ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第5章 関節温存手術と関節固定術


Research Question 5
変形性股関節症に対する寛骨臼回転骨切り術・寛骨臼移動術の治療効果は

推奨
Grade B 寛骨臼回転骨切り術・寛骨臼移動術は,臼蓋形成不全を伴う前股関節症と初期の変形性股関節症の症状緩和および病期進行の予防に有効な術式である.


解説
本術式の目的は,臼蓋形成不全に伴う二次性の変形性股関節症(股関節症)に対して寛骨臼を含む骨片を前外側に移動させ,大腿骨頭の被覆を増加させることである.寛骨臼回転骨切り術(RAO),寛骨臼移動術,寛骨臼球状骨切り術,Triple pelvic osteotomy,Periacetabular osteotomyなどが代表的な術式としてあげられる.本術式は前股関節症と初期股関節症に対する治療として広く普及しているが,進行期および末期股関節症に対する適応は意見の分かれるところである.それぞれの病期に対する他の術式と前向きに比較した研究は少ないが,本術式は多施設から良好な術後成績が複数報告されており,前股関節症および初期股関節症への推奨GradeをBとした.


サイエンティフィックステートメント
  • 若年者に対する本術式の成績は壮年期以降よりも良好であるとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 適切な骨頭被覆度または骨頭内方化は術後成績を向上させるとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 術前と術直後の関節適合性は術後成績に影響するとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 片側例は両側例に比較して術後成績が良好であるとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 術前の病期が進行しているほど術後成績は劣るとする中等度のエビデンスが複数ある(EV level-IV).


