CQ3 単胎児分娩後の高年初産婦において、産後の身体症状軽減のための産後 1 か月までのケアは何か

CQ/目次項目
CQ3 単胎児分娩後の高年初産婦において、産後の身体症状軽減のための産後 1 か月までのケアは何か
1
推奨/回答

<肩こり>
【産後入院中から産後 1 か月までのケア】
肩こりの原因が多様であることを踏まえ、高血圧など肩こりの原因となる疾患の有無に注意して対応する。

推奨の強さ

1:強く推奨する

エビデンスの確実性

D:非常に弱い

2
推奨/回答

<肩こり>
【産後入院中から産後 1 か月までのケア】
抱っこや授乳場面での褥婦の姿勢を注意深く観察するとともに、日常生活で肩こりが起こる時間帯、動作、姿勢などを詳しく聴取し、改善点を提案する。

推奨の強さ

1:強く推奨する

エビデンスの確実性

D:非常に弱い

3
推奨/回答

<肩こり>
【産後入院中から産後 1 か月までのケア】
不安やストレスの強い褥婦には、良い姿勢で安定した抱っこ及び授乳が、安心して実施できるよう支援する。

推奨の強さ

1:強く推奨する

エビデンスの確実性

D:非常に弱い

4
推奨/回答

<肩こり>
【産後入院中から産後 1 か月までのケア】
長時間同一姿勢は保持せず、少なくとも 1 時間に 1 回は背伸びなどのストレッチをするよう助言する。

推奨の強さ

1:強く推奨する

エビデンスの確実性

D:非常に弱い

5
推奨/回答

<肩こり>
【産後入院中から産後 1 か月までのケア】
肩周囲への負担軽減や疲労を緩和するために横になって休むこと、及び退院後も無理のない生活を送ることの重要性を説明し、褥婦が休むことができるよう支援する。

推奨の強さ

1:強く推奨する

エビデンスの確実性

D:非常に弱い

6
推奨/回答

<腰背部痛>
【産後入院中から産後 1 か月までのケア】
痛みの部位や程度、発症時期、痛みの生じる姿勢、動作、既往歴などを詳しく聴取し、受診の必要性を判断する。受診を要する症状について説明する。(*90 頁の資料参照)(本文、図表の引用等については、高年初産婦に特化した産後1か月までの子育て支援ガイドラインの本文をご参照ください。)

推奨の強さ

1:強く推奨する

エビデンスの確実性

D:非常に弱い

7
推奨/回答

<腰背部痛>
【産後入院中から産後 1 か月までのケア】
退院後も無理のない生活を送ることの重要性を説明し、抱っこなどによる腰への負荷を軽減できるよう、体幹の屈曲や回旋を控えるなど日常動作における注意点を伝える。

推奨の強さ

1:強く推奨する

エビデンスの確実性

D:非常に弱い

8
推奨/回答

<腱鞘炎>
【産後入院中から産後 1 か月までのケア】
高年初産婦では、産後入院中に腱鞘炎を有する者が若年初産婦や経産婦と比較して多く、さらに産後 1 か月では有症率が急増することを踏まえ、痛みや腫脹の部位や程度、熱感の有無、発症時期、痛みの生じる動作と手関節の肢位、既往歴などを詳しく聴取し、対応する。

推奨の強さ

1:強く推奨する

エビデンスの確実性

D:非常に弱い

9
推奨/回答

<腱鞘炎>
【産後入院中から産後 1 か月までのケア】
産後 1 か月における有症率の増加と、局所の安静や疲労の軽減などの対処法について、褥婦及びその家族に情報提供する。

