海外で開発された診療ガイドライン作成支援システム
CPG DEVELOPMENT PORTALの紹介
CPG DEVELOPMENT PORTALの紹介
公益財団法人 日本医療機能評価機構 客員研究員 佐藤康仁 |
1.はじめに
2.診療ガイドライン作成におけるICT活用のメリット
3.CPG DEVELOPMENT PORTALの概要
4.本システムの機能
4-1.文書編集機能
4-2.文書管理機能
4-3.用語集作成機能
4-4.コミュニケーション機能
4-5.情報共有機能
4-6.ユーザ管理機能
4-7.投票機能
4-8.ログ取得機能
5.本システムの利点
6.本システムの評価
7.おわりに
8.関連文献
診療ガイドラインの作成は、複数の人がかかわり、複雑な工程を経るため、非常に多くの時間や費用がかかる。この診療ガイドラインの作成にICT(Information and Communication Technology)を活用することにより、作成にかかる時間や費用の軽減、作業のシンプル化などが期待できると考える。Web上での診療ガイドライン作成支援システムには、GRADE Working Groupが提供するGRADEpro、ドイツTMF(Technology, Methods and Infrastructure for Networked Medical Research)が提供するCPG DEVELOPMENT PORTALなどがある。本稿ではCPG DEVELOPMENT PORTALについて、システムの概要とその評価を報告する。
2.診療ガイドライン作成におけるICT活用のメリット
診療ガイドラインの作成をWebサイト上で実施することのメリットには、以下の点が考えられる。まずは、時間の節約である。ガイドライン作成には多数の人が関与する。そのため、従来の会議ベースでのガイドライン作成を行うとなると、会議自体にかかる時間、会議に参加するための移動時間がかかることになる。ICT化を実施することで、これらの時間を節約することが可能になる。また、ガイドライン作成を管理する側も、会議室の手配や会議の連絡調整などの時間を削減することが可能となる。
次に、費用の節約がある。ガイドライン作成にかかわる人は通常全国に散らばっているため、会議を開催する場合は、交通費だけでも大きな費用が発生する。ICT化を実施することで、これらの費用の多くを節約することが可能になる。
続いて、作業のシンプル化を上げることができる。ガイドライン作成においては、様々な文書を作成することになるが、これをWebサイト上で実施することで、いつでも、文書にアクセスして文書作成作業ができることになる。ガイドライン作成を管理する側も、様々な文書を一元的に管理でき、文書のバージョン管理も容易になるため、作業のシンプル化が可能になる。
最後に作成過程の透明化が期待される。Webサイト上のガイドライン作成では、システム内に準備されたコミュニケーション機能によりディスカッションが可能になる。またコミュニケーションのログを取ることが簡単にできるため、どのようにガイドラインが作成されたか、その過程を残すことができる。これらの方法を経ることで、透明性の高いガイドラインを作成することができる。
次に、費用の節約がある。ガイドライン作成にかかわる人は通常全国に散らばっているため、会議を開催する場合は、交通費だけでも大きな費用が発生する。ICT化を実施することで、これらの費用の多くを節約することが可能になる。
続いて、作業のシンプル化を上げることができる。ガイドライン作成においては、様々な文書を作成することになるが、これをWebサイト上で実施することで、いつでも、文書にアクセスして文書作成作業ができることになる。ガイドライン作成を管理する側も、様々な文書を一元的に管理でき、文書のバージョン管理も容易になるため、作業のシンプル化が可能になる。
最後に作成過程の透明化が期待される。Webサイト上のガイドライン作成では、システム内に準備されたコミュニケーション機能によりディスカッションが可能になる。またコミュニケーションのログを取ることが簡単にできるため、どのようにガイドラインが作成されたか、その過程を残すことができる。これらの方法を経ることで、透明性の高いガイドラインを作成することができる。
3.CPG DEVELOPMENT PORTALの概要
CPG DEVELOPMENT PORTAL(http://www.cpg-development.com/、図1)は、診療ガイドラインの作成をWebベースで支援するシステムである。本システムは、2009年にリリースされている。使用言語はドイツ語と英語であり、本システムを開発したドイツを中心にヨーロッパにおける国際的なガイドライン作成にも使用されている。本システムはパソコンでの利用を想定しており、モバイル端末には対応していない。
本システムを開発したのは、ドイツTMF(Technology, Methods and Infrastructure for Networked Medical Research)である。ドイツTMFは1999年にドイツ教育省主導で作られた組織であるが、現在はNGO(Non-Governmental Organization, 非政府組織)であり、NPO(Not-for -Profit Organization, 非営利団体)となっている。ドイツTMFは、ドイツ教育省とは現在でも人的交流を行っている。ドイツTMFは、ドイツおよびヨーロッパにおける医学研究を支援する総合的プラットフォームを提供することを目的としている。具体的には、医学研究におけるソフトウェアの開発・提供や、法的・倫理的ガイドラインの作成などを行っている。
本システムを開発したのは、ドイツTMF(Technology, Methods and Infrastructure for Networked Medical Research)である。ドイツTMFは1999年にドイツ教育省主導で作られた組織であるが、現在はNGO(Non-Governmental Organization, 非政府組織)であり、NPO(Not-for -Profit Organization, 非営利団体)となっている。ドイツTMFは、ドイツ教育省とは現在でも人的交流を行っている。ドイツTMFは、ドイツおよびヨーロッパにおける医学研究を支援する総合的プラットフォームを提供することを目的としている。具体的には、医学研究におけるソフトウェアの開発・提供や、法的・倫理的ガイドラインの作成などを行っている。
図1 CPG DEVELOPMENT PORTALトップページ
4.本システムの機能
本システムの主機能は文書編集機能と文書管理機能である(図2)。また、用語集作成機能が実装されている。これらに加えて、ガイドライン作成をスムーズに実施するための、コミュニケーション機能、情報共有機能、投票機能が本システムには組み込まれている。また、システム利用の権限を制御するユーザ管理機能、ガイドライン作成の経過を記録するログ取得機能が組み込まれている。
図2 コンテンツ編集のトップページ(ログイン後画面)
4-1.文書編集機能
本システムは、既存のコンテンツマネジメントシステムをベースに開発しているため、文書編集に必要な機能は一通りそろっている。フォルダは任意に作成でき、フォルダ名を任意に付けることができるようになっている。また、フォルダを構造化することもできる。ファイルは、任意のファイルをフォルダにアップロードおよびダウンロードすることができる。文書編集機能では、ワーキングエリアに直接テキストを入力することができ、複数人で編集することができるようになっている。(図3)。文書はバージョンごとに履歴が保存され、バージョン単位で文書の比較をすることができる。文書を比較した際には、変更のあった部分がハイライトされて表示されるようになっている。
図3 文書編集画面
4-2.文書管理機能
本システムでは、使用するすべての資料と文書のログがシステム内に保存されるようになっている。文書の削除は、その文書の作成者と管理者のみができるようになっている。文献データはデータベースとして保存することが可能であり、EndNote、Reference Manager、テキストファイルに対応している。ガイドラインの最終バージョンは、本サイトからインターネット上に出版ができるようになっている。また、患者バージョン、ショートバージョン、翻訳バージョンのガイドラインも同様に本サイトからインターネット上に出版ができるようになっている。
