RQ6 妊産褥婦の立場にたったコミュニケーションをしているか?

CQ/目次項目
RQ6 妊産褥婦の立場にたったコミュニケーションをしているか?
1
推奨/回答

妊産褥婦の満足度は高めるためには、医療者は妊産褥婦を尊重し、妊産褥婦が安心できるような思いやりのある態度、個別性を配慮した態度で接する。具体的には、妊産褥婦の顔をみて話す、質問がしやすい雰囲気を心がけ、出産の方針や健診・出産費用について説明する。妊娠・分娩経過の説明を行う場合や、医療的処置、ケアについてのインフォームド・コンセントを行う場合は、専門用語を使用せずに、相手の理解を確認しながら行う。また処置やケアなど自己決定できる十分な情報を提供し、妊産褥婦が自己決定したことを支持する。さらに、妊産褥婦のみならず、家族への説明、配慮をする。

推奨の強さ

B:科学的根拠があり、行うよう勧められる

2
推奨/回答

妊産婦・家族とコミュニケーションを行う場合、相手が返しやすい言葉注1)や沈黙の保持注2)を使用するとよい。医療者はコミュニケーションを常に意識し、さらにコミュニケーションスキルを高める努力、特にノンバーバルコミュニケーション注3)の技術を磨く。

注1)相手が返しやすい言葉:開かれた質問(オープンクエスチョン)のことであり、疑問詞(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を使用して相手が自由に答えられるように質問をする。
注2)沈黙の保持:相手が自分の発言や考えを内面で評価して、新しい考えを探しているときに生じる沈黙の場合は、その間、静かに優しい態度で相手の目を見ながら、次の発言を待っていることを態度で示す。
注3)ノンバーバルコミュニケーション:非言語的コミュニケーションのことであり、表情、眼差し、手振り、態度、声の抑揚・語調、スピードなどが含まれる。

推奨の強さ

C:科学的根拠はないが、行うよう勧められる

3
推奨/回答

分娩の結果が悪かった場合、母親・家族に状況を説明し、母親や家族が児と接触する機会を持てるように配慮する。医療者が母親・家族へ説明を行う時は、専門用語を使った説明や一度に多くの情報を話すことは避け、心情を配慮した場所で後日に説明の機会を設けるなどの配慮する。そして医療者は母親・家族に、寄り添う態度を示し、見守りながら、タイミングを見計らって、継続してコミュニケーションをとる。さらに、退院後に医療者と連絡がとれるように窓口を作ることが望ましい。

推奨の強さ

C:科学的根拠はないが、行うよう勧められる

背景
少産少子の昨今、社会的にお産は大きな人生の出来事という意識が高くなってきている。妊産褥婦は、安全性のみならず、快適なサービス提供をより求め、医療従事者に対しても心地よい関わりを求めている。しかし、分娩は突然異常に移行する危険があり、医療従事者は快適性を高めるコミュニケーションだけでなく、緊急時の説明、対応などを適切に行う必要がある。

