(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

4-1-4.抗アレルギー薬

1.前文

厚生省免疫・アレルギー研究班作成「喘息予防・管理ガイドライン1998改訂版」によると「I型アレルギー反応に関与する化学伝達物質の遊離ならびに作用を調節するすべての薬剤を一括して抗アレルギー薬と総称する」としている。これは化学伝達物質遊離抑制作用をもつクロモリンが日本に導入されて以来用いられている用語でβ2刺激薬,テオフィリン薬,ステロイド薬,非特異療法薬以外で抗アレルギー作用のある薬剤が含まれている。その後,この種の薬剤が多数開発されて,現在,上記ガイドラインでの記載は19種類にのぼる。この中には薬理作用の異なるものが含まれ,同ガイドラインでは作用により,1)メディエーター遊離抑制薬,2)ヒスタミンH1レセプター拮抗薬,3)トロンボキサンA2阻害薬,4)ロイコトリエン拮抗薬,5)Th2阻害薬の5系統に分類されている。

本稿ではそれぞれの科学的根拠を同ガイドライン記載の薬品順に記載した。

日本で喘息への適用が認可されている抗アレルギー薬の中で国際的ガイドライン(National Institutes of Health, National Heart, Lung and Blood Institute:Global strategy for asthma management and prevention,1995)で明確にその位置が認められたものは1)のクロモリンのみである。プランルカストと同じく4) のロイコトリエン拮抗薬であるザフィルルカストは米国のガイドライン(National Institutes of Health, National Heart, Lung and Blood Institute:Expert Panel Report 2, Guidelines for the diagnosis and Management of asthma)で明確な位置が認められている。

現在のところクロモリン,ケトチフェンを除く抗アレルギー薬は日本でのみ喘息に使用されているので,多数の文献にもかかわらず,喘息での臨床使用成績の文献は殆ど日本のものである。上記2薬品と日本で開発されたアゼラスチン,プランルカストでのみ外国での臨床使用報告がある。小児例ではあるがオキサトミドにも外国からの臨床使用報告がある。

2.推奨:

抗アレルギー薬は治験対象から見て一般にアトピー性または混合型喘息,軽症および中等症喘息に用いることが適当と考えられる。これらの薬剤は発作治療薬として用いるべきではなく,長期管理薬として用いる。その際,気管支拡張薬,抗炎症薬等と併用する。効果判定には4〜8週以上を要する。

3.科学的証拠:

本稿ではMedlineにより各抗アレルギー薬について1997〜2000年にまたがる約3年間の英文文献を検索し,見あたらない薬剤に関してはInternet Pub Medにて11年間の英文文献を検索した。その中で成人喘息に関する原著文献約100編の中から二重盲検法による臨床使用成績を主体に取り上げた。同時に英文総説約20編を参考にした。また,我が国での治験段階での二重盲検法による臨床使用成績も調べた。

上記厚生省のガイドラインの分類に従い表1に我が国で行われた二重盲検法の効果成績をまとめて記入し,そのまとめとして中等度有効以上を表2に示した。すべて和文論文のため文献は省略した。文献は「喘息の基礎から臨床まで(伊藤幸治編,医薬ジャーナル社,1995年)」の「抗アレルギー薬」の項を参照されたい。これら二重盲検の試験方法として他薬対照が多いが,クロモリン,ケトチフェン,オザグレル,セラトロダスト,プランルカスト,ザフィルルカストではプラセボ対照も行われていて有意差が認められている。特にロイコトリエンレセプター拮抗薬のプランルカスト,ザフィルルカストでは有効率が高い上にプラセボの有効率が低いためその差は顕著である。

最終全般改善度からみた有効率は50%あるいはそれ以上はエピナスチン,セラトロダスト, スプラタスト,プランルカスト ,ザフィルルカスト,60%以上がプランルカストおよびザフィルルカストのみである。クロモリンは17.6〜50.7%である。その他ではタザノラスト,ペミロラスト,メキタジンが40%台で残り10種類は40%以下と低い。すなわち,メキタジン,エピナスチンを除くヒスタミンH1レセプター拮抗薬5種類と,クロモリン,タザノラスト,ペミロカストを除くメディエーター遊離抑制薬4種類,およびオザグレルでは40%以下である。

我が国で使用されている抗アレルギー薬の中で二重盲検法でおこなわれ,英文雑誌に報告された臨床成績の代表的なものを科学的根拠文献表に示した。以下の本文で( )内で断りのない限り二重盲検,パラレル試験である。クロモリンはネドクロミル(本邦未市販)より効果は低いが有効であり,ステロイド減量効果をもつ1)