4-3.用語集作成機能
ガイドライン作成においては、用語の定義を決め、統一をする必要が生じる。本システムでは、Wikiを使用してディスカッションを進めながら用語の定義を決め、用語集を作成することが可能になっている。なお、ディスカッションの過程は保存することが可能になっている。
4-4.コミュニケーション機能
コミュニケーション機能には、フォーラム、Wiki、チャット、メーリングリストが準備されている。フォーラムは、特定のテーマが提示され、これに対して文字ベースのコミュニケーションを行う仕組みである。Wikiは、Webブラウザを用いてWebページの編集を行う仕組みである。チャットは、リアルタイムに文字ベースのコミュニケーションを行う仕組みである。本システムのチャットは、記録ができるようになっている。さらに本システムには、アポイントメント取得機能があり、個人のOutlookなどのスケジュール機能と連動してアポイントメントを取ることが可能となっている。
4-5.情報共有機能
情報共有としては、ガイドライン作成者内でのお知らせ機能、関連文書のリスト、リンク集などが使用できるようになっている。また、フォルダを利用して、関連文書を共有することが可能となっている。
4-6.ユーザ管理機能
ユーザ管理機能は、ユーザ個人にアクセス権限を付与して、編集の範囲を限定している。権限は、10権限が準備されている(ステアリングコミッティ、WG(working group)リーダー、WGメンバー、コンサルタントなど)。権限はガイドライン単位で付与するようになっている。シングルサインオンを採用しており、個人は1つのIDをもち、ガイドライン単位で権限が付与される。つまり、ログインすると、自分が関係する複数のガイドラインが表示されるようになっており、それぞれのガイドラインに対して、与えられた権限で編集に携わることになる。なお、ガイドラインあたりの参加者数の上限は設定されていない。
4-7.投票機能
ガイドライン作成においては、クリニカルクエスチョンの決定や推奨の決定など、合議により決定する機会が多々ある。投票機能(図4)は、サイト上で投票を呼びかけ、投票から集計、レポーティングまでを実施する機能である。投票は、単純な投票、デルファイ法による投票、コンセンサスミーティングにおける投票が可能になっている。質問に対する選択肢は、yes-no回答、単一回答・複数回答、リッカートスケールなどが使用できる。また、オープンクエスチョンでコメントを集めることもできるようになっている。投票期間は2〜4週間を想定しており、投票者はこの期間内であれば投票を変更することが可能になっている。管理者は投票の途中経過が見ることができる。投票結果は集計され、レポートを出力することが可能となっている。
図4 投票実施画面
4-8.ログ取得機能
本システムは、文書作成の経過や、ディスカッションの経過について、ログを取得することが可能になっている。ガイドライン作成者はこのログにアクセスすることができるようになっており、ガイドライン作成過程の透明性を確保している。このログへのアクセスは権限により制限することもできる。また、ログをWord形式で出力することができる。
5.本システムの利点
本システムは、インターネットに接続でき、ブラウザが利用できれば利用可能である(WindowsでもMac OSでもどちらでも利用可能)。ブラウザは、Internet Explorer、Firefox、Safariに対応している。本システムの機能はモジュール化されているので、どの機能を使うかはフレキシブルであり拡張性が高くなっている。そのため、多様なガイドライン作成に対応することができるようになっている。ガイドラインの改訂版を作成する場合は、前バージョンのガイドラインや、前バージョンのガイドライン作成において使用した関連文書、中間作成文書を利用することができる。本システムではこれらにより効率的に改訂版ガイドラインを作成することが可能になっている。
6.本システムの評価
診療ガイドラインの作成には、通常50〜100人の作成者と、2年以上の時間が必要になる。また、診療ガイドラインの作成には、費用が非常に多くかかる。費用の面で特にかかるのが旅費であり、1回に数百万円、ガイドライン作成全体では数千万円程度になる。CPG DEVELOPMENT PORTALに搭載されている、コミュニケーション機能や文書編集機能を用いることで、会議を実施する回数を減らすことができ、時間や費用の軽減を達成できたと報告されている。また、本システムの導入により、ガイドライン作成者のマネジメント、文書の共同作成、作成した文書のバックアップ、エビデンス評価やコンセンサス形成における意思統一において、効率的に実施することができたと報告されている。さらに、本システムではガイドライン作成過程のログを残すことができることから、ガイドライン作成過程のモニタリングや監査に使用できたと報告されている。
CPG DEVELOPMENT PORTALにより作成されたガイドラインは、2010年までの段階で6ガイドラインあった。この内、消化器系疾患の2ガイドラインが出版されている。また、5ガイドラインが作成中と報告されている。2011年以降、本システムに関する報告は見当たらないが、Webサイトはアクティブであり、情報の更新が行われており、本システムは継続的に運用されているものと思われる。
7.おわりに
診療ガイドラインの作成方法は複雑であり、人、時間、費用などのリソースが多くかかる。Web上の診療ガイドライン作成支援システムを活用することで、効率的にガイドライン作成を進めることができるとともに、ガイドライン作成の透明性を確保することができることが明らかとなった。今後、Web上の診療ガイドライン作成支援システムの活用は、世界的に広がって行くものと考えられる。
8.関連文献
CPG DEVELOPMENT PORTALのサイトトップページ
http://www.cpg-development.com/
CPG DEVELOPMENT PORTALのパンフレット
http://www.cpg-development.com/hilfe/Brochure_CPG-Development-Portal.pdf
ドイツTMFのトップページ
http://www.tmf-ev.de/EnglishSite/Home.aspx
本システムに関する学術文献
W.J. Hohne, T. Karge, B. Siegmund, J. Preiss, J.C. Hoffmann, M. Zeitz, and U.R. Folsch. An Internet Portal for the Development of Clinical Practice Guidelines. Appl Clin Inform. 2010; 1(4): 430-441. doi: 10.4338/ACI-2010-04-RA-0027
出版されたガイドライン
Hoffmann JC, Preiss JC, Autschbach F, Buhr HJ, Hauser W, Herrlinger K, Hohne W, Koletzko S, Krieglstein CF, Kruis W, Matthes H, Moser G, Reinshagen M, Rogler G, Schreiber S, Schreyer AG, Sido B, Siegmund B, Stallmach A, Bokemeyer B, Stange EF, Zeitz M. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of Crohn's disease. [Article in German] Z Gastroenterol. 2008 Sep;46(9):1094-146. doi: 10.1055/s-2008-1027796. Epub 2008 Sep 22.
