GRADE システムの動向:推奨作成方法を中心に
公益財団法人 日本医療機能評価機構
畠山 洋輔


1.信頼される診療ガイドラインとGRADEシステム
現在、世界的に普及している診療ガイドラインの作成の理念は、2011年にInstitute of Medicine(IOM)が発表したレポート、『Clinical Practice Guidelines We Can Trust』(IOM 2011)の中で示された次の「信頼できる診療ガイドライン」の定義の中に集約されている。
 診療ガイドラインは、患者のケアを最適化することを目的とした推奨を含む文書である。推奨は、エビデンスのシステマティックレビューと、複数の選びうるケアの選択肢についての益と害に関する評価に基づいて作成される。(IOM 2011: 25-26)
本レポートは診療ガイドラインの定義を変更させただけではなく、作成方法に関する大枠の方針を示している1。本レポートを受けて、米国のAgency for Healthcare Research and Quality(AHRQ)が運営する英語で発行された診療ガイドラインのデータベースであるNational Guideline Clearinghouseは診療ガイドライン掲載の選定基準を変更させている2
このような診療ガイドライン作成を具体的に実現するための方法として、世界的に注目されているシステムが「GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システム」である。GRADEシステムは、エビデンスの質と推奨の強さを評価するための、共通で、思慮深く、透明性の高いアプローチであり、国際的な任意のメンバーから構成されるGRADEワーキンググループによって作成され、継続的に改訂され続けている。すでに50以上の組織に採用されているとされ(Guyatt et al. 2011a)、日本でもいくつかのガイドライン作成グループがGRADEシステムを用いた診療ガイドラインの作成を行なっている。
IOMのレポートで提示された信頼される診療ガイドラインの8つの基準の第一番目は「透明性の確立」であるが、GRADEシステムの強みはこの点に一致している。
GRADEの大きなメリットは、判断の再現可能性を保証することではなく、利用者に対して透明であるように、明示的な判断を必要としていることである(Schünemann et al. 2013)。
診療ガイドライン作成は、最大限エビデンスに基づいたとしても、エビデンスの評価、推奨の作成において「判断」を除外することができない。「判断」に対する一律の基準を決めることはできないことではないが、その領域、疾患、場面ごとの特異性を無視することになりかねない。先の引用の通り、GRADEシステムが提案していることは、明示的な判断を要求することによって、作成過程の透明性を確保するための大きな枠組みなのである 。この点で、GRADEシステムで提案される診療ガイドラインのあり方とIOMのレポートで目指されている信頼される診療ガイドラインのあり方とが合致しているのである。


2.GRADEワークショップへの参加
Guidelines International Network会議では、毎年、GRADEシステムに関連した報告、ワークショップが数多く開かれている。そこでは、診療ガイドライン作成の国際的な動向を踏まえて継続的にアップデートされ続けるGRADEの最新の動向について情報を得ることができる。
そこで、本年、GIN会議の会議前ワークショップの中から、GRADEシステムの紹介、とりわけ、エビデンスから推奨作成に至る過程について紹介することを目的としたワークショップ「GRADE and Guideline Development」に参加した。参加の目的は、動的に進化し続けるGRADEシステムの最先端の提案についての情報を収集し、Mindsが提案する診療ガイドライン作成方法との距離を測り、今後の作成方法提案の参考となる示唆を得ることであった。
ワークショップの内容としては、診療ガイドライン作成のためのクリニカルクエスチョン作成、エビデンスの評価方法、推奨作成方法(エビデンスから推奨への枠組み)が中心的に紹介された。ワークショップの形式としては、講義とディスカッションの時間が交互に設けられており、クリニカルクエスチョン作成、エビデンスの評価はペアでのディスカッション、推奨作成ではグループでのディスカッションが行なわれた。


3.推奨の向きと強さを決定する要因
GRADEシステムの手引き(Schünemann et al. 2013)では、推奨の向きと強さを決定する要因として、?望ましいアウトカムと望ましくないアウトカムのバランス、?重要なアウトカムに対する介入の効果の推定値に対する確信度、?価値や好みや多様性に対する確信度、?資源の利用を挙げていた。また、推奨の決定方法としてDECIDE(Developing and Evaluating Communication Strategies to Support Informed Decisions and Practice Based on Evidence)プロジェクトによって開発された「Evidence to Decisions (EtD) Framework」を紹介している。DECIDEは、医療上の決断を行なう主たる利害関係者に対してエビデンスに基づいた推奨を伝達する戦略を開発し、評価することを目的としたプロジェクトである(Treweek et al. 2013: 2)。DECIDEが開発したEtDとして、次の6の領域、11の「基準」、そして基準に対する「判断」の項目 がリストになっており、GRADEの手引きでは以下の内容が提示されている。(表1)。


表1  Evidence to Decisions (EtD) Framework(Schünemann et al. 2013)
領域 基準
問題 優先課題であるか?
選択肢の益と害 得られたエビデンスの横断的な確実性は何か?
どれくらの人々が主要アウトカムを重視するかについて重要な不確実性はあるか?
望ましい効果は大きいか?
望ましくない効果は小さいか?
望ましい効果は望ましくない効果に比して大きいか?
資源の利用 必要となる資源は少ないか?
増分コストは正味の益に比して小さいか?
公平性 健康の不公平性に対する影響はどのようなものか?
受容可能性 主要な利害関係者にとって選択肢は受容可能か?
実行可能性 選択肢は活用に際して実行可能か?


これらの基準に対して、調査から得られたエビデンスと追加的な検討事項をまとめ、判断を記載することで、診療ガイドライン作成グループが診療ガイドラインに記載した特定の推奨の向きと強さにいたる過程を明示することができる。
今回、ワークショップに参加した際に配布された資料では、これらの領域、基準、判断の選択肢が異なっていた。今回提示された領域、基準は表2の通りである5


表2 ワークショップで配布されたEvidence to Decisions (EtD) Framework
領域 基準
問題 問題は優先事項か?
価値 どれくらい人々が主要アウトカムを重視するかについて重要な不確実性もしくは多様性はあるか?
望ましい効果 望ましい効果はどれくらいか?
望ましくない効果 望ましくない効果はどれくらいか?
エビデンスの確実性 効果のエビデンスに対する横断的な確実性はどれか?
効果のバランス 望ましい効果と望ましくない効果のバランスは介入もしくは対照を支持しているか?
必要となる資源 どれくらい大きな資源(コスト)が必要となるか?
必要となる資源に関するエビデンスの確実性 必要となる資源(コスト)に関するエビデンスの確実性はどれか?
費用対効果 介入の費用対効果は介入もしくは対照を支持するか?
公平性 健康の公平性に対して影響があるか?
受容可能性 介入は主要な利害関係者にとって受容可能か?
実行可能性 介入は活用に際して実行可能か?


