急性期の治療としてβ2刺激薬をネブライザーで吸入することも妥当である。ただし今後本邦でもMDIに代わりドライパウダー式(DPI)のβ2刺激薬吸入が導入されると考えられるので,今後さらにMDIとDPIとそれぞれでの正しい吸入法を指示することが必要である。

さらに抗コリン薬吸入の併用については最近発表された2文献がある。文献12ではβ2刺激薬吸入での十分には改善しない症例で抗コリン薬が有効な場合があることを示しており,またメタアナリシスで873症例(11の科学論文)を検討した結果でも抗コリン薬によりβ2刺激薬吸入に対する追加効果が期待されることが示されている。抗コリン薬の吸入を追加すると相加的な気管支拡張効果が得られる場合もあるとの推奨は合理的である。

推奨:エピネフリン(0.1%)の皮下注射は有効である

エピネフリン(0.1%)の0.1〜0.3mLの皮下注射はβ作用による気管支平滑筋弛緩とα作用による気道粘膜浮腫の除去による気管支拡張作用を示す。20〜30分ごとに反復投与できるが,脈拍を130/分以下に保つようにモニターする。虚血性心疾患,緑内障,甲状腺機能亢進症では禁忌である。

臨床的にエピネフリンの効果についてランダム化かつ二重盲検で十分な症例で研究した研究としては文献14があげられる。この研究では100症例を対象として検討し,エピネフリン(0.1%)の0.3mLの皮下注射により喘息急性期の症状の改善を認めること,かつβ2刺激薬の吸入で効果が不十分な症例でエピネフリンがより大きな効果を示している。エピネフリン0.1〜0.3mLの皮下注は文献14と同等あるいはそれ以下の投与量であり安全性においても,この推奨は妥当である。

結論

気管支喘息の急性増悪に対する治療としてβ2刺激薬の(スペーサーを用いた)MDIによる吸入およびネブライザーによる吸入は有効である。抗コリン薬の吸入を併用することも相加的な効果が期待できる。またβ2刺激薬の吸入でも十分な効果が得られない場合にはエピネフリンの皮下注射による治療も考慮されるべきである。