Fischbach W, Malfertheiner P, Hoffmann JC, Bolten W, Bornschein J, Gotze O, Hohne W, Kist M, Koletzko S, Labenz J, Layer P, Miehlke S, Morgner A, Peitz U, Preiss J, Prinz C, Rosien U, Schmidt W, Schwarzer A, Suerbaum S, Timmer A, Treiber G, Vieth M; German society for hygiene and microbiology; German society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V; German society for rheumatology. S3-guideline "helicobacter pylori and gastroduodenal ulcer disease" of the German society for digestive and metabolic diseases (DGVS) in cooperation with the German society for hygiene and microbiology, society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V., German society for rheumatology, AWMF-registration-no. 021 / 001. Z Gastroenterol. 2009 Dec;47(12):1230-63. doi: 10.1055/s-0028-1109855. Epub 2009 Dec 3.
http://www.cpg-development.com/
CPG DEVELOPMENT PORTALのパンフレット
http://www.cpg-development.com/hilfe/Brochure_CPG-Development-Portal.pdf
ドイツTMFのトップページ
http://www.tmf-ev.de/EnglishSite/Home.aspx
本システムに関する学術文献
W.J. Hohne, T. Karge, B. Siegmund, J. Preiss, J.C. Hoffmann, M. Zeitz, and U.R. Folsch. An Internet Portal for the Development of Clinical Practice Guidelines. Appl Clin Inform. 2010; 1(4): 430-441. doi: 10.4338/ACI-2010-04-RA-0027
出版されたガイドライン
Hoffmann JC, Preiss JC, Autschbach F, Buhr HJ, Hauser W, Herrlinger K, Hohne W, Koletzko S, Krieglstein CF, Kruis W, Matthes H, Moser G, Reinshagen M, Rogler G, Schreiber S, Schreyer AG, Sido B, Siegmund B, Stallmach A, Bokemeyer B, Stange EF, Zeitz M. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of Crohn's disease. [Article in German] Z Gastroenterol. 2008 Sep;46(9):1094-146. doi: 10.1055/s-2008-1027796. Epub 2008 Sep 22.
Fischbach W, Malfertheiner P, Hoffmann JC, Bolten W, Bornschein J, Gotze O, Hohne W, Kist M, Koletzko S, Labenz J, Layer P, Miehlke S, Morgner A, Peitz U, Preiss J, Prinz C, Rosien U, Schmidt W, Schwarzer A, Suerbaum S, Timmer A, Treiber G, Vieth M; German society for hygiene and microbiology; German society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V; German society for rheumatology. S3-guideline "helicobacter pylori and gastroduodenal ulcer disease" of the German society for digestive and metabolic diseases (DGVS) in cooperation with the German society for hygiene and microbiology, society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V., German society for rheumatology, AWMF-registration-no. 021 / 001. Z Gastroenterol. 2009 Dec;47(12):1230-63. doi: 10.1055/s-0028-1109855. Epub 2009 Dec 3.
(公開日:2015年11月2日)
海外で開発された診療ガイドライン作成支援システム
CPG DEVELOPMENT PORTALの紹介
CPG DEVELOPMENT PORTALの紹介
公益財団法人 日本医療機能評価機構 客員研究員 佐藤康仁 |
1.はじめに
2.診療ガイドライン作成におけるICT活用のメリット
3.CPG DEVELOPMENT PORTALの概要
4.本システムの機能
4-1.文書編集機能
4-2.文書管理機能
4-3.用語集作成機能
4-4.コミュニケーション機能
4-5.情報共有機能
4-6.ユーザ管理機能
4-7.投票機能
4-8.ログ取得機能
5.本システムの利点
6.本システムの評価
7.おわりに
8.関連文献
診療ガイドラインの作成は、複数の人がかかわり、複雑な工程を経るため、非常に多くの時間や費用がかかる。この診療ガイドラインの作成にICT(Information and Communication Technology)を活用することにより、作成にかかる時間や費用の軽減、作業のシンプル化などが期待できると考える。Web上での診療ガイドライン作成支援システムには、GRADE Working Groupが提供するGRADEpro、ドイツTMF(Technology, Methods and Infrastructure for Networked Medical Research)が提供するCPG DEVELOPMENT PORTALなどがある。本稿ではCPG DEVELOPMENT PORTALについて、システムの概要とその評価を報告する。
