(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

4-1-2.徐放性テオフィリン

前文

テオフィリンは古くから気管支拡張薬として使われてきたが,試験管内で気管支平滑筋を弛緩させるのに必要なテオフィリン濃度は臨床濃度よりはるかに高く,直接的な気管支拡張作用以外の作用により気管支拡張効果を示すと考えられている。徐放性テオフィリン薬は作用時間が長いことから,喘鳴や呼吸困難などの喘息症状の出現を持続的に抑制する目的で使われてきており,喘息治療ガイドラインの中では吸入性ステロイド薬や抗アレルギー薬と共に長期管理薬として位置づけられている。しかし,これまでのガイドラインでは,種々の臨床的状況における徐放性テオフィリン薬と吸入性ステロイド薬あるいは抗アレルギー薬との効果の比較が十分になされていない。たとえば,軽症例に使用する長期管理薬として徐放性テオフィリン薬と低用量の吸入性ステロイド薬,あるいは徐放性テオフィリン薬とロイコトリエン薬ではどちらが有効か,また,中等症の症例で既に吸入性ステロイド薬が使用されているが喘息症状のコントロールが十分でない場合に,徐放性テオフィリン薬の追加投与は効果があるかどうかなどである。また,徐放性テオフィリン薬は夜間喘息に効くと言われているが,その有効性についても吟味されねばならない。

推奨:軽症,中等症患者において,徐放性テオフィリン薬の喘息症状および肺機能の改善効果は,吸入ステロイド薬と同等であるか若干劣る。しかし,長期的には,明らかに吸入性ステロイドの方が有効である。中用量以上の吸入ステロイド薬を使用しているにもかかわらず,喘息症状が安定しない場合,吸入ステロイド薬を倍量にする代わりに徐放性テオフィリンを併用しても,その効果は同等か徐放性テオフィリン薬併用の方が若干優る。
科学的証拠

以下に記載する科学的論文の検索はMEDLINEを用いて行った。

1.テオフィリンの抗炎症作用について

最近の多くの研究からテオフィリンには抗炎症作用があることが明らかになってきている。喘息におけるテオフィリンの抗炎症効果を臨床的に検討した論文は7編あり,5編が無作為対照試験の結果であった。テオフィリン投与により気管支粘膜生検組織中のT細胞数,IL-4陽性細胞数,総好酸球数,EG2陽性活性化好酸球数が減少すること,同様に喀痰中の好酸球数,EG2陽性活性化好酸球数,ECP濃度も低下すること,また,アレルゲン吸入試験前にテオフィリンを与えておくと,LARの時点での気管支肺胞洗浄液中のT細胞数,活性化T細胞数は少なくなることなどが報告されている1),3)。逆に,長期間テオフィリン薬を使用していた患者が服薬を中止すると喘息症状,朝のピークフロー値の低下と共に気管支粘膜生検組織中のT細胞数が増加することも報告されている2)。一方,テオフィリン投与により気道過敏性と炎症性マーカーの改善を認めたが,両者間には相関がなかったという報告もある。このようなテオフィリンがもつ気道炎症抑制効果の分子レベルでの機序は不明であるが,試験管内実験でテオフィリンは,T細胞の増殖を抑制すること,好酸球のアポトーシスを誘導すること,好酸球の接着分子発現を抑制すること,末梢血単核球のIL-10産生を増加させることなどが報告されている。

2.徐放性テオフィリンの臨床的効果について

テオフィリン徐放剤の長期投与が喘息症状のコントロールや肺機能の改善に有効であることが示されている。しかし,吸入性ステロイド薬,抗ロイコトリエン薬,長時間作用性β2刺激薬などの他の薬剤と比較して,より有効であるかどうかは投与する患者の状況によって異なるようである。