先のGRADEの手引きで紹介されていたEtDのリストと合わせて見ると、両方で、効果だけではなく、介入の社会的な意義を考慮して推奨を作成する方法を提示している。また、先に示された領域と基準と、今回示された領域と基準との間にはいくつか変化が見受けられるが、必要となる資源(コスト)に関するエビデンスの確実性を問う基準が増えている。英国のNational Institute for Health and Care Excellence (NICE)は、診療ガイドラインの作成マニュアルの中で、経済的なエビデンスのシステマティックレビューの方法を提案し、そのまとめ方を経済的エビデンスプロファイルとして提案している(NICE 2012: appendix K4)。診療ガイドライン作成において、今後はエビデンスの評価だけではなく、介入の費用、コスト等に関する検討が重視されるのではないかと考えられる。


4.益と害のバランスの評価方法
先ワークショップで配布された資料、実習の中で得た情報の中でとりわけ印象的であったのは、推奨作成における益と害のバランスの評価方法であった。
診療ガイドラインの推奨作成においては、エビデンスの強さ(質)だけでなく、患者の価値観・好み、コスト・負担等にあわせて、益と害のバランスが考慮される。AHRQは、16の益と害のバランスの評価方法を示し、それぞれの特性を記述し、得られたデータや状況によって利用できる方法が異なることを指摘している(AHRQ 2012)。
今回のワークショップで示されたGRADEシステムでは、益と害の評価について、次の手順で評価を行っている。システマティックレビューで得られた結果から、「予想される望ましい効果」の大きさ、「予想される望ましくない効果」の大きさを「大きい」「中程度」「小さい」「些細」、そのほか、「多様」「不明」の中から選択する。そして、その両方(望ましい効果と望ましくない効果)の評価の両方を参考にして、バランスに関する評価について、「対照を支持」「おそらく対照を支持」「介入も対照も支持しない」「おそらく介入を支持」「介入を支持」「多様」「不明」の中から選択する。ここでは、定量的に得られた結果を定性的にまとめる方法が示されている。
この際、システマティックレビューで得られた統合値をもって望ましい効果と望ましくない効果の大きさを検討するが、ここの評価には、それぞれの効果の不確実性は含まれていない6。それぞれの効果に対する評価とバランス評価との間でエビデンスの確信度についての評価を行うことになっている。効果の大きさに対する評価と(不)確実性に対する評価を区別しているのである。


5.3つ以上の介入がある場合の推奨作成方法
また、ワークショップ後には、現在、Mindsで行なっている日本の診療ガイドライン作成支援の中でも課題となっている点について、本ワークショップのオーガナイザーに質問した。
その内容の1つ目は、3つ以上の介入がある場合の推奨の作成方法についてである7。オーガナイザーから、現在、GRADEシステムでは、3つ以上の選択肢がある場合の推奨の作成方法について具体的には示していないが、その方法を含めた診療ガイドライン作成方法を提示する次のシリーズの発行を準備している、との示唆を受けた。
その上で、現在作成中の診療ガイドラインで採用されている方法を紹介された。それによると、たとえば、特定のClinical Question(CQ)について3つの介入(A、B、C)がありうる場合、3つの組み合わせ(A vs B、B vs C、A vs C)ごとにシステマティックレビューと推奨作成を行ない、その推奨を総合して推奨とその解説を作成するという方法であった。
特定の臨床状況における推奨を提示する診療ガイドラインにおいて、複数の選択肢がある場合にどれが推奨できるかを提示できることは非常に重要な役割になる。ここで示唆された方法はひとつの重要で利用可能な方法であると考えられる。


6.ガイドラインパネルに対するトレーニング
現在、Mindsでは、診療ガイドライン作成への患者・市民参加について検討を行なっている。その検討の中で、患者・市民が診療ガイドライン作成に参加する際にどのようなトレーニングが必要になるかが議題となっていた。
GRADEシステムにおいても、推奨作成のパネルメンバーとして患者・市民の参加が想定されている。そこで、患者・市民がパネルメンバーとして参加する際に、どのようなトレーニングを行なっているのかを、ワークショップのオーガナイザーに尋ねた。
オーガナイザーからは、パネルメンバーとなる人への教育ツールとして、マクマスター大学臨床疫学教室がGRADEシステムを紹介するプログラム、「GRADE Online Learning Modules」(http://cebgrade.mcmaster.ca/)を用いていると示唆された。ここでは、システマティックレビューの実施方法に関する動画、そして、GRADEを利用したWHOの診療ガイドライン作成方法を紹介する動画が公開されている8
また、参加する患者・市民だけでなく、パネルに参加するすべてのメンバーに動画の閲覧を案内しているということであった。ここで紹介されている動画がパネルメンバー全体の共通の土台となるようにトレーニングが提供されているのである。


7.今後の展望
今回のGRADEワークショップに参加して、GRADEシステムの最新の動向の一端を知ることができた。
益と害のバランスの評価については、いったん不確実性を括弧に入れて、効果の大きさを比較するという方法であった。不確実性については、全体として評価しているものの、個々の効果に関する不確実性を評価するか、評価する場合にはどのように評価するかについては検討される必要があるだろう。
また、3つ以上の介入がある場合の推奨作成方法など、世界的にも明確な方針が確立されていないような多様な診療ガイドライン作成の方法について、今後GRADEシステムがひとつの方法を提示していくであろうことが期待される。その一方で、ひとつの方法が提示された場合には、その方法の妥当性について慎重に吟味し、適用可能性を考慮する必要がある。
今回のワークショップへの参加、そして、GRADEシステムに関する資料を検討する中で、最も印象的であったことは、GRADEシステム自体が次々に改訂、修正を経て、より良い方法に向かって変化を続けているという点であった。現在のところ、GRADEシステム方法論に関する論文は予定されている全体の途中まで発表されている段階であり、GRADEシステムの手引きでは、GRADEの改良や、利用者からのフィードバックにもとづいて改訂されると記載されている(Schünemann et al. 2013)。方法、システムというと、どこか固定的な言葉のように受け取られるが、科学の進歩と同様に、良いものを取り込んで発展的に拡大していく動的な点こそ、GRADEシステムの本来の姿なのではないか。
Mindsは今後も診療ガイドライン作成に関する情報を収集し、日本の診療ガイドライン作成に資する情報をまとめ、公開を行なっていく。Mindsは2007年に診療ガイドライン作成方法を提示していたが(Minds診療ガイドライン選定部会監修 2007)、世界的な動向をまとめ、2014年に新しい版を発表している(山口・吉田編 2014;福井・山口監修 2014)。日本における診療ガイドライン作成の支援を行なうMindsもまた、GRADEシステムにならい、継続的により良い方法を検討し、必要に応じて採用していく動的なプロセスであり続けることが重要である。


