ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第6章 人工股関節全置換術(THA)


Research Question 9
メタルオンメタルTHAの治療成績は

推奨
Grade I メタルオンメタルTHAの中期成績はおおむね良好であるが,長期成績は不明である.


背景
1950年代に開発されたMcKee-Farrar型メタルオンメタルTHAは,one piece型の臼蓋ソケットであり,これは早期に弛みを生じる例があった.そのため,ポリエチレンソケットのTHAが取って代わったが,ポリエチレンの摩耗粉により骨溶解が生じることが明らかとなった.一方,早期の弛みを免れたMcKee-Farrar型THAは骨溶解も起こらず良好な経過を示していた.その経験から,さらに摩擦学的な検討を経た,ポリエチレン介在型のソケットを有するMetasul型THAが1980年代後半に開発された.さらに1990年代に入り,McMinnらはメタルオンメタルの摺動面をもつ表面置換型THAの臨床応用を開始し,短期ではあるが良好な成績が報告された.また,1990年代半ばにポリエチレン介在のないメタルライナータイプのTHAも報告されている.


解説
Metasul型メタルオンメタルTHAの中期成績は良好であり(HF10280HF10894),さらに比較的新しい表面置換型やメタルライナータイプのTHAに関しても良好な短期成績が報告されている(HF11098HF11131).メタルオンメタルTHAの利点としては,ポリエチレンの摩耗粉が生じないこと,低摩耗であること,セラミックのような破損がないなどがあげられる.一方,問題点として,血清コバルト濃度や血清クロム濃度の上昇,発癌性,hypersensitivity,妊婦への影響などがあげられる.血清コバルト濃度や血清クロム濃度の上昇に関しては高いエビデンスの報告が複数ある(HF10978HF10894HF11130).しかし,それらによる発癌性に関してはメタルオンポリエチレンTHAと比較して有意な差は認めなかった(HF11928).
現在のところ,Metasul型や,表面置換型,メタルライナー型の10年以上の長期にわたる成績は不明であり,血清の金属イオン濃度上昇の生体への影響も長期的には不明であることから,推奨GradeをIとしてとどめた.


サイエンティフィックステートメント
  • McKee-Farrar型メタルオンメタルTHAは早期に臼蓋ソケットが弛みを生じる例がある一方,早期の弛みを免れたものは骨溶解も起こらず,良好な経過を示したという中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • ポリエチレン介在型のソケットを有するMetasul型メタルオンメタルTHAにおいても良好な成績があるという中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 表面置換型メタルオンメタルTHAやメタルライナータイプのTHAに関しても良好な短期成績が報告され,若年者で活動的な症例に奨められる中等度のエビデンスがある(EV level-IV).しかし長期での再置換率などは不明であり,長期にわたるエビデンスはない.
  • 血清コバルト濃度や血清クロム濃度の上昇に関しては質の高いエビデンスと中等度のエビデンスが複数ある(EV level-Ib,II).しかしそれらによる発癌性に関してはメタルオンポリエチレンTHAと比較しても有意なのものではないとする中等度のエビデンスがある(EV level-III).