推奨の強さ

1:強く推奨する

エビデンスの確実性

D:非常に弱い

4.研究内容のまとめ
4-1 多施設前向きコホート調査研究の結果
4-1-1 肩こりに関する産後入院中の横断データ解析結果
高年初産婦 479 名において、産後入院中(平均産後日数:4.5 日)における肩こりの有症率は 49.3%であった。
産後入院中の肩こりの関連要因を特定するために、単変量解析(カイ2乗検定や t 検定)を実施した。肩こりの有無に関連が認められた項目は次の4つ、児の出生体重(有症率;2500g未満群:67.7%,2500g 以上群:48.0%,P<.05)、日常生活の無理の程度(有症率;無理している群:52.9%,無理していない群:35.1%,P<.005)、1 回あたりの平均授乳時間(授乳から寝かしつけまでの時間)(肩こり有:49.4 分,肩こり無:44.7 分, P<.05)、産後入院中の疲労得点平均値(肩こり有:10.5 点,肩こり無:8.9 点, P<.05)であった。関連の傾向が認められた項目は次の2つ、昼寝の有無(有症率;昼寝有群:45.6%,昼寝無群:54.4%,P=0.057)、母児同室開始時期(有症率;出産当日開始群:54.7%,出産当日以外に開始群:45.7%,P=0.052)であった。

4-1-1-1 考察
褥婦の約半数が産後入院中に肩こりを訴えていた。児の出生体重が 2500g未満の母親、授乳から寝かしつけまでの1回の時間が長い母親に肩こりの有症率が高かった。これらから、児が小さいと抱っこなどの世話をするときに緊張してしまうこと、長時間の授乳により身体に余分な力が入ること、また不慣れな姿勢を持続することで肩こりを誘発することが示唆された。児が小さいことや育児に不慣れで不安の強い母親には、授乳時などに母親が安心して育児ができるよう支援するとともに、身体の一部に過度に負担がかからないよう姿勢にも気を配るよう助言することが必要であろう。さらに、疲労感が高い母親の肩こりの有症率も有意に高いことから、入院中に疲労感を軽減できるよう昼寝などで横になり日中の休息をとることを促すなどの支援も必要である。

4-1-2 肩こりに関する産後入院中~1 か月の縦断データ解析結果
産後1か月時(平均産後日数:32.3 日)における肩こりの有症率は 70.4%であった。単変量解析(マクネマー検定)を用いて、入院中の有症率と比較したところ、産後1か月時の有症率は、統計的に有意に増加していた(P<.001)。
産後1か月時の肩こりの関連要因を特定するために、単変量解析(カイ2乗検定や t 検定)を実施した。産後 1 か月時の肩こりの有無に関連が認められた項目は次の3つ、産後 1 か月時の日常生活の無理の程度(有症率;無理している:73.8%,無理していない:62.6%, P<.05)、産後入院中の疲労得点平均値(肩こり有:10.2 点,肩こり無:8.4 点, P<.01)、産後 1 か月時の疲労得点平均値(肩こり有:11.1 点,肩こり無:7.9 点, P<.001)であった。関連の傾向が認められた項目は次の 2 つ、夜間の平均睡眠時間(肩こり有:4.9 時間、肩こり無:5.1 時間、P=0.066)、夜間睡眠の充足感(有症率;十分:65.6%,不十分:73.4%,P=0.069)であった。

4-1-2-1 考察
産後1か月の肩こりの有症率は約7割と産後入院中よりも増加していた。産後1か月時に日常生活で無理をしていると感じている母親、産後入院中及び産後1か月時に疲労感が高い母親に肩こりの有症率が高くなっていた。そこで、退院後の家庭訪問時などに、日常生活に無理がなく、疲労感がたまらない生活を送ることができているか、睡眠がとれているかを確認し、必要なサポートを得ることができるよう支援する必要がある。

4-1-3 腰背部痛に関する産後入院中の横断データ解析結果
産後入院中(平均産後日数:4.5 日)における高年初産婦の腰背部痛の有症率は 49.3%であった。
産後入院中の腰背部痛の関連要因を特定するために、単変量解析(カイ2乗検定や t 検定)を実施した。腰背部痛の有無に関連や傾向が認められた項目は次の2つ、昼寝の有無(有症率;昼寝有群:45.3%,昼寝無群:54.4%, P<.05)、産後入院中の疲労得点平均値(腰背部痛有:10.2 点,腰背部痛無:9.1 点,P=0.082)であった。