1 本レポートの位置づけについては別稿(畠山2015)を参照。
2 提示されている6つの基準の2つ目で、システマティックレビューに基づいていることが挙げられている。基準の詳細はAHRQ(2015)参照。
3 ただし、GRADEシステムは、臨床課題の設定から、システマティックレビュー、推奨作成・提示の過程に関する方法論である。組織化、外部評価、改訂といったその前後に ある過程に関する方法論については積極的な提案がなされていない点には注意が必要である。
4 煩雑になるため、判断の項目についてはここでは記載を省略している。
5 現在、DECIDEプロジェクトの提供するガイダンスでは、これらの項目が挙げられている(DECIDE 2015)。DECIDEプロジェクトも継続的に改訂を続けていることが伺える。
6 報告者は、ワークショップの推奨作成に関する討論の際に、効果指標が信頼区間をまたいでいる(統計的に有意な差がない)ことに触れ、効果の大きさに不確実性があるために、効果の大きさ、バランスの評価が難しいとの発表を行なったが、オーガナイザーからこの段階では不確実性は評価しないと指摘された。
7 複数の選択肢がある場合のエビデンスの評価方法については、GRADEの方法をまとめたシリーズの中で、「非直接性」に関する論文で記載されている(Guyatt et al. 2011b)。また、今回の質疑の中でも、ネットワークメタアナリシスの実行を考慮すべきと指摘された。
8 ここでは簡略化のために動画と記載しているが、実際に提供されているコンテンツは、Adobe Flash Player上で動作するスライドと音声の組み合わせである。


文献
Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ), 2012, Methods for Benefit and
Harm Assessment in Systematic Reviews, Agency for Healthcare Research and Quality.
――, 2015, Inclusion Criteria, Agency for Healthcare Research and Quality.
(http://www.guideline.gov/about/inclusion-criteria.aspx, 2015年12月2日取得.)
DECIDE, 2015, Evidence to Decision (EtD) Frameworks: Guidance.
(https://s3.amazonaws.com/ietd_pdf/EtD+guidance+updated+2015+05+19.pdf,
2015年12月2日取得.)
福井次矢・山口直人監修,2014,『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』医学書院.
Guyatt, Gordon H. et al., 2011a, “GRADE guidelines: A new series of articles in the Journal of
Clinical Epidemiology,” Journal of Clinical Epidemiology, 64: 380-382.
――, 2011b, “GRADE guidelines: 8. Rating the quality of evidence
――indirectness,”Journal of Clinical Epidemiology, 64: 1303-1310.
畠山洋輔,2015,「Institute of Medicineのレポート(2011)に見る診療ガイドラインの方向性
――新定義と作成・普及・導入・評価」『Minds海外動向調査』.
(http://minds.jcqhc.or.jp/n/12/T0011902,2015年11月24日取得.)
Institute of Medicine (IOM), 2011, Clinical Practice Guidelines
We Can Trust, Washington, DC: National Academy Press.
Minds診療ガイドライン選定部会監修,2007,
『Minds診療ガイドライン作成の手引き2007』医学書院.
National Institute for Health and Care Excellence (NICE),
2012, The Guidelines Manual: Process and
Method Guides, National Institute for Health and Care Excellence.
Schünemann, Holger, et al., 2013, GRADE handbook.
(http://www.guidelinedevelopment.org/handbook/,2015年11月24日取得.)
Treweek, Shaun, et al., 2013,
“Developing and evaluating communication strategies to support
informed decisions and practice based on evidence (DECIDE): protocol and
preliminary results,” Implementation Science, 2013, 8:6.
小島原典子・中山健夫・森實敏夫・山口直人・吉田雅博編,2014,
『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』ver.2.0,公益財団法人日本医療機能評価機構.
(https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/guideline/manual.html,2016年3月15日取得.)



(公開日:2016年8月29日)

レビュアー : 森實敏夫(日本医療機能評価機構)

 



GRADE システムの動向:推奨作成方法を中心に
公益財団法人 日本医療機能評価機構
畠山 洋輔


1.信頼される診療ガイドラインとGRADEシステム
現在、世界的に普及している診療ガイドラインの作成の理念は、2011年にInstitute of Medicine(IOM)が発表したレポート、『Clinical Practice Guidelines We Can Trust』(IOM 2011)の中で示された次の「信頼できる診療ガイドライン」の定義の中に集約されている。
 診療ガイドラインは、患者のケアを最適化することを目的とした推奨を含む文書である。推奨は、エビデンスのシステマティックレビューと、複数の選びうるケアの選択肢についての益と害に関する評価に基づいて作成される。(IOM 2011: 25-26)
本レポートは診療ガイドラインの定義を変更させただけではなく、作成方法に関する大枠の方針を示している1。本レポートを受けて、米国のAgency for Healthcare Research and Quality(AHRQ)が運営する英語で発行された診療ガイドラインのデータベースであるNational Guideline Clearinghouseは診療ガイドライン掲載の選定基準を変更させている2
このような診療ガイドライン作成を具体的に実現するための方法として、世界的に注目されているシステムが「GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システム」である。GRADEシステムは、エビデンスの質と推奨の強さを評価するための、共通で、思慮深く、透明性の高いアプローチであり、国際的な任意のメンバーから構成されるGRADEワーキンググループによって作成され、継続的に改訂され続けている。すでに50以上の組織に採用されているとされ(Guyatt et al. 2011a)、日本でもいくつかのガイドライン作成グループがGRADEシステムを用いた診療ガイドラインの作成を行なっている。
IOMのレポートで提示された信頼される診療ガイドラインの8つの基準の第一番目は「透明性の確立」であるが、GRADEシステムの強みはこの点に一致している。
GRADEの大きなメリットは、判断の再現可能性を保証することではなく、利用者に対して透明であるように、明示的な判断を必要としていることである(Schünemann et al. 2013)。
診療ガイドライン作成は、最大限エビデンスに基づいたとしても、エビデンスの評価、推奨の作成において「判断」を除外することができない。「判断」に対する一律の基準を決めることはできないことではないが、その領域、疾患、場面ごとの特異性を無視することになりかねない。先の引用の通り、GRADEシステムが提案していることは、明示的な判断を要求することによって、作成過程の透明性を確保するための大きな枠組みなのである 。この点で、GRADEシステムで提案される診療ガイドラインのあり方とIOMのレポートで目指されている信頼される診療ガイドラインのあり方とが合致しているのである。