噴霧用のガスとしてハイドロフルオロアルケーン(我が国では未承認)を用いたクロモリンは12才以上で安全であり,従来のクロロフルオロカーボンを用いた場合と同等の安全性,有効性を有する2)。ケトチフェンは緩徐ではあるが有効である。しかし,鎮静,眠気,だるさなどの副作用がある3)。ケトチフェンの有効性は気道におけるT細胞と活性化好酸球の浸潤抑制によると思われる4)。ケトチフェン,クロモリン,吸入ステロイドのベクロメタゾンの3者はいずれも抗炎症作用を示したが,クロモリンとベクロメタゾンはケトチフェンに比し臨床症状改善に優れている5)。アゼラスチンは肺機能を改善し6),吸入ステロイド必要量を減量させる7)。アゼラスチンで得られた治療効果は,局所の炎症細胞浸潤の修飾によると示唆される8)。セラトロダストの治療効果は,活性化好酸球抑制浸潤と気管支組織中のケモカイン発現抑制によると示唆される9)。プランルカストは気管支の抗酸球浸潤に対する抗炎症効果を有する(二重盲検,交差試験)10)。プランルカストは安全で喘息に有用であり,吸入ステロイド使用者にも有効である11)。この安全性は他の成績でも確認されている12)。ザフィルルカストは軽〜中等症喘息の症状点数および吸入β2刺激薬使用量を低下させ,ピークフロー値を上昇させる13),14)。ザフィルルカストはまた高用量の吸入ステロイド(1,000〜4,000μg/日)使用者にも肺機能,喘息症状の改善をもたらし,急性増悪の頻度を減少させる15)

特異的,非特異的刺激による誘発喘息に対する効果ではプランルカストはアレルゲン吸入誘発の即時型および遅発型喘息反応の両者を抑制する(二重盲検・交差試験)16)。ザフィルルカストでも同様結果が示されている(二重盲検・交差試験)17)。また,ザフィルルカストは運動誘発喘息を抑制する(二重盲検,交差試験)18)。プランルカストは軽度ながらメサコリンに対する気道過敏性を低下させる事が示されている(二重盲検,交差試験)19)。オザグレルはアレルゲン吸入誘発の即時型喘息反応を抑制する(オープン試験)。オザグレル,およびセラトロダストはメサコリンに対する気道過敏性を低下させる(オープン試験)。

ステロイド減量効果に関してはアゼラスチンは吸入ステロイド減量効果が示さ7),プランルカストは高用量の吸入ステロイドを半減した際の症状悪化を防止することが示されている20)

薬理作用の異なる抗アレルギー薬の使い分けについては明確な基準はしめされていない。アゼラスチンは咳喘息に対して有効である(オープン試験)。ヒスタミンH1レセプター拮抗薬はその薬理作用から他のアレルギー性疾患を合併している喘息に使用することでこれらの合併症への効果が推測される。ヒスタミンH1受容体拮抗薬の1種のテルフェナジンはアルコール喘息の予防に有効である(二重盲検,交差試験)21)

ロイコトリエン拮抗薬のプランルカストはピラゾロン誘導体によるアスピリン喘息の誘発を抑制する(二重盲検,交差試験)22)。また解熱鎮痛薬に対する過敏性のみならず,メサコリンに対する気道過敏性をも低下させる(二重盲検,交差試験)23)

薬理作用の異なる抗アレルギー薬の併用に関しては報告が少ない。プランルカストとスプラタストとの併用報告(オープン試験)がある。欧米で使用されている抗ロイコトリエン薬のザフィルルカストとヒスタミンH1拮抗薬のロラタジンとの併用でそれぞれの単独使用よりもアレルゲン吸入誘発試験における2相性反応抑制作用が強力であったとの報告(オープン試験)がある。

留意すべき主要な副作用としてクロモリンの気管支痙攣・アナフィラキシー様症状,トラニラストの出血性膀胱炎・肝機能障害,テルフェナジン,アステミゾールとエリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質,イトラコナゾールなどの抗真菌薬すなわち,チトクロームP450の抑制作用を有する薬剤との併用による重篤な心室性不整脈・QT延長(併用は使用禁忌),オキサトミドの血小板減少症・咽頭浮腫・喉頭浮腫・呼吸困難等,セラトロダストの劇症肝炎,プランルカストの重篤な肝機能障害・白血球減少・血小板減少,スプラダストの肝機能障害がある(以上は「Today's Therapy 2000,今日の治療指針」,医学書院,2000,による)。またプランルカスト使用中の経口ステロイド減量の際に発症するChurg-Strauss症候群の1例報告がある。ザフィルルカストでも報告がある。これはステロイド減量による症状顕在化の可能性が大きい。またプランルカストで尿細管間質性腎炎の1例報告がある。

4.科学的根拠文献表 別紙
5.結論

いづれの薬剤も二重盲検法で喘息に対する有効性が確かめられている。この中のいくつかは気道炎症抑制,吸入ステロイド減量効果を示す。我が国で開発された薬剤の臨床成績では最近(1994年以降)の薬剤程有効性は高い。特にロイコトリエン拮抗薬は有効性が高く,吸入ステロイド減量効果もある。薬理作用の異なる薬剤の使い分けに関する明確な基準はない。また併用に関する明確な臨床成績はまだ得られていない。

6.論文リスト別紙
 
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