ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第6章 人工股関節全置換術(THA)


Research Question 10
寛骨臼骨移植を併用したTHAの治療成績は

推奨
Grade C 臼蓋形成不全に対して,寛骨臼の骨欠損部に適切な被覆範囲での骨移植を併用したTHAの成績は良好である.


解説
寛骨臼の骨欠損部に大腿骨頭からの骨移植を併用したTHAの成績は,移植骨によるソケットの被覆率を限定すれば良好であるとの報告が多い.移植骨の骨癒合率は高く,その一部に骨吸収が生じてもソケットの固定性には影響は少なく,骨量の回復に有効であるとの報告が多い(HF10845HF11065).ただし良好な成績を得るための移植骨によるソケットの被覆率については20〜50%程度までと報告によりばらつきがある(HF11125HF11195HF11065HF10260HF10973HF11815).


サイエンティフィックステートメント
  • 寛骨臼の骨欠損部への大腿骨頭からの自家骨移植は術後に部分的な骨吸収はみられるが,骨癒合率は良好であるという中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 移植骨によるソケットの被覆率が20〜50%であれば,ソケットの長期成績は良好であるという中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 寛骨臼に骨移植を併用したTHAのソケットの弛みに影響する危険因子は,ソケットの外方設置,移植骨の骨梁再構築の遅延であったとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).


エビデンス
  • 寛骨臼に骨移植を併用したセメント使用THAを施行した95例102関節(平均経過観察期間10.2年)の長期成績を評価した.移植骨には大腿骨頭あるいは腸骨を63関節,新鮮凍結骨を33関節に使用した.移植骨によるソケットの被覆率は平均31%であった.移植骨の96%は骨癒合が得られた.術後10.2年で,移植骨の吸収なし51%,吸収軽度38%,中等度11%,高度0%であった.移植骨のソケットに対する被覆率による再置換率に差はなかった(HF10845, EV level-IV).
  • 寛骨臼の骨欠損部に大腿骨頭による骨移植を併用したセメント使用THA 41例45関節(手術時平均年齢46歳)を調査した.ソケットの外方傾斜角は平均40°,移植骨によるソケットの被覆度は平均26%であった.術後1年経過時,移植骨は全例骨癒合が得られた.27関節で移植骨の吸収を認めた(軽度24関節,中等度2関節,高度1関節).骨吸収は術後3年7ヵ月が最大で,それ以降は骨吸収の進行はなかった.多変量解析の結果,骨頭偏位量とソケットの弛みに統計学的に有意な関連を認めた(HF11065, EV level-IV).
  • 臼蓋形成不全による変形性股関節症(股関節症)に対しセメント使用THA 40例47関節の長期成績(平均経過観察期間17.6年)を検討した.ソケットの70%は寛骨臼で被覆を得て,移植骨は大腿骨頭から採取したブロック状の骨をスクリュー固定した.ソケットの生存率(ソケットの再置換をエンドポイント)は10年95%,15年85%,20年78%,ソケット+ステムを含めた生存率(再置換をエンドポイント)は10年90%,15年79%,20年72%であった.ソケットの生存率(X線上の弛みをエンドポイント)は10年94%,15年82%であった.臼蓋形成不全に対するTHAの寛骨臼形成の手段として大腿骨頭をブロック状で骨移植を行う方法は,良好な長期成績が期待できる(HF11125, EV level-IV).
  • 臼蓋形成不全による股関節症に対しソケット上方の骨欠損部に大腿骨頭から採取した移植骨をスクリュー固定しセメント非使用THAを施行した34例36関節のX線学的な長期評価を行った.Lordねじ込み式ソケットを使用し,A群(移植骨によるカップの被覆が20%以上),B群(移植骨による被覆が20%未満)の2群間において比較検討した.A群のほうが有意にソケットの移動量が大きく,弛みをエンドポイントとした10年生存率は,A群40%,B群71%であった.セメント非使用ソケットにおける臼蓋骨移植によるカップ上方荷重部の被覆度は20%以下にとどめるべきである(HF11195, EV level-IV).
  • 臼蓋形成不全あるいは高位脱臼のある股関節症34例39関節に対し,寛骨臼の骨欠損部に大腿骨頭からブロック状骨移植を併用しセメント非使用THAを施行した.移植骨は全例3〜8ヵ月で骨癒合が得られた.明らかな骨吸収は19%に認められた.ソケットの移動量と移植骨によるソケットの被覆率の間に有意な相関を認めた.移植骨によるセメント非使用ソケットの被覆率が50%を超えるとソケットの移動が進行した(HF10260, EV level-IV).
  • 臼蓋形成不全を原因とした股関節症に対して寛骨臼の骨欠損部にブロック状骨移植を併用したセメント使用THAを施行した37関節(Crowe II:16関節,III:17関節,IV:4関節)の成績を評価した.最終経過観察時に全例骨癒合は良好であった.ソケットの弛みはなく,ポリエチレンの摩耗率は平均0.033mm/年であった.寛骨臼の骨移植を併用したTHAは,移植骨によるソケットの被覆が50%を越えず,かつ年齢が48歳以上の症例については良好な長期成績が期待できる(HF10973, EV level-IV).
  • 寛骨臼に骨移植を併用したセメント使用THA 112例133関節(手術時平均年齢53歳,術後平均観察期間12.3年)の長期成績に対する危険因子を検討した.大腿骨頭を移植骨として寛骨臼の骨欠損部にスクリュー固定した.使用したインプラントはoriginal Charnley 51関節,modified Charnley 9関節,Bioceram implant73関節であった.エンドポイントを再置換としたKaplan-Meiersurvivorshipによる生存率はソケット:10年97%,15年96%,ステムは10年99%,15年94%であった.エンドポイントをX線学的弛みとした生存率はソケット:10年83%,15年75%,ステム:10年97%,15年94%であった.CE角が-20°未満では高率に弛みを認めた(p<0.003).ソケットの弛みに対してソケットの外方設置(p=0.015),大転子偽関節(p=0.0002),骨梁再構築の遅延(36ヵ月以上)が有意なリスクファクターであった(HF11815, EV level-IV).


