(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

4-1-6.漢方薬

1.前文

喘息の漢方療法は伝統医学として長い歴史がある。古来,喘息は漠方療法のよい適応とされ,多くの経験に裏づけされた一定の治療指針が検討されている。漢方薬の投与は随証治療といって,患者の体質,体力とその時点での闘病反応の強弱によって方剤を選ぶという原則がある。これは薬剤が天然生薬であり新薬のような攻撃的薬効は有していないので,投与前にあらかじめresponderとnon-responderを区別するという経験則に基づいている。このような疾患へのアプローチはランダム化比較試験の実施を困難としている。

一般に喘息発作の急性期には麻黄剤(小青竜湯,他)を,慢性期には体質改善を目指して柴胡剤(柴朴湯,他)を投与するのが原則である。麻黄剤はエフェドリン類を含む麻黄を主薬とした方剤で,気管支拡張作用や鎮咳作用を有し,効果の発現は比較的早い。柴胡剤は抗炎症作用を有し,長期投与によって症状の安定がもたらされる。脾虚とは消化機能全般の機能低下を意味しており,補剤(補中益気湯,他)の投与によって,栄養状態の改善と体力の増強を図る。高齢者の喘息には腎虚の病態があることが中医では重視されており,それらのケースには補腎剤である八味地黄丸などの適用が有用とされている。

現在の喘息での漢方療法の目安を示す。(1)重症のケースや発作がひどいときは当然,西洋薬を優先する。(2)軽症,中等症の喘息にはよい適応があり,病型にはそれほどこだわらなくてもよい。(3)漠方の選択はなるべく証(束洋医学的に見た診断と治療)に基づいて行う。(4)漠方薬の効果はすぐには現れないので,約3〜4週目に効果の有無をチェックし,効果が実感できるときは長期(半年〜2年)に服用を続ける。効果が実感できないときには,その時点で,方剤の見直しを行う6)

2.推奨

漢方薬は長年の経験に基づいて喘息での有効性が示されている伝統的医薬である。

柴朴湯は喘息における長期管理での有用性が示されている。小青龍湯,麻杏甘石湯は気管支拡張作用で急性期に使用されてきた。

漢方薬は重症喘息や高度発作に適応でなく,軽症・中等症喘息での効果が見られる例に長期的に使用することが望ましい。

3.科学的証拠

漢方薬は東洋医学的証に基づく治療であり,適切なプラセボが得難いこともあり,EBMに対応するランダム化比較臨床試験は行われていない。しかしながら,対照を持つ比較試験が柴朴湯で行われ,症状の改善率,ステロイドの減量率が非投与群に比して優れていた1)

柴朴湯は治療前後の症状,治療薬レベル,気道反応性の比較でその抗喘息効果は示唆され2),4),8),10),小児喘息でトラニラストと効果に差異を認めなかった4)。小青龍湯は対照期間と比較して症状の改善を認めた5)。鼻アレルギーでは小青龍湯はランダム化比較臨床試験で有効性が示されている3)。麻杏甘石湯,麦門冬湯などの抗喘息効果が主として症例検討でその有効性が支持され,使用されている6),9)

4.結論

主として臨床的経験から,そして,少数ではあるが比較対照試験からその有効性が示されており,軽症,中等症喘息の長期管理で単独にまた西洋医学薬と併用して用いることができる。

文献対象
  1. 例数
  2. 年齢
  3. 対象
試験デザイン
  1. 方法
  2. 観察期間(導入+試験)
  3. その他(効果判定など)
結果・考案・副作用評価
Egashiraら1)
  1. 64例+48例
  2. 17〜72
  3. ステロイド依存性喘息患者
  1. 柴朴湯投与群と非投与群
    封筒法による割付
  2. 2+12週
  3. 全般改善度,ステロイド減量
  1. 中等度以上の改善は投与群で32.8%,非投与群で10.4%,やや改善では投与群で60.9%,非投与群で18.8%であった。
  2. ステロイド減量50%以上は投与群で17.2%,非投与群で6.3%であった。
II-1
A
江頭洋祐ほか5)
1995
  1. 75例
  2. 16〜70
  3. 寒証(寒がり,鼻水,くしゃみ)を持つ喘息患者
  1. 小青龍湯9g/日投与
  2. 2+4-8週
  3. 2週間の対象期間に対する4-8週間の投薬期間の発作点数,治療点数,喘息点数,呼吸機能を比較
  4. 対照群なし
投与で対照期間に比べて
  1. 発作点数,治療点数は有意な改善
  2. 全般改善度:著明改善13例(18.8%),中等度改善23例(33.3%)
  3. FVC,FEV1.0の改善
II-3
B
長野準ほか8)
1988
  1. 46
  2. 15歳以上
  3. 比較的安定した成人喘息患者
  1. 柴朴湯(TJ-96)7.5g/日
  2. 2週+平均4.7月
  3. 対照期間に比べての検討
  1. 対象期間に比べて投与により発作点数,治療点数,喘息点数の有意な減少を認めた
  2. 著明改善11.1%,中等度改善44.5%,軽度改善22.2%
  3. 対照期間に対する効果判定。対照群なし
II-3
B
伊藤節子ら7)
1992
  1. 21+22
  2. 小児
  3. 受診中喘息患者
  1. トラニラストと柴朴湯2.5g/日<7歳,5g/日>7歳
  2. 4+12W
  3. 発作点数,治療点数,全般評価
  1. 発作点数は両群ともに対照期間のそれに比して有意に減少したが,群間の有意差を認めなかった。
  2. 有用度は有用以上が,柴朴湯群で65%,トラニラスト群で47.4%であったが(12週判定),群間に有意差を認めなかった。
  3. 同等性の統計学的検討なし
II-2
C

参考文献
  1. Egashira Y,Nagano H. A multicenter clinical trial of TJ-96 in patients with steroid dependent asthma.Ann NYAcad Science 1993; 685: 580-583
  2. 浅本 仁.柴朴湯の気道過敏性改善効果について.PTM Vol 8. 13,1996
  3. 馬場駿吉,高坂知節,稲村直樹ほか,小青龍湯の通年性鼻アレルギーに対する効果,二重盲検比較試験,耳鼻咽喉科臨床 1995; 88: 389-405
  4. 江田良輔.難治性喘息の治療に関する研究,第一編,重症難治性喘息における柴朴湯(TJ-96)の臨床効果ならびに,型アレルギー反応に及ぼす影響,岡山医誌,1990; 102: 1309-1321
  5. 江頭洋祐,吉田稔,長野 準,気管支喘息に対する小青龍湯の臨床効果,多施設open trialによる評価,日本東洋医学雑誌,1995; 45: 859-876
  6. 江頭洋裕 アレルギー疾患の漢方治療,気管支喘息,アレルギーの臨床,1993; 13: 937-940
  7. 伊藤節子,三河春樹,小児気管支喘息の治療における柴朴湯の効果について―トラニラストとの比較試験・多施設共同研究結果について―基礎と臨床 1992; 26: 3993-3998
  8. 長野 準,小林節雄,中島重徳,江頭洋祐,気管支喘息に対する柴朴湯長期投与効果の検討―内科領域多施設open trialによる評価―呼吸,1988; 7: 76-87
  9. 玉木利和,新妻知行,麦門冬湯の臨床効果と尿中排泄成分の分析―気管支喘息に対する麦門冬湯の鎮咳作用と有効成分―,東京医科大学雑誌 1999; 57: 23-30
  10. 渡部 創,気管支喘息児における気道過敏性および運動誘発喘息に対する柴朴湯の長期投与について.日本東洋医学雑誌,1991; 41: 233-239
 
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