2.診療ガイドライン作成におけるICT活用のメリット
診療ガイドラインの作成をWebサイト上で実施することのメリットには、以下の点が考えられる。まずは、時間の節約である。ガイドライン作成には多数の人が関与する。そのため、従来の会議ベースでのガイドライン作成を行うとなると、会議自体にかかる時間、会議に参加するための移動時間がかかることになる。ICT化を実施することで、これらの時間を節約することが可能になる。また、ガイドライン作成を管理する側も、会議室の手配や会議の連絡調整などの時間を削減することが可能となる。
次に、費用の節約がある。ガイドライン作成にかかわる人は通常全国に散らばっているため、会議を開催する場合は、交通費だけでも大きな費用が発生する。ICT化を実施することで、これらの費用の多くを節約することが可能になる。
続いて、作業のシンプル化を上げることができる。ガイドライン作成においては、様々な文書を作成することになるが、これをWebサイト上で実施することで、いつでも、文書にアクセスして文書作成作業ができることになる。ガイドライン作成を管理する側も、様々な文書を一元的に管理でき、文書のバージョン管理も容易になるため、作業のシンプル化が可能になる。
最後に作成過程の透明化が期待される。Webサイト上のガイドライン作成では、システム内に準備されたコミュニケーション機能によりディスカッションが可能になる。またコミュニケーションのログを取ることが簡単にできるため、どのようにガイドラインが作成されたか、その過程を残すことができる。これらの方法を経ることで、透明性の高いガイドラインを作成することができる。
次に、費用の節約がある。ガイドライン作成にかかわる人は通常全国に散らばっているため、会議を開催する場合は、交通費だけでも大きな費用が発生する。ICT化を実施することで、これらの費用の多くを節約することが可能になる。
続いて、作業のシンプル化を上げることができる。ガイドライン作成においては、様々な文書を作成することになるが、これをWebサイト上で実施することで、いつでも、文書にアクセスして文書作成作業ができることになる。ガイドライン作成を管理する側も、様々な文書を一元的に管理でき、文書のバージョン管理も容易になるため、作業のシンプル化が可能になる。
最後に作成過程の透明化が期待される。Webサイト上のガイドライン作成では、システム内に準備されたコミュニケーション機能によりディスカッションが可能になる。またコミュニケーションのログを取ることが簡単にできるため、どのようにガイドラインが作成されたか、その過程を残すことができる。これらの方法を経ることで、透明性の高いガイドラインを作成することができる。
3.CPG DEVELOPMENT PORTALの概要
CPG DEVELOPMENT PORTAL(http://www.cpg-development.com/、図1)は、診療ガイドラインの作成をWebベースで支援するシステムである。本システムは、2009年にリリースされている。使用言語はドイツ語と英語であり、本システムを開発したドイツを中心にヨーロッパにおける国際的なガイドライン作成にも使用されている。本システムはパソコンでの利用を想定しており、モバイル端末には対応していない。
本システムを開発したのは、ドイツTMF(Technology, Methods and Infrastructure for Networked Medical Research)である。ドイツTMFは1999年にドイツ教育省主導で作られた組織であるが、現在はNGO(Non-Governmental Organization, 非政府組織)であり、NPO(Not-for -Profit Organization, 非営利団体)となっている。ドイツTMFは、ドイツ教育省とは現在でも人的交流を行っている。ドイツTMFは、ドイツおよびヨーロッパにおける医学研究を支援する総合的プラットフォームを提供することを目的としている。具体的には、医学研究におけるソフトウェアの開発・提供や、法的・倫理的ガイドラインの作成などを行っている。
本システムを開発したのは、ドイツTMF(Technology, Methods and Infrastructure for Networked Medical Research)である。ドイツTMFは1999年にドイツ教育省主導で作られた組織であるが、現在はNGO(Non-Governmental Organization, 非政府組織)であり、NPO(Not-for -Profit Organization, 非営利団体)となっている。ドイツTMFは、ドイツ教育省とは現在でも人的交流を行っている。ドイツTMFは、ドイツおよびヨーロッパにおける医学研究を支援する総合的プラットフォームを提供することを目的としている。具体的には、医学研究におけるソフトウェアの開発・提供や、法的・倫理的ガイドラインの作成などを行っている。
図1 CPG DEVELOPMENT PORTALトップページ
4.本システムの機能
本システムの主機能は文書編集機能と文書管理機能である(図2)。また、用語集作成機能が実装されている。これらに加えて、ガイドライン作成をスムーズに実施するための、コミュニケーション機能、情報共有機能、投票機能が本システムには組み込まれている。また、システム利用の権限を制御するユーザ管理機能、ガイドライン作成の経過を記録するログ取得機能が組み込まれている。
図2 コンテンツ編集のトップページ(ログイン後画面)
4-1.文書編集機能
本システムは、既存のコンテンツマネジメントシステムをベースに開発しているため、文書編集に必要な機能は一通りそろっている。フォルダは任意に作成でき、フォルダ名を任意に付けることができるようになっている。また、フォルダを構造化することもできる。ファイルは、任意のファイルをフォルダにアップロードおよびダウンロードすることができる。文書編集機能では、ワーキングエリアに直接テキストを入力することができ、複数人で編集することができるようになっている。(図3)。文書はバージョンごとに履歴が保存され、バージョン単位で文書の比較をすることができる。文書を比較した際には、変更のあった部分がハイライトされて表示されるようになっている。
図3 文書編集画面
4-2.文書管理機能
本システムでは、使用するすべての資料と文書のログがシステム内に保存されるようになっている。文書の削除は、その文書の作成者と管理者のみができるようになっている。文献データはデータベースとして保存することが可能であり、EndNote、Reference Manager、テキストファイルに対応している。ガイドラインの最終バージョンは、本サイトからインターネット上に出版ができるようになっている。また、患者バージョン、ショートバージョン、翻訳バージョンのガイドラインも同様に本サイトからインターネット上に出版ができるようになっている。
4-3.用語集作成機能
ガイドライン作成においては、用語の定義を決め、統一をする必要が生じる。本システムでは、Wikiを使用してディスカッションを進めながら用語の定義を決め、用語集を作成することが可能になっている。なお、ディスカッションの過程は保存することが可能になっている。
4-4.コミュニケーション機能
