Ⅳ 妊婦管理 5.降圧薬療法 CQ3 妊娠高血圧症候群における降圧薬の選択とその使用法は?(妊娠高血圧症候群の診療指針)

CQ/目次項目
Ⅳ 妊婦管理 5.降圧薬療法 CQ3 妊娠高血圧症候群における降圧薬の選択とその使用法は?(妊娠高血圧症候群の診療指針)
1
推奨/回答

妊娠高血圧症候群の経口投与が可能な降圧薬としてmethyldopa,labetalol,hydralazine,徐放性nifedipineが推奨される。

推奨の強さ

B:タイプⅡ,ⅢまたはⅣのエビデンスがあり,調査結果は概して一貫している。

2
推奨/回答

収縮期血圧180mmHg以上,あるいは拡張期血圧120mmHg以上が認められたら「高血圧緊急症」と診断し,降圧療法を開始する。緊急に降圧が必要と考えられる場合は静注薬(nicardipine,hydralazine,nitroglycerin)を用いる。

推奨の強さ

B:タイプⅡ,ⅢまたはⅣのエビデンスがあり,調査結果は概して一貫している。

3
推奨/回答

妊婦に対してはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)のいずれも使用しない。

推奨の強さ

A:タイプIのエビデンスがあるか,またはタイプⅡ,Ⅲ,Ⅳに属する複数の研究から一貫した調査結果が入手できる。

4
推奨/回答

静注薬による降圧は,経口薬で降圧が不良である場合,高血圧緊急症の降圧に用いる。その場合,児の状態に留意し,胎児心拍モニタリングを行う。

推奨の強さ

A:タイプIのエビデンスがあるか,またはタイプⅡ,Ⅲ,Ⅳに属する複数の研究から一貫した調査結果が入手できる。

日本高血圧学会(JSH)による『高血圧治療ガイドライン2014』が作成されたが,その内容との整合性を図り,今回,降圧薬の併用投与を提案した。
平成23年に,labetalolとnifedipineの添付文書が改訂された。labetalolは妊婦または妊娠している可能性のある女性に投与可能となった。nifedipineは妊娠20週以降の妊婦に急激かつ過度の血圧低下とならないよう長時間作用型製剤(徐放性nifedipine)の使用を基本とし,治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与する。これらを踏まえて,第一選択の経口降圧薬はmethyldopa,labetalol,hydralazine,徐放性nifedipine(妊娠20週以降)のいずれかを用いる。なお,1剤で十分な降圧が得られない場合,2剤併用も考慮する。methyldopaとlabetalolは交感神経抑制薬であり,hydralazineとnifedipineは血管拡張薬に分類される。併用にあたっては異なる降圧作用機序の組み合わせが望ましく,妊娠20週以降では,交感神経抑制薬(methyldopa,labetalol)いずれかと,血管拡張薬(hydralazine,nifedipine)いずれかの併用が推奨される。日本高血圧学会による『高血圧治療ガイドライン2014』では,3剤の併用も考慮することを推奨している。
『妊娠高血圧症候群管理ガイドライン2009』では,第一選択薬としてhydralazineもしくはmethyldopa経口投与をし,その降圧効果が不十分であれば,第二選択薬としてhydralazine静注もしくはnicardipine持続静注を推奨している。経過が比較的緩やかな妊娠高血圧症候群(多くは妊娠高血圧)には経口降圧薬の併用も有用である。降圧薬の併用は,降圧効果が発揮されるまでに時間を要する可能性や過度に降圧する場合がある。妊娠高血圧腎症は,しばしば急激な血圧上昇,高度の高血圧を呈し,胎児・胎盤循環の異常が発生しやすいため,hydralazine静注もしくはnicardipine持続静注を優先すべきことが多い。
『NICE臨床ガイドライン』では,妊娠高血圧腎症,妊娠高血圧もlabetalolの経口投与を第一選択薬としている。Steegersらは,軽症高血圧では,labetalol 2分服,長時間作用型nifedipine 1日1回,methyldopa内服2~4分服を行う。重症高血圧では,高血圧緊急症と同様に静脈投与や頻回内服投与(例:labetalol 100mg内服45分ごと,最大1,200mg/日)が行われる。いずれにしても降圧薬の投与量は,わが国の薬剤添付文書に認められた投与量に比べて多く(labetalolは450mg/日),同様な投与をするのであればインフォームドコンセントが必要である。静脈投与ではわが国で採用されていないlabetalol注射薬が使用され,同様の管理は困難である。
静注薬による降圧は,経口薬で降圧が不良である場合や高血圧緊急症の降圧に用いる。静注薬は,nicardipine,hydralazine,nitroglycerinを用いる。その場合,児の状態に留意し,胎児心拍モニタリングを行う。

