ステートメント 5(抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡)

CQ/目次項目
ステートメント 5(抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡)
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推奨/回答

出血高危険度の消化器内視鏡において,血栓塞栓症の発症リスクが高いアスピリン単独服用者では休薬なく施行してもよい.血栓塞栓症の発症リスクが低い場合は3〜5 日間の休薬を考慮する.

推奨の強さ

C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる

エビデンスの確実性

Ⅳb:分析疫学的研究:症例対照研究,横断研究

各種薬剤のフローチャートにつきましては、ステートメント1の解説をご参照ください。

科学的根拠は低いレベルの根拠のみであるが,その有益性は害に勝り,臨床的には有用と考えられる.対立するデータが示されているがデータのエビデンスレベルから考えてEvidence Level Ⅳb(分析疫学的研究:症例対照研究,横断研究)とするのが妥当と考える.

出血高危険度の内視鏡に分類される手技の種類によっても,それぞれ出血性偶発症の頻度が大きく異なることから,本ステートメントには詳細を記載しないが,元来出血性偶発症の頻度が高い手技(特に粘膜下層剥離術)については,より慎重な対応が求められるべきである.そのなかで,大腸ポリペクトミーにおいては,約30,000 人の症例対象研究でアスピリン内服者は出血性偶発症のリスクが増加しなかった.同様に,十二指腸乳頭切開術においても,126 例の症例対象研究でアスピリンがその大多数を占める抗血栓薬内服者は,出血性偶発症のリスクが増加しなかった.胃粘膜下層剥離術においては,いずれも後ろ向きの検討ではあるが, 1 週間の休薬において出血性偶発症は増加しなかったという報告がみられる一方,2005 年に作成された日本消化器内視鏡学会ガイドラインに基づいて抗血栓薬を取り扱った場合,抗血栓薬内服者(もしくは,ステロイド製剤,非ステロイド抗炎症薬内服者)の後出血のオッズ比2.76 倍(95% CI1.09-6.98))であったとも報告されている.
2 ㎝以上の大腸腫瘍322 病変に対する粘膜切除術における前向き研究では,切除前7 日以内にアスピリン内服があった症例(休薬が切除前平均5.4日であった症例)は,アスピリンを含む抗血栓薬の内服が切除前7 日間になかった症例に比べ,オッズ比6.3 倍(95% CI1.8-22.5)で後出血が認められたことが報告されている.一方で,胃・十二指腸粘膜下層剥離術219 例の後ろ向き研究で,アスピリンが単剤で投与されている場合,アスピリンの内服を継続した場合と一定期間休薬した場合で後出血の発生頻度に違いはなく(0.0%(0/7) vs. 12.1%(4/33)),休薬した場合においても非内服者(6.6%(10/152))に比べ高い後出血率であったという報告もある.
海外のガイドラインによると,2009 年に発表された米国消化器内視鏡学会のガイドラインでは,出血高危険度の消化器内視鏡においてもアスピリン継続下での処置が推奨されている.一方,2011 年に発表された欧州消化器内視鏡学会のガイドラインでは,基本的に,アスピリン継続下での処置が推奨されているが,特に出血性偶発症頻度が高い,粘膜切除術,粘膜下層剥離術,十二指腸乳頭切除術,十二指腸乳頭括約筋切開術に引き続く大口径バルーンによる乳頭拡張術,のう胞病変に対する超音波内視鏡下穿刺吸引術については,血栓塞栓症の発症リスクが低い場合には5 日間の休薬を勧めている.本ガイドラインでは,出血高危険度の消化器内視鏡を細分類することなく,米国消化器内視鏡学会のガイドラインに準じて,アスピリン継続下での処置をしてもよいとしたが,アスピリン単独の場合,休薬できない病態は決して多くはないと考えられることから,処方医に休薬の可否を確認の上,休薬が可能な場合には2005 年に作成された日本消化器内視鏡学会ガイドラインに準じた3-5 日間の休薬を行うことを推奨した.
内視鏡抜去前には,生検や出血低危険度の手技と同様,止血が得られている事を確認し,出血が継続する場合は,クリップ止血などの適切な止血処置を施す必要がある.今回のステートメントの解説は,粘膜下層剥離術を除き海外の研究に基づいており,内視鏡技術レベルが高いと信じられている日本におけるガイドラインは日本のデータに基づいて作成されるべきであることから,今後の研究を期待したい.

(本文,図表の引用等については,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインの本文をご参照ください.)

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