ステートメント 8(抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡)
CQ/目次項目
ステートメント 8(抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡)
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推奨/回答
出血高危険度の消化器内視鏡において,アスピリンとアスピリン以外の抗血小板薬併用の場合には,抗血小板薬の休薬が可能となるまで内視鏡の延期が好ましい.内視鏡の延期が困難な場合には,アスピリンまたはシロスタゾールの単独投与とする.休薬期間はチエノピリジン誘導体が5〜7 日間,チエノピリジン誘導体以外の抗血小板薬が1 日間を原則とし,個々の状態に応じて適時変更する.
推奨の強さ
C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる
エビデンスの確実性
Ⅴ:記述研究(症例報告やケースシリーズ)
各種薬剤のフローチャートにつきましては、ステートメント1の解説をご参照ください。
科学的根拠は低いレベルの根拠のみであるが,その有益性は害に勝り,臨床的には有用と考えられる.ステートメントは 3 つの文章から構成されている.この 3 つの文章の内容をすべてサポートするエビデンスはない.一部をサポートするのみである.
アスピリンとアスピリン以外の抗血小板薬を併用した場合,出血高危険度の消化器内視鏡の出血性偶発症がどれくらい増加するかについての明確なエビデンスは存在しない.アスピリンについては継続する方針で行われた大腸ポリペクトミー1,385 例の後ろ向き研究において,クロピドグレル内服者では後出血率が有意に増加すること(3.5% vs. 1.0%),クロピドグレルに加えアスピリンや他のNSAID を併用している場合,後出血のオッズ比が3.69(95% CI1.60-8.52)となることが報告されているのみである.このことから類推すると,大腸ポリペクトミーは言うに及ばず,さらに出血性偶発症の頻度が高い手技(特に粘膜下層剥離術)については,より慎重な対応が求められるべきである.胃・十二指腸粘膜下層剥離術を施行した219 例の後ろ向き検討において,後出血率は,抗血栓薬内服なし群6.6%(10/152),単剤内服・施行時中止群12.1%(4/33), 2 剤以上内服・施行時中止群9.1%(1/12),単剤内服・アスピリン継続群0.0%(0/7),2 剤以上内服・アスピリン継続群46.7%(7/15)であったとの報告があり, 2 剤以上内服していた群では薬剤再開後に出血をきたす危険性が非常に高い.
抗血小板薬を2 剤内服されている患者は基本的に血栓塞栓症の発症リスクが高い患者であり,抗血小板薬の休薬は極力避ける必要がある.本ステートメントでは,血栓塞栓症の発症リスクが軽減し抗血小板薬の休薬が可能となるまで内視鏡の延期を推奨したが,一般診療では,癌の治療など,出血高危険度の内視鏡を血栓塞栓症のリスクを押してまで行わないといけないことがあることも事実であり,その場合は,アスピリンまたはシロスタゾール継続下での治療は許容した.アスピリン継続下での治療については,2011 年に発表された欧州消化器内視鏡学会のガイドラインでは,アスピリン単剤での出血高危険度の手技は許容しているが,特に出血性偶発症頻度が高い内視鏡的粘膜切除術,内視鏡的粘膜下層剥離術,内視鏡的十二指腸乳頭切除術,内視鏡的十二指腸乳頭括約筋切開術後の大口径バルーン乳頭拡張術,のう胞病変に対する超音波内視鏡下穿刺吸引術については,血栓塞栓症発症の低危険群においては,アスピリン単剤においても5 日間の休薬を勧めている.シロスタゾール継続下での治療については,安全性を検証した試験は存在しないが,“札幌コンセンサス”では,抗血小板薬が休薬できない血栓塞栓症発症の高危険群においては,シロスタゾールによる代替療法が提案されていることからシロスタゾールの継続投与下での治療も併記した.シロスタゾールは鬱血性心不全の患者では禁忌とされている.投与後早期の頭痛,頻脈等の副作用があり,十分留意する必要がある.
チエノピリジン誘導体の休薬期間については,2005 年に作成された日本消化器内視鏡学会ガイドラインに則った5~7 日間の休薬期間(単剤5日,アスピリンとの併用7 日)を参照に5~7 日間の休薬を推奨し,その他の抗血小板薬は血小板凝集に与える影響も軽度であり,半減期も短いものが多く1 日の休薬を推奨した.本ステートメントの内容については,今後十分な検証が必要である.
(本文,図表の引用等については,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインの本文をご参照ください.)