ガイドライン

根拠と総意に基づくカンガルーケア・ガイドライン(完全版)

書誌情報
トピック1:全身状態が落ち着いた低出生体重児に対する「カンガルーケア」


科学的根拠のまとめ

◆背景◆
カンガルーケアは、1978年に、保育器が不足した南米コロンビアの首都ボゴタで始まり、その後、徐々に世界中に広がりました1)。コロンビアを含む、新生児死亡の高い国々では、カンガルーケアのパッケージ:(1)24時間、いつでもどこでも、継続してカンガルーケアの体勢(母親や父親などの胸の間に立位で肌と肌を直接触れ合わせた体勢での抱っこ)、(2)随時、母乳育児、(3)早期退院し、家庭でもカンガルーケアを継続(食事、家事、就寝時もカンガルーケアを継続)が推進されてきました2)
一方、日本を含む新生児死亡率の低い国々では、低出生体重児は十分成育するまで保育器内で管理され、親と子の肌のふれあい(Skin to skin contact)は、物理的にも時間的にも制限されてきました。このような折、2006年、新生児死亡率が日本と同じくらい低い値であるスウェーデンから、24時間継続して行うカンガルーケアを導入し、母子(家族)関係に良好な効果が得られつつあることが報告され3)、新生児死亡率の高い国、低い国の双方から大きな関心が寄せられています。


◆科学的根拠の詳細◆エビデンステーブル:付属資料参照)
24時間継続して行うカンガルーケアの安全性と有効性
24時間継続して行うカンガルーケアの実施群と既存のケア(保育器・コットでのケア)群を比較した研究(ランダム化比較試験)をまとめて検討しなおした研究(システマティックレビュー)によると、新生児死亡率の高い国から発表された3件の研究の1362人分のデータが分析の対象となりました4)
チェック 安全24時間継続して行うカンガルーケア実施群、既存のケア群とも、深刻な有害事象の報告はみられませんでした。
チェック 有効24時間継続して行うカンガルーケア実施群は、既存のケア群と比べ、院内感染や、肺炎、敗血症などの重症疾患に罹るリスクは低いにもかかわらず、退院時の完全母乳育児の割合や、ケアに対する母親の満足感は高いことが示されました。また、退院時までの体重増加も、24時間継続して行うカンガルーケア実施群のほうが既存のケア群よりも多くみられました。ただし、修正12カ月時の精神運動発達は、両群で差はみられませんでした。また死亡率についても両群で違いはありませんでした。

実施対象の検討
実施対象について比較した信頼性の高い科学的根拠は見つかりませんでした。
ボゴタの科学的根拠に基づいたガイドライン2)では、在胎週数にかかわらず、出生体重が2500g未満の児で、バイタルサイン(体温、呼吸数、脈拍数など)が安定していて、原発性の無呼吸(呼吸中枢の未熟性による無呼吸)がない、または治療済みの場合、24時間継続のカンガルーケアの対象としています。また、これまでの7000例の経験から、体重が2500gになる頃には95%の児がカンガルーケアの体勢を嫌がり、ケアは自然に終了になるとも述べられています2)
スウェーデンの報告3)では、在胎週数32週を超えると多くの児は24時間継続のカンガルーケアの対象となり、軽度の呼吸障害(短期間のCPAP、鼻カニューレからの酸素投与、等)は治療を継続しながらのカンガルーケアが可能とされています。

実施時間の検討
実施時間について比較した信頼性の高い科学的根拠は見つかりませんでした。
WHOのカンガルーケアの手引き1)では、頻回な状況の変化は児にとってストレスが多いことから、1回の実施時間は最短でも60分以上、できればおむつ交換の際以外は中断せずに肌と肌のふれあいの時間を持つことを薦めています。
スウェーデンの報告3)では、日に1-2時間のカンガルーケアでは一日の残りの90-95%の時間、母子を離れ離れにしてしまうと警鐘を鳴らし、哺乳(チューブ、カップを含む)、採血、注射なども、カンガルーケアを継続しながら実施可能としています。


◆科学的根拠のまとめ◆
全身状態がある程度落ち着いた低出生体重児に対して24時間継続して実施するカンガルーケアは、安全性、有効性ともに科学的根拠が認められました。ただしこれらの根拠は新生児死亡率の高い国から報告されたものであり、新生児死亡率の低い国からの報告はあまり信頼性の高い科学的根拠ではありませんでした。


◆科学的根拠から推奨へ◆
全身状態がある程度落ち着いた低出生体重児に対して24時間継続して実施するカンガルーケアは、科学的根拠も認められ、その国の新生児死亡率が高いか低いかを問わず可能な限り実施されることが望まれます。
ただし、我が国で実施する際には、新生児死亡率が低い国からの信頼性の高い科学的根拠の報告も未だないことと、児の状態が完全に落ち着いていないような状況でも行うことが予想されることを踏まえ、安全面への配慮から、酸素飽和度のモニタリングなどに留意する必要があると思われます。


引用文献
1) World Health Organization. Kangaroo mother care A practical guide, Geneva, 2003.
http://www.who.int/making_pregnancy_safer/documents/9241590351/en/index.html
(邦訳:日本ラクテーション・コンサルタント協会.カンガルー・マザー・ケア実践ガイド.2004)
http://www.jalc-net.jp
2) Fundación Canguro. EVIDENCE-BASED CLINICAL PRACTICE GUIDELINES FOR AN OPTIMAL USE OF THE KANGAROO MOTHER METHOD IN PRETERM AND/OR LOW BIRTHWEIGHT INFANT AT BIRTH. BOGOTÁ. 2007.
http://kangaroo.javeriana.edu.co
3) Nyqvist KH. Continuous KMC frombirth in a Swedish Neonatal Unit. The 6th Biannual International Workshop ofthe International Network on Kangaroo Mother Care. 2006.
4) Conde-Agudelo A, Diaz-Rossello JL, Belizan JM. Kangaroo mother care to reduce morbidity and mortality in low birthweight infants. Cochrane Database Syst Rev. 2003;(2):CD002771.

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