コミュニケーション機能には、フォーラム、Wiki、チャット、メーリングリストが準備されている。フォーラムは、特定のテーマが提示され、これに対して文字ベースのコミュニケーションを行う仕組みである。Wikiは、Webブラウザを用いてWebページの編集を行う仕組みである。チャットは、リアルタイムに文字ベースのコミュニケーションを行う仕組みである。本システムのチャットは、記録ができるようになっている。さらに本システムには、アポイントメント取得機能があり、個人のOutlookなどのスケジュール機能と連動してアポイントメントを取ることが可能となっている。
4-5.情報共有機能
情報共有としては、ガイドライン作成者内でのお知らせ機能、関連文書のリスト、リンク集などが使用できるようになっている。また、フォルダを利用して、関連文書を共有することが可能となっている。
4-6.ユーザ管理機能
ユーザ管理機能は、ユーザ個人にアクセス権限を付与して、編集の範囲を限定している。権限は、10権限が準備されている(ステアリングコミッティ、WG(working group)リーダー、WGメンバー、コンサルタントなど)。権限はガイドライン単位で付与するようになっている。シングルサインオンを採用しており、個人は1つのIDをもち、ガイドライン単位で権限が付与される。つまり、ログインすると、自分が関係する複数のガイドラインが表示されるようになっており、それぞれのガイドラインに対して、与えられた権限で編集に携わることになる。なお、ガイドラインあたりの参加者数の上限は設定されていない。
4-7.投票機能
ガイドライン作成においては、クリニカルクエスチョンの決定や推奨の決定など、合議により決定する機会が多々ある。投票機能(図4)は、サイト上で投票を呼びかけ、投票から集計、レポーティングまでを実施する機能である。投票は、単純な投票、デルファイ法による投票、コンセンサスミーティングにおける投票が可能になっている。質問に対する選択肢は、yes-no回答、単一回答・複数回答、リッカートスケールなどが使用できる。また、オープンクエスチョンでコメントを集めることもできるようになっている。投票期間は2〜4週間を想定しており、投票者はこの期間内であれば投票を変更することが可能になっている。管理者は投票の途中経過が見ることができる。投票結果は集計され、レポートを出力することが可能となっている。
図4 投票実施画面
4-8.ログ取得機能
本システムは、文書作成の経過や、ディスカッションの経過について、ログを取得することが可能になっている。ガイドライン作成者はこのログにアクセスすることができるようになっており、ガイドライン作成過程の透明性を確保している。このログへのアクセスは権限により制限することもできる。また、ログをWord形式で出力することができる。
5.本システムの利点
本システムは、インターネットに接続でき、ブラウザが利用できれば利用可能である(WindowsでもMac OSでもどちらでも利用可能)。ブラウザは、Internet Explorer、Firefox、Safariに対応している。本システムの機能はモジュール化されているので、どの機能を使うかはフレキシブルであり拡張性が高くなっている。そのため、多様なガイドライン作成に対応することができるようになっている。ガイドラインの改訂版を作成する場合は、前バージョンのガイドラインや、前バージョンのガイドライン作成において使用した関連文書、中間作成文書を利用することができる。本システムではこれらにより効率的に改訂版ガイドラインを作成することが可能になっている。
6.本システムの評価
診療ガイドラインの作成には、通常50〜100人の作成者と、2年以上の時間が必要になる。また、診療ガイドラインの作成には、費用が非常に多くかかる。費用の面で特にかかるのが旅費であり、1回に数百万円、ガイドライン作成全体では数千万円程度になる。CPG DEVELOPMENT PORTALに搭載されている、コミュニケーション機能や文書編集機能を用いることで、会議を実施する回数を減らすことができ、時間や費用の軽減を達成できたと報告されている。また、本システムの導入により、ガイドライン作成者のマネジメント、文書の共同作成、作成した文書のバックアップ、エビデンス評価やコンセンサス形成における意思統一において、効率的に実施することができたと報告されている。さらに、本システムではガイドライン作成過程のログを残すことができることから、ガイドライン作成過程のモニタリングや監査に使用できたと報告されている。
CPG DEVELOPMENT PORTALにより作成されたガイドラインは、2010年までの段階で6ガイドラインあった。この内、消化器系疾患の2ガイドラインが出版されている。また、5ガイドラインが作成中と報告されている。2011年以降、本システムに関する報告は見当たらないが、Webサイトはアクティブであり、情報の更新が行われており、本システムは継続的に運用されているものと思われる。
7.おわりに
診療ガイドラインの作成方法は複雑であり、人、時間、費用などのリソースが多くかかる。Web上の診療ガイドライン作成支援システムを活用することで、効率的にガイドライン作成を進めることができるとともに、ガイドライン作成の透明性を確保することができることが明らかとなった。今後、Web上の診療ガイドライン作成支援システムの活用は、世界的に広がって行くものと考えられる。
8.関連文献
CPG DEVELOPMENT PORTALのサイトトップページ
http://www.cpg-development.com/
CPG DEVELOPMENT PORTALのパンフレット
http://www.cpg-development.com/hilfe/Brochure_CPG-Development-Portal.pdf
ドイツTMFのトップページ
http://www.tmf-ev.de/EnglishSite/Home.aspx
本システムに関する学術文献
W.J. Hohne, T. Karge, B. Siegmund, J. Preiss, J.C. Hoffmann, M. Zeitz, and U.R. Folsch. An Internet Portal for the Development of Clinical Practice Guidelines. Appl Clin Inform. 2010; 1(4): 430-441. doi: 10.4338/ACI-2010-04-RA-0027
出版されたガイドライン
Hoffmann JC, Preiss JC, Autschbach F, Buhr HJ, Hauser W, Herrlinger K, Hohne W, Koletzko S, Krieglstein CF, Kruis W, Matthes H, Moser G, Reinshagen M, Rogler G, Schreiber S, Schreyer AG, Sido B, Siegmund B, Stallmach A, Bokemeyer B, Stange EF, Zeitz M. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of Crohn's disease. [Article in German] Z Gastroenterol. 2008 Sep;46(9):1094-146. doi: 10.1055/s-2008-1027796. Epub 2008 Sep 22.