4-1-3-1 考察
褥婦の約半数が産後入院中に腰背部痛を訴えていた。昼寝をしていない母親、疲労感が高い母親に有症率が高かった。これらから、入院中は夜間だけでなく、昼寝などで日中も休息をとる時間を設け、疲労感を軽減するための支援の必要性が示唆された。

4-1-4 腰背部痛に関する産後入院中~1 か月の縦断データ解析結果
産後1か月時(平均産後日数:32.3 日)における腰背部痛の有症率は 58.5%であった。単変量解析(マクネマー検定)を用いて、入院中の有症率と比較したところ、産後1か月時の有症率は、統計的に有意に増加していた(P<.005)。
産後1か月時の腰背部痛の関連要因を特定するために、単変量解析(カイ2乗検定や t 検定)を実施した。産後1か月時の腰背部痛の有無に関連が認められた項目は次の5つ、産後1か月時の日常生活の無理の程度(有症率;無理している:64.2%,無理していない:45.6%, P<0.001)、夜間の平均睡眠時間(腰背部痛有:4.7時間,腰背部痛無:5.2時間, P<.005)、夜間睡眠の充足感(有症率;十分:49.5%、不十分:64.2%、P<.005)、産後入院中の疲労得点平均値(腰背部痛有:10.5 点,腰背部痛無:8.6 点,P<.005)、産後1か月時の疲労得点平均値(腰背部痛有:11.4 点,腰背部痛無:8.5 点,P<.001)であった。

4-1-4-1 考察
産後1か月にかけて腰背部痛を訴えた褥婦は、有意に増加していた。産後1か月時に日常生活で無理をしていると感じている母親、夜間の睡眠時間が短い母親、夜間睡眠を不十分と感じている母親に、腰背部痛の有症率が高かった。これらから、夜間睡眠が十分とれず疲労が高くなったことが、腰背部痛の有症率の増加に関連していると考えられる。夜間にまとまった睡眠がとれ、疲労感をためずに無理のない生活を送ることができているか確認し、支援することが必要である。

4-1-5 腱鞘炎に関する産後入院中の横断データ解析結果
産後入院中(平均産後日数:4.5 日)における高年初産婦の腱鞘炎の有症率は、9.2%であった。
産後入院中の腱鞘炎の関連要因を特定するために、単変量解析(カイ2乗検定や t 検定)を実施した。腱鞘炎の有無に関連が認められた項目は次の2つ、1回あたりの平均授乳時間(授乳から寝かしつけまでの時間)(腱鞘炎有:54.84 分,腱鞘炎無 46.23 分, P<.05)、産後入院中の疲労得点平均値(腱鞘炎有:12.0 点,腱鞘炎無:9.5 点, P<.05)であった。また、腱鞘炎の有無に関連する傾向が見られた項目は、日常生活の無理の程度(有症率;無理している:10.4%,無理していない:4.3%, P=0.073)であった。

4-1-5-1 考察
肩こりや腰痛と異なり、腱鞘炎に関しては有症率の 9.2%の多くが産後発症したと考えられる。授乳から寝かしつけまでの1回の平均所要時間が長い母親に有症率が高かった。このことから、長時間の授乳や抱っこにより、手に過度な負担がかかることが発症の要因となっていることが示唆された。さらに、疲労感が高く、日常生活で無理をしていると感じている母親にも有症率が高いことから、手の安静だけでなく、疲労感を軽減するための支援の必要性が示唆された。