2.GRADEワークショップへの参加
Guidelines International Network会議では、毎年、GRADEシステムに関連した報告、ワークショップが数多く開かれている。そこでは、診療ガイドライン作成の国際的な動向を踏まえて継続的にアップデートされ続けるGRADEの最新の動向について情報を得ることができる。
そこで、本年、GIN会議の会議前ワークショップの中から、GRADEシステムの紹介、とりわけ、エビデンスから推奨作成に至る過程について紹介することを目的としたワークショップ「GRADE and Guideline Development」に参加した。参加の目的は、動的に進化し続けるGRADEシステムの最先端の提案についての情報を収集し、Mindsが提案する診療ガイドライン作成方法との距離を測り、今後の作成方法提案の参考となる示唆を得ることであった。
ワークショップの内容としては、診療ガイドライン作成のためのクリニカルクエスチョン作成、エビデンスの評価方法、推奨作成方法(エビデンスから推奨への枠組み)が中心的に紹介された。ワークショップの形式としては、講義とディスカッションの時間が交互に設けられており、クリニカルクエスチョン作成、エビデンスの評価はペアでのディスカッション、推奨作成ではグループでのディスカッションが行なわれた。


3.推奨の向きと強さを決定する要因
GRADEシステムの手引き(Schünemann et al. 2013)では、推奨の向きと強さを決定する要因として、?望ましいアウトカムと望ましくないアウトカムのバランス、?重要なアウトカムに対する介入の効果の推定値に対する確信度、?価値や好みや多様性に対する確信度、?資源の利用を挙げていた。また、推奨の決定方法としてDECIDE(Developing and Evaluating Communication Strategies to Support Informed Decisions and Practice Based on Evidence)プロジェクトによって開発された「Evidence to Decisions (EtD) Framework」を紹介している。DECIDEは、医療上の決断を行なう主たる利害関係者に対してエビデンスに基づいた推奨を伝達する戦略を開発し、評価することを目的としたプロジェクトである(Treweek et al. 2013: 2)。DECIDEが開発したEtDとして、次の6の領域、11の「基準」、そして基準に対する「判断」の項目 がリストになっており、GRADEの手引きでは以下の内容が提示されている。(表1)。


表1  Evidence to Decisions (EtD) Framework(Schünemann et al. 2013)
領域 基準
問題 優先課題であるか?
選択肢の益と害 得られたエビデンスの横断的な確実性は何か?
どれくらの人々が主要アウトカムを重視するかについて重要な不確実性はあるか?
望ましい効果は大きいか?
望ましくない効果は小さいか?
望ましい効果は望ましくない効果に比して大きいか?
資源の利用 必要となる資源は少ないか?
増分コストは正味の益に比して小さいか?
公平性 健康の不公平性に対する影響はどのようなものか?
受容可能性 主要な利害関係者にとって選択肢は受容可能か?
実行可能性 選択肢は活用に際して実行可能か?


これらの基準に対して、調査から得られたエビデンスと追加的な検討事項をまとめ、判断を記載することで、診療ガイドライン作成グループが診療ガイドラインに記載した特定の推奨の向きと強さにいたる過程を明示することができる。
今回、ワークショップに参加した際に配布された資料では、これらの領域、基準、判断の選択肢が異なっていた。今回提示された領域、基準は表2の通りである5


表2 ワークショップで配布されたEvidence to Decisions (EtD) Framework
領域 基準
問題 問題は優先事項か?
価値 どれくらい人々が主要アウトカムを重視するかについて重要な不確実性もしくは多様性はあるか?
望ましい効果 望ましい効果はどれくらいか?
望ましくない効果 望ましくない効果はどれくらいか?
エビデンスの確実性 効果のエビデンスに対する横断的な確実性はどれか?
効果のバランス 望ましい効果と望ましくない効果のバランスは介入もしくは対照を支持しているか?
必要となる資源 どれくらい大きな資源(コスト)が必要となるか?
必要となる資源に関するエビデンスの確実性 必要となる資源(コスト)に関するエビデンスの確実性はどれか?
費用対効果 介入の費用対効果は介入もしくは対照を支持するか?
公平性 健康の公平性に対して影響があるか?
受容可能性 介入は主要な利害関係者にとって受容可能か?
実行可能性 介入は活用に際して実行可能か?


先のGRADEの手引きで紹介されていたEtDのリストと合わせて見ると、両方で、効果だけではなく、介入の社会的な意義を考慮して推奨を作成する方法を提示している。また、先に示された領域と基準と、今回示された領域と基準との間にはいくつか変化が見受けられるが、必要となる資源(コスト)に関するエビデンスの確実性を問う基準が増えている。英国のNational Institute for Health and Care Excellence (NICE)は、診療ガイドラインの作成マニュアルの中で、経済的なエビデンスのシステマティックレビューの方法を提案し、そのまとめ方を経済的エビデンスプロファイルとして提案している(NICE 2012: appendix K4)。診療ガイドライン作成において、今後はエビデンスの評価だけではなく、介入の費用、コスト等に関する検討が重視されるのではないかと考えられる。


4.益と害のバランスの評価方法
先ワークショップで配布された資料、実習の中で得た情報の中でとりわけ印象的であったのは、推奨作成における益と害のバランスの評価方法であった。
診療ガイドラインの推奨作成においては、エビデンスの強さ(質)だけでなく、患者の価値観・好み、コスト・負担等にあわせて、益と害のバランスが考慮される。AHRQは、16の益と害のバランスの評価方法を示し、それぞれの特性を記述し、得られたデータや状況によって利用できる方法が異なることを指摘している(AHRQ 2012)。
今回のワークショップで示されたGRADEシステムでは、益と害の評価について、次の手順で評価を行っている。システマティックレビューで得られた結果から、「予想される望ましい効果」の大きさ、「予想される望ましくない効果」の大きさを「大きい」「中程度」「小さい」「些細」、そのほか、「多様」「不明」の中から選択する。そして、その両方(望ましい効果と望ましくない効果)の評価の両方を参考にして、バランスに関する評価について、「対照を支持」「おそらく対照を支持」「介入も対照も支持しない」「おそらく介入を支持」「介入を支持」「多様」「不明」の中から選択する。ここでは、定量的に得られた結果を定性的にまとめる方法が示されている。
この際、システマティックレビューで得られた統合値をもって望ましい効果と望ましくない効果の大きさを検討するが、ここの評価には、それぞれの効果の不確実性は含まれていない6。それぞれの効果に対する評価とバランス評価との間でエビデンスの確信度についての評価を行うことになっている。効果の大きさに対する評価と(不)確実性に対する評価を区別しているのである。