Fischbach W, Malfertheiner P, Hoffmann JC, Bolten W, Bornschein J, Gotze O, Hohne W, Kist M, Koletzko S, Labenz J, Layer P, Miehlke S, Morgner A, Peitz U, Preiss J, Prinz C, Rosien U, Schmidt W, Schwarzer A, Suerbaum S, Timmer A, Treiber G, Vieth M; German society for hygiene and microbiology; German society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V; German society for rheumatology. S3-guideline "helicobacter pylori and gastroduodenal ulcer disease" of the German society for digestive and metabolic diseases (DGVS) in cooperation with the German society for hygiene and microbiology, society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V., German society for rheumatology, AWMF-registration-no. 021 / 001. Z Gastroenterol. 2009 Dec;47(12):1230-63. doi: 10.1055/s-0028-1109855. Epub 2009 Dec 3.
http://www.cpg-development.com/
CPG DEVELOPMENT PORTALのパンフレット
http://www.cpg-development.com/hilfe/Brochure_CPG-Development-Portal.pdf
ドイツTMFのトップページ
http://www.tmf-ev.de/EnglishSite/Home.aspx
本システムに関する学術文献
W.J. Hohne, T. Karge, B. Siegmund, J. Preiss, J.C. Hoffmann, M. Zeitz, and U.R. Folsch. An Internet Portal for the Development of Clinical Practice Guidelines. Appl Clin Inform. 2010; 1(4): 430-441. doi: 10.4338/ACI-2010-04-RA-0027
出版されたガイドライン
Hoffmann JC, Preiss JC, Autschbach F, Buhr HJ, Hauser W, Herrlinger K, Hohne W, Koletzko S, Krieglstein CF, Kruis W, Matthes H, Moser G, Reinshagen M, Rogler G, Schreiber S, Schreyer AG, Sido B, Siegmund B, Stallmach A, Bokemeyer B, Stange EF, Zeitz M. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of Crohn's disease. [Article in German] Z Gastroenterol. 2008 Sep;46(9):1094-146. doi: 10.1055/s-2008-1027796. Epub 2008 Sep 22.
Fischbach W, Malfertheiner P, Hoffmann JC, Bolten W, Bornschein J, Gotze O, Hohne W, Kist M, Koletzko S, Labenz J, Layer P, Miehlke S, Morgner A, Peitz U, Preiss J, Prinz C, Rosien U, Schmidt W, Schwarzer A, Suerbaum S, Timmer A, Treiber G, Vieth M; German society for hygiene and microbiology; German society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V; German society for rheumatology. S3-guideline "helicobacter pylori and gastroduodenal ulcer disease" of the German society for digestive and metabolic diseases (DGVS) in cooperation with the German society for hygiene and microbiology, society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V., German society for rheumatology, AWMF-registration-no. 021 / 001. Z Gastroenterol. 2009 Dec;47(12):1230-63. doi: 10.1055/s-0028-1109855. Epub 2009 Dec 3.
(公開日:2015年11月2日)
海外で開発された診療ガイドライン作成支援システム
CPG DEVELOPMENT PORTALの紹介
CPG DEVELOPMENT PORTALの紹介
公益財団法人 日本医療機能評価機構 客員研究員 佐藤康仁 |
1.はじめに
2.診療ガイドライン作成におけるICT活用のメリット
3.CPG DEVELOPMENT PORTALの概要
4.本システムの機能
4-1.文書編集機能
4-2.文書管理機能
4-3.用語集作成機能
4-4.コミュニケーション機能
4-5.情報共有機能
4-6.ユーザ管理機能
4-7.投票機能
4-8.ログ取得機能
5.本システムの利点
6.本システムの評価
7.おわりに
8.関連文献
診療ガイドラインの作成は、複数の人がかかわり、複雑な工程を経るため、非常に多くの時間や費用がかかる。この診療ガイドラインの作成にICT(Information and Communication Technology)を活用することにより、作成にかかる時間や費用の軽減、作業のシンプル化などが期待できると考える。Web上での診療ガイドライン作成支援システムには、GRADE Working Groupが提供するGRADEpro、ドイツTMF(Technology, Methods and Infrastructure for Networked Medical Research)が提供するCPG DEVELOPMENT PORTALなどがある。本稿ではCPG DEVELOPMENT PORTALについて、システムの概要とその評価を報告する。
2.診療ガイドライン作成におけるICT活用のメリット
診療ガイドラインの作成をWebサイト上で実施することのメリットには、以下の点が考えられる。まずは、時間の節約である。ガイドライン作成には多数の人が関与する。そのため、従来の会議ベースでのガイドライン作成を行うとなると、会議自体にかかる時間、会議に参加するための移動時間がかかることになる。ICT化を実施することで、これらの時間を節約することが可能になる。また、ガイドライン作成を管理する側も、会議室の手配や会議の連絡調整などの時間を削減することが可能となる。
次に、費用の節約がある。ガイドライン作成にかかわる人は通常全国に散らばっているため、会議を開催する場合は、交通費だけでも大きな費用が発生する。ICT化を実施することで、これらの費用の多くを節約することが可能になる。
続いて、作業のシンプル化を上げることができる。ガイドライン作成においては、様々な文書を作成することになるが、これをWebサイト上で実施することで、いつでも、文書にアクセスして文書作成作業ができることになる。ガイドライン作成を管理する側も、様々な文書を一元的に管理でき、文書のバージョン管理も容易になるため、作業のシンプル化が可能になる。
最後に作成過程の透明化が期待される。Webサイト上のガイドライン作成では、システム内に準備されたコミュニケーション機能によりディスカッションが可能になる。またコミュニケーションのログを取ることが簡単にできるため、どのようにガイドラインが作成されたか、その過程を残すことができる。これらの方法を経ることで、透明性の高いガイドラインを作成することができる。
次に、費用の節約がある。ガイドライン作成にかかわる人は通常全国に散らばっているため、会議を開催する場合は、交通費だけでも大きな費用が発生する。ICT化を実施することで、これらの費用の多くを節約することが可能になる。
