第 2 部 一般療法 第 7 章 予防接種・感染予防(ネフローゼ)

CQ/目次項目
第 2 部 一般療法 第 7 章 予防接種・感染予防(ネフローゼ)
1
推奨/回答

1.ネフローゼ症候群患者は低免疫状態と考えられ,感染症の罹患により重症化が懸念されるため,可能な限り予防接種を行うことを推奨する。

推奨の強さ

C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる

2
推奨/回答

2.不活化ワクチンはステロイドや免疫抑制薬の内服中であっても接種することが望ましい。

推奨の強さ

C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる

3
推奨/回答

2.ただし,症状の増悪期,高用量のステロイド(プレドニゾロン換算,2 mg/kg/日または 20 mg/日以上)内服時は接種しない。

推奨の強さ

C2:科学的根拠がなく,行わないよう勧められる

4
推奨/回答

3.ステロイドや免疫抑制薬内服中の患児に対して,原則として生ワクチンは接種しない。

推奨の強さ

C2:科学的根拠がなく,行わないよう勧められる

5
推奨/回答

3.ただし,患者の状態,流行の状況により接種の是非について個別に判断する。

推奨の強さ

C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる

6
推奨/回答

4.家族内に対応疾患の既往歴やワクチン接種歴がない者がいる場合には,積極的に予防接種を行うことを推奨する。

推奨の強さ

C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる

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推奨/回答

5.水痘の家族内発症がみられた場合や水痘患者との濃厚接触があった場合には,抗ウイルス薬(アシクロビル,バラシクロビル)の予防内服を行うことを推奨する。

推奨の強さ

B:科学的根拠があり,行うよう勧められる

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推奨/回答

6.長期間にわたる高用量のステロイドや免疫抑制薬治療を行う場合は,専門医の判断により抗菌薬の予防投与を考慮する。

推奨の強さ

C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる

註:体重は身長からみた標準体重で計算する(体表面積についても同様)。

1 ネフローゼ症候群患者に対する予防接種
ネフローゼ症候群の患者は,免疫グロブリンを含む高度の低蛋白血症により免疫不全状態であるため,感染症に罹患しやすく,また重症化しやすい。ステロイドが本症に使用される以前の小児ネフローゼ症候群患者の 1 年間の死亡率は約 20% にのぼっていた。その多くは細菌感染によるもので,低アルブミン血症や浮腫が高度な再発時に生じていた。小児ネフローゼ症候群は,その多くがステロイド感受性の微小変化型ネフローゼであり,ステロイドが本症の治療に導入されて以来,低アルブミンや浮腫の状態から速やかに離脱可能となったため,感染症による死亡率は大幅に減少した。しかしながら,ステロイド依存例や抵抗例では,ステロイドの長期内服を余儀なくされ,免疫抑制薬が併用されている場合が多い。このような患者では,依然として低免疫状態と考えられ,感染症への罹患による重症化のリスクが高い。したがって,ネフローゼ症候群患者に対する感染症予防は重要な管理目標であり,可能な限り予防接種を行うことが望ましい。
わが国におけるこれまでのネフローゼ症候群患者を含む免疫不全患者に対する予防接種のあり方として,接種後の抗体獲得率や獲得抗体価が健常児に比べ低い可能性や,抗体獲得後の維持期間が短い可能性があること,また,特に生ワクチンの接種にあたっては,弱毒化ウイルスの賦活化により感染症が惹起される可能性があり,高度の免疫抑制下あるいは低免疫状態の患者に対する接種は通常控えられてきた。
一方,徐々に蓄積されつつある国内外の免疫不全患者に対する予防接種の報告を参考にすれば,少なくともステロイドや免疫抑制薬を使用していないネフローゼ症候群患者については,現在わが国の法律による定期接種(DPT,Hib,肺炎球菌,麻疹,風疹,日本脳炎)およびわが国で接種頻度の高い任意接種(水痘,流行性耳下腺炎,インフルエンザ,B 型肝炎ウイルス)はいずれも有効かつ安全に接種可能と考えられる。
ただし,最近わが国でも接種が認可されたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンおよび不活化ポリオワクチン,ロタウイルスワクチンについては,ネフローゼ症候群を含む免疫不全患者に対する有効性や安全性の検討は海外においても十分に行われていない。
このような予防接種の必要性や,接種のタイミングまたは治療と予防接種の種類による接種の可否についての情報は,患者はもとより患者家族にも伝えられていない場合が多い。また,平成 25 年 1 月に予防接種法が一部改正され,小児ネフローゼ症候群や巣状糸球体硬化症が特例措置の対象疾患に認定されたことにより,予防接種対象年齢期間に接種できなかった場合でも,接種不適当要因の解消後 2 年以内に接種した場合には定期予防接種として認められる。特に定期予防接種時期にある患者家族にはこのような特例措置の存在も含めて十分な情報を提供することが必要である。

