(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載
4-2.成人喘息の急性増悪(発作)に対する対応
前文
本章では成人の気管支喘息の急性期の治療・管理についてその適切な方法について論じる。本章ではガイドライン出版1998年後に出された科学論文をさらに追加して,治療に関連する現時点での科学的な研究を検討した。
方法としてはNational Library of Medicine, Advanced Medline Search (Advanced Pub Med)アレルギーおよび呼吸器に関する科学論文を対象に喘息急性期治療について検索し検討した。その結果関連する研究として373の科学論文が該当した(急性期治療全般に関する研究75,抗コリン薬を主体とした研究53,人工呼吸器,麻酔あるいは気管支鏡による治療を主体にした研究24,副腎皮質ステロイド薬を主体とした研究113,アミノフィリンを主体とした研究47,β2受容体刺激薬を主体とした研究33,エピネフリン薬を主体とした研究28)。
ここでは以上の文献の中から科学的根拠の質として高い論文(ランダム化比較試験>非ランダム化>コホート研究・症例対象研究)を選出し,テオフィリン・アミノフィリンに関連するなかで主に急性期の治療に関連する25文献,副腎皮質ステロイド薬については21文献,β2受容体刺激薬については15文献についてその詳細を検討し,かつ各々の項目で15文献を示し,さらにそのうち10文献について内容を表示した。
4-2-1.アミノフィリン・(テオフィリン)
テオフィリンの有効血中濃度は8〜20μg/mlである。アミノフィリン6mg/kgの静注は気管支拡張作用を示し,喘息の治療薬として有効である。テオフィリンの血中濃度を測定することでより安全で十分な投薬を行うことができる。
初回投与の方法としては,アミノフィリン(250mg/筒)6mg/kg相当を等張補液薬200〜250mlに入れ,最初の半量を15分程度,残りの半量を45分程度で投与するのが安全である。テオフィリン薬を1日600mg以上投与されている場合,あるいはテオフィリン血中濃度が8μg/ml以上の時には,アミノフィリンを半分に減量する(投与量の調節)。
科学的証拠
急性期のアミノフィリンの使用に関してエビデンスとして質の高い24文献を検討した。いずれの文献においてもアミノフィリンが薬理作用として,気管支拡張作用を有している。特に文献14では容量依存的にアミノフィリンは気管支拡張作用を示すことを報告しており,ガイドラインに示す有効域が8〜20μg/mlであることを支持するものである。
アミノフィリンの投与法を科学的にはっきりと評価できる文献は22編ある。loading dose 7.0 mg/kgと設定している文献10 を除いたすべての論文ではloading dose 5.6〜6.0 mg/kg → maintenance dose 0.6〜0.9 mg/kg//時の方法でアミノフィリンを投与している。またあらかじめテオフィリンを内服している症例や本剤のクリアランスが低下している症例ではloading doseを50〜70%減量することも6文献で示されていて,いずれも大きな副作用を生じることなく治療が施行されている。したがって,アミノフィリン(250mg/筒)を等張補液薬200〜250mlに入れ,最初の半量を15分程度(ほぼ6mg/kgに相当する),残りの半量を45分程度で投与することは妥当である。さらにアミノフィリン投与の過剰を避けるためテオフィリン薬を1日600mg以上投与されている場合,あるいはテオフィリン血中濃度が8μg/ml以上の時には,アミノフィリンを半分に減量することも合理的である。
さらにここでは実際に気管支喘息の急性発作に使用した場合のアミノフィリンの有用性・妥当性に焦点を絞って検討する。評価の分類としてはAが15編,Bが7編,Cが2編(8,12),Dが3編であった。この場合Aでは急性期にアミノフィリンの気管支拡張作用を主体に治療効果が明らかな報告であり,Bはアミノフィリンを含む治療法により発作の改善を認めた報告であり,いずれもアミノフィリン薬とβ2刺激薬の併用を支持すると考えられる。一方でCとなった2文献は喘息発作の治療の中で他の治療薬にアミノフィリンを併用して追加的な効果がないとの内容であるが,しっかりとした対照試験ではないため(したがってエビデンスの質としてはIV ),はっきりとした評価が困難な報告である。またDはアミノフィリンによる治療効果がはっきりせずかつ頭痛などの副作用の頻度が高いため使用を支持しないと考えられる報告である。ここでさらに各文献の内容を検討すると,急性増悪でのアミノフィリンの使用を支持せずDと評価した検討では日本で提唱されている治療法より多量のステロイド薬の投与,あるいは多めのβ2刺激薬の吸入が施行される傾向である。その一方でランダム化比較試験を行った研究では,サルブタモールとの比較でアミノフィリンは追加的な効果を認め有効であり5),6),15),エピネフリンに対してアミノフィリンは弱いが追加効果を認めている6)。これらの結果は薬理学的に強力な気管支拡張作用を有するβ2刺激薬と抗炎症作用の強力なステロイド薬とともにアミノフィリンの併用を推奨している日本のガイドラインの提唱が,その適正使用の観点からの合理性を有していると考える。またさらに興味あることに入院率とアミノフィリン治療に関する文献が3編ある。このうち文献3でβ2刺激薬吸入とステロイド薬の治療にアミノフィリン薬を加えることで喘息発作による入院率を下げることができたと報告している。ただし同様にアミノフィリンによる入院日数の低下を検討し,効果なしとしている文献4,10もある。しかし文献3はランダム化比較試験で二重盲検法により133人を対象とした研究であり,一方で文献4は妊娠女性64人を対象としたオープン試験である点,文献10ではステロイドの量が多いこと,小児が多く含まれることを考慮すれば,この中では文献3が成人の喘息治療を検討するうえでは科学的根拠としてより質が高いと考えられる。
結論
総体として検証すれば,喘息の急性期にアミノフィリンを安全に併用することは,まず急性期の短時間の効果として見た場合には,単独使用で有効であるのみならず,少なくともある喘息群に対しては他の治療法に追加的に働くことは明らかである。またそのような治療直後の短時間の有効性のみならず,β2刺激薬の頻回の吸入とステロイド薬に追加的な効果がはっきりしない場合でも入院率を下げるなど長時間の観察によっても有効な側面が示されている。すなわちアミノフィリンを喘息発作に使用するのは適正な使用法であると考えられる。
文献 | 対象
| 試験デザイン
| 結果・考案・副作用 | 評価 |
Carrierら1) 1985 |
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| II A |
Wrennら3) 1991 |
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| II A |
Greifら5) 1985 |
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| II A |
Fantaら6) 1986 |
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| II B |
Rossingら7) 1981 |
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| II A |
Rossingら9) 1980 |
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| II B |
Nakaharaら11) 1996 |