続いて、作業のシンプル化を上げることができる。ガイドライン作成においては、様々な文書を作成することになるが、これをWebサイト上で実施することで、いつでも、文書にアクセスして文書作成作業ができることになる。ガイドライン作成を管理する側も、様々な文書を一元的に管理でき、文書のバージョン管理も容易になるため、作業のシンプル化が可能になる。
最後に作成過程の透明化が期待される。Webサイト上のガイドライン作成では、システム内に準備されたコミュニケーション機能によりディスカッションが可能になる。またコミュニケーションのログを取ることが簡単にできるため、どのようにガイドラインが作成されたか、その過程を残すことができる。これらの方法を経ることで、透明性の高いガイドラインを作成することができる。
3.CPG DEVELOPMENT PORTALの概要
CPG DEVELOPMENT PORTAL(http://www.cpg-development.com/、図1)は、診療ガイドラインの作成をWebベースで支援するシステムである。本システムは、2009年にリリースされている。使用言語はドイツ語と英語であり、本システムを開発したドイツを中心にヨーロッパにおける国際的なガイドライン作成にも使用されている。本システムはパソコンでの利用を想定しており、モバイル端末には対応していない。
本システムを開発したのは、ドイツTMF(Technology, Methods and Infrastructure for Networked Medical Research)である。ドイツTMFは1999年にドイツ教育省主導で作られた組織であるが、現在はNGO(Non-Governmental Organization, 非政府組織)であり、NPO(Not-for -Profit Organization, 非営利団体)となっている。ドイツTMFは、ドイツ教育省とは現在でも人的交流を行っている。ドイツTMFは、ドイツおよびヨーロッパにおける医学研究を支援する総合的プラットフォームを提供することを目的としている。具体的には、医学研究におけるソフトウェアの開発・提供や、法的・倫理的ガイドラインの作成などを行っている。
本システムを開発したのは、ドイツTMF(Technology, Methods and Infrastructure for Networked Medical Research)である。ドイツTMFは1999年にドイツ教育省主導で作られた組織であるが、現在はNGO(Non-Governmental Organization, 非政府組織)であり、NPO(Not-for -Profit Organization, 非営利団体)となっている。ドイツTMFは、ドイツ教育省とは現在でも人的交流を行っている。ドイツTMFは、ドイツおよびヨーロッパにおける医学研究を支援する総合的プラットフォームを提供することを目的としている。具体的には、医学研究におけるソフトウェアの開発・提供や、法的・倫理的ガイドラインの作成などを行っている。
図1 CPG DEVELOPMENT PORTALトップページ
4.本システムの機能
本システムの主機能は文書編集機能と文書管理機能である(図2)。また、用語集作成機能が実装されている。これらに加えて、ガイドライン作成をスムーズに実施するための、コミュニケーション機能、情報共有機能、投票機能が本システムには組み込まれている。また、システム利用の権限を制御するユーザ管理機能、ガイドライン作成の経過を記録するログ取得機能が組み込まれている。
図2 コンテンツ編集のトップページ(ログイン後画面)
4-1.文書編集機能
本システムは、既存のコンテンツマネジメントシステムをベースに開発しているため、文書編集に必要な機能は一通りそろっている。フォルダは任意に作成でき、フォルダ名を任意に付けることができるようになっている。また、フォルダを構造化することもできる。ファイルは、任意のファイルをフォルダにアップロードおよびダウンロードすることができる。文書編集機能では、ワーキングエリアに直接テキストを入力することができ、複数人で編集することができるようになっている。(図3)。文書はバージョンごとに履歴が保存され、バージョン単位で文書の比較をすることができる。文書を比較した際には、変更のあった部分がハイライトされて表示されるようになっている。
図3 文書編集画面
4-2.文書管理機能
本システムでは、使用するすべての資料と文書のログがシステム内に保存されるようになっている。文書の削除は、その文書の作成者と管理者のみができるようになっている。文献データはデータベースとして保存することが可能であり、EndNote、Reference Manager、テキストファイルに対応している。ガイドラインの最終バージョンは、本サイトからインターネット上に出版ができるようになっている。また、患者バージョン、ショートバージョン、翻訳バージョンのガイドラインも同様に本サイトからインターネット上に出版ができるようになっている。
4-3.用語集作成機能
ガイドライン作成においては、用語の定義を決め、統一をする必要が生じる。本システムでは、Wikiを使用してディスカッションを進めながら用語の定義を決め、用語集を作成することが可能になっている。なお、ディスカッションの過程は保存することが可能になっている。
4-4.コミュニケーション機能
コミュニケーション機能には、フォーラム、Wiki、チャット、メーリングリストが準備されている。フォーラムは、特定のテーマが提示され、これに対して文字ベースのコミュニケーションを行う仕組みである。Wikiは、Webブラウザを用いてWebページの編集を行う仕組みである。チャットは、リアルタイムに文字ベースのコミュニケーションを行う仕組みである。本システムのチャットは、記録ができるようになっている。さらに本システムには、アポイントメント取得機能があり、個人のOutlookなどのスケジュール機能と連動してアポイントメントを取ることが可能となっている。
4-5.情報共有機能
情報共有としては、ガイドライン作成者内でのお知らせ機能、関連文書のリスト、リンク集などが使用できるようになっている。また、フォルダを利用して、関連文書を共有することが可能となっている。
4-6.ユーザ管理機能
ユーザ管理機能は、ユーザ個人にアクセス権限を付与して、編集の範囲を限定している。権限は、10権限が準備されている(ステアリングコミッティ、WG(working group)リーダー、WGメンバー、コンサルタントなど)。権限はガイドライン単位で付与するようになっている。シングルサインオンを採用しており、個人は1つのIDをもち、ガイドライン単位で権限が付与される。つまり、ログインすると、自分が関係する複数のガイドラインが表示されるようになっており、それぞれのガイドラインに対して、与えられた権限で編集に携わることになる。なお、ガイドラインあたりの参加者数の上限は設定されていない。
4-7.投票機能
ガイドライン作成においては、クリニカルクエスチョンの決定や推奨の決定など、合議により決定する機会が多々ある。投票機能(図4)は、サイト上で投票を呼びかけ、投票から集計、レポーティングまでを実施する機能である。投票は、単純な投票、デルファイ法による投票、コンセンサスミーティングにおける投票が可能になっている。質問に対する選択肢は、yes-no回答、単一回答・複数回答、リッカートスケールなどが使用できる。また、オープンクエスチョンでコメントを集めることもできるようになっている。投票期間は2〜4週間を想定しており、投票者はこの期間内であれば投票を変更することが可能になっている。管理者は投票の途中経過が見ることができる。投票結果は集計され、レポートを出力することが可能となっている。
図4 投票実施画面
4-8.ログ取得機能
本システムは、文書作成の経過や、ディスカッションの経過について、ログを取得することが可能になっている。ガイドライン作成者はこのログにアクセスすることができるようになっており、ガイドライン作成過程の透明性を確保している。このログへのアクセスは権限により制限することもできる。また、ログをWord形式で出力することができる。
5.本システムの利点
本システムは、インターネットに接続でき、ブラウザが利用できれば利用可能である(WindowsでもMac OSでもどちらでも利用可能)。ブラウザは、Internet Explorer、Firefox、Safariに対応している。本システムの機能はモジュール化されているので、どの機能を使うかはフレキシブルであり拡張性が高くなっている。そのため、多様なガイドライン作成に対応することができるようになっている。ガイドラインの改訂版を作成する場合は、前バージョンのガイドラインや、前バージョンのガイドライン作成において使用した関連文書、中間作成文書を利用することができる。本システムではこれらにより効率的に改訂版ガイドラインを作成することが可能になっている。
6.本システムの評価
