―診療ガイドライン活用事例紹介―

印刷用PDFはこちら



岡山大学病院(岡山県)の取り組み


 日本医療機能評価機構の認定病院である岡山大学病院は、国内屈指の歴史と伝統を有し、2020年に創立150周年を迎えます。特定機能病院として患者中心の高度な医療を提供するとともに、臨床研究中核病院にも認定され、中国・四国地域の医療機関の核として臨床研究を支援しています。また、臨床研修にも注力され、約100施設の協力型研修病院と連携しながら幅広い研修プログラムを提供しています。
 岡山大学病院の総合内科教授の大塚 文男 先生、医局長の小比賀 美香子 先生に、総合内科における診療ガイドラインの活用について、レジデントの西村 義人 先生も交え、お話を伺いました。


 岡山大学病院の総合内科について

大塚先生 岡山大学病院には、もともと第一内科、第二内科、第三内科、循環器内科、神経内科の5つの科が設置されていましたが、2011年に日本内科学会が研修カリキュラムを大幅に改訂したことを受け、幅広い診療能力を持つ医師の育成が必要と判断し、2012年に総合内科が新設されました。当時の総合内科には、何をしているかよく分からない科、各専門内科にあてはまらない患者が訪れる科、といったイメージがありましたが、岡山大学では、全体を俯瞰し、各専門内科が困る患者を診る、内科の中のハブが総合内科であるというコンセプトのもと人事配置を検討しました。各専門内科に門戸を開き、ジェネラル視点があり、総合内科に来たい、骨を埋めてもいいという先生に来てもらいました。各専門内科の教授陣も総合内科に期待しており、ぜひ連携したいという希望がありましたので、円滑に総合内科を立ち上げることができました。

小比賀先生 このような立ち上げの経緯がありますので、総合内科には各内科の専門医が集まっており、他科とのコンセンサスがとれ、連携もスムーズにできています。また、主要な専門分野の専門医が集まっている環境なので、若い医師にとっては全般的に学べる貴重な環境になっていると思います。総合内科では、週に1度、「レジデントラウンド」を行っており、その前後に実施している症例検討の場で出てきた疑問を担当の研修医が次週までにまとめ、ウェブを利用し全員で共有しています。その疑問と回答のまとめについても、指導医が専門医の立場から監修し、半年ごとに総括しています。この成果については院内、もしくは院外で発表できるよう準備を進めているところです。



 レジデントラウンドにおける診療ガイドラインの活用
1)レジデントラウンドについて

西村先生 主治医の回診や教授回診とは別に、週に1度実施しています。病棟の患者を一番近くで診ている初期研修医やレジデント(後期研修医)の知識全体をブラッシュアップすることを主目的としています。ラウンド前後の検討も初期研修医とレジデントだけで実施していますので、ざっくばらんに言い合える雰囲気があり、活発なディスカッションが行われています。
小比賀先生からご紹介がありましたとおり、検討の場で出てきた疑問と回答のまとめは指導医に監修してもらっています。レジデントラウンドのような取り組みもやりっぱなしではなくフィードバックが必要だと感じています。研修医‐レジデント‐指導医の三方向のコミュニケーションがあることがこの取り組みが上手くいっているポイントだと思います。


2)治療方針検討時の情報として

西村先生 レジデントラウンド前の検討では、各チームが共有すべき症例や、困っている症例を1つピックアップし、A4×1枚にまとめた資料をもとにディスカッションを行います。資料の作成にあたっては担当者がさまざまな文献を参照していますが、初期研修医は診療ガイドラインや二次文献*を参照しているようです。レジデントになると、診療ガイドラインだけでなく、その参考文献までさかのぼって情報収集している印象があります。
*文献を参照して作成された教科書やサマリー等


3)目の前の患者へ適用するために

西村先生 総合内科の病棟に入院されている患者は、複数の疾患を持っている方が多いため、単純に診療ガイドラインを適応できないことも多いですが、因数分解していくと一つ一つの問題点に集約していきます。それぞれの問題点に対しては診療ガイドラインで書かれていることも多いので、お気に入りにも登録しているMindsガイドラインライブラリ(https://minds.jcqhc.or.jp/)やオンラインストレージを利用し、診療ガイドラインや文献をその場で提示しながら、研修医・レジデント全員でディスカッションします。「診療ガイドラインではこう推奨されているけど、目の前の患者の状況はこうだから、こういった治療が望ましいのではないか」といった議論や、診療ガイドラインの参考文献を読むことで、なぜこの推奨がなされているかの根拠についても議論しています。診療ガイドラインをもとに、研修医や非専門医でも最低限知っておくべきことや、診療ガイドラインと目の前の患者との違いを踏まえ、実臨床に診療ガイドラインをどのように落とし込んでいくかを学んでいます。