吸入性ステロイド薬を使用していない喘息患者で,徐放性テオフィリン薬と低用量の吸入性ステロイド薬の臨床的効果を無作為対照試験にて比較をした論文が1993年以降4編あり,喘息症状および肺機能の改善効果は,同等であるか,若干吸入性ステロイド薬が優れていたという結果になっている4),8)。しかし,長期間にわたり喘息を安定した状態に保てるか,発作による入院を少なくできるかでみると,明らかに吸入性ステロイドの方が有効のようだ5),9)。中用量以上の吸入ステロイド薬を使用しているにもかかわらず,喘息症状が安定しない場合,吸入ステロイド薬を倍に増量するのと,吸入ステロイド薬の量はそのままにして徐放性テオフィリンを併用するのは,どちらが好ましい結果となるのかが,2つの大規模研究で検討されたが,肺機能改善効果は同等か徐放性テオフィリン薬併用群の方が有意に大きかった6),7)。抗ロイコトリエン薬と徐放性テオフィリン薬との比較研究は少なくSchwartzらの1件のみで,全期間を総合して評価すると有効性は同等であるという結果になっている10)。長時間作用性β2刺激薬のサルメテロールは我が国では未発売であるが欧米では頻用されており,徐放性テオフィリン薬との効果比較研究が多くなされている。Daviesらは,それまでに発表された9つの比較研究のmeta-analysisを行い,サルメテロール治療群はテオフィリン治療群に比し,朝夕のピークフロー改善の度合い,昼夜の喘息症状がない日の割合,頓用β2刺激薬の使用頻度の少なさ,副作用の少なさの点で有意に優れていたと報告している11)。その後の2つの研究でも同様の結果が報告されている12),13)

徐放性テオフィリン薬が夜間喘息に有効であることは以前から指摘されている。徐放性テオフィリン薬は自然に起こる夜間喘息を有意に抑制し,その度合いは早朝のBAL液中の好中球の減少度およびマクロファージの LTB4 遊離率減少度と一致していたという報告がある14)。夜間に行ったアレルゲン吸入誘発試験の早朝での LAR 発現を有意に抑制したという報告もあるがその度合いは弱く,夜間における抗原吸入で起こる発作の予防にも極めて有効とは言えない15)

3.徐放性テオフィリンの副作用について

テオフィリンの副作用は,適切な用法・用量を守り,モニタリングを行うことで防止できる。薬剤の必要量は個々の患者で異なるが,長期投与においては血中濃度が5〜15mg/mLに維持することが目標である。この範囲の濃度であれば重篤な副作用は通常認められない。テオフィリンの代謝を遅延させる薬剤としてはシメチジン,キノロン系薬剤,マクロライド系薬剤が知られていたが,最近,ロイコトリエン阻害薬であるZafirlukastとの併用で血中テオフィリン濃度が著しく上昇したという症例報告がなされた。テオフィリン薬の副作用には初回経口投与時の悪心や嘔吐などの胃腸症状がある。血中濃度上昇による中毒症状としては,まず,悪心・嘔吐などの消化器症状があり,さらに血中濃度が上昇すると頻脈,不整脈があり,高度になると痙攣から死に至ることがある。テオフィリン薬を長期服用している患者は不整脈や心停止などの急性心臓死を起こす危険性が高いという報告があり,特に虚血性心疾患などの心臓病がある患者で起こりやすいとされているので,心疾患を有する者,また,その危険性のある者には投与しない方がよい。また,癲癇用発作から死に至ることもあり,これは中枢神経興奮の所見を事前に認めることなく突然に起こることがあるので注意を要する。

結論

テオフィリン薬は,喘息患者における気道粘膜炎症細胞浸潤を減少させ,その活性化を抑制する。初めて喘息と診断した患者,未治療の患者に徐放性テオフィリン薬を投与した場合の有効性を他の薬剤と比較すると,1)吸入性ステロイド薬と同等であるか,若干劣る,2)長期的な喘息コントロール効果や入院率でみると吸入性ステロイド薬に明らかに劣る,3)長時間作動性β2刺激薬に劣る,4)検討数は少ないが抗ロイコトリエン薬とは同等である。一方,中用量以上の吸入ステロイド薬を使用しているにもかかわらず,喘息症状が安定しない場合,吸入性ステロイド薬の用量を倍にするより徐放性テオフィリン薬を併用した方が肺機能改善効果は優れている。徐放性テオフィリン薬は従来,夜間喘息に有効であると言われてきたが,最近の2つの研究結果は相反しており,更なる臨床研究が必要である。

 

 
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