4-1-6 腱鞘炎に関する産後入院中~1か月の縦断データ解析結果
産後1か月時(平均産後日数:32.3 日)における腱鞘炎の有症率は 45.1%であった。単変量解析(マクネマー検定)を用いて、入院中の有症率と比較したところ、産後1か月時の有症率は、統計的に有意に増加していた(P<.001)。
産後1か月時の腱鞘炎の関連要因を特定するために、単変量解析(カイ2乗検定や t 検定)を実施した。産後1か月時の腱鞘炎の有無に関連が認められた項目は次の3つ、産後1か月時の日常生活の無理の程度(有症率;無理している:49.1%,無理していない:36.1%, P<.05)、産後入院中の疲労得点平均値(症状有:10.7 点,症状無:8.8 点,P<.01)、産後1か月時の疲労得点平均値(症状有:11.9 点,症状無:8.8 点,P<.001)であった。

4-1-6-1 考察
産後1か月の腱鞘炎の有症率は 45.1%と産後入院中から産後1か月にかけて急増していた。慣れない育児により手に過度な負担がかかったことが要因と考えられる。日常生活で無理をしていると感じている母親、産後入院中及び産後1か月時に疲労感が高い母親に有症率が高かった。入院中と同様、手の安静だけでなく疲労感を軽減するための支援の必要性が示唆された。

5.議論・推奨への理由
本研究のシステマティックレビューは、看護ケアを対象としており、東洋医学や理学療法による介入は対象としていない。先行研究では授乳期の女性を対象とした『肩こり』、『腰背部痛』、『腱鞘炎』への RCT や質の高い介入研究は見当たらなかった。また、本研究班の多施設前向きコホート調査研究では、育児に要する動作や日常生活動作の種類や頻度についてのデータを得ておらず、それぞれの症状の発症に関連する特徴について授乳関係以外に明らかにすることはできなかった。今後、これら身体症状に関するより詳細な基礎的研究が必要であり、苦痛を伴う身体症状を軽減し、より快適に育児を行えるよう、授乳期にも実施可能な看護ケアの開発が求められる。
CQ3では、システマティックレビューの結果、評価対象となる文献が0件であったため、本研究班の多施設前向きコホート調査研究の結果を中心に、参考資料も加え、ガイドライン案を作成した。研究班で作成した案について、『肩こり』、『腰背部痛』、『腱鞘炎』それぞれの専門医師に依頼し、次の3点について意見を求めた。
1.作成した推奨文が整形外科学的に妥当なものであるか
2.他に追加すべきケアにはどのようなものがあるか
3.推奨の理由は妥当であるか、医学的内容は正確か
各医師の意見を基にガイドライン案を修正し、最終案を作成した。
協力を得た専門医師は以下の通りである。
肩こり・・・國府田正雄 医師(千葉大学大学院医学研究院整形外科学)
腰背部痛・・大鳥精司 医師(千葉大学大学院医学研究院整形外科学)
腱鞘炎・・・國吉一樹 医師(千葉大学大学院医学研究院整形外科学)