5.3つ以上の介入がある場合の推奨作成方法
また、ワークショップ後には、現在、Mindsで行なっている日本の診療ガイドライン作成支援の中でも課題となっている点について、本ワークショップのオーガナイザーに質問した。
その内容の1つ目は、3つ以上の介入がある場合の推奨の作成方法についてである7。オーガナイザーから、現在、GRADEシステムでは、3つ以上の選択肢がある場合の推奨の作成方法について具体的には示していないが、その方法を含めた診療ガイドライン作成方法を提示する次のシリーズの発行を準備している、との示唆を受けた。
その上で、現在作成中の診療ガイドラインで採用されている方法を紹介された。それによると、たとえば、特定のClinical Question(CQ)について3つの介入(A、B、C)がありうる場合、3つの組み合わせ(A vs B、B vs C、A vs C)ごとにシステマティックレビューと推奨作成を行ない、その推奨を総合して推奨とその解説を作成するという方法であった。
特定の臨床状況における推奨を提示する診療ガイドラインにおいて、複数の選択肢がある場合にどれが推奨できるかを提示できることは非常に重要な役割になる。ここで示唆された方法はひとつの重要で利用可能な方法であると考えられる。


6.ガイドラインパネルに対するトレーニング
現在、Mindsでは、診療ガイドライン作成への患者・市民参加について検討を行なっている。その検討の中で、患者・市民が診療ガイドライン作成に参加する際にどのようなトレーニングが必要になるかが議題となっていた。
GRADEシステムにおいても、推奨作成のパネルメンバーとして患者・市民の参加が想定されている。そこで、患者・市民がパネルメンバーとして参加する際に、どのようなトレーニングを行なっているのかを、ワークショップのオーガナイザーに尋ねた。
オーガナイザーからは、パネルメンバーとなる人への教育ツールとして、マクマスター大学臨床疫学教室がGRADEシステムを紹介するプログラム、「GRADE Online Learning Modules」(http://cebgrade.mcmaster.ca/)を用いていると示唆された。ここでは、システマティックレビューの実施方法に関する動画、そして、GRADEを利用したWHOの診療ガイドライン作成方法を紹介する動画が公開されている8
また、参加する患者・市民だけでなく、パネルに参加するすべてのメンバーに動画の閲覧を案内しているということであった。ここで紹介されている動画がパネルメンバー全体の共通の土台となるようにトレーニングが提供されているのである。


7.今後の展望
今回のGRADEワークショップに参加して、GRADEシステムの最新の動向の一端を知ることができた。
益と害のバランスの評価については、いったん不確実性を括弧に入れて、効果の大きさを比較するという方法であった。不確実性については、全体として評価しているものの、個々の効果に関する不確実性を評価するか、評価する場合にはどのように評価するかについては検討される必要があるだろう。
また、3つ以上の介入がある場合の推奨作成方法など、世界的にも明確な方針が確立されていないような多様な診療ガイドライン作成の方法について、今後GRADEシステムがひとつの方法を提示していくであろうことが期待される。その一方で、ひとつの方法が提示された場合には、その方法の妥当性について慎重に吟味し、適用可能性を考慮する必要がある。
今回のワークショップへの参加、そして、GRADEシステムに関する資料を検討する中で、最も印象的であったことは、GRADEシステム自体が次々に改訂、修正を経て、より良い方法に向かって変化を続けているという点であった。現在のところ、GRADEシステム方法論に関する論文は予定されている全体の途中まで発表されている段階であり、GRADEシステムの手引きでは、GRADEの改良や、利用者からのフィードバックにもとづいて改訂されると記載されている(Schünemann et al. 2013)。方法、システムというと、どこか固定的な言葉のように受け取られるが、科学の進歩と同様に、良いものを取り込んで発展的に拡大していく動的な点こそ、GRADEシステムの本来の姿なのではないか。
Mindsは今後も診療ガイドライン作成に関する情報を収集し、日本の診療ガイドライン作成に資する情報をまとめ、公開を行なっていく。Mindsは2007年に診療ガイドライン作成方法を提示していたが(Minds診療ガイドライン選定部会監修 2007)、世界的な動向をまとめ、2014年に新しい版を発表している(山口・吉田編 2014;福井・山口監修 2014)。日本における診療ガイドライン作成の支援を行なうMindsもまた、GRADEシステムにならい、継続的により良い方法を検討し、必要に応じて採用していく動的なプロセスであり続けることが重要である。


1 本レポートの位置づけについては別稿(畠山2015)を参照。
2 提示されている6つの基準の2つ目で、システマティックレビューに基づいていることが挙げられている。基準の詳細はAHRQ(2015)参照。
3 ただし、GRADEシステムは、臨床課題の設定から、システマティックレビュー、推奨作成・提示の過程に関する方法論である。組織化、外部評価、改訂といったその前後に ある過程に関する方法論については積極的な提案がなされていない点には注意が必要である。
4 煩雑になるため、判断の項目についてはここでは記載を省略している。
5 現在、DECIDEプロジェクトの提供するガイダンスでは、これらの項目が挙げられている(DECIDE 2015)。DECIDEプロジェクトも継続的に改訂を続けていることが伺える。
6 報告者は、ワークショップの推奨作成に関する討論の際に、効果指標が信頼区間をまたいでいる(統計的に有意な差がない)ことに触れ、効果の大きさに不確実性があるために、効果の大きさ、バランスの評価が難しいとの発表を行なったが、オーガナイザーからこの段階では不確実性は評価しないと指摘された。
7 複数の選択肢がある場合のエビデンスの評価方法については、GRADEの方法をまとめたシリーズの中で、「非直接性」に関する論文で記載されている(Guyatt et al. 2011b)。また、今回の質疑の中でも、ネットワークメタアナリシスの実行を考慮すべきと指摘された。
8 ここでは簡略化のために動画と記載しているが、実際に提供されているコンテンツは、Adobe Flash Player上で動作するスライドと音声の組み合わせである。


