(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

4.薬物によるコントロール

4-1.成人喘息の長期管理における薬物プラン

4-1-1.β2刺激薬

前文

β2刺激薬は気管支平滑筋の受容体を刺激してアデニル酸シクラーゼ(adenylate cyclase)を活性化し,cAMPを増加させて気管支拡張作用を示すと考えられている。作用の発現は速やかであり,吸入薬では,薬剤が気道に到達して数分後には気管支平滑筋の弛緩が惹起される。テオフィリン製剤とは作用機序が異なり,併用で相加効果が認められる。また,β2刺激薬は気道の線毛運動を活発化させ,クリアランスを高めると言われている。長期管理薬として用いられるβ2刺激薬は作用時間12時間以上の長時間作用型のものである。喘息に対しては吸入剤が最も合理的であり,全身的な副作用が少ないと考えられるが,現在本邦では長時間作用型の吸入β2刺激薬は認可されていない。欧米で既に使用されているサルメテロール,ホルメテロールは長時間型吸入β2刺激薬で1日1〜2回の投与で長期効果が示されている。本邦では,貼付剤,経口剤が長時間作用型β2刺激薬として使用されている。

なお,β2刺激薬は基本的に抗炎症作用を持たないと考えられており,長期管理薬として使用する場合は吸入ステロイド薬など,抗炎症作用を有する薬剤との併用が必須である。

推奨:長時間作用型β2刺激薬は長時間にわたる気管支拡張効果をもたらし,喘息症状の軽減,QOLの改善に効果が高い。特に早朝・未明の症状,運動誘発性喘息の軽減に有用である。しかし,抗炎症作用を持たないため,喘息の根本療法とはなり得ず,長期的に用いる場合には抗炎症作用を有する薬剤との併用が必須である。喘息症状の一時的な増悪には短時間作用型の吸入β2刺激薬の頓用を行う。
科学的証拠
(1) 吸入β2刺激薬

吸入β2刺激薬は速やかに気道の閉塞を解除し,症状の改善に有用である。効果の発現は,ステロイド剤,テオフィリン製剤よりもはるかに速やかであり,MDI,ネブライザーともに使用も容易である。

しかし,現在本邦で発売されている短時間作用型の吸入β2刺激薬を,連日多量に吸入すること(regular use)は長期効果が示されていない。特に,吸入β2刺激薬の単独連用(あるいはそれに近い頻用)はかえって気道の過敏性を亢進させ,症状を不安定にし,喘息死の危険を増加させる可能性も指摘されている。吸入剤に限らず,β2刺激薬は一般に抗炎症作用を持たないので,連用する場合は吸入ステロイド薬などの抗炎症作用を有する薬剤と併用するべきである。逆に,吸入ステロイド薬の併用はβ2受容体の感受性を回復させ,吸入β2刺激薬を連用しても,症状が不安定にならないことが報告されている。なお,フェノテロールの吸入は他の吸入β2刺激薬よりも喘息死を増加させる危険が高いと言われており,他の吸入β2刺激薬が無効または効果不十分の場合にのみ使用し,投与量はできるだけ最小限にとどめるべきである。β2選択性の乏しい吸入薬(イソプロテレノールなど)の使用は急患室での使用や入院中の患者に対する使用を除き勧められない。

(2) 貼付β2刺激薬

本邦で世界に先立って発売された貼付β2刺激薬(ツロブテロール・テープ)は貼付後約12時間で血中濃度が最大に達し,有効血中濃度が24時間以上にわたって持続するため,長期管理薬としての使用に適している。吸入β2刺激薬を使用できない状態の患者(寝たきり老人など)にも簡便に使用できる。血中濃度の上昇が緩やかであるため,動悸・頻脈などの副作用は起こりにくいが,かぶれなどの皮膚症状を来すことがある。長期連用による効果減弱(tachyphylaxis)は,現時点で報告されていない。

(3) 経口β2刺激薬

第3世代経口β2刺激薬(クレンブテロール,ツロブテロール,フェノテロール,ホルモテロール,プロカテロール,マブテロール)はβ2選択性が高く,有効時間が長いので長期管理薬として使用できる。海外では体内に吸収されてから活性化されるプロドラッグも開発されている。経口β2刺激薬副作用として,動悸・頻脈・振戦・頭痛・不眠などがあり,テオフィリン製剤との併用で出現しやすくなるので注意する。連用により副作用は減少してくることが多いが,患者の訴えによっては減量・中止が必要である。β2刺激薬の種類を変更すること,特に経口から貼付薬への変更でこのような副作用が軽快・消失することがある。吸入薬と異なり,経口β2刺激薬の長期連用による重篤な副作用は稀であり,気管支拡張効果の減弱は起こりにくいとされている。なお,甲状腺機能亢進症の患者には原則として使用するべきではなく,心血管系の基礎疾患,高血圧,糖尿病を有する患者でも慎重投与が必要である。

結論

β2刺激薬は,吸入剤,貼付剤,経口剤ともに喘息の長期管理に有用である。

 
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