5-1 肩こり
肩こりは、厚生労働省による平成 22 年国民生活基礎調査における 30 歳代、40 歳代女性の有訴者率第1位の症状であり、産後にかかわらずこの世代の女性に多い症状であると言える。日本整形外科学会による「肩こりに関するプロジェクト研究」(以下日本整形外科学会)によると、肩こりは原因疾患が明らかでない原発性(一次性)肩こりと原因疾患がある症候性(二次性)に分類される。症候性(二次性)肩こりの治療のポイントとして①肩こりの背景にある原因疾患を的確に診断すること、②それぞれの原因疾患に応じた治療を行うこととしている(88 頁参照)。特に高年初産婦では若年者と比較して高血圧など肩こりにつながる合併疾患を有する者も多いので、産後入院中及び退院後も注意をし、対応する必要がある。
日本整形外科学会によると、明らかな原因が認められない原発性(一次性)肩こりの治療法として、日常生活の指導、運動器リハビリテーション、薬物療法、局所注射療法があげられている。産褥期の肩こりの多くは育児による負担が関与していると推察される。看護者は抱っこや授乳場面における褥婦の姿勢を注意深く観察するとともに、日常動作で肩こりが起こる時間帯、動作、姿勢などを詳しく聴取し、改善点を提案することが必要である。本研究班の多施設前向きコホート調査研究の結果では、高年初産婦の肩こり有症率は、産後入院中が 49.3%、産後1か月時は 70.4%であり統計的に有意に増加していた。このことから、産後入院中だけでなく、退院後の家庭訪問時などを活用し、引き続き肩こりが起こる状況を観察、聴取し、改善点を提案することは有用であると考える。
高年初産婦は、肩こりの多い世代であることに加え、初めての育児に伴う慣れない抱っこや授乳を頻回に行うことが物理的な身体的負担となって肩こりが増加していると考えられる。更に、肩こりと精神的緊張やストレスの関与も指摘されているが、本研究班の産後入院中の解析結果からも同様な結果が得られている。産後入院中においては、児が低出生体重児であった群の方がそうでなかった群と比較して肩こりの有症率が有意に高かった。このことから、児の重みよりも、小さな児を抱くことへの緊張感が肩こりを惹起していた可能性が考えられる。したがって、不安やストレスを強く感じている母親には、母親自身が安心して児の抱っこができるよう支援すること、良い姿勢で安定した抱っこや授乳が行えるよう支援することが重要であろう。
更に、本研究班の多施設前向きコホート調査研究の結果から、肩こりを有する褥婦は、1回あたりの授乳時間(授乳準備から授乳後寝かしつけるまでの時間)が有意に長かった。褥婦における肩こりの直接的な原因となりうる抱っこや授乳に際しては、日本整形外科学会による肩こりへの日常生活指導をふまえ(89 頁参照)、授乳や抱っこを同一姿勢で長時間行わないこと、少なくとも1時間に1回程度は背伸びなどのストレッチをすることなどを促し、肩甲帯周囲の血流改善をセルフケアできるように支援することが、入院中及び退院後の生活に向けても重要である。
本研究班の多施設前向きコホート調査研究の結果から、産後1か月時に肩こりを有する褥婦は、産後入院中、産後1か月時の疲労感が有意に高かった。このことから、産後1か月時の肩こり軽減には、入院中から疲労感の軽減を図ることが必要である。また、肩こりは、種々の要因に基づく筋の持続的収縮により、筋線維内の血管が圧迫され血液量の低下を引き起こした結果生じる状態であり、頭部及び上肢を支える肩甲帯周囲筋の筋肉疲労が関与する。従って、横になることにより肩周囲への局所的負担を軽減でき、同時に疲労感の軽減にもつながると考えられるため、臥床安静し体を休めるよう促す必要がある。更に、本研究班の調査研究では、産後1か月時に肩こりを有する褥婦は、日常生活で無理をしていると感じていたことから、入院中の早期介入を行い、無理のない生活を送れるよう支援することが必要であろう。