文献
Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ), 2012, Methods for Benefit and
Harm Assessment in Systematic Reviews, Agency for Healthcare Research and Quality.
――, 2015, Inclusion Criteria, Agency for Healthcare Research and Quality.
(http://www.guideline.gov/about/inclusion-criteria.aspx, 2015年12月2日取得.)
DECIDE, 2015, Evidence to Decision (EtD) Frameworks: Guidance.
(https://s3.amazonaws.com/ietd_pdf/EtD+guidance+updated+2015+05+19.pdf,
2015年12月2日取得.)
福井次矢・山口直人監修,2014,『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』医学書院.
Guyatt, Gordon H. et al., 2011a, “GRADE guidelines: A new series of articles in the Journal of
Clinical Epidemiology,” Journal of Clinical Epidemiology, 64: 380-382.
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畠山洋輔,2015,「Institute of Medicineのレポート(2011)に見る診療ガイドラインの方向性
――新定義と作成・普及・導入・評価」『Minds海外動向調査』.
(http://minds.jcqhc.or.jp/n/12/T0011902,2015年11月24日取得.)
Institute of Medicine (IOM), 2011, Clinical Practice Guidelines
We Can Trust, Washington, DC: National Academy Press.
Minds診療ガイドライン選定部会監修,2007,
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National Institute for Health and Care Excellence (NICE),
2012, The Guidelines Manual: Process and
Method Guides, National Institute for Health and Care Excellence.
Schünemann, Holger, et al., 2013, GRADE handbook.
(http://www.guidelinedevelopment.org/handbook/,2015年11月24日取得.)
Treweek, Shaun, et al., 2013,
“Developing and evaluating communication strategies to support
informed decisions and practice based on evidence (DECIDE): protocol and
preliminary results,” Implementation Science, 2013, 8:6.
小島原典子・中山健夫・森實敏夫・山口直人・吉田雅博編,2014,
『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』ver.2.0,公益財団法人日本医療機能評価機構.
(https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/guideline/manual.html,2016年3月15日取得.)



(公開日:2016年8月29日)

レビュアー : 森實敏夫(日本医療機能評価機構)

 



GRADE システムの動向:推奨作成方法を中心に
公益財団法人 日本医療機能評価機構
畠山 洋輔


1.信頼される診療ガイドラインとGRADEシステム
現在、世界的に普及している診療ガイドラインの作成の理念は、2011年にInstitute of Medicine(IOM)が発表したレポート、『Clinical Practice Guidelines We Can Trust』(IOM 2011)の中で示された次の「信頼できる診療ガイドライン」の定義の中に集約されている。
 診療ガイドラインは、患者のケアを最適化することを目的とした推奨を含む文書である。推奨は、エビデンスのシステマティックレビューと、複数の選びうるケアの選択肢についての益と害に関する評価に基づいて作成される。(IOM 2011: 25-26)
本レポートは診療ガイドラインの定義を変更させただけではなく、作成方法に関する大枠の方針を示している1。本レポートを受けて、米国のAgency for Healthcare Research and Quality(AHRQ)が運営する英語で発行された診療ガイドラインのデータベースであるNational Guideline Clearinghouseは診療ガイドライン掲載の選定基準を変更させている2
このような診療ガイドライン作成を具体的に実現するための方法として、世界的に注目されているシステムが「GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システム」である。GRADEシステムは、エビデンスの質と推奨の強さを評価するための、共通で、思慮深く、透明性の高いアプローチであり、国際的な任意のメンバーから構成されるGRADEワーキンググループによって作成され、継続的に改訂され続けている。すでに50以上の組織に採用されているとされ(Guyatt et al. 2011a)、日本でもいくつかのガイドライン作成グループがGRADEシステムを用いた診療ガイドラインの作成を行なっている。
IOMのレポートで提示された信頼される診療ガイドラインの8つの基準の第一番目は「透明性の確立」であるが、GRADEシステムの強みはこの点に一致している。
GRADEの大きなメリットは、判断の再現可能性を保証することではなく、利用者に対して透明であるように、明示的な判断を必要としていることである(Schünemann et al. 2013)。
診療ガイドライン作成は、最大限エビデンスに基づいたとしても、エビデンスの評価、推奨の作成において「判断」を除外することができない。「判断」に対する一律の基準を決めることはできないことではないが、その領域、疾患、場面ごとの特異性を無視することになりかねない。先の引用の通り、GRADEシステムが提案していることは、明示的な判断を要求することによって、作成過程の透明性を確保するための大きな枠組みなのである 。この点で、GRADEシステムで提案される診療ガイドラインのあり方とIOMのレポートで目指されている信頼される診療ガイドラインのあり方とが合致しているのである。


2.GRADEワークショップへの参加
Guidelines International Network会議では、毎年、GRADEシステムに関連した報告、ワークショップが数多く開かれている。そこでは、診療ガイドライン作成の国際的な動向を踏まえて継続的にアップデートされ続けるGRADEの最新の動向について情報を得ることができる。
そこで、本年、GIN会議の会議前ワークショップの中から、GRADEシステムの紹介、とりわけ、エビデンスから推奨作成に至る過程について紹介することを目的としたワークショップ「GRADE and Guideline Development」に参加した。参加の目的は、動的に進化し続けるGRADEシステムの最先端の提案についての情報を収集し、Mindsが提案する診療ガイドライン作成方法との距離を測り、今後の作成方法提案の参考となる示唆を得ることであった。
ワークショップの内容としては、診療ガイドライン作成のためのクリニカルクエスチョン作成、エビデンスの評価方法、推奨作成方法(エビデンスから推奨への枠組み)が中心的に紹介された。ワークショップの形式としては、講義とディスカッションの時間が交互に設けられており、クリニカルクエスチョン作成、エビデンスの評価はペアでのディスカッション、推奨作成ではグループでのディスカッションが行なわれた。