2 ネフローゼ症候群患者に対する不活化ワクチン
これまでに蓄積された国内外における比較的小規模な臨床研究や報告,あるいはこれらのデータに基づき作成された海外のガイドラインを参考にすれば,不活化ワクチンについては,ステロイドや免疫抑制薬内服中の患者であっても有効かつ安全に接種可能と考えられる。ただし,抗体獲得率や抗体獲得後の維持期間については,接種ワクチンの種類,内服薬の種類や用量により異なることに留意する必要がある。特に症状の増悪期や,プレドニゾロン換算 2 mg/kg/日以上または体重 10 kg 以上の患者であれば 20 mg/日以上のステロイド内服時は接種を避けることが推奨されている。
ネフローゼ症候群患者にみられる細菌感染症としては,肺炎球菌が起因菌として最も頻度が高く,この傾向は本症の治療にステロイドが一般的に用いられるようになってからも変わりはない。肺炎球菌による腹膜炎や敗血症の頻度が高く,本症の重要な死亡要因である。同様に,低免疫状態にある患者は,毎年流行するインフルエンザにも罹患しやすく,かつ重症化しやすいことが知られている。そのため,アメリカの Centers for Disease Control and Prevention(CDC)や KDIGO ガイドラインでは,ネフローゼ症候群患者への 7 価または 23 価の肺炎球菌ワクチン接種や,毎年のインフルエンザワクチンの接種を推奨している。ネフローゼ症候群患者に対する 7 価,23 価肺炎球菌ワクチンとも本症患者に対する有効性が報告されているが,特に 23 価肺炎球菌ワクチンについては,60 mg/m2/日の高用量のプレドニゾロン投与下であっても,低用量隔日投与中の患者とそん色のない効果が得られることが報告されている。わが国においては,7 価および 23 価ワクチンともに接種が認可されている。ただし,アジュバント効果を有する 7 価ワクチンの接種対象は 2 か月以上 9 歳以下の小児であり,通常初回 3 回の接種および追加接種を 15 か月までに完了する。一方,多糖体ワクチンである 23 価ワクチンの接種適応は 2 歳以上であることやその効果持続期間が 7 価ワクチンと比べ短く,特に高齢者を含め低免疫状態の患者には約 5 年後の追加接種が必要と考えられており,患者の発症年齢によって使い分ける必要がある。さらに,23 価ワクチンの接種適応はネフローゼ症候群や慢性腎不全を含む低免疫状態の患者ではあるが,現時点では脾摘後患者にのみ保険適用があることに留意が必要である。
このようなわが国の現状を鑑み,本ガイドラインでは肺炎球菌ワクチンの接種はステートメントとして記載しないが,敗血症や腹膜炎などの肺炎球菌感染症への罹患とその重症化リスクの高いネフローゼ患者には,海外のガイドラインと同様に可能な限り肺炎球菌ワクチンの接種をすることが望ましい。

