ステートメント 6(抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡)
CQ/目次項目
ステートメント 6(抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡)
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推奨/回答
出血高危険度の消化器内視鏡において,アスピリン以外の抗血小板薬単独内服の場合には休薬を原則とする.休薬期間はチエノピリジン誘導体が5〜7 日間とし,チエノピリジン誘導体以外の抗血小板薬は1 日間の休薬とする.血栓塞栓症の発症リスクが高い症例ではアスピリンまたはシロスタゾールへの置換を考慮する.
推奨の強さ
C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる
エビデンスの確実性
Ⅵ:患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見
各種薬剤のフローチャートにつきましては、ステートメント1の解説をご参照ください。
科学的根拠は低いレベルの根拠のみであるが,その有益性は害に勝り,臨床的には有用と考えられる.このステートメントの直接根拠となるデータは示されていないためⅥ(患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見)とするしかないと考える.
アスピリンを除く抗血小板薬は,チエノピリジン誘導体とその他の抗血小板薬に分けられる.チエノピリジン誘導体単独の継続下では,出血高危険度の消化器内視鏡(大腸ポリペクトミー)による出血性偶発症が増加するというエビデンスが海外に存在し,米国消化器内視鏡学会のガイドラインではチエノピリジン誘導体休薬下での処置が推奨されている.
米国消化器内視鏡学会のガイドラインでは,7-10 日の休薬を推奨しているが,2005 年に作成された日本消化器内視鏡学会ガイドライン に則った5 日間の休薬でも出血性偶発症が増加したという報告は見られていない.本ガイドラインでは5~7 日間の休薬を推奨する.
チエノピリジン誘導体単独の休薬が困難な状況では,処方医師と相談の上,米国消化器内視鏡学会,欧州消化器内視鏡学会のガイドラインに準拠しアスピリンへの変更を考慮する.札幌市近郊の病院で得られたコンセンサス“札幌コンセンサス”では,シロスタゾールによる代替療法が提案されており,シロスタゾールへの変更についても言及した.抗血小板薬の変更は内視鏡に伴う一時的なのものにとどめ,いずれも適応症に基づいた安全性,有効性の検証が必要とは思われる.薬剤の変更を行う場合は,必ず処方医との連携を密にする必要がある.シロスタゾールは,鬱血性心不全では禁忌とされており,投与後早期の頭痛,頻脈等の副作用がある.抗血小板薬の置換に使用する場合,十分留意する必要がある.
チエノピリジン誘導体以外の抗血小板薬(アスピリンを除く)については,明確なエビデンスが存在しない.半減期の長いイコサペント酸エチルについては,出血時間を延長させないとの基礎的検討がある.血小板凝集に与える影響も軽度であり,継続下でも出血性偶発症が増加する可能性は低いが,半減期も短いものが多く1 日の休薬を原則とした.
いずれの場合も,内視鏡抜去前には止血が得られている事を確認し,出血が継続する場合は,クリップ止血などの適切な止血処置を施すことが求められる.
(本文,図表の引用等については,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインの本文をご参照ください.)