診療ガイドラインの作成には、通常50〜100人の作成者と、2年以上の時間が必要になる。また、診療ガイドラインの作成には、費用が非常に多くかかる。費用の面で特にかかるのが旅費であり、1回に数百万円、ガイドライン作成全体では数千万円程度になる。CPG DEVELOPMENT PORTALに搭載されている、コミュニケーション機能や文書編集機能を用いることで、会議を実施する回数を減らすことができ、時間や費用の軽減を達成できたと報告されている。また、本システムの導入により、ガイドライン作成者のマネジメント、文書の共同作成、作成した文書のバックアップ、エビデンス評価やコンセンサス形成における意思統一において、効率的に実施することができたと報告されている。さらに、本システムではガイドライン作成過程のログを残すことができることから、ガイドライン作成過程のモニタリングや監査に使用できたと報告されている。
CPG DEVELOPMENT PORTALにより作成されたガイドラインは、2010年までの段階で6ガイドラインあった。この内、消化器系疾患の2ガイドラインが出版されている。また、5ガイドラインが作成中と報告されている。2011年以降、本システムに関する報告は見当たらないが、Webサイトはアクティブであり、情報の更新が行われており、本システムは継続的に運用されているものと思われる。
7.おわりに
診療ガイドラインの作成方法は複雑であり、人、時間、費用などのリソースが多くかかる。Web上の診療ガイドライン作成支援システムを活用することで、効率的にガイドライン作成を進めることができるとともに、ガイドライン作成の透明性を確保することができることが明らかとなった。今後、Web上の診療ガイドライン作成支援システムの活用は、世界的に広がって行くものと考えられる。
8.関連文献
CPG DEVELOPMENT PORTALのサイトトップページ
http://www.cpg-development.com/
CPG DEVELOPMENT PORTALのパンフレット
http://www.cpg-development.com/hilfe/Brochure_CPG-Development-Portal.pdf
ドイツTMFのトップページ
http://www.tmf-ev.de/EnglishSite/Home.aspx
本システムに関する学術文献
W.J. Hohne, T. Karge, B. Siegmund, J. Preiss, J.C. Hoffmann, M. Zeitz, and U.R. Folsch. An Internet Portal for the Development of Clinical Practice Guidelines. Appl Clin Inform. 2010; 1(4): 430-441. doi: 10.4338/ACI-2010-04-RA-0027
出版されたガイドライン
Hoffmann JC, Preiss JC, Autschbach F, Buhr HJ, Hauser W, Herrlinger K, Hohne W, Koletzko S, Krieglstein CF, Kruis W, Matthes H, Moser G, Reinshagen M, Rogler G, Schreiber S, Schreyer AG, Sido B, Siegmund B, Stallmach A, Bokemeyer B, Stange EF, Zeitz M. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of Crohn's disease. [Article in German] Z Gastroenterol. 2008 Sep;46(9):1094-146. doi: 10.1055/s-2008-1027796. Epub 2008 Sep 22.
Fischbach W, Malfertheiner P, Hoffmann JC, Bolten W, Bornschein J, Gotze O, Hohne W, Kist M, Koletzko S, Labenz J, Layer P, Miehlke S, Morgner A, Peitz U, Preiss J, Prinz C, Rosien U, Schmidt W, Schwarzer A, Suerbaum S, Timmer A, Treiber G, Vieth M; German society for hygiene and microbiology; German society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V; German society for rheumatology. S3-guideline "helicobacter pylori and gastroduodenal ulcer disease" of the German society for digestive and metabolic diseases (DGVS) in cooperation with the German society for hygiene and microbiology, society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V., German society for rheumatology, AWMF-registration-no. 021 / 001. Z Gastroenterol. 2009 Dec;47(12):1230-63. doi: 10.1055/s-0028-1109855. Epub 2009 Dec 3.
http://www.cpg-development.com/
CPG DEVELOPMENT PORTALのパンフレット
http://www.cpg-development.com/hilfe/Brochure_CPG-Development-Portal.pdf
ドイツTMFのトップページ
http://www.tmf-ev.de/EnglishSite/Home.aspx
本システムに関する学術文献
W.J. Hohne, T. Karge, B. Siegmund, J. Preiss, J.C. Hoffmann, M. Zeitz, and U.R. Folsch. An Internet Portal for the Development of Clinical Practice Guidelines. Appl Clin Inform. 2010; 1(4): 430-441. doi: 10.4338/ACI-2010-04-RA-0027
出版されたガイドライン
Hoffmann JC, Preiss JC, Autschbach F, Buhr HJ, Hauser W, Herrlinger K, Hohne W, Koletzko S, Krieglstein CF, Kruis W, Matthes H, Moser G, Reinshagen M, Rogler G, Schreiber S, Schreyer AG, Sido B, Siegmund B, Stallmach A, Bokemeyer B, Stange EF, Zeitz M. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of Crohn's disease. [Article in German] Z Gastroenterol. 2008 Sep;46(9):1094-146. doi: 10.1055/s-2008-1027796. Epub 2008 Sep 22.
Fischbach W, Malfertheiner P, Hoffmann JC, Bolten W, Bornschein J, Gotze O, Hohne W, Kist M, Koletzko S, Labenz J, Layer P, Miehlke S, Morgner A, Peitz U, Preiss J, Prinz C, Rosien U, Schmidt W, Schwarzer A, Suerbaum S, Timmer A, Treiber G, Vieth M; German society for hygiene and microbiology; German society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V; German society for rheumatology. S3-guideline "helicobacter pylori and gastroduodenal ulcer disease" of the German society for digestive and metabolic diseases (DGVS) in cooperation with the German society for hygiene and microbiology, society for pediatric gastroenterology and nutrition e. V., German society for rheumatology, AWMF-registration-no. 021 / 001. Z Gastroenterol. 2009 Dec;47(12):1230-63. doi: 10.1055/s-0028-1109855. Epub 2009 Dec 3.
(公開日:2015年11月2日)