3 ネフローゼ症候群患者に対する生ワクチン
免疫不全状態の患者に対する生ワクチン(BCG,麻疹,水痘,風疹,流行性耳下腺炎,ロタウイルス)の接種の効果および安全性について確立したエビデンスは存在しない。しかし,ステロイドや免疫抑制薬による治療中の低免疫状態の患者は水痘への罹患,重症化のリスクが高いことが知られており,欧米の各種ガイドラインでは,低用量のステロイドに対する水痘の予防接種に関する効果と安全性についての報告などを受け,接種を推奨している。ただし,高用量のステロイド(プレドニゾロン換算,2 mg/kg/日または体重が 10 kg 以上の児であれば 20 mg/日以上)の内服中は接種を避けることが望ましい。
一方,免疫抑制薬内服中の患者に対する生ワクチンは,有効性,安全性とも明確なエビデンスは存在しない。特にわが国で使用可能な免疫抑制薬については,添付文書上,生ワクチンの接種は禁忌とされており,原則として接種すべきではなく,免疫抑制薬を中止後 3 か月以上経過してからの接種が望ましい。ただし,患者の臨床経過や感染症の流行状況,あるいはステロイド抵抗性ネフローゼで進行性腎機能障害により移植や透析導入の可能性がある患者など,ワクチン接種による有益性が不利益を上回ると考えられる場合には接種を考慮する。

4 家族内感染予防
小児の感染症の伝搬は,家族内での濃厚接触,特に感染症に罹患した同胞との接触によるリスクが最も高い。したがって,ステロイドや免疫抑制薬内服中の患者がいる家族内に,ワクチン接種歴のない者がいる場合は,可能な限り当該疾患の予防接種を行うことが望ましい。特に重症化しやすい水痘や,感染力が強いインフルエンザについては積極的に予防接種を行う。

5 水痘濃厚接触時の感染予防対策
免疫能が低下している患者の家族内に水痘患者が発生した場合や,水痘患者との濃厚接触が疑われる場合,アメリカのガイドラインでは水痘帯状疱疹免疫グロブリンの接種を行うことが推奨されているが,わが国では採用されていない。一方,アシクロビルの予防内服も発症予防として有用であることが報告されており,重症化が懸念される小児が水痘患者と濃厚接触した際には,アメリカ小児科学会の報告に準拠し,接触後の 7~10 日後からアシクロビル 80 mg/kg/日,分 4,またはバラシクロビル 60 mg/kg/日,分 3,7 日間の予防内服を行うことを推奨する。

6 その他の感染予防対策
近年,ステロイド依存性・抵抗性など難治性ネフローゼ症候群に対してシクロホスファミドやシクロスポリンをはじめ,様々な免疫抑制薬が使用される頻度が増えている。このような免疫抑制薬治療下にあるネフローゼ症候群患者を直接対象とした調査研究は存在せず,小児ネフローゼ症候群におけるステロイドや免疫抑制薬治療による感染症の発症頻度は明らかではない。また,高度な低ガンマグロブリン血症を伴う患者や治療による高度な免疫抑制下にある患者に対するガンマグロブリン製剤の予防投与や抗菌薬の予防内服が感染防止に有用であるという明確なエビデンスも存在しない。しかしながら,膠原病や移植領域では,このような免疫抑制薬や高用量ステロイド治療により高頻度にニューモシスチス肺炎などの重篤な感染症を合併することが知られており,長期間ネフローゼ状態が続く場合や,高度な免疫抑制状態が長期間にわたる場合には,専門医のもとでガンマグロブリン製剤や ST 合剤を含めた抗菌薬の投与を検討してもよい。また,免疫抑制薬を使用する際には,過剰投与による過度の免疫抑制に十分な注意が必要であり,専門医のもとで適正投与を行うことが望ましい。

(本文,図表の引用等については,小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン 2013の本文をご参照ください。)

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