文献

1) HF10845 Lee BP, Cabanela ME, Wallrichs SL, Ilstrup DM. Bone-graft augmentation for acetabular deficiencies in total hip arthroplasty. Results of long-term follow-up evaluation. J Arthroplasty. 1997;12(5):503-10.
2) HF11065 Bobak P, Wroblewski BM, Siney PD, Fleming PA, Hall R. Charnley low-friction arthroplasty with an autograft of the femoral head for developmental dysplasia of the hip. The 10- to 15-year results. J Bone Joint Surg Br. 2000;82(4):508-11.
3) HF11125 de Jong PT, Haverkamp D, van der Vis HM, Marti RK. Total hip replacement with a superolateral bone graft for osteoarthritis secondary to dysplasia: a long-term follow-up. J Bone Joint Surg Br. 2006;88(2):173-8.
4) HF11195 Inoue S, Horii M, Suehara H, Ueshima K, Shiga T, Fujioka M, Takahashi K, Asano T, Kim WC, Nakagawa M, Kubo T. Minimum 10-year radiographic follow-up of a cementless acetabular component for primary total hip arthroplasty with a bulk autograft. J Orthop Sci. 2003;8(5):664-8.
5) HF10260 Hintermann B, Morscher EW. Total hip replacement with solid autologous femoral head graft for hip dysplasia. Arch Orthop Trauma Surg. 1995;114(3):137-44.
6) HF10973 Kobayashi S, Saito N, Nawata M, Horiuchi H, Iorio R, Takaoka K. Total hip arthroplasty with bulk femoral head autograft for acetabular reconstruction in developmental dysplasia of the hip. J Bone Joint Surg Am. 2003;85-A(4):615-21.
7) HF11815 Iida H, Matsusue Y, Kawanabe K, Okumura H, Yamamuro T, Nakamura T. Cemented total hip arthroplasty with acetabular bone graft for developmental dysplasia. Long-term results and survivorship analysis. J Bone Joint Surg Br. 2000;82(2):176-84.


【参照】
第6章 人工股関節全置換術(THA) Research Question 11 高位脱臼に対するTHAの治療成績は
書誌情報