ガイドライン

嚥下障害診療ガイドライン−耳鼻咽喉科外来における対応− 2012年版

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書誌情報
CQ11 胃瘻は嚥下障害患者の管理に有用か?
推 奨
長期にわたって代替栄養が必要な場合には,胃瘻による経管栄養が推奨されるが,急性期の代替栄養法として推奨する根拠はない。
【背 景】
現在,代替栄養法としては,中心静脈栄養(IVH),経鼻経管栄養や胃瘻・腸瘻などによる経管栄養が行われている。近年では,胃瘻造設が内視鏡下に比較的簡単に施行できるようになり(経皮的内視鏡下胃瘻造設術:PEG),胃瘻による経管栄養法が選択される傾向にある。
【解 説】
嚥下障害における主な問題点として,栄養摂取障害と嚥下性肺炎が挙げられるが,前者に対しては代替栄養によって対応が可能である。
近年,PEGが選択される傾向にあるが,早期胃瘻造設経管栄養についての見解は分かれている。
Nortonら1)は,急性期脳血管障害の嚥下障害30例において,胃瘻栄養患者16例と経鼻経管栄養患者14例の間でのランダム化比較試験を行い,早期胃瘻栄養群において,6週後における死亡率が12%と経鼻胃管栄養群の57%に比較して明らかに低かったことや,栄養補給,栄養改善,早期退院などの点でも優れていたことから,急性脳血管障害の嚥下障害患者では胃瘻栄養を第一選択とすべきとしている。
一方,Dennisら2)は,脳血管障害による7日以内の入院患者に対し,83施設859例の経鼻経管栄養患者と47施設321例の胃瘻栄養患者におけるランダム化比較試験を行った。その結果,6カ月後の評価で経鼻経管栄養群において胃瘻栄養群より死亡率等が低かったことから,嚥下障害患者に対して,まず初めにPEGを造設することは勧められないと報告している。現実には,脳血管障害などの急性期においては原疾患の管理や治療が中心となるため,点滴もしくはIVH管理によるものが多いと推定される。その後の経過において,嚥下障害が問題視されるようになって,経口摂取の可否,また代替栄養法の選択が問われる。長期にわたり代替栄養が必要と判断される場合には,胃瘻による経管栄養法を推奨する報告が多い(Parkら3))。
しかし胃瘻をはじめ,いずれの栄養法においても管理上の問題点や合併症などにも留意する必要がある4)5)。特に在宅医療においては,患者の介護環境の影響を大きく受けることになる。
経口摂取が可能な状態に回復しているのかどうかの見直しがなされずに,漫然とした代替栄養法が行われることに対する危惧を指摘する意見もある(Dharmarajanら6))。
PEGを含めいずれの代替栄養法においても,唾液誤嚥等による嚥下性肺炎の予防にはなり得ず,常に嚥下性肺炎の危険性を念頭におく必要がある7)
経口摂取の希望は基本的な欲求であり,患者のQOLの点からは単に生命維持のための栄養補給よりは経口摂取に向けた努力が必要である。
【検索式】
#1:deglutition disorders[majr:noexp]
#2:nutrition
#3:tube
#4:#1 AND #2 AND #3
#5:#4 AND 1990[dp]:2005[dp]
#6:#5 AND(English[la] OR Japanese[la])
【参考文献】
1) Norton B, Homer-Ward M, Donnelly MT, et al. A randomised prospective comparison of percutaneous endoscopic gastrostomy and nasogastric tube feeding after acute dysphagic stroke. BMJ 1996;312:13-6.(レベルⅠ)
ランダム化比較試験:急性期脳血管障害の嚥下障害症例における胃瘻栄養患者と経鼻経管栄養患者間でのランダム化比較試験で,胃瘻栄養群では6週後における死亡率が経鼻胃管栄養群に比較して低く,栄養補給,栄養改善,早期退院などの点でも優れており,急性脳血管障害の嚥下障害患者では胃瘻栄養が第一選択である。
2) Dennis MS, Lewis SC, Warlow C. FOOD Trial Collaboration. Effect of timing and method of enteral tube feeding for dysphagic stroke patients(FOOD):a multicentre randomised controlled trial. Lancet 2005;365:764-72.(レベルⅠ)
ランダム化比較試験:脳血管障害による7日以内の入院患者に対し,多施設間で経鼻経管栄養患者と胃瘻栄養患者におけるランダム化比較試験を行った結果,6カ月後の評価で経鼻経管栄養群において胃瘻栄養群より死亡率等が減少していたことから,嚥下障害患者に対して,まず初めにPEGを造設することは勧められない。
3) Park RH, Allison MC, Lang J, et al. Randomised comparison of percutaneous endoscopic gastrostomy and nasogastric tube feeding in patients with persisting neurological dysphagia. BMJ 1992;304:1406-9.(レベルⅠ)
ランダム化比較試験:PEG経管栄養は神経性嚥下障害患者に長期経腸栄養のための安全で効果的な方法であり,経鼻胃管栄養より重要な利点が認められる。
4) van der Merwe WG, Brown RA, Ireland JD, et al. Percutaneous endoscopic gastrostomy in children―a 5-year experience. S Afr Med J 2003;93:781-5.(レベルⅤ)
後ろ向き観察研究:小児PEG施行70例の解析。77%が嚥下障害に対してPEGが施行されている。死亡例はないが,重大な合併症は6%に認められ,17%で胃食道逆流に対する手術を必要とした。
5) Kimber C, Beasley S. Limitations of percutaneous endoscopic gastrostomy in facilitating enteral nutrition in children:review of the shortcomings of a new technique. J Paediatr Child Health 1999;35:427-31.
総説:小児のPEGの合併症として,PEG挿入の際にトロッカーを胃に挿入するができない,食道裂傷,結腸穿頭術,胃-結腸皮膚瘻,腹膜炎,皮下気腫,内部のフランジの外部への移動,創感染,胃前壁の瘡痕,後に胃底ヒダ形成術を必要とする症候的な胃-食道逆流,腸閉塞,出血などがみられたが,これらの多くは回避可能である。
6) Dharmarajan TS, Unnikrishnan D. Tube feeding in the elderly. the technique, complications, and outcome. Postgrad Med 2004;115:51-61.
総説:経管栄養は優れたものであるが,一方で,経管栄養中の患者は合併症や経口摂取に戻せるかなどの評価を受けなければならない。食べる楽しみは人生の喜びの一つであり否定されるべきではない。
7) Sitzmann JV. Nutritional support of the dysphagic patient:methods, risks, and complications of therapy. J Parenter Enteral Nutr 1990;14:60-3.(レベルⅤ)
後ろ向き観察研究:嚥下障害に伴う低栄養状態から入院加療中の患者への治療として,嚥下障害が改善しないうちは上部消化管を利用した栄養摂取方法は勧められない。

 

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