ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第5章 関節温存手術と関節固定術


Research Question 3
変形性股関節症に対する臼蓋形成術の治療効果は

推奨
Grade C 臼蓋形成術は臼蓋形成不全を伴う前股関節症および初期変形性股関節症の症状緩和および病期進行予防に有効な術式である.


解説
臼蓋形成術は,腸骨より採取した骨を臼蓋荷重部関節包上に移植し骨性臼蓋を形成する手術であり,臼蓋形成不全を有する変形性股関節症(股関節症)に適応がある.骨頭の骨性被覆を改善させる他の骨切り術に比べて低侵襲であるが,臼蓋形成不全の強い関節に対しての適応は慎重に考えるべきである.症例に応じて大腿骨骨切り術の併用が行われている.


サイエンティフィックステートメント
  • 術前の病期が進行しているほど術後成績は劣るとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 術前の臼蓋形成不全の程度が成績に影響を与えるとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 若年者に対する本術式の成績は良好であるとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 片側例は両側例に比較して術後成績が良好であるとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 末期股関節症に対する本術式では大腿骨骨切り術併用例の成績が良好であるとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).


エビデンス
  • 前股関節症から進行期股関節症に対して臼蓋形成術を施行した119関節(平均追跡期間23年9ヵ月,併用手術29関節)の成績.術前病期が前股関節症と初期股関節症の61関節のうち,術後20年で53関節が良好な成績を維持していた.術前に進行期であった58関節のうち,術後20年では32関節が良好な成績を維持していた.X線評価ではCE角,Sharp角,acetabular head index(AHI),臼蓋形成の高さ,roof角のいずれも成績への影響はなかった.術前の関節適合性などの問題で併用手術を行った29関節のうち75%は成績良好であった.手術時年齢25歳以下は成績が良好であったが,両側例は不良であった(HJ10228HF11082, EV level-IV).
  • 臼蓋形成不全を伴う股関節に対して臼蓋形成術を施行した113例124関節(平均経過観察期間10年)の成績.30歳以下で手術された症例の85例中67例,30歳以上で手術された症例39例中22例は日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOA hip score)の改善を維持していた.術後JOA hip scoreの改善は30歳以下で手術された症例で有意に高かった(HF10054, EV level-IV).
  • 臼蓋形成不全を伴う前股関節症および初期股関節症に対して臼蓋形成術を施行した39例44関節(平均経過観察期間12年)の成績.最終経過観察時JOA hip scoreの疼痛点数は10点が3関節,20点が2関節,30点が9関節,40点が30関節.術前CE角平均-2.9°が術直後43.8°,最終調査時40°,Sharp角平均がそれぞれ49.6°,34°,34.8°,AHI平均がそれぞれ50.6%,104%,100%であった.5関節で病期の進行を認めた(4関節が前股関節症→初期,1関節が初期→進行期)(HJ11594, EV level-IV).
  • 疼痛を有する臼蓋形成不全症に臼蓋形成術を施行した76関節(平均経過観察期間11年)の成績.CE角術前平均11°が術後平均50°.Sharp角術前平均52°が術後平均32°.疼痛は術後6ヵ月で68関節(90%)で軽減していた.術後5年で10関節が増悪し,術後10年で35関節(46%)で疼痛緩和が持続していた.人工股関節全置換術(THA)施行をエンドポイントとした5年生存率は86%,10年生存率は46%であった.術前関節裂隙狭小化がなく術後の股関節症の進行が軽度にとどまった44関節は5年生存率97%,10年生存率75%であった.これは関節裂隙狭小化が中等度,高度であった症例と比較し有意に高かった.年齢,術前術後のCE角,Sharp角は生存率と関連がなかった(HF11118, EV level-IV).
  • 前股関節症から進行期までの臼蓋形成不全を伴う股関節症に対する臼蓋形成術単独施行例で10年以上X線経過を追えた37例45関節の報告.病期進行群と改善・不変群に分けて検討した.病期進行群では術前Sharp角,骨頭上方移動が有意に大きく,CE角は小さかった.棚の設置位置が成績に関与していた(HJ10956, EV level-IV).
  • 成人の臼蓋形成不全を伴う股関節症に対して臼蓋形成術とChiari骨盤骨切り術を施行した症例の比較検討.臼蓋形成術は57関節で平均追跡期間17年,Chiari骨盤骨切り術は89関節で平均経過観察期間13年であった.生存率は臼蓋形成術で37%であったが術前関節裂隙の狭小化がない症例では83%であった.一方,Chiari骨盤骨切り術の生存率は68%であったが,関節裂隙狭小化がない症例では94%と良好であった.臼蓋形成術は関節症変化がないCE角0°以上の臼蓋形成不全症に良い適応である.一方,Chiari骨盤骨切り術はCE角0°以下で関節症変化が少ない症例に良い適応となるが,進んだ病期でも症例のサルベージ手術として有効である(HF10588, EV level-IV).
  • 前股関節症および初期股関節症39例50関節に対する内反骨切り術の術後平均18年の報告.最終調査時の日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOA hip score)は83点であり,病期非進行は74%であった.最終成績に影響する因子は術前CE角およびAHIであり,CE角15°以下あるいはAHI80%以下は成績不良であった.臼蓋形成術併用例は,単独例よりも術前臼蓋の骨頭被覆が不良であるにもかかわらず,最終のJOA hip scoreは良好であった.そのため,臼蓋形成不全の強い例では臼蓋形成術を併用してCE角15°以上あるいはAHI80% 以上程度にすべきである(HJ10315, EV level-IV).


文献

1) HJ10228 西松秀和,飯田寛和,川那辺圭一,麻田義之,松末吉隆,中村孝志.臼蓋形成術の長期成績(術後平均23年)と予後予測因子についての検討.Hip Joint. 1999;25:136-9.
2) HF11082 Nishimatsu H, Iida H, Kawanabe K, Tamura J, Nakamura T. The modified Spitzy shelf operation for patients with dysplasia of the hip. A 24-year follow-up study. J Bone Joint Surg Br. 2002;84(5):647-52.
3) HF10054 Hamanishi C, Tanaka S, Yamamuro T. The Spitzy shelf operation for the dysplastic hip. Retrospective 10 (5-25) year study of 124 cases. Acta Orthop Scand. 1992;63(3):273-7.
4) HJ11594 関 賢二,上尾豊二,中川泰彰,ほか.臼蓋形成術の長期成績.臨床整形外科.1996;31(2):131-7.
5) HF11118 Fawzy E, Mandellos G, De Steiger R, McLardy-Smith P, Benson MK, Murray D. Is there a place for shelf acetabuloplasty in the management of adult acetabular dysplasia? A survivorship study. J Bone Joint Surg Br. 2005;87(9):1197-202.
6) HJ10956 橋本 卓,信原克哉,神宮司誠也.臼蓋形成術(shelf operation)の長期成績.整形外科2004;55(13):1637-44.
7) HF10588 Migaud H, Chantelot C, Giraud F, Fontaine C, Duquennoy A. Long-term survivorship of hip shelf arthroplasty and Chiari osteotomy in adults. Clin Orthop Relat Res. 2004;(418):81-6.
8) HJ10315 三枝康宏,西川哲夫,新倉隆宏,水野耕作.変形性股関節症に対する内反骨切り術と臼蓋形成術同時手術の成績.Hip Joint. 2001;27:53-6.


書誌情報