ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第6章 人工股関節全置換術(THA)


Research Question 5
THAの脱臼に対する予防は

推奨
Grade B 後側方アプローチにおいて,後方軟部組織(関節包,外旋筋群)の修復を行うことは脱臼率を減少させる効果がある.
Grade C 大径骨頭の使用,インプラントの適切な設置は脱臼率を減少させる効果がある.


解説
後側方アプローチにおいて,関節包,外旋筋群の修復を追加したTHAは有意に術後脱臼率を減少させるという報告がある(HF11937HF11797).また,インプラントに関しては,高度架橋ポリエチレンの開発や摺動面にメタルオンメタルを選択することで大径骨頭の使用が可能になり,32mm以上の大径骨頭の使用が脱臼のリスクを下げるという報告がある(HF11917HF11797HJ10641).ただし,高度架橋ポリエチレンについては現時点ではその長期成績については明らかになっておらず,厚みの薄いライナーの使用には注意を要する.インプラントの適切な設置は重要であり,適切な設置角度からの逸脱が脱臼のリスクに影響するという報告がある(HF11804).


サイエンティフィックステートメント
  • THAの後側方アプローチにおいて関節包,外旋筋群を修復することは脱臼率を低下させるという質の高いエビデンスがある(EV level-Ia).
  • 32mm以上の大径骨頭の使用は,脱臼率を低下させるという中等度のエビデンスがある(EV level-III).
  • インプラントの設置において“total anteversion”(カップの前方開角+ステム前捻角)が40°未満あるいは60°以上で脱臼のリスクは6.9倍と有意に上昇するという中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • THAの後側方アプローチと側方アプローチの間で,術後脱臼率に有意差はないという質の高いエビデンスがある(EV level-Ia).


エビデンス
  • THAの脱臼率に対するアプローチの影響および後方アプローチにおいて関節包,外旋筋群の修復は脱臼率を減少できるかについてsystematic reviewした.後方アプローチ4,115例,前側方アプローチ2,147例,側方アプローチ2,039例について検討した.すべてのアプローチで比較した結果,脱臼率は前方アプローチ0.70%,側方アプローチ0.43%,後方アプローチ(修復なし)4.36%,後方アプローチ(修復あり)1.01%であった.後方アプローチ(修復なし)の後方アプローチ(修復あり)に対する相対危険は8.21倍(p<0.001)であった.後方アプローチにおいて関節包,外旋筋群の修復は脱臼率を減少できた(HF11937, EV level-Ia).
  • 80歳以上の後側方アプローチで施行した初回THA 142例(股関節症127例133関節)に対し28mm骨頭使用群,32mm骨頭使用群および後方関節包切除群,後方関節包修復群において脱臼率を調査した.術後平均4.6年で脱臼率は,全体で8関節(5.3%),平均術後26.9ヵ月であった.内訳は後方関節包切除群7関節,後方関節包修復群1関節,28mm骨頭8関節,32mm骨頭0関節であった.多変量解析の結果,後方関節包修復は統計学的に有意な脱臼予防因子であった.高齢者の後側方進入THAに32mm骨頭を使用して後方関節包修復を追加すれば,脱臼は認めなかった(HF11797, EV level-III).
  • 1,970例のTHA(初回THA 1,963,THA再置換術277例)の術後脱臼における危険因子を検討した.脱臼率は初回THA 1.7%,再置換術5.1%(p<0.001),オッズ比2.9(p=0.01)であった.骨頭径別の脱臼率は32mm未満の2%に対し32mm以上は0.7%であった.術者の経験では有意差はなかった.再置換術はTHA術後脱臼率を上昇させる危険因子であった.大径骨頭は32mm以上で脱臼率を少なくする傾向を認めた.年齢,性別,BMI,術者の経験,アプローチの別では有意な関係は認めなかった(HF11917, EV level-III).
  • Birmingham Hip Resurfacing(表面置換型インプラント)およびFreeman Stem(セメント非使用ステム),Regulus(セメント使用ステム)に骨頭サイズ径38〜54mmを使用した大径骨頭群121例と,対照群として70歳以上の股関節症,骨壊死,関節リウマチ(RA)に対し22〜28mm骨頭を使用した308例を比較した.術後3ヵ月以内の早期脱臼率を調査した.脱臼率は大径骨頭使用群が2.5%,対照群が8.1%(p=0.03)であった.70歳以上の股関節症では大径骨頭群と対照群には脱臼率に有意差はなく,骨壊死では脱臼率に有意差があった.大径骨頭による早期脱臼抑止効果は認められたが,脱臼抑止効果には疾患差が存在した(HJ10641, EV level-III).
  • 初回THAを施行した患者2,023例中1度でも脱臼を生じた21例を対象とし,対照群として性,年齢,原疾患,術後経過年数,インプラントの種類をマッチさせた21例を選んだ.後側方アプローチ,関節包,外旋筋群を修復して28mm骨頭を使用してTHAを行った.脱臼の発生率とインプラントの設置状態について検討した.total anteversion(カップ前方開角+ステム前捻角)が40°未満あるいは60°以上の場合でオッズ比は6.9であった.術者の経験,カップ外方傾斜角が50°以上と脱臼発生との間に有意な関連はなかった.THAの脱臼予防には術前評価として術中の的確なインプラント設置が重要であることが判明した(HF11804, EV level-IV).
  • 変形性股関節症に対しTHAを施行した患者について側方アプローチと後側方アプローチを比較し脱臼率,Trendelenburg 歩行,神経麻痺の発生リスクについてsystematic reviewした.脱臼について後側方進入と側方進入の間に有意差は認められなかった(相対危険度0.35).Trendelenburg歩行の残存も進入法の間に有意差はなかった.神経損傷は側方進入のほうが有意に高かった(相対危険度0.16)(HF10647, EV level-Ia).
  • 経大転子アプローチで施行したTHA 1,838例,後方アプローチで施行したTHA 1,361例の脱臼率は,経大転子アプローチ:3.4%,後方アプローチ:3.3%であった.変形性股関節症に対してRAおよび骨折患者で有意に脱臼が多かった(p<0.01).後方アプローチでは経験の浅い術者がTHAを施行した場合に有意に多く発生した(p<0.05).経大転子アプローチと後方アプローチの間で脱臼の発生率に有意差は認めなかった(HF10825, EV level-IV).
  • 65歳以上のTHAを施行した271例(前側方・側方アプローチ146例,後側方アプローチ125例)の術後脱臼率は,側方・前側方アプローチ0.7%,後側方アプローチ4.0%(p=0.098)であった.後側方アプローチは,側方・前側方アプローチより脱臼率が高い傾向があるが,統計学的に有意差は認めなかった(HF11173, EV level-IV).
  • 初回THAのA群(後側方アプローチ105例121関節),B群(経大転子アプローチ86例97関節)の2群間において年齢,原疾患,カップの設置角度,脱臼率を調査した.原疾患,カップの設置角度,脱臼率について2群間で有意差はなかった.後側方アプローチより経大転子アプローチのほうが脱臼率は低い傾向であった(HJ11232, EV level-IV).


