RQ1 妊産婦の要望とリスクを考慮した分娩施設の対応は?
CQ/目次項目
RQ1 妊産婦の要望とリスクを考慮した分娩施設の対応は?
1
推奨/回答
第1次分娩施設(診療所、助産院)では、安心させるコミュニケーション、同じ医師による継続的な診療、助産師による継続ケア、産痛緩和や分娩体位の工夫などのケアが多く、医療介入が少なく、妊娠期から産後のケアへの満足感が高い。妊産婦の要望と分娩施設の特性を活かした選択ができるよう、分娩施設は自施設の特徴を十分説明することが望ましい。
推奨の強さ
B:科学的根拠があり、行うよう勧められる
2
推奨/回答
第1次分娩施設の医療担当者はリスクを適切に判断して、高次医療機関へ紹介することが安全性と周産期医療全体の観点から薦められる。第1次分娩施設におけるリスクの判断方法はリスクスコアを参考にすることが望ましい。
推奨の強さ
B:科学的根拠があり、行うよう勧められる
3
推奨/回答
一方、異常経過やリスクのある妊産婦は病院を選択する傾向があるが、高次医療機関は安全性に十分配慮したうえで、リスクがあっても工夫して、出来ることから努力して満足度を上げる。高次医療機関で満足度の低い項目のうち、コミュニケーション(対応、経過説明、意思尊重、安心)、産痛緩和、助産師によるケアや分娩介助、母子同室、母乳育児指導、リスクによっては終始自由姿勢、夫や家族の立ち会い、早期母子接触・授乳などを再考する。
推奨の強さ
B:科学的根拠があり、行うよう勧められる
背景
母子にとって安全で安楽な出産のための医療サービスを提供されるには、女性が精神的に安心し自信が持て、身体的にもリラックスできる環境で分娩が取り扱われる必要がある。女性の生活圏内により身近な場所で、信頼関係が形成されている医療者によるケアを受けることができるような医療体制が重要である。
議論・推奨への理由(安全面を含めたディスカッション)
日本では、女性の 46.7%が診療所、1.2%が助産所、合計 48%がプライマリー施設で分娩している。各施設の対象のリスクに差があるため一概に比較できないが、妊娠中から産後までに受けた医療サービスに関する全体的な満足度が助産院が最も高く、次いで診療所、一般病院、大学病院の順に高かった。このことは、女性にとって身近な第1次分娩施設で周産期のより満足な医療ケアを受けられることを示唆している。また、産科医不足による分娩施設の閉鎖に伴い、第2次、第3次周産期医療機関への集約化による妊産婦の過剰集中が懸念されている。そのため、高次医療機関の周産期医療者も過重労働となることが推測される。従って、快適で満足なお産をするためには、また周産期医療の供給体制全体を考える上でも、ローリスクの女性は出来るだけ地域の第1次分娩施設で出産することが薦められる。女性にとっても、自分の生活圏内に在るかかりつけの第1次分娩施設(または一般病院)での分娩を可能にする出産環境の整備が望まれている。
一方、第1次分娩施設では、妊娠・分娩のリスクに応じた医療施設で必要な医療を適時に提供することが、安全性と周産期医療全体を考える上で重要である。第1次分娩施設の医療担当者は「妊婦リスクスコア」を参考にして、リスクを適切に判断して高次医療機関へ紹介することが薦められる。それでも予想外の事態が起る事は考えておかなければならないが、high risk と判断される状態になった時に、いつでも胸を叩いて受け入れる高次産科施設があるという事も、この1次産科施設での出産を担う産科医・助産師にとって、余裕を持って(ということは、冷静に・適切に)妊産婦のアセスメントが出来る診療環境を作る事になると考える。また、リスクに限らず、NICU を有する高次分娩施設との連携により、日常的に継続的に双方の風通しを良くすることが望まれる。
助産所は満足度が最も高いが、今後更なる増加は見込めない。そこで、一般病院やハイリスクの高次医療機関でも工夫して、満足の低い項目や、リスクがあっても出来ることから(例:説明、対応など第1次分娩施設のようなケア)努力して実行し、満足を上げることが薦められる。高次医療機関において満足度の低い項目のうち、コミュニケーション(良い対応、出産費用や経過説明、意思尊重、気持ちの理解、安心させる)、母子同室、母乳量など母乳育児支援、同じ助産師による継続ケア、退院後も医療者に相談できること等、可能な項目から工夫を始めることが薦められる。リスクによっては、終始自由姿勢や早期授乳を促し、娩出時仰臥位や会陰切開を再考することも必要であろう。
上記の他に施設選択理由の「評判が良い」「対応が良い」「お産のやり方」に関連する内容である、夫やその他の人(上の子等)の付き添い・立ち会い、産痛緩和と統計的に関連する出産直後の母児対面、助産師による継続ケアや分娩介助の実施率を上げることが望まれる。
また、妊娠・分娩・産褥のケアの評価は、女性の満足感や安全面だけでなく、経済面(人材の配置と効率的な医療体制、マンパワー)などを今後検討することが必要である。
(本文、図表の引用等については、母親が望む安全で満足な妊娠出産に関する全国調査-科学的根拠に基づく快適で安全な妊娠出産のためのガイドラインの改訂-の本文をご参照ください。)