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脳出血

■厚生科学研究班編/医療・GL(03年)/ガイドライン




1.脳出血の予防
 
【推奨】
1.過度の食塩摂取、肥満、運動不足を解消し、バランスの取れた食事習慣を維持することが脳出血の予防に重要で、多量の飲酒を控えることが推奨される(グレードB)。
2.脳出血の発症および再発予防として、高血圧症に対する降圧薬治療が強く推奨される(グレードA)。
3.低総コレステロール血症を呈している症例には、栄養状態を改善し血清総コレステロール値を正常域に保つことが推奨される(グレードB)。
4.定期的な運動は、脳出血の予防に有効である可能性がある(グレードC1)。
 
【エビデンス】
脳出血は数十年前まで我が国の死因の主要な地位を占めていた。 1960年代、1970年代に開始された40歳以上の一般本邦住民を対象としたコホート研究では、脳出血の発症率は年間千人あたり男性で2.8〜3.1人(1960年代)、1.2〜1.3人(1970年代)、女性では0.6〜1.5人(1960年代)、0.6〜0.7人(1970年代)と著明に減少している1,2,3)(IIb)。 また死亡率が著明に減少したことは前述の通りである。 脳出血の発症の危険因子として幾つかのコホート研究で確立されているものは、年齢、性別を除けば、高血圧、過量飲酒、血清総コレステロール低値である。 また抗血小板薬・抗凝固薬のみならず、その他の薬物(塩酸フェニルプロパノールアミンなど)(註1)による脳出血も知られる。 このうち高血圧、飲酒習慣、血清総コレステロール値には生活習慣が強く関連するため、脳出血を予防する上で生活習慣改善を主とした予防(集団的アプローチ)、高血圧症などの危険因子となる疾病を是正し初発脳出血を予防する発症予防(高リスクアプローチ)、脳出血を一旦発症した患者における脳出血再発を予防する再発予防がある。 以下、各要因ごとに脳出血への関与についてまとめる。

1.高血圧症
高血圧に関しては、正常血圧者に比べ拡張期血圧が95mmHg以上の例では、脳出血の相対危険度が、40〜59歳で9.0倍、60歳以上で3.4倍高まることが報告されている4)(IIb)。 久山町研究で、1961年から追跡調査が開始された集団と1974年から追跡調査が開始された集団を比較した検討では、追跡調査開始時には同等の高血圧を呈した群が、前者では数%程度しか降圧薬治療を受けなかったのに対し、後者では半数近くが降圧薬治療を受けた結果、血圧値が低下するとともに、脳出血発症率が激減した5)(IIb)。 降圧薬治療による介入試験の成績の中で脳出血にはっきり言及しているものにSHEP研究6)とPROGRESS研究7)がある。 60歳以上の収縮期性高血圧4,736例を利尿薬、β遮断薬またはプラセボで4.5年間フォローしたSHEP研究で、脳出血の発症頻度が実薬治療群でほぼ半減しているが、発症数が少ないため有意ではなかった。 しかし、脳卒中、一過性脳虚血発作を過去5年以内に発症した7,121例を対象としたPROGRESS研究では、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(ペリンドプリル)、および利尿薬(インダパミド)による実薬治療群で、プラセボ群に比し脳出血の発症頻度が50%低下した(Ib)。 70〜89歳の高齢者で軽症ないし中等症高血圧患者4,964例に対してアンジオテンシンII受容体拮抗薬であるカンデサルタンの有効性を検討したSCOPE試験では、カンデサルタン投与群で非致死性脳卒中の発症が28%減少することが報告されているが、脳卒中の病型別にみた解析はされておらず、脳出血発症に対する有効性は未だ不明である。

2.飲酒
飲酒と脳出血の関与については、randomized controlled trial(RCT)はないものの、本邦・海外のコホート研究、ケースコントロール研究で多量の飲酒が脳出血の危険因子になることが報告されている。 The Honolulu Heart Programに登録された7,878例を12年間フォローした研究では、脳出血発症頻度は、飲酒量に比例して増大すること8)(IIb)、 脳卒中入院621例と年齢、性別をマッチした573例を比較したケースコントロール研究では、1週間に400g以上飲酒する多量飲酒者では、非飲酒者に比し他の危険因子で補正しても約2倍脳卒中の発症頻度が高いこと9)(IIb)が判明している。 初回脳出血を起こした331例と、社会経済的側面が同一であることまで考慮した対照331例を対比させたケースコントロール研究でも、男性では60g、女性では40g以上のアルコール摂取群において、脳出血のオッズ比は3.4(1.4〜8.4)と大量飲酒者で脳出血例の頻度が高かった10)。 本邦でも久山町研究では、男性ではアルコール摂取量とともに有意に脳出血発症率が増加すること、高血圧患者の多量飲酒者は、非飲酒者に比べ約3倍脳出血の発症率が高いことが報告されている11)(IIb)。 40歳以上の四国在住民1,673例を対象としたコホート研究でも、多量飲酒者からの脳出血発症が有意に多いことが報告されている3)(IIb)。 最近のメタアナリシスによれば、多量飲酒で脳出血のリスクが上がる(1日60g以上で2.18倍)12)(Ia)。