気管支喘息急性増悪におけるβ2受容体刺激薬の検討

文献対象
  1. 例数
  2. 年齢
  3. 対象
試験デザイン
  1. 方法
  2. 観察期間(導入+試験)
  3. その他(効果判定など)
結果・考案・副作用評価
Zimentら2)
1978
  1. 24
  2. 18〜45
  3. COPD(気道可逆性があるもの)
  1. 対象薬:メタプロテレノール経口,テオフィリン130mg静注
    容量と投与:
    (1)メタプロテレノール10mg+プラセボ
    (2)メタプロテレノール20mg+プラセボ
    (3)テオフィリン130mg+プラセボ
    (4)テオフィリン260mg+プラセボ
    (5)メタプロテレノール10mg+テオフィリン130mg
    (6)メタプロテレノール20mg+テオフィリン130mg
  2. 0+4時間
  3. FVC,FEV1.0,Gaw/VL,血圧,脈拍,全身状態
  1. combinationによって,テオフィリンのみの3倍,メタプロテレノールのみの2倍の呼吸機能改善の効果あり
  2. 副作用は認めない
II
A
Bloomfieldら4)
1979
  1. 19
  2. 17〜54
  3. 気管支喘息重症発作
  1. 対象薬:サルブタモール,(全例にヒドロコルチゾン250mg静注,40%酸素を投与)
    容量と投与:500μg5mL(生食)静注,3分間,0.5 %(生食)ネブライザー(IPPB)3分間
  2. 0+1時間
  3. 心拍,ピークフロー,動脈血ガス,奇脈の程度
  1. β2刺激薬の吸入は静注と比較して同等またはそれ以上の効果あり
  2. β2刺激薬の吸入は静注と比較して副作用(振戦,動悸)は少ない
II
A
Williamsら5)
1981
  1. 15
  2. 気管支喘息重症発作
  1. 対象薬:テルブタリン,(全例にヒドロコルチゾン200mg静注/6時間毎と酸素を投与)
    容量と投与:250μg5mL(生食)静注10分,2回,2.5mg(生食)ネブライザー10分,2回
  2. 0+4時間
  3. 理学所見,FEV1.0,スパイロメトリー,脈拍,手指振戦
  1. β2刺激薬の吸入は静注と比較して同等の効果
  2. β2刺激薬の吸入は静注と比較して副作用が少ない
  3. 脈拍減少効果もあり,手指振戦も同じ
  4. 吸入の方が効果強い傾向あり,副作用は少ない傾向あり
II
A
Salzmanら7)
1986
  1. 15
  2. -
  3. 喘息発作
  1. β2刺激薬の吸入MDI対ネブライザーの検討
  2. 0+6時間
  3. 理学所見,FEV1.0
  1. β2刺激薬のMDI吸入(スペーサー付き)はネブライザーの効果と同等もしくは同等以上である
II
A
Tobinら9)
1982
  1. 10
  2. 41〜77
  3. COPD(気道可逆性あり)
  1. 対象薬:メタプロテレノール
    容量と投与:650μgをMDIから直接吸入する場合と700mLスペーサーで流速0.3L/秒で吸入する場合の比較検討
  2. 0+4時間(2日)
  3. スパイロメトリー,Raw,FRC,理学所見
  1. β2刺激薬の吸入スペーサーを用いることで気管支拡張効果が増大する
  2. スペーサーがなくても有意に気道拡張効果はあるが,スペーサーを用いると2〜3倍の効果がある
II
A
Newmanら10)
1981
  1. 10
  2. -
  3. COPD患者
  1. β2刺激薬の吸入MDI対MDI+スペーサーの検討
  2. 0+10時間
  3. 理学所見,尿中の未代謝のサルブタモール測定
  1. β2刺激薬の吸入スペーサーを用いることで気管支拡張効果が増大する
II
A
Garrettら12)
1997
  1. 19
  2. 18〜55
  3. 喘息急性増悪
  1. サルブタモールネブライザー吸入とイプラトロピウムの併用の検討
    対象薬およびその容量:Combivent 2.5mL(イプラトロピウム(0.5mg)+サルブタモール(2.5mg))
    硫酸サルブタモール3.0mg(=サルブタモール2.5mg)
    (全例にヒドロコルチゾン200mg静注を15分以内に投与),ネブライザーの投与方法としては酸素吸入による(酸素6L/分)
  2. NA
  3. 理学所見,FEV1.0
  1. イプラトロピウムはサルブタモール2.5mg吸入の効果を増強する
  2. サルブタモールで大きな改善を示した例や,重症例では効果は認められない
II
A
Plotnickら13)
1998
  1. 873(11論文)
  2. 3〜18
  3. 気管支喘息急性増悪
  1. サルブタモールネブライザー吸入とイプラトロピウムの併用の検討
    メタアナリシス
  2. 該当しない
  3. メタアナリシス
  1. 多数回の抗コリン薬の吸入は安全でβ2刺激薬吸入の効果を増強する
I
A
Appelら14)
1989
  1. 100
  2. β2刺激薬:36
    エピネフリン:34
  3. 気管支喘息急性増悪(ピークフロー < 150L/分)
  1. β2刺激薬ネブライザー吸入とエピネフリン皮下注の併用の検討
    対象薬:メタプロテレノールsulfate,エピネフリンまたはプラセボ(テオフィリン血中濃度は同じ)
    容量:メタプロテレノール15mg/0.3mLを5mL(生食)としてマスクで吸入,エピネフリン0.3mL(1:1000),投与:0,30,60,120,150,180分
  2. 0+4時間
  3. 理学所見,ピークフロー
  1. どちらのルートでも同様に有意な効果(ピークフロー増加)があった
  2. メタプロテレノール吸入で効果ない場合の方が,エピネフリン皮下注で効果ない症例よりも有意に多かった
  3. エピネフィリン皮下注はメタプロテレノール吸入に反応しない発作にも有効である
II
A
Lawfordら15)
1978
  1. 16
  2. 15〜65
  3. 喘息重症発作
  1. 対象薬:サルブタモール(全例に対してヒドロコルチゾン250mg静注,および40%酸素を投与)
    容量と投与:サルブタモール400μg500mL(生食)点滴,またはプラセボを45分間,サルブタモール10mg(生食)ネブライザー(マスク付)またはプラセボを45分間
  2. 0+4時間
  3. PR,ピークフロー,FEV1.0,手指振戦
  1. サルブタモールのネブライザー(マスク付)の効果は点滴と同じ
  2. 副作用(眩暈,振戦)はネブライザーではなし
II
A

