RQ7 医師や助産師の継続ケアを受けているか?
CQ/目次項目
RQ7 医師や助産師の継続ケアを受けているか?
1
推奨/回答
同一の医師または助産師に継続的なケアを受けた妊産褥婦は、妊娠から産後を通しての満足度が高く、再び同じケアを受けることを希望している。継続ケアを受けた女性では医療者とのコミュニケーションや意思疎通と説明への理解が高く、顔見知りの助産師にケアを受けた女性の方が自分で陣痛をコントロールできた感じと出産体験への評価が高い。
妊娠・分娩・産褥にわたる継続的ケアは分娩期の医療介入が減少し、反対に自然分娩やケアが多くなる。妊娠・分娩経過や新生児への臨床結果に影響のある根拠は認められず、継続ケアの有無による安全性に有意な差を示す根拠は認められなかった。このことから、医師や助産師の継続ケアは有益である。
推奨の強さ
B:科学的根拠があり、行うよう勧められる
2
推奨/回答
妊娠経過中いつでも、妊婦が医療ケアを受ける医療者を変えられるよう保証する。
推奨の強さ
C:科学的根拠はないが、行うよう勧められる
3
推奨/回答
単独の医療者による継続ケアが困難な場合、医師と助産師の協働チームによる継続ケアによって、母子ケアの満足度を上げる。
推奨の強さ
C:科学的根拠はないが、行うよう勧められる
背景
母子にとって安全でかつ快適な周産期医療とは、信頼関係が形成されている人と常にコンタクトを維持でき、母子の基礎情報を熟知している医療者によって、いつもと異なる変化や正常からの逸脱が早期発見され、心身のニーズを理解し、妊娠分娩産褥の全期間に亘り同じ医療者から継続的にサービスが提供されることであろう。
議論・推奨への理由(安全面を含めたディスカッション)
同じ医師または助産師による継続ケアを受けた女性では、医療介入が少ないが母子の臨床結果に差が無く、一方で心身のケアは多く、満足感と受けたケアに対する評価が高い。従って、医師や助産師の継続ケアは安全で有益であると推奨される。しかし、信頼関係を築けない場合には、いつでも女性が医療ケアを提供する医療者を変えられるよう保証すべきである。
医療者の人数が少数である第1次分娩施設では主にローリスクを診療するが、ローリスクでも安全性を考慮して2人以上で、バックアアップ体制の下で行うべきである。Homer ら(2001 年)のオーストラリアの RCT では、地域で助産師6人で年間 300 件の妊婦を産後まで継続ケアを行っている。この RCT は地域の2クリニックで、各々助産師2名と異常妊婦の健診を行う産科医1名が組んで継続ケアを行い、その他に on call 助産師1名が分娩時は産婦を病院へ同伴して分娩を行い入院中のケアも行う所謂オープンシステムである。
日本全国で産科医の不足に因り産科病棟の閉鎖が続く中で、周産期医療の集約化により全ての健康な母子が遠隔地の第3次医療機関で出産を余儀なくされることが危惧される。しかし、本研究班の疫学的全国調査で診療所や助産所の方が妊娠から産後の医療サービスへの満足感が高かった事、Homer らの地域のプライマリー施設での「助産師と医師の協働による継続ケア」の安全性を否定する証拠が無かった事から、地域の診療所等のプライマリー施設で助産師と医師とのチームで継続ケアモデルをシステム化し、ローリスクの女性が生活する自分の町で、家族とかかりつけの助産師または医師と出産できる体制を整備することが望ましい。ハイリスクを受け入れる高次医療機関、大半のローリスクを受け持つプライマリ施設の診療を充実する医療体制の検討が必要である。地方によっては、地理的にも時間的にもプライマリー施設との中継的役割を果たす地域の第二次医療機関が必要とされている。Homer らの「助産師と医師の協働による継続的なチームケア」はその参考モデルになり得ると考えられる。
一方、本研究班の疫学的全国調査で大学病院や一般病院で継続ケアの割合が低く、妊娠から産後の医療サービスへの満足感が低かった。病院では医師や助産師が交代で妊産婦のケアを担当するため、妊娠・分娩・産褥を通して一人の医療従事者が継続的に一人の女性の医療ケアを提供するのは困難であるが、チームで継続ケアが行えるよう体制を整えることが期待される。Biró ら(2000 年)のオーストラリアの RCT では、第3次医療機関内で7人の助産師が産科スタッフと協力して妊娠から産褥期までチームで継続ケアを行い、妊娠中 12,16,28,36 週に定期的に Medical check する以外は、助産師が毎回ローリスク妊婦を診察している。この助産師主導の継続ケアは医療介入が少なく、臨床結果に有意差が無く安全性を否定する根拠が示されなかった。従って、第3次医療機関でもチームによる継続ケアが可能であることが示唆された。例えば、妊婦健康診査は曜日固定で同じ医師や助産師が診察できるような体制にし、数人の助産師チームが同じグループの妊婦の分娩を扱う等、グループによる受持ち制の継続ケアが望ましいと考えられる。チームによる継続ケアは医療スタッフの過重負担やストレスを軽減する事ができ、更にチームメンバーの診断能力の優劣を補完し、安全性の確保の点でも重要である。
いずれの場合も、継続ケアにはマンパワーの量と質の確保が課題である。我が国では未だに産科医不足が続いている。それを補うために、女性医師の勤務環境の改善を促進するのみならず、院内院外で助産師の活用をせざるを得ない。診療所や病院内で「医師と助産師の協働チームによる継続ケア」により、職種本来の能力を伸ばし、母子ケアの満足度を上げることが薦められる。しかし、現在の日本の助産師をローリスク妊婦の継続ケア(健康診査と助言・ケア)に活用する際、妊娠経過中に例えば 20 週、30 週など定期的な Medical check が現実的には必要であろう。今後、助産師の適正配置と養成数の増員、ローリスク妊婦の健康診査ができる質の高い卒前卒後の助産師教育が望まれる。また、地域において退院後の母子の継続ケアを実現するために、自治体レベルで母子健康手帳を交付する時、施設内助産師も含めた当該地域の担当助産師にある定数の妊婦を割当て、育児期までの継続ケアを行えるようなシステム作りが望まれる。
継続ケアに必要な医師・助産師のマンパワーの試算等、実現化には労働体制の整備が不可欠である。周産期医療機関(病院・診療所・助産所)で、有る程度の分娩件数(例えば 50 件)に助産師1名を配置するなどの設置基準を設け、それに対して看護師の7:1制度の人件費手当や、産科医の「地域周産期医療調整手当」のような経済的なインセンティブを設け、人員配置の経済的な問題を解決することは周産期医療体制の整備の点でも促進要因となり得る。女性にとって快適で安全な妊娠出産育児の実現には、医師や医療者にとっても快適な労働環境が必要である。
(本文、図表の引用等については、母親が望む安全で満足な妊娠出産に関する全国調査-科学的根拠に基づく快適で安全な妊娠出産のためのガイドラインの改訂-の本文をご参照ください。)