5-2 腰背部痛
産後の腰背部痛は、腰痛(back pain) と骨盤痛(posterior pelvic pain)に大別され、それぞれ対応も異なる。本調査班の多施設前向きコホート調査では、骨盤痛に含まれるであろう「股関節痛」や「骨盤/股関節の違和感」は「腰背部痛」とは別の項目として質問していることから、本ガイドラインにおける「腰背部痛」には骨盤痛は含まず、腰痛のみを扱うこととした。
腰痛は、厚生労働省による平成 22 年国民生活基礎調査において 30 歳代、40 歳代女性の有訴者率第2位の症状であり、産後にかかわらずこの世代の女性に多い症状である。NICE clinical guideline37:Postnatal Care(2006)では、産後の腰痛(backache)の管理は、一般的な(産後でない)対象者への管理に準ずるとされている。本ガイドラインにおいては日本整形外科学会及び日本腰痛学会監修による「腰痛診療ガイドライン 2012」(以下腰痛診療ガイドライン)を参考に、本研究班による研究結果と合わせ推奨文を作成した。
腰痛診療ガイドラインによると、腰痛の定義で確立したものはなく、主に疼痛部位、発症からの有症期間、原因などにより定義される。一般的には、触知可能な最下端の肋骨と殿溝の間の領域に位置する疼痛と定義されるとされている。腰痛は、原因の明らかな腰痛と明らかではない腰痛(非特異的腰痛)に分類され、原因別には、脊椎由来、神経由来、内臓由来、血管由来、心因性の5つに大別される。妊娠により発症した腰痛は内臓由来の腰痛に分類されている。
妊娠中には、胎児や子宮増大による前彎姿勢や骨盤内諸関節の弛緩などによる腰痛が発症することがあるが、出産後には妊娠に関連した腰痛は治癒するものである。しかし、産後、前彎姿勢や骨盤内諸関節などの弛緩が回復しないうちに無理をすると、産後に腰痛が悪化することがある。産褥期の腰痛の危険因子として、腰椎の前彎や骨盤内諸関節などの弛緩、妊娠中の腰痛が報告されているが、産後の腰痛すべてが妊娠を原因とするものではない。これらのことから、痛みの部位や程度、発症時期、痛みの生じる姿勢、動作、既往歴などを詳しく聴取し、受診の必要性を判断することが重要である。また、妊娠や出産、育児を機に発症あるいは増強した腰痛であっても、その背後に原因となる疾患がある可能性を考慮し、適切に対応すべきである(注意すべき症状については資料参照のこと)。そして、母親自身が受診の必要性を判断できるよう、受診を要する症状について説明しておくことは、産後入院中及び退院後の腰痛の悪化予防だけでなく、原因疾患があった場合の対応としても重要である。
その他の腰痛の危険因子として、身体的負荷が大きい重労働を行うこと、体幹の屈曲や回旋を伴う作業を行うことなどが指摘されている。しかし、腰痛診療ガイドラインでは、発症から4週間未満あるいは慢性腰痛が悪化してから4週間未満の急性腰痛に対しては、ベッド上安静よりも痛みに応じた活動を推奨している(91 頁参照)。育児は身体的負荷を伴うものであり、児との関わりの中で体幹の屈曲や回旋を伴う動作は、日常的に頻繁に繰り返される。本研究班の多施設前向きコホート調査研究の結果から、産後入院中から産後1か月にかけて腰背部痛の有症率は増加することが明らかになっているが、育児に伴う体幹の屈曲や回旋を伴う動作により腰への負担が増加し、腰背部痛有症率の増加につながったものと推察される。このことから、昼夜を問わず授乳や抱っこを行う産後に腰背部痛を有する場合には、ベッド上の安静よりも、体幹の屈曲や回旋を伴う動作を控えるなど日常生活の注意点を伝えることの方が重要であると考えた。
更に、本研究班の多施設前向きコホート調査研究の結果から、産後1か月で夜間の睡眠が不十分と感じている者や日常生活で体に無理をしている者ほど腰背部痛の有症率が高いことが明らかになった。また、産後1か月時の腰背部痛の有無は、産後入院中及び産後1か月時の疲労感と有意な関連性が認められた。退院後の生活では、腰背部痛があっても体に無理せざるを得ない状況が予想され、無理することにより腰背部痛が改善しにくいという悪循環があろう。産後1か月時点で育児を含む日常生活を体に無理せず送るためには、悪循環に陥る前に介入することが重要であり、入院中から腰背部痛の軽減のためのケアを実施する必要がある。このことから、産後入院中から疲労感の軽減を図り無理のない生活を送れるようにすること、退院後も無理のない生活を送るようその重要性を褥婦やその家族に説明することが必要である。