文献

1) HF11937 Kwon MS, Kuskowski M, Mulhall KJ, Macaulay W, Brown TE, Saleh KJ. Does surgical approach affect total hip arthroplasty dislocation rates? Clin Orthop Relat Res. 2006;447:34-8.
2) HF11797 Sierra RJ, Raposo JM, Trousdale RT, Cabanela ME. Dislocation of primary THA done through a posterolateral approach in the elderly. Clin Orthop Relat Res. 2005;441:262-7.
3) HF11917 Khatod M, Barber T, Paxton E, Namba R, Fithian D. An analysis of the risk of hip dislocation with a contemporary total joint registry. Clin Orthop Relat Res. 2006;447:19-23.
4) HJ10641 相原雅治, 三木秀宣, 菅野伸彦,西井 孝,吉川秀樹,大園健二,李 勝博,坂井孝司,松井 稔,中村宣雄,中田活也,梅田直也,山本健吾.大骨頭径インプラントによるTHA術後早期脱臼に対する脱臼抑止効果の検討.Hip Joint. 2005;31:582-5.
5) HF11804 Jolles BM, Zangger P, Leyvraz PF. Factors predisposing to dislocation after primary total hip arthroplasty: a multivariate analysis. J Arthroplasty. 2002;17(3):282-8.
6) HF10647 Jolles BM, Bogoch ER. Posterior versus lateral surgical approach for total hip arthroplasty in adults with osteoarthritis. Cochrane Database Syst Rev. 2006;3:CD003828.
7) HF10825 Hedlundh U, Hybbinette CH, Fredin H. Influence of surgical approach on dislocations after Charnley hip arthroplasty. J Arthroplasty. 1995;10(5):609-14.
8) HF11173 Zimmerma S, Hawkes WG, Hudson JI, Magaziner J, Hebel JR, Towheed T, Gardner J, Provenzano G, Kenzora JE. Outcomes of surgical management of total HIP replacement in patients aged 65 years and older: cemented versus cementless femoral components and lateral or anterolateral versus posterior anatomical approach. J Orthop Res. 2002;20(2):182-91.
9) HJ11232 中島保倫, 中島幹雄, 東原幸男,大原英嗣,阿部宗昭.進入路が人工股関節置換術術後脱臼に与える影響の検討.中部日本整形外科災害外科学会雑誌.2004;47(5):1077-8.


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