ガイドライン

根拠と総意に基づくカンガルーケア・ガイドライン(完全版)

書誌情報
トピック2:集中治療下にある児に対する一時的な「カンガルーケア」


科学的根拠のまとめ

◆背景◆
日本を含む多くの新生児死亡率の低い国では、ディベロップメンタルケア(早産児・低出生体重児に対し成長発達を助けるために、児の反応に合わせて行うケア。処置や過剰な光刺激・音刺激による外的ストレスを出来る限り減らしながらケアすることも含む)の一環として、集中治療下でのカンガルーケア(skin to skinの抱っこ)が行われてきました。
しかし、集中治療が必要な早産児・低出生体重児にカンガルーケアを行うことが果たして良いのかどうか(集中治療下で早産児・低出生体重児にカンガルーケアを行うことが安全で有効か)、また、ケアの開始時期、継続時間、開始の条件等、一定の見解がないのが現状です1)


◆科学的根拠の詳細◆エビデンステーブル:付属資料参照)
早産児・低出生体重児に対する生後早期のカンガルーケアの安全性と有効性
安定した状態の早産児・低出生体重児に対して、生後早期(48時間以内)にカンガルーケアを行った群と通常のケア(保育器でのケア)群を比較した研究(ランダム化比較試験)3件をまとめて検討した研究(システマティックレビュー)2)により、在胎週数28-37週、出生体重930-2500gの191症例のデータが分析されました。
チェック 安全生後早期にカンガルーケアを行った群と通常のケア群ともに、深刻な有害事象の報告はありませんでした。
チェック 有効3件の研究間で評価指標が異なっていたため、これらの結果をまとめた値は得られませんでした。生後早期にカンガルーケアを行った群が通常のケアを受けた群と比べ死亡のリスクが減るかどうかも、はっきりとした結論は得られませんでした。

カンガルーケアの体温・心拍数・酸素飽和度への影響
生後28日までの低出生体重児・正期産児に対して、カンガルーケアを実施した群と通常のケアを行った群で、児の体温、心拍、酸素飽和度の変化を比較した研究は、これまでに23件ありました(在胎週数26-40週、出生体重779-3396g)。これらをまとめて検討した研究(メタアナリシス)3)により、以下のことがわかりました。
チェック ケア前と比べ、ケア中、ケア後で、体温が緩やかに上昇することがわかりました(ケア中Weighted Mean Difference (WMD):0.22;95%CI:0.18,0.27、ケア後WMD:0.14;95%CI:0.09,0.18)。体重と体温の間には関係性を認めませんでした。また、外気温が低いほど(年平均気温が10度以下)、ケアの保温傾向は強く見られました(WMD:0.18;95%CI:0.13,0.23)。
チェック 心拍ケア前と比べ、ケア中とケア後で変化は認めませんでした。
チェック 酸素飽和ケア前と比べ、ケア中とケア後で、低下することがわかりました(ケア中WMD:-0.60;95%CI:-1.05,-0.15、ケア後WMD:-0.48;95%CI:-0.97,0.02)。

実施時間・開始時期の検討
集中治療下の早産児・低出生体重児に対するカンガルーケアの実施時間・開始時期に関する信頼性の高い科学的根拠は見つかりませんでした。

ケア開始の条件の検討
集中治療下の早産児・低出生体重児に対するカンガルーケアの、ケア開始の条件についての信頼性の高い科学的根拠は見つかりませんでした。


◆科学的根拠のまとめ◆
集中治療下の、状態のまだ安定していない早産児・低出生体重児に対するカンガルーケアの科学的根拠は、信頼性の高いものはありませんでした。
現時点では、状態が安定している早産児・低出生体重児に対する生後早期のカンガルーケアの有効性も充分にわかっていません。
一方、生後28日までの児では、その臨床的な意味は不明ですが、カンガルーケア中あるいはケア後に酸素飽和度が低下するという報告がありました。
この結果から、集中治療下の、状態のまだ安定していない早産児・低出生体重児に対するカンガルーケアは、より一層の安全面での配慮が求められるといえるでしょう。


◆科学的根拠から推奨へ◆
日本を含む多くの新生児死亡率の低い国では、集中治療下であっても、早産児・低出生体重児に対してカンガルーケア(skin to skinの抱っこ)が積極的に行われていますが、このケアに関する科学的根拠は非常に弱い状態です。実施する際は安全面に最大限配慮して行う必要があると考えられます。


引用文献
1) Fundación Canguro. EVIDENCE-BASED CLINICAL PRACTICE GUIDELINES FOR AN OPTIMAL USE OF THE KANGAROOMOTHER METHOD IN PRETERM AND/OR LOW BIRTHWEIGHT INFANT AT BIRTH. BOGOTÁ. 2007.
http://kangaroo.javeriana.edu.co
2) Khanna R. A systematic review on effectiveness of skin-to-skin contact starting immediately after birth in stable low birth weight babies. MSc Public Health in Developing Countries, 2005-06, London School of Hygiene and Tropical Medicine. 2006.
3) Mori R, Khanna R, Pledge D, NakayamaT. A meta-analysis of physiological effectsby skin-to-skin contact for newbornsand mothers. Pediatr Int. 2009. [Epub ahead of print] DOI:10.1111/j.1442-200X.2009.02909.x

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