5-3 腱鞘炎
本ガイドラインにおいては日本手の外科学会監修による「2.ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」とその他の参考資料を用いて、本研究班による研究結果と合わせ推奨文を作成した。
腱鞘炎は、次の3つ、①腱と腱鞘の機械的摩擦によるもの、②リウマチを含む膠原病由来のもの、③結核などを含む感染性由来のものに大別される。上記①の機械的摩擦による腱鞘炎は、同じ動作を繰り返し行うことにより過剰な摩擦が起き、腱と滑膜性腱鞘に炎症がおこることから生じる。この炎症の程度により疼痛や運動障害を伴うこととなる。MP 関節掌側に発症する腱鞘炎は、屈筋腱の腱鞘炎で、症状が進行すると指の屈曲・進展時にばね現象が起こるため、ばね指と呼ばれる。一方、橈骨茎状突起部に発症する腱鞘炎は、伸筋腱の腱鞘炎でばね現象はみられない。発見者の名にちなみドケルバン病とよばれる。また、ばね指は、MP 関節掌側の靭帯性腱鞘に圧迫があるが、ドケルバン病は、橈骨茎状突起部の第1区画に圧痛が起こる。
腱鞘炎の治療は、痛みの部位や炎症の程度、環境要因を考慮しつつ行うが、局所の安静(シーネ固定を含む)や腱鞘内ステロイド注射などの保存的療法が第一選択である。理学療法的には、炎症期(1~4週間)と消炎期(4~12 週間)に区分し、それぞれに適した療法を行う。改善しない場合や再発を繰り返す場合には腱鞘切開を行う外科的治療がある。
ばね指及びドケルバン病といった狭窄性腱鞘炎は、中高年以降の女性に好発することが知られている。ドケルバン病の初産婦の罹患率は約 19%という国内の研究報告があり、産後の腱鞘炎の発症に関しては、ホルモンが関与していることも指摘されている。
本研究班の多施設前向きコホート調査研究の結果から、産後入院中から産後1か月にかけての腱鞘炎の有症率は、9.2%から 45.1%と急増することが明らかになった。また、産後入院中の腱鞘炎の有無に、授乳から寝かしつけまでの時間が有意に関係していた。このことから、未頸定の児を支えながら長い時間授乳することで母指の使い過ぎが生じたと考えられる。その結果、過度の負荷がかかり、腱鞘が肥厚し、腱の表面が傷み、局所の炎症が生じたりしたことが、有症率の増加につながったと思われる。産後入院中の有症率は低いが、産後1か月に急増する有症率を念頭におき、患部の状態を観察し、痛みの程度、その発生部位や動作などを詳細に聴取し、適切に対応することが必要となろう。退院後も、患部の状態などを詳しく聴取し、適切な時期に適切な治療が受けられるよう、受診を促す必要があるであろう。児の世話に関する多くの動作は、手を使用することが多いため、なかなか症状が改善されないことも予想される。重症化すると外科的手術も視野に入れなくてはならず、早期の受診が望まれる。
最後に、本研究班の多施設前向きコホート調査研究の結果から、産後入院中及び産後1か月時の疲労感が、産後1か月時の腱鞘炎の有無に関連することが明らかになり、産後入院中から疲労の軽減を図る支援を行う必要性が示された。また、産後1か月に腱鞘炎を抱えた者は、そうでない者に比べて、育児を含めた日常生活で無理をしていると感じていることが示された。産後1か月における腱鞘炎の有症率の急増に加え、産後1か月時の日常生活への支障について、まず看護職者が認識する必要がある。そして、退院に向けて母親やその家族に、産後1か月にかけて腱鞘炎が急増すること、腱鞘炎の対処法である局所の安静の重要性を説明し、疲労感を軽減できるようなサポート体制を整える支援が必要であろう。

(本文、図表の引用等については、高年初産婦に特化した産後1か月までの子育て支援ガイドラインの本文をご参照ください。)

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