エビデンス
  • 第二世代のメタルオンメタル摺動面をもつ第三世代のZweymüeller-SL THA 266例の短期(平均経過観察期間52ヵ月)の成績は,従来のポリエチレンオンセラミックTHAと同等の満足すべき成績であった.また,メタルオンメタル摺動面は新たな問題や合併症は生じさせなかった(HF10280, EV level-IV).
  • Metasul摺動面を有したセメント非使用THA 89例の平均6年での臨床成績では,インピンジメントが脱臼や成績不良の主な要因であった.血液中のコバルト量高値と,年齢や性別,活動性など有意な相関を示すものはなかった.このことからメタルオンメタルは若くて活動性の高い症例にも使用可能であると考えられる(HF10894, EV level-IV).
  • 384例446関節の表面置換(43関節のMcMinn表面置換型THA,403関節のBirmingham表面置換型THA)の平均経過観察期間3.3年(1.1〜8.2年)の成績を検討した.若年で活動性の高い変形性股関節症に対してメタルオンメタル表面置換型THAは,高い活動レベルの仕事やレジャーが可能で,有効な治療法である(HF11098, EV level-IV).
  • Birmingham表面置換型THAを施行した51例54関節とハイブリッドTHAを施行した53例54関節との比較を行った.Birmingham表面置換型THAの症例はハイブリッドTHAの症例に比べ,活動性が高いにもかかわらず,再置換術にいたる率も低かった(HF11131, EV level-IV).
  • Metasul型メタルオンメタル関節摺動面をもつTHA 50例における術後5年までの血清コバルト値の増加をセラミックオンポリエチレン50例と比較し,評価した.メタルオンメタル関節摺動面をもつTHA症例では,平均血清コバルト濃度が全経過において検出下限値より高値を示していた.また,血清コバルト濃度はメタルオンメタル人工関節における初期摩耗を反映していなかった(HF10978, EV level-Ib).
  • セラミックオンセラミックTHA症例23例,メタルオンメタル(Metasul)THA症例42例と健常人47例の血清イオン濃度(血清クロム,コバルト,チタン,アルミニウム)を比較した.メタルオンメタルでは,血清クロムおよびコバルトが有意に上昇しており,セラミックオンセラミックTHAのほうが,イオンの問題が少なかった(HF11130, EV level-II).
  • フィンランドにおいてメタルオンメタルTHAおよびポリエチレンオンメタルのTHAの発癌性について検討した.一般住民と比較した場合,メタルオンメタルTHA 579例における全癌の標準化罹患比は0.95,ポリエチレンオンメタル1,585例では0.76である.全癌に対するリスクは,ポリエチレンオンメタル群と比較するとメタルオンメタルTHA群では1.23倍高かったが,有意なものではなかった.白血病の発生については,メタルオンメタルTHA群における発生は一般住民と比較して高かった(標準化罹患比は2.31).メタルオンメタルTHAの白血病の発生率はポリエチレンオンメタルの3.77倍であるが,有意差はなかった(HF11928, EV level-III).
  • 1970年代に使用されたMcKee-Farrar型メタルオンメタルTHAをセメント固定した症例のうち追跡可能であった138例164関節を対象とした.そのうち再置換を受けずに,さらに臨床的かつX線学的に評価できた81例100関節を検討した.一方,36例36関節が再置換を受けていた.再置換までの経過は平均6年と短いが,金属症を認めたのは1例のみと非常に少なく,摩耗もわずかであった.McKee-Farrar型THAはそれ以前のインプラントやセメント非使用THAに比較して良い成績であった(HF10253, EV level-IV).
  • McKee-Farrar型THA施行例101例123関節の術後28年までの成績を検討した.20年の生存率は84.4%,28年の生存率は74.4%と高い生存率を示していた(HF10580, EV level-IV).


文献

1) HF10280 Korovessis P, Petsinis G, Repanti M. Zweymueller with metal-on-metal articulation: clinical, radiological and histological analysis of short-term results. Arch Orthop Trauma Surg. 2003;123(1):5-11. Epub 2002 Dec 19.
2) HF10894 Delaunay CP. Metal-on-metal bearings in cementless primary total hip arthroplasty. J Arthroplasty. 2004;19(8 Suppl 3):35-40.
3) HF11098 Daniel J, Pynsent PB, McMinn DJ. Metal-on-metal resurfacing of the hip in patients under the age of 55 years with osteoarthritis. J Bone Joint Surg Br. 2004;86(2):177-84.
4) HF11131 Pollard TC, Baker RP, Eastaugh-Waring SJ, Bannister GC. Treatment of the young active patient with osteoarthritis of the hip. A five- to seven-year comparison of hybrid total hip arthroplasty and metal-on-metal resurfacing. J Bone Joint Surg Br. 2006;88(5):592-600.
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6) HF11130 Savarino L, Greco M, Cenni E, Cavasinni L, Rotini R, Baldini N, Giunti A. Differences in ion release after ceramic-on-ceramic and metal-on-metal total hip replacement. Medium-term follow-up. J Bone Joint Surg Br. 2006;88(4):472-6.
7) HF11928 Visuri T, Pukkala E, Paavolainen P, Pulkkinen P, Riska EB. Cancer risk after metal on metal and polyethylene on metal total hip arthroplasty. Clin Orthop Relat Res. 1996;(329 Suppl):S280-9.
8) HF10253 Jantsch S, Schwägerl W, Zenz P, Semlitsch M, Fertschak W. Long-term results after implantation of McKee-Farrar total hip prostheses. Arch Orthop Trauma Surg. 1991;110(5):230-7.
9) HF10580 Brown SR, Davies WA, DeHeer DH, Swanson AB. Long-term survival of McKee-Farrar total hip prostheses. Clin Orthop Relat Res. 2002;(402):157-63.


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