3.コレステロール
血清コレステロール値と脳出血の関連については、本邦、海外のコホート研究で血清コレステロール低値が脳出血の危険因子であることが報告されている。 35〜57歳の男性35万人を6年間および12年間フォローしたMRFIT研究13,14)では、血清コレステロール値が160mg/dL未満の例では、それ以上の例に比べ2〜3倍脳出血による死亡率が高く、また血清コレステロール低値は拡張期血圧90mmHg以上の例でのみ脳出血の危険度を高めていることが報告されている(IIb)。 我が国の四国在住民1,673人3)、秋田農村住民1,814人15)、心血管合併症の既往のない40〜69歳男性1,237人16)を対象としたコホート研究で、血清コレステロールの低値は脳出血の有意な危険因子であることが報告されている(IIb)。 しかし、血清コレステロールを上昇させることにより脳出血を減じ得たという臨床成績はなく、血清コレステロール低値そのものが危険因子というより、血清コレステロール低値に反映される全身の不良な栄養状態が脳出血の危険因子と考えるほうが妥当と思われる。 実際、虚血性心疾患の予防にコレステロール低下作用を有するスタチン系製剤による治療が有効であることが明らかとなっているが、スタチンによる治療でコレステロールが低下しても脳出血の危険性を高める根拠はない17,18)(Ib)。

4.運動
定期的な運動を行うことが、脳出血の危険性を減じることを示唆するコホート研究とケースコントロール研究の成績がある。 米国のPhysician's Health Studyに参加した21,823人を11年間追跡調査したコホート研究では、脳出血が84人発症したが、週に2回以上精力的に運動を行う人では、運動しない人に比べ脳出血の発症頻度は約半分であった19)(IIb)。 またオーストラリアで、331例の脳内出血例と年齢、性別を一致させたコントロール331例を比較検討したケースコントロール研究では、定期的な運動は脳出血の危険度を約50%低下させていることが報告されている20)(III)。 しかしどちらの研究結果でも、血圧、コレステロールなど他の危険因子で補正すると運動の脳出血に対する寄与は有意ではなくなる。

5.食事習慣
食事習慣と脳出血との関連については、50歳から69歳の喫煙男性29,246例を6年間追跡した研究で、βカロチンの摂取は脳出血の危険性を62%増大させていた21)(Ib)。 Framingham研究では心血管疾患を有さない男性832人を20年間追跡し、1日3種類の果物や野菜を取るごとに脳出血の危険性が51%減少することが示された22)(IIb)。

6.ホルモン補充療法
閉経後女性におけるホルモン補充療法が脳出血の頻度を上げるかどうかについての検討では、70,553例の女性を約20年経過観察したNurse's Health Studyの成績が存在する。 エストロゲン0.625mg/日以上の使用により全脳卒中発症率は約1.5倍増加したが、脳出血における差は明らかでなかった23)(IIb)。

7.遺伝子多型
脳出血と遺伝子多型との関連では、アミロイドアンギオパチーを基盤として高齢者に発症する脳葉型出血とApoE遺伝子多型との関連が調べられている。 米国Greater Cincinnati地域住民約125万人を対象とした調査では、1年間に183例の脳出血が発症し、そのうち約4割が脳葉型出血であった24)(IIb)。 1997年から前向き調査を施行し、脳出血連続188症例(うち脳葉型67例)と366例のコントロールを比較したケースコントロール研究では、脳葉型出血にアルコール、脳卒中既往、脳卒中家族歴とならんでApoEε2、またはε4アレルの存在が独立して関与していた25)(IIb)。 さらに脳葉型出血患者71例を2年間前向きに追跡調査した結果では、脳出血再発の危険要因として、脳出血の既往とともにApoEε2またはε4アレルの存在が寄与していることが明らかになった26)(IIb)。
脳出血の既往を有する患者の脳卒中の再発に関しては、約半数が脳出血だが、残り半数が脳梗塞であり、その頻度はともに年間2〜3%であることが本邦から報告されている27,28)(III)。 脳出血の再発予防を考える上では、脳出血のみならず、脳梗塞発症の危険性も同等に高いことを念頭において管理すべきである。

註1: 平成12年、大規模疫学調査の結果、医療用医薬品として総合感冒薬に含有される塩酸フェニルプロパノールアミン(PPA)を女性が食欲抑制薬として服用すると、出血性脳卒中の発生が有意に高いとの結果が得られた。 その後、脳出血などの副作用例4例を含めて、一般用医薬品で5例、医療用医薬品で2例の副作用例が発生した。その多くが、用法・用量の範囲を超えた服用、または禁忌とされる高血圧症例への使用などの不適正使用例であった(いずれも回復または軽快)。 これを受けて厚生労働省は、より安全と考えられる塩酸プソイドエフェドリンまたは硫酸プソイドエフェドリンを含有する医薬品等への速やかな切替え、などの指示を通達している(以上、2003年8月8日付け厚生労働省報道発表資料を改変)。
 
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