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| II A |
Montserratら13) 1995 |
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| II A |
Mitenkoら14) 1973 |
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| III A |
Ohtaら15) 1996 |
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| II A |
4-2-1文献.成人喘息の急性憎悪(発作)に対する対応.アミノフィリン(テオフィリン)
- Carrier JA, Shaw RA, et al. Comarison of intravenous and oral routes of theophylline loading in acute asthma. Ann Emerg Med 1985; 14: 1145-1151. (評価 II-A)
- Siegel D, Sheppard D, Gelb A, Weinberg PF. Aminophylline increases the toxicity but not the efficacy of an inhaled beta-adrenergic agonist in the treatment of acute exacerbations of asthma. Am Rev Respir Dis 1985;132(2): 283-6. (評価 II-D)
- Wrenn K, Slovis CM, Murphy F, Greenberg RS. Aminophylline therapy for acute bronchospastic disease in the emergency room. Ann Intern Med 1991; 115(4): 241-7. (評価 II-A)
- Wendel PJ, Ramin SM, Barnett-Hamm C, Rowe TF, Cunningham FG. Asthma treatment in pregnancy: a randomized controlled study. Am J Obstet Gynecol 1996l; 175(1): 150-4. (評価 IV-C)
- Greif J, Markovitz L, Topilsky M. Comparison of intravenous salbutamol (albuterol) and aminophylline in the treatment of acute asthmatic attacks. Ann Allergy 1985; 55: 504-6. (評価 II-A)
- Fanta CH, Rossing TH, McFadden ER Jr. Treatment of acute asthma. Is combination therapy with sympathomimetics and methylxanthines indicated? Am J Med 1986; 80(1): 5-10. (評価 II-B)
- Rossing TH, Fanta CH, McFadden Jr ER. A controlled trial of the use of single versus combined-drug therapy in the treatment of acute episodes of asthma. Am Rev Respir Dis 1981; 123. 190-4. (評価 II-A)
- Bowler SD, Mitchell CA, Armstrong JG, Scicchitano R. Nebulized fenoterol and iv aminophylline in acute severe asthma. Eur J Resp Dis 1987; 70: 280-3. (評価 IV-C)
- Rossing TH, Fanta CH, Goldstein DH, Snapper JR, McFadden Jr ER. Emergency therapy of asthma: comparison of the acute effects of parenteral and inhaled sympathomimetrics and infused aminophylline. Am Rev Respir Dis 1980; 122: 365-71. (評価 II-B)
- Strauss RE, Wertheim DL, Bonagura VR, Valacer DJ. Aminophylline therapy does not improve outcome and increases adverse effects in children hospitalized with acute asthmatic exacerbations [see comments]. Pediatrics 1994;93(2):205-210. (評価 II-D)
- Nakahara Y, Murata M, Suzuki T, Ohtsu F, Nagasawa K. Significance of the therapeutic range of serum theophylline concentration in the treatment of an attack of bronchial asthma. Biol Pharm Bull 1996;19(5):710-715. (評価 II-A)
- Rodrigo C, Rodrigo G. Treatment of acute asthma. Lack of therapeutic benefit and increase of the toxicity from aminophylline given in addition to high doses of salbutamol delivered by metered-dose inhaler with a spacer [see comments]. Chest 1994;106(4):1071-1076. (評価 II-D)
- Montserrat JM, Barbera JA, Viegas C, Roca J, Rodriguez-Roisin R. Gas exchange response to intravenous aminophylline in patients with a severe exacerbation of asthma. Eur Respir J 1995;8(1):28-33. (評価 II-A)
- Mitenko PA, Ogilvie RI. Rational intravenous doses of theophylline. N Engl J Med 1973; 20;289(12):600-3. (評価 III-A)
- Ohta K, Nakagome K, Akiyama K, Sano Y, Matsumura Y, Kudo S, et al. Aminophylline is effective on acute exacerbations of asthma in adults-objective improvements in peak flow, spirogram, arterial blood gas measurements and lung sounds. Clin Exp Allergy 1996; 26 (2): 32-37. (評価 II-A)