ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第6章 人工股関節全置換術(THA)


Research Question 4
THAの合併症(脱臼,感染,静脈血栓塞栓症)の頻度は

要約
- THA術後の脱臼の頻度については,手術アプローチ,使用機種によりばらつきがあるが,初回THAで1〜5%,再置換術で5〜15%である.
- 深部感染の発生率は0.2〜1%程度である.
- 予防の有無や検査法の違いにより報告には差があるが,深部静脈血栓症(DVT)の発生頻度は20〜30%,症候性肺血栓塞栓症(PE)の発生頻度は0.8〜1.6%前後,致死性PEは0.5%未満である.


解説
THA術後脱臼の頻度は,初回THAで1〜5%,再置換術で5〜15%との報告がなされている.脱臼率については,初回THAに対して再置換術,年齢(高齢),男性で脱臼率が高率になるとの報告がある(HF11919HF11920HJ10563HJ10764).
THA術後深部感染の発生率は0.2〜1.2%程度と報告されている.深部感染の発生頻度は初回THAに対し,再置換術で高い傾向がある(HF11919HF11920).
予防の有無や検査法の違いにより差があるが深部静脈血栓症(DVT)の発生率は22〜36%,症候性肺血栓塞栓症(PE)の発生率は0.8〜1.6%,致死性PEは0〜0.5%と報告されている.DVT発生部位は遠位型のほうが多いが,近位型のほうがPEの発生率は高い.予防法として術後間欠的空気圧迫法などの理学的予防法あるいは抗凝固療法によりDVT,PEの発生率は低下するという中等度のエビデンスがある.また高齢,肥満はDVT発生の有意な危険因子であるとされている(HF11919HF10564HF11005HJ11513HJ11448HJ10763).
静脈血栓塞栓症,感染については『肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン』,『骨・関節術後感染予防ガイドライン』が刊行されているので参考にしていただきたい.


エビデンス
  • 61,568例の初回THAと13,483例のTHA再置換術の術後合併症を調査した.初回THAでは,術後3ヵ月以内のPE0.9%,深部感染0.2%,脱臼3.1%であった.THA再置換術ではPE2.6%,深部感染0.8%,脱臼8.4%であった.年齢(高齢),性別(男性),人種(黒人>白人)は合併症の発生リスクを上昇させる有意な関連因子であった(HF11919, EV level-IV).
  • 65歳以上(骨折を除く)の初回THA 58,521例,THA再置換術12,956例の術後26週以内の脱臼,PE,深部感染の発生率を調査した.初回THAでは,脱臼3.9%,PE0.9%,感染0.2%であった.THA再置換術では,脱臼14.4%,PE0.8%,感染1.1%であった(HF11920, EV level-IV).
  • 後側方アプローチで行ったTHAの年齢別脱臼率について脱臼・非脱臼群間でロジスティック回帰分析を行った.脱臼率は,初回THA 4.3%(59/1,368),THA再置換術8.0%(18/226)であった.ロジスティック分析の結果,加齢(10歳ごと)にオッズ比:1.34,再置換術にオッズ比:1.79と有意な上昇を認めた.脱臼の危険因子として加齢,再置換術であることが判明した(HJ10563, EV level-IV).
  • 後側方アプローチで行ったセメント非使用THA1,000関節(男性173関節,女性827関節,手術時平均年齢62歳)の脱臼率は2.9%であった.脱臼に対する危険因子は年齢(高齢)(p=0.002),男性(p=0.003),骨盤後傾(p=0.01),再置換術(p=0.009)であった(HJ10764, EV level-III).
  • THA 164例に対して術後,静脈造影により下肢DVTについて調査した.DVT発生と年齢,性,肥満(BMI),原疾患,左右,喫煙との関連について統計解析を行った.DVT発生率は22.6%(近位型9.8%,遠位型12.8%)であった.BMI,加齢でそれぞれオッズ比は1.22,1.036と有意な上昇を認めた.静脈造影までの時間,原疾患,手術側,性,喫煙では統計学的な有意差は認めなかった.血栓の大きさは近位型で有意に大きかった.症候性PEは0.1%,致死的PEはなかった.BMIと加齢は統計学的に独立した危険因子であった(HF10564, EV level-IV).
  • 変形性股関節症に対し初回セメント使用THAを施行した79例について,フットポンプ使用群と対照群におけるDVTの発生率を調査した.近位型DVTの発生は対照群16例,フットポンプ使用群2例(p<0.001)であった.フットポンプ使用群では対照群と比較して血栓形成は小さく,局在していた.フットポンプはTHA術後のDVT発生を有意に減少させた(HF11005, EV level-III).
  • 初回THAに対しフットポンプ使用群186例198関節,非使用群188例209関節の術後DVT,PEの発生率を調査した.DVTの発生率は使用群4.6%,非使用群3.7%であった.PEの発生率は使用群で1.5%,うち致死性は0%,非使用群で2.4%,うち致死性は0.5%であった(HJ11513, EV level-IV).
  • THA 170関節に対し術後カーフポンプを施行した群(P群),薬物療法(ヘパリン,ウロキナーゼ,アスピリン)を施行した群(D群)におけるDVT,PEの発生率を検討した.DVTの発生と性別,年齢,BMI,手術側との関連はなかった.致死的および重症PEはなく,症候性PEの発生率はTHA1.8%であった.予防法別のDVT発生率はP群4.4%,D群3.1%で両者に有意差は認められなかった.無症候性PEはP群22.1%,D群4.2%であり,P群で高率に出現していた(p<0.001)(HJ11448, EV level-IV).
  • THA 115例127関節の術後にフットポンプ,弾性ストッキングを使用し,下肢静脈エコーでDVTの発生を調査した.THAでは46例にDVTが発生した(近位型6例,4.7%.遠位型40例,31.6%).PE発生率は,近位型DVTの50%,遠位型DVTの40%に認め,THA 1.6%であった(HJ10763, EV level-IV).


文献

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2) HF11920 Phillips CB, Barrett JA, Losina E, Mahomed NN, Lingard EA, Guadagnoli E, Baron JA, Harris WH, Poss R, Katz JN. Incidence rates of dislocation, pulmonary embolism, and deep infection during the first six months after elective total hip replacement. J Bone Joint Surg Am. 2003;85-A(1):20-6.
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