議論・推奨への理由(安全面を含めたディスカッション)
すべての妊産褥婦を尊重し、誠意のある態度で接することは、医の倫理綱領や看護者の倫理綱領に規定されている医療者としての基本の姿勢である。自己決定権を保障することも医療者の倫理として求められているが、十分にできていない状況がある。しかし、多くの研究から自己決定に関与した妊産褥婦の満足度が高いことが報告されていることから、快適な出産を進めていくためには、妊産褥婦・家族に十分な情報の提供と説明がされて、妊産褥婦・家族の理解と同意を得ること(インフォームド・コンセント)に基づいた自己決定を支援することが重要であると考える。
妊産褥婦は説明や情報などを求めていたが、医療従事者の思いやりや態度などにも影響を受けていた。コミュニケーションは医療や助産技術、看護ケアを提供していく上での信頼関係を作る基盤となるため大切であるが難しいものである。
コミュニケーションは言葉によるバーバルコミュニケーション注* と表情、視線、しぐさなどのノンバーバルコミュニケーション注** から成り立っている。通常の会話では言語情報が多く伝達される。しかし、受け手はコミュニケーションの7割を、言語情報よりも送り手の声のトーン、表情やしぐさなどの非言語的な信号、特に送り手が伝えようと意図せずに送っている何気ない振る舞いから情報を受け取る。また、コミュニケーションは文化、教育、信条、パーソナリティーなどによって影響をうけ、さらに個別性が高いものである。わが国では言葉に出さない、言語的表現にされないことに対して相手の意を汲むことを求められる文化があり、そのため相手からのノンバーバルな信号を的確に捉えることが要請される。
妊産褥婦・家族への対応マニュアルを作成し、活用することは時として必要である。しかし、妊産褥婦が「大切にされた」と思える態度や言葉かけを医療従事者自身の言葉で率直に伝えることが重要である。バーバルコミュニケーションの方法はマニュアルにすることができるが、ノンバーバルコミュニケーションをマニュアルにするのは困難である。そのため、医療者はコミュニケーションの特徴を理解して、コミュニケーション能力を高める努力、特にノンバーバルコミュニケーションの技術を磨くことが重要である。妊産褥婦に対しては肯定的なノンバーバルの信号(共感、思いやり、寄り添う態度など)を送ること、一方、相手の心を推し量る、ノンバーバルの信号を読み取る感性を高めることが必要である。
コミュニケーションは人間関係の中で成立し、医療者と妊産褥婦・家族との相互作用があるため、お互いが心情的に複雑になりやすい。その上、妊産褥婦、家族が欲しいと思う情報の質や量、受けた情報をどのように解釈するか、悪い情報にどのように反応するかは妊産褥婦・家族によって異なり、置かれている立場、状況によっても変化する。医療者は客観的に十分に説明していても、妊産褥婦・家族は十分に説明されていないと思う、というギャップを生じることもある。さらに医療者と妊産褥婦だけのコミュニケーションのズレだけでなく、家族内においてもコミュニケーションのズレが生じること(父親や祖父母から、家族が話すまで医療者には何も言わないで欲しいとストップがかかるなど)がある。特に緊急時や不幸な転機を迎えたときにはそのような状況が生じやすい。したがって、周産期に携わる医療者は、妊産褥婦の快適性だけを重視したコミュニケーション能力だけでなく、妊娠、分娩の急激な異常への移行や、緊急時に対応したコミュニケーション能力も必要となる。
死産や緊急搬送時に悪い情報を児の母親・家族に説明するタイミングを見極めることは難しく、緊急時では説明する時間がないのが現状である。しかし、産後の母親は悪い情報であっても基本的に状況の説明をされることを望んでいる。そして状況が許す限り母親と接触させる機会をもつ方がよい。また、搬送後に母乳を持っていくことができるなどの母児のつながりを持つ機会をつくるように配慮する。
状況が悪かった時、母親は思いやりのある正しい情報を求めている。結果が悪かった時の説明では、医療用語を多く使うことや、一度に多くの情報を話すことは避けるべきである。母親は結果的に「仕方のないこと」であったとしても、医療者が「残念なことだった」と寄り添ってくれることを望んでいる。しかし、母親・家族が悪い知らせに対して心理的に向き合う準備ができるまで、そっとしておくなど見守りの時間が必要である。そして、タイミングを見ながら、母親・家族が知りたい情報を、心情を配慮した場所で、ゆったりとした態度で、わかりやすく説明することが大切である。同時に、母親や家族が児と触れ合う機会を持てるよう配慮する。母親・家族は退院後も継続して医療者とコミュニケーションをとり続けたいと願っているので、医療者とコンタクトがとれるように配慮することが望ましい。
医療者は、人を援助する過程で心的エネルギーを絶えず過度に要求される結果、極度の心身疲労や感情の枯渇をよく生じるといわれている。医療者は、コミュニケーションスキルを高めることも重要であるが、常に適切なコミュニケーションができるように心身を安寧に保つ必要がある。

(本文、図表の引用等については、母親が望む安全で満足な妊娠出産に関する全国調査-科学的根拠に基づく快適で安全な妊娠出産のためのガイドラインの改訂-の本文をご参照ください。)

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