―診療ガイドライン活用事例紹介―




齊藤 光江 先生の取り組み

(労災疾病臨床研究事業費補助金「がん患者の治療と就労の両立支援に関する研究
-医療現場・働く患者・職場の3視点から-」 分担研究者
/順天堂大学医学部 乳腺・内分泌外科 教授)


 「がん患者の治療と就労の両立支援に関する研究 -医療現場・働く患者・職場の3視点から-」の分担研究者として、診療ガイドラインをベースとした「がん治療ハンドブック」を作成した齊藤 光江 先生に、研究における診療ガイドライン活用の取り組みについてお話を伺いました。また、臨床における診療ガイドライン活用の取り組みについてもお話を伺いましたので、あわせてご紹介いたします。

・ 第1部 がん患者の治療と就労の両立支援に関する研究における診療ガイドライン活用
・ 第2部 臨床における診療ガイドライン活用

第1部 がん患者の治療と就労の両立支援に関する研究における診療ガイドライン活用

齊藤 光江 先生
(労災疾病臨床研究事業費補助金「がん患者の治療と就労の両立支援に関する研究-医療現場・働く患者・職場の3視点から-」分担研究者
/順天堂大学医学部 乳腺・内分泌外科 教授)

―研究の中で作成された、「がん治療ハンドブック」について教えてください
 就労可能人口が多い、消化器がんと生殖器がん(胃がん、大腸がん、乳がん、卵巣がん、精巣がん)について、原則として初期治療で用いられる主な薬物療法に関して、その投与方法、治療期間、投与頻度が一目でわかるカレンダー()を作成しました。また、主な副作用と出現時期についてもカレンダーで示すことで、がんの総論的な知識の普及を目指しています。以下のように、患者だけでなく、患者が働く職場の上司や人事、産業保健スタッフにとっても有用な資料になると考えています。

  患者にとって
治療の見通しを知ることで自己管理能力が高められる

  上司や人事、産業保健スタッフにとって
病名や治療内容から、一般的にどれくらいの期間、どの程度の頻度の通院が必要になるか、また、療養を要するような副作用がどのようなものであるかの概要を知ることができる

 カレンダーの作成にあたっては、一般的に推奨されている治療法を参照する必要がありますので、医師向けに国内学会が作成した最新版の診療ガイドラインを参照しています。信頼性の面からも、診療ガイドラインが拠り所になっています。ただし、治療を開始した後に起こってくる副作用などの症状については診療ガイドラインに出ていないことがありますので、診療ガイドライン以外の資料も参照しています。
図:乳がんの一例

―今までは「がん治療ハンドブック」のような資料を使った医師と職場の連携ツールはなかったのでしょうか
 今までにも治療と就労の両立を支援するツール(就業状況や治療内容をまとめるシート等)はありましたが、細かい記述が必要なため、主治医をはじめとした医療者の負担が増えるデメリットがありました。また、患者の状態は診療のたびに変わっていきますので、記載した内容が古い情報になってしまう恐れがあります。そこで、「がん治療ハンドブック」を作成するにあたっては、個別性の高い内容にはせず、あえて総論的な内容にしました。総論的にしたことで、医療者の負担は少なく済むと考えています。また、総論的な情報提供によって患者の自己管理能力も高まりますので、個別性の高い内容は、患者と医療者のやりとりの中で相談できると考えます。

―「がん治療ハンドブック」を作成するにあたり苦労した点、工夫した点を教えてください
 やはり治療の後、副作用の症状をまとめるのに苦労しました。投与方法、治療期間、投与頻度などは診療ガイドラインや診療記録の統計を取れば分かるのですが、どのように副作用が出やすいのかといった点は、診察室以外での患者を知っている薬剤師や看護師との連携が重要でした。副作用については個人差が大きく、ばらつきもあるのですが、今回は就労がテーマでしたのであまり細かくせずに、「休まないといけない期間が発生し得る」ことを情報提供できるよう3職種で話し合いました。

―今後の展望をお聞かせください
 今回、いくつかのがん種で薬物療法についての「がん治療ハンドブック」を作成しましたが、外科手術や放射線治療に関する「がん治療ハンドブック」も検討しています。
 また、乳がんに関しては私の専門領域でもあるので、医療費に関する情報提供もしていきたいと考えています。例えば、普段買い物をするときは価格や保証期間、新型の発売時期などの情報を簡単に集めることができるのに、医療に関しては情報がオープンになっておらず患者が苦労している。治療に関してもですが、医療費に関しても見通しがないまま何かをやってみて請求が来る、後で振り返ってみて結構な費用がかかり大変だったと。あらかじめ見通しが立っていれば、働き続けないといけないとか、働き続けても捻出できない部分は社会保障の資源を頼るとか、患者が準備をして治療に臨めるようになると考えています。