4)患者説明時にも診療ガイドラインが活躍

西村先生 患者からインフォームド・コンセントを得る際に、疾患の概要や標準的な治療法を説明しますが、その際には診療ガイドラインを参照しています。ただし、やはり診療ガイドラインの内容と目の前の患者では違う部分がありますので、「一般的にはこうだけど、あなたの場合はここがこうだから、この治療法で進めていきたいと考えています」といった説明をしています。海外の診療ガイドラインだけだとこういった説明はしにくいので、日本の診療ガイドラインがあると大変助かります。


症例検討1:原因不明熱で入院した患者

研 修 医:炎症反応なし、血球貪食が疑われ精査するも原因不明である。HLH(血球貪食性リンパ組織球症)診断基準8項目のうち5項目あてはまれば確定できるが、この患者では4項目である。

レジデント:HLHの診断基準は何年の基準を参照しているか?よく教科書などで紹介されているのは2004年の診断基準だが、これは小児の症例をもとに作られていたので新しい診断基準が2009年に作られた。2009年の文献を共有するので見ておいたらいい。ただし、2009年の診断基準にもオーバートリアージの問題点があるようで、現在改訂中であることを学会で聞いた。
H-Scoreというツールもあるのであわせて紹介する。
再生不良性貧血の要素はないか?家族歴などを確認するといい。再生不良性貧血の診療ガイドがあるのでこれも共有する。日本の実情に合った最低限知っておくべきことはこれで理解できる。

【次回までの調査課題】
2系統の血球減少がある場合、何をしたらいいか、マルク(骨髄穿刺)の適応はあるか、次週までにまとめておくこと。
(検討後、研修医とレジデント全員で回診を行い、貧血に関する家族歴の聞き取り、脚部や背中などの視診を実施した)


症例検討2:多発性骨髄腫や癌の既往のある患者

研 修 医:外来で化学療法を継続していたが、下痢、倦怠感、食欲不振、悪寒、著明な低カリウム血症を認め再入院となった。比較的若いため、多発性骨髄腫であれば治療を継続することを本人・家族と話していたが、残念ながら肺腺癌が発覚した。本人や家族とも相談の上、今後はベスト・サポーティブ・ケア(BSC)を目指すことにした。現在は、下痢や倦怠感等の症状も解消している。

レジデント:多発性骨髄腫は成績のいい新薬も出てきて、当院でも採用されたからと思っていたが残念だった。しかし、本人が楽になってきているのでそれはよかったと思う。
多発性骨髄腫に関して言えば、高齢化もあり患者が増えている。最近は“くすぶり型”という概念があり、くすぶり型の層別化と治療について学会が研究しているようだ。
緩和療法に関しては、聖隷三方原病院が「症状緩和ガイド」という癌の症状緩和に関する情報サイトを運営している。非常に参考になるので目を通しておくといい。

【次回までの調査課題】
緩和的鎮静については聞いたことがなければ調べておくこと。日本緩和医療学会から、『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン』が発行されていて、Mindsガイドラインライブラリにも本文が掲載されている。


岡山大学病院総合内科の取り組みからみる診療ガイドライン活用のポイント

 研修医やレジデントの教育に活用
→臨床現場からあがってくる疑問を、診療ガイドラインや文献をもとにまとめ、ウェブを利用し全員で共有する

 医療者間での意思決定時における活用
→研修医・レジデントで治療方針を検討する際に診療ガイドラインを参照
→診療ガイドラインの推奨を安易に適用するのではなく、目の前の患者の状況、希望を踏まえ、最善の治療法を検討する

 患者-医療者間での意思決定における活用
→インフォームド・コンセント時に、診療ガイドラインを参照して、「一般的には~」という説明をする。ただし、実際の患者の状況を踏まえ、「あなたの場合は○○だからこういった治療をしようと考えている」といった説明が必要になる。


編集後記:

 大塚先生、小比賀先生が総合内科をまとめられていることで、レジデントや研修医がしっかりと学ぶことができる土壌ができていると感じました。取材させていただいたレジデントラウンド前後の検討では、診療ガイドラインや文献をはじめ、さまざまな情報を収集し共有することで、研修医とレジデントの知識をブラッシュアップしていましたが、全員がその先にある、患者のアウトカムを改善するという一番大切な目標を見据えていることが印象的でした。診療ガイドラインをそのまま適応するのではなく、患者の希望・価値観を尊重した患者中心の医療が実践されている臨床の現場を取材させていただきました。
 日本で診療ガイドラインがより活用されるよう、Mindsとしても診療ガイドラインの普及推進に努めてまいります。

Mindsのウェブサイト「Mindsガイドラインライブラリ」は

お気に入り登録をお願いします!