3.推奨の向きと強さを決定する要因
GRADEシステムの手引き(Schünemann et al. 2013)では、推奨の向きと強さを決定する要因として、?望ましいアウトカムと望ましくないアウトカムのバランス、?重要なアウトカムに対する介入の効果の推定値に対する確信度、?価値や好みや多様性に対する確信度、?資源の利用を挙げていた。また、推奨の決定方法としてDECIDE(Developing and Evaluating Communication Strategies to Support Informed Decisions and Practice Based on Evidence)プロジェクトによって開発された「Evidence to Decisions (EtD) Framework」を紹介している。DECIDEは、医療上の決断を行なう主たる利害関係者に対してエビデンスに基づいた推奨を伝達する戦略を開発し、評価することを目的としたプロジェクトである(Treweek et al. 2013: 2)。DECIDEが開発したEtDとして、次の6の領域、11の「基準」、そして基準に対する「判断」の項目 がリストになっており、GRADEの手引きでは以下の内容が提示されている。(表1)。


表1  Evidence to Decisions (EtD) Framework(Schünemann et al. 2013)
領域 基準
問題 優先課題であるか?
選択肢の益と害 得られたエビデンスの横断的な確実性は何か?
どれくらの人々が主要アウトカムを重視するかについて重要な不確実性はあるか?
望ましい効果は大きいか?
望ましくない効果は小さいか?
望ましい効果は望ましくない効果に比して大きいか?
資源の利用 必要となる資源は少ないか?
増分コストは正味の益に比して小さいか?
公平性 健康の不公平性に対する影響はどのようなものか?
受容可能性 主要な利害関係者にとって選択肢は受容可能か?
実行可能性 選択肢は活用に際して実行可能か?


これらの基準に対して、調査から得られたエビデンスと追加的な検討事項をまとめ、判断を記載することで、診療ガイドライン作成グループが診療ガイドラインに記載した特定の推奨の向きと強さにいたる過程を明示することができる。
今回、ワークショップに参加した際に配布された資料では、これらの領域、基準、判断の選択肢が異なっていた。今回提示された領域、基準は表2の通りである5


表2 ワークショップで配布されたEvidence to Decisions (EtD) Framework
領域 基準
問題 問題は優先事項か?
価値 どれくらい人々が主要アウトカムを重視するかについて重要な不確実性もしくは多様性はあるか?
望ましい効果 望ましい効果はどれくらいか?
望ましくない効果 望ましくない効果はどれくらいか?
エビデンスの確実性 効果のエビデンスに対する横断的な確実性はどれか?
効果のバランス 望ましい効果と望ましくない効果のバランスは介入もしくは対照を支持しているか?
必要となる資源 どれくらい大きな資源(コスト)が必要となるか?
必要となる資源に関するエビデンスの確実性 必要となる資源(コスト)に関するエビデンスの確実性はどれか?
費用対効果 介入の費用対効果は介入もしくは対照を支持するか?
公平性 健康の公平性に対して影響があるか?
受容可能性 介入は主要な利害関係者にとって受容可能か?
実行可能性 介入は活用に際して実行可能か?


先のGRADEの手引きで紹介されていたEtDのリストと合わせて見ると、両方で、効果だけではなく、介入の社会的な意義を考慮して推奨を作成する方法を提示している。また、先に示された領域と基準と、今回示された領域と基準との間にはいくつか変化が見受けられるが、必要となる資源(コスト)に関するエビデンスの確実性を問う基準が増えている。英国のNational Institute for Health and Care Excellence (NICE)は、診療ガイドラインの作成マニュアルの中で、経済的なエビデンスのシステマティックレビューの方法を提案し、そのまとめ方を経済的エビデンスプロファイルとして提案している(NICE 2012: appendix K4)。診療ガイドライン作成において、今後はエビデンスの評価だけではなく、介入の費用、コスト等に関する検討が重視されるのではないかと考えられる。


4.益と害のバランスの評価方法
先ワークショップで配布された資料、実習の中で得た情報の中でとりわけ印象的であったのは、推奨作成における益と害のバランスの評価方法であった。
診療ガイドラインの推奨作成においては、エビデンスの強さ(質)だけでなく、患者の価値観・好み、コスト・負担等にあわせて、益と害のバランスが考慮される。AHRQは、16の益と害のバランスの評価方法を示し、それぞれの特性を記述し、得られたデータや状況によって利用できる方法が異なることを指摘している(AHRQ 2012)。
今回のワークショップで示されたGRADEシステムでは、益と害の評価について、次の手順で評価を行っている。システマティックレビューで得られた結果から、「予想される望ましい効果」の大きさ、「予想される望ましくない効果」の大きさを「大きい」「中程度」「小さい」「些細」、そのほか、「多様」「不明」の中から選択する。そして、その両方(望ましい効果と望ましくない効果)の評価の両方を参考にして、バランスに関する評価について、「対照を支持」「おそらく対照を支持」「介入も対照も支持しない」「おそらく介入を支持」「介入を支持」「多様」「不明」の中から選択する。ここでは、定量的に得られた結果を定性的にまとめる方法が示されている。
この際、システマティックレビューで得られた統合値をもって望ましい効果と望ましくない効果の大きさを検討するが、ここの評価には、それぞれの効果の不確実性は含まれていない6。それぞれの効果に対する評価とバランス評価との間でエビデンスの確信度についての評価を行うことになっている。効果の大きさに対する評価と(不)確実性に対する評価を区別しているのである。


5.3つ以上の介入がある場合の推奨作成方法
また、ワークショップ後には、現在、Mindsで行なっている日本の診療ガイドライン作成支援の中でも課題となっている点について、本ワークショップのオーガナイザーに質問した。
その内容の1つ目は、3つ以上の介入がある場合の推奨の作成方法についてである7。オーガナイザーから、現在、GRADEシステムでは、3つ以上の選択肢がある場合の推奨の作成方法について具体的には示していないが、その方法を含めた診療ガイドライン作成方法を提示する次のシリーズの発行を準備している、との示唆を受けた。
その上で、現在作成中の診療ガイドラインで採用されている方法を紹介された。それによると、たとえば、特定のClinical Question(CQ)について3つの介入(A、B、C)がありうる場合、3つの組み合わせ(A vs B、B vs C、A vs C)ごとにシステマティックレビューと推奨作成を行ない、その推奨を総合して推奨とその解説を作成するという方法であった。
特定の臨床状況における推奨を提示する診療ガイドラインにおいて、複数の選択肢がある場合にどれが推奨できるかを提示できることは非常に重要な役割になる。ここで示唆された方法はひとつの重要で利用可能な方法であると考えられる。