1 妊娠高血圧症候群に用いられる経口降圧薬(表1)
①methyldopa
中枢性交感神経抑制薬で,現在でも妊娠高血圧症候群の治療に最もよく用いられている降圧薬である。明確なエビデンスはないが,40年以上にわたり使用されており,母体および児にほとんど重篤な副作用の報告がされていない。一般の副作用としては眠気,口渇感,全身倦怠感,溶血性貧血,肝障害などが挙げられている。
②hydralazine
血管拡張薬で,副作用としては頭痛,心悸亢進,心不全などの副作用がある。最近報告されたメタアナリシスでは,あらゆる面においてlabetalolよりも妊娠高血圧症候群の降圧薬としては劣ることが報告されている。降圧効果は軽度であるが,心拍出量と腎血流量の改善が得られ,重症高血圧でもSBPを160~170mmHgで持続する症例に適している。
③labetalol
α1β遮断薬で,欧米諸国では比較的よく用いられており,少なくとも安全性の面では大きな問題はないと思われる。さらにhydralazineと比較して主に母体への副作用の面で優れていることがメタアナリシスで示されている。
④長時間作用型nifedipine
nifedipineは,妊娠20週未満,または妊娠している可能性のある婦人では以前と同様に禁忌とされている(動物実験で催奇形性が報告されているため)。しかし,妊娠20週以降の妊婦に投与する場合には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与することと改訂された。薬剤添付文書では,妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので,最新の関連ガイドライン等を参照しつつ,急激かつ過度の血圧低下とならないよう,長時間作用型製剤の使用を基本とし,剤形ごとの特徴を十分理解したうえで投与すること,また,母体や胎児および新生児の状態を十分に観察し,過度の血圧低下や胎児胎盤循環の低下等の異常が認められた場合には適切な処置を行うこととされている。
nifedipineカプセルは,過度な降圧と血圧の再上昇を招きやすいため,使用しない。

2 妊娠高血圧症候群で用いられる静注薬(表1)
①nicardipine
Ca拮抗薬で,L-type channelを介しCaの流入をブロックする。手術時の異常高血圧の救急処置,高血圧緊急症,および急性心不全に主に使用されている。副作用としては麻痺性イレウス,低酸素症,肝機能障害がある。
生理食塩水100mlにnicardipine 10mgを入れ(100µg/ml)または原液をシリンジポンプで点滴静注する。妊婦におけるnicardipine静注スケール例を示した(表2)。
関らによると,高血圧緊急症を避けるための短期投与20例と妊娠期間の延長を図る30例に対して,収縮期血圧,拡張期血圧を15%程度降下させることを目標にnicardipineを点滴静注した。長期間投与できた10例でのnicardipineの平均投与期間は115.5±72.3日(31~250日),その総投与量も平均5,428±4,424.4mg(1,240~16,000mg)と長期に大量の投与を行ったが,nicardipineによる母児双方の副作用(頭痛,頻脈,胎児心拍モニタリング上の異常など)は,長期投与群には認められなかった。動物実験で示された重度胎児アシドーシスや胎児死亡などの副作用はなかった。これまでに,胎児の奇形や異常は経験されていない。nicardipineは,降圧効果は十分で母児双方に対する副作用はほとんどみられず,安全で有効な降圧薬と考えられると報告されている。nicardipineの副作用に関して,動物実験では種々の副作用が報告されているにもかかわらず,ヒトの臨床成績では安全とする報告が多い。その理由は,①動物実験で用いられた投与量がヒトの投与量と比べ非常に多いこと,②胎盤通過性が少ないこと(サルでは6%,ヒトでは9%),③胎盤血管や臍帯血管のpulsatility indexやresistance indexを変化させないこと,④末梢血管抵抗を減少させると同時に,子宮循環血液量を増加させることなどが考えられている。

②hydralazine
投与は2~5mgを数分かけて静注し,20~30分後には最大の降圧をみるが,血圧が下降しないときは30~40分ごとに5~10mgを反応に応じて投与,コントロールされれば,必要に応じて3時間後に投与する。全量20mgでコントロール困難な場合は,ほかの降圧薬に変更するか,投与開始から0.5~10mg/時(5%ブドウ糖液500mlにhydralazine 20~40mg)での点滴静注を行う。
副作用は,頻脈,頭痛,反射亢進,不安,不穏状態などを招くことである。従って,100/分以上の頻脈ではこの薬剤は控えることが賢明である。胎児には,急激な血圧低下による胎児機能不全を招くことがある。
経口投与と静脈投与が可能であることから古くより使用されており,経験的に安全とされている。ただし,効果発現がやや遅いために静脈内投与の際には結果として過量投与による過度の降圧の危険があり,むしろCa拮抗薬のほうが安全とする意見もある。hydralazineはほかの降圧薬(nifedipine,labetalol,methyldopaなど)に比べて,常用量によっても降圧目標より下がりすぎることが多い。また帝王切開,胎盤早期剥離,胎児心拍異常,そしてApgarスコア1分値の低下する頻度が高い。胎児には,急激な血圧低下による胎児機能不全を招くことがある。一方,nifedipineとhydralazineを比較したCochrane reviewによれば,血圧制御困難例は,nifedipine使用例のほうが有意に少ないという成績が示されている。添付文書には頭蓋内出血急性期の患者への使用は禁忌となっている。
③nitroglycerin
手術時の低血圧維持,手術時の異常高血圧の救急処置,急性心不全および不安定狭心症に使用されている。重大な副作用としては急激な血圧低下,心拍出量低下などがある。
④MgSO4
(「Ⅶ 子癇『CQ2 子癇の管理法は?』5.痙攣対策」参照)


(本文,図表の引用等については,妊娠高血圧症候群の診療指針 2015 -Best Practice Guide-の本文をご参照ください。)

もどる もどる
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す