エビデンス
  • RAOを施行後,10年以上の経過観察が可能であった(平均11年2ヵ月)128例130関節(前股関節症と初期股関節症98関節,進行期32関節)に対して,日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOA hip score)は前股関節症と初期股関節症で術前平均74.2点が術後5年で98.3点,術後10年で93.5点となり,進行期では術前平均61.3点が術後5年で87点,術後10年で81点であった(HJ10309, EV level-IV).
  • 前股関節症と初期股関節症47関節,進行期80関節,末期36関節に対してRAO施行後,平均147.8ヵ月の経過観察においてJOA hip scoreは,前股関節症と初期股関節症が術前平均76.3点から最終経過観察時で平均89.3点,進行期で67.7点が82.3点,末期で53.4点が71.3点であった.JOA hip scoreが70点未満または人工股関節全置換術(THA)移行時をエンドポイントとした生存率において,最終観察時で前股関節症と初期股関節症が97.9%,進行期で80.8%,末期で50.0%であった(HJ10210, EV level-IV).
  • 偏心性RAOを施行し,観察期間が平均7.5年を経た126例132関節において,術前初期までの股関節症の症例は進行期のものと比較してHarris hip scoreが有意に高かった(HF10962, EV level-IV).
  • RAO施行後,術後7年以上経過観察が可能であった(平均11年)111例120関節に対して,股関節症の進行をエンドポイントとした10年生存率は94%,13年で90%であった.50歳以上で13関節中4関節,40歳代で30関節中2関節,40歳未満では77関節中2関節に股関節症の進行を認めた.年齢と関節適合性が有意な危険因子であった.多変量解析では関節適合性がもっとも有意な危険因子であった(HJ10570, EV level-IV).
  • 進行期股関節症にRAOを施行し,術後10年以上経過した48例50関節のなかで術前病期分類(岡野)が進行期前期例の36関節中11関節(31%)で,後期例で14関節中13関節(93%)で股関節症が進行していた.関節適合性不良,両側進行期罹患,40歳以上の患者が股関節症進行の因子として認められた(HJ10506, EV level-IV).
  • 進行期・末期股関節症に対して臼蓋回転骨切り術(Tönnis変法)を施行し,手術後経過が平均13.1年経過した29例30関節の単純X線像上の評価で術後CE角は良好群で44°,不良群で34°で有意差を認めた.関節裂隙不整指数は良好群で1.9mm,不良群は3.3mmで,成績が悪くなるにつれて差は大きくなり良好群と不良群間に有意差を認めた.側方化指数は良好群1.4mmに対して不良群3.8mmであり,両群間に有意差があった(HJ10507, EV level-IV).
  • 術後平均13年経過観察が可能であった131症例145関節において,Merle d'Aubigné and Postel hip scoreで評価すると,田川・二ノ宮の分類でステージI およびステージIIではexellentまたはgoodが90/112(80%)であったが,ステージIIIおよびステージIVでは9/33(27%)であった.術前のCE角,臼蓋傾斜角と臨床成績との間に相関はなかった(HF10082, EV level-IV).
  • 前股関節症と初期股関節症に対してRAOを行い10年以上経過が追跡できた92例102関節中,骨頭変形のある55関節では,骨頭変形がない47関節に比較して臨床的,X線学的成績が有意に不良であった(HJ10142, EV level-IV).
  • 前股関節症と初期股関節症にRAO単独手術が行われ,10年以上経過した48例49関節において,成績不良群の骨頭円形指数は平均67.8%,良好群では54.7%であった.骨頭円形指数64%以上では,ほとんどの症例で病期が進行していた(HJ10425, EV level-IV).
  • 進行期の43例43関節に対してRAOを施行後,平均8.5年経過観察において関節裂隙は術前が平均2.2mm,術後で2.5mmであった.骨嚢胞は術前23関節に認めたが6関節は消失した.逆に20関節は術前に骨嚢胞がなかったが,最終観察時には4関節に骨嚢胞が存在した.関節症進行に関連する因子として,術後の適合性,術前の2.2mm以下の関節裂隙,術後の2.5mm以下の関節裂隙に有意差を認めた.単純X線像上の関節症の進行をエンドポイントとした生存率は,10年で72.2%であった(HF11882, EV level-IV).
  • 末期股関節症にRAOを行い,術後10年以上経過観察(平均14年8ヵ月)が可能であった20症例20関節中,THAにいたったのは4関節,RAOからTHAまでの期間は1〜18年(6年6ヵ月),股関節機能の変化で改善5関節,不変5関節,悪化は5関節であった.臨床評価では良好が5関節,不良が7関節で両群間に有意差があったのは術前の脚長差の有無,反対側の病期,CE角,AC角,acetabular head indexであった(HJ11263, EV level-IV).
  • 寛骨臼移動術を行い2年以上の経過が可能であった102関節(前股関節症34関節,初期股関節症44関節,進行期間節症17関節,末期股関節症7関節)の成績の報告で,前関節症および初期関節症においては大半が術後5年経過しても80点以上の優または良を示すが,進行期では可,および不可が増加し,末期ではその大半が可または不可になっていた(HJ11862, EV level-IV).


文献

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6) HJ10507 片岡弘行,川手健次,大村哲司,大根田豊.進行期および末期股関節症に対する臼蓋回転骨切り術(Tonnis変法)の長期成績.Hip Joint. 2004;30:134-8.
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9) HJ10425 岡野邦彦,榎本 寛,原田真一,伊藤 茂,土井口祐一,進藤裕幸.進行期変形性股関節症に対する寛骨臼回転骨切り術の治療成績 術前の骨頭変形の程度と治療成績との関連.Hip Joint. 2003;29:102-8.
10) HF11882 Yasunaga Y, Ochi M, Terayama H, Tanaka R, Yamasaki T, Ishii Y. Rotational acetabular osteotomy for advanced osteoarthritis secondary to dysplasia of the hip. J Bone Joint Surg Am. 2006;88(9):1915-9.
11) HJ11263 茂呂 徹,高取吉雄,中村 茂,森本修平,二ノ宮節夫,中村耕三.末期変形性股関節症に対する寛骨臼回転骨切り術の長期成績.東日本整形災害外科学会雑誌.2001;13(1):1-4.
12) HJ11862 野口康男,佛淵孝夫,神宮司誠也,ほか.亜脱臼性股関節症に対する寛骨臼移動術の成績.整形外科と災害外科.1996;45:56-63.


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