6.ガイドラインパネルに対するトレーニング
現在、Mindsでは、診療ガイドライン作成への患者・市民参加について検討を行なっている。その検討の中で、患者・市民が診療ガイドライン作成に参加する際にどのようなトレーニングが必要になるかが議題となっていた。
GRADEシステムにおいても、推奨作成のパネルメンバーとして患者・市民の参加が想定されている。そこで、患者・市民がパネルメンバーとして参加する際に、どのようなトレーニングを行なっているのかを、ワークショップのオーガナイザーに尋ねた。
オーガナイザーからは、パネルメンバーとなる人への教育ツールとして、マクマスター大学臨床疫学教室がGRADEシステムを紹介するプログラム、「GRADE Online Learning Modules」(http://cebgrade.mcmaster.ca/)を用いていると示唆された。ここでは、システマティックレビューの実施方法に関する動画、そして、GRADEを利用したWHOの診療ガイドライン作成方法を紹介する動画が公開されている8
また、参加する患者・市民だけでなく、パネルに参加するすべてのメンバーに動画の閲覧を案内しているということであった。ここで紹介されている動画がパネルメンバー全体の共通の土台となるようにトレーニングが提供されているのである。


7.今後の展望
今回のGRADEワークショップに参加して、GRADEシステムの最新の動向の一端を知ることができた。
益と害のバランスの評価については、いったん不確実性を括弧に入れて、効果の大きさを比較するという方法であった。不確実性については、全体として評価しているものの、個々の効果に関する不確実性を評価するか、評価する場合にはどのように評価するかについては検討される必要があるだろう。
また、3つ以上の介入がある場合の推奨作成方法など、世界的にも明確な方針が確立されていないような多様な診療ガイドライン作成の方法について、今後GRADEシステムがひとつの方法を提示していくであろうことが期待される。その一方で、ひとつの方法が提示された場合には、その方法の妥当性について慎重に吟味し、適用可能性を考慮する必要がある。
今回のワークショップへの参加、そして、GRADEシステムに関する資料を検討する中で、最も印象的であったことは、GRADEシステム自体が次々に改訂、修正を経て、より良い方法に向かって変化を続けているという点であった。現在のところ、GRADEシステム方法論に関する論文は予定されている全体の途中まで発表されている段階であり、GRADEシステムの手引きでは、GRADEの改良や、利用者からのフィードバックにもとづいて改訂されると記載されている(Schünemann et al. 2013)。方法、システムというと、どこか固定的な言葉のように受け取られるが、科学の進歩と同様に、良いものを取り込んで発展的に拡大していく動的な点こそ、GRADEシステムの本来の姿なのではないか。
Mindsは今後も診療ガイドライン作成に関する情報を収集し、日本の診療ガイドライン作成に資する情報をまとめ、公開を行なっていく。Mindsは2007年に診療ガイドライン作成方法を提示していたが(Minds診療ガイドライン選定部会監修 2007)、世界的な動向をまとめ、2014年に新しい版を発表している(山口・吉田編 2014;福井・山口監修 2014)。日本における診療ガイドライン作成の支援を行なうMindsもまた、GRADEシステムにならい、継続的により良い方法を検討し、必要に応じて採用していく動的なプロセスであり続けることが重要である。


1 本レポートの位置づけについては別稿(畠山2015)を参照。
2 提示されている6つの基準の2つ目で、システマティックレビューに基づいていることが挙げられている。基準の詳細はAHRQ(2015)参照。
3 ただし、GRADEシステムは、臨床課題の設定から、システマティックレビュー、推奨作成・提示の過程に関する方法論である。組織化、外部評価、改訂といったその前後に ある過程に関する方法論については積極的な提案がなされていない点には注意が必要である。
4 煩雑になるため、判断の項目についてはここでは記載を省略している。
5 現在、DECIDEプロジェクトの提供するガイダンスでは、これらの項目が挙げられている(DECIDE 2015)。DECIDEプロジェクトも継続的に改訂を続けていることが伺える。
6 報告者は、ワークショップの推奨作成に関する討論の際に、効果指標が信頼区間をまたいでいる(統計的に有意な差がない)ことに触れ、効果の大きさに不確実性があるために、効果の大きさ、バランスの評価が難しいとの発表を行なったが、オーガナイザーからこの段階では不確実性は評価しないと指摘された。
7 複数の選択肢がある場合のエビデンスの評価方法については、GRADEの方法をまとめたシリーズの中で、「非直接性」に関する論文で記載されている(Guyatt et al. 2011b)。また、今回の質疑の中でも、ネットワークメタアナリシスの実行を考慮すべきと指摘された。
8 ここでは簡略化のために動画と記載しているが、実際に提供されているコンテンツは、Adobe Flash Player上で動作するスライドと音声の組み合わせである。


文献
Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ), 2012, Methods for Benefit and
Harm Assessment in Systematic Reviews, Agency for Healthcare Research and Quality.
――, 2015, Inclusion Criteria, Agency for Healthcare Research and Quality.
(http://www.guideline.gov/about/inclusion-criteria.aspx, 2015年12月2日取得.)
DECIDE, 2015, Evidence to Decision (EtD) Frameworks: Guidance.
(https://s3.amazonaws.com/ietd_pdf/EtD+guidance+updated+2015+05+19.pdf,
2015年12月2日取得.)
福井次矢・山口直人監修,2014,『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』医学書院.
Guyatt, Gordon H. et al., 2011a, “GRADE guidelines: A new series of articles in the Journal of
Clinical Epidemiology,” Journal of Clinical Epidemiology, 64: 380-382.
――, 2011b, “GRADE guidelines: 8. Rating the quality of evidence
――indirectness,”Journal of Clinical Epidemiology, 64: 1303-1310.
畠山洋輔,2015,「Institute of Medicineのレポート(2011)に見る診療ガイドラインの方向性
――新定義と作成・普及・導入・評価」『Minds海外動向調査』.
(http://minds.jcqhc.or.jp/n/12/T0011902,2015年11月24日取得.)
Institute of Medicine (IOM), 2011, Clinical Practice Guidelines
We Can Trust, Washington, DC: National Academy Press.
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2012, The Guidelines Manual: Process and
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(http://www.guidelinedevelopment.org/handbook/,2015年11月24日取得.)
Treweek, Shaun, et al., 2013,
“Developing and evaluating communication strategies to support
informed decisions and practice based on evidence (DECIDE): protocol and
preliminary results,” Implementation Science, 2013, 8:6.
小島原典子・中山健夫・森實敏夫・山口直人・吉田雅博編,2014,
『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』ver.2.0,公益財団法人日本医療機能評価機構.
(https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/guideline/manual.html,2016年3月15日取得.)



(公開日:2016年8月29日)

レビュアー : 森實敏夫(日本医療機能評価機構)

 

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