4-2-2文献.成人喘息の急性憎悪(発作)に対する対応.β2刺激薬・エピネフリン
  1. Williams SJ, Parrish RW, Seaton A. Comparison of intravenous aminophylline and salbutamol in severe asthma. Br Med J 1975; 4: 685. (評価 III-B)
  2. Ziment I, Steen SN. Synergism of Metaproterenol and Theophylline. Chest 1978;73:1016-1017 (suppl). (評価 II-A)
  3. Hanta CH, Rossing TH, MacFadden ER. Emergency Room Treatment of Astma. Am J Med 1982; 72: 416-422. (評価 II-A)
  4. Bloomfield P, Carmichael J, Petrie GR, Jewell NP, Crompton GK. Comparison of salbutamol given intravenously and by intermittent positive-pressure breathing in life threatening asthma. Br Med J 1979; 1: 848. (評価 II-A)
  5. Williams SJ, Winner SJ, Clark TJH. Comparison of inhaled and intravenous terubutaline in acute severe asthma. Thorax 1981; 36: 629-631. (評価 II-A)
  6. Williams SJ, Seaton A. Intravenous or inhaled salbutamol in severe acute asthma? Thorax 1977; 32(5): 555-8. (評価 II-B)
  7. Salzman GA, Pyszczynski DR. Comparison of two delivery methods for aerosolized metaproterenol sulfate. J Asthma 1986; 23(6): 297. (評価 II-A)
  8. Johnson JR, Schroeder RC. Deposition of particles in model airways. J Appl Physiol 1979;47:947. (評価 III-B)
  9. Tobin MJ, Jenouri G, Danta I, Kim C, watson H, Sackner MA. Comparison of Response to Bronchodilator Drug Administratio by a New Delivery System and a Review of Other Auxiliary Delivery System. Am Rev Respir Dis 1982; 126: 670-675. (評価 II-A)
  10. Newman SP, Moren F, Pavia D, Little F, Clark SW. Deposition of pressurized suspension aerosols inhaled through extension devices. Am Rev Respir Dis 1981; 124: 317. (評価 II-A)
  11. Hindle M, Newton DAG, Chrystrn H. Investigations of an optimal inhaler technique with the use of urinary salbutamol excretion as a measure of relative bioavailablity to the lung. Thorax 1993; 48: 607-610. (評価 IV-A)
  12. Garrett JE, Town GI, Rodwell P, Kelly AM. Nebulized salbutamol with and without ipratropium bromide in the treatment of acute asthma. J Allergy Clin Immunol 1997; 100: 165-70. (評価 II-A)
  13. Plotnick LH, Ducharme FM. Should inhaled anticholinergics be added to β2 agonists for treatment acute childhood and adolescent asthma ? A systemic review. Br Med J 1998; 317: 971-977. (評価 I-A)
  14. Appel D, Karpel JP, Sherman M. Epinephrine improves expiratory flow rates in patients with asthma who do not respond to inhaled metaproterenol sulfate. J Allergy Clin Immunol 1989; 84: 90-98. (評価 II-A)
  15. Lawford P, Jones BJM, Milledge JS. Comparison of intravenous and nebulised salbutamol in initial treatment of severe asthma. Br Med J 1978; 1: 84. (評価 II-A)
 
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