ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第4章 保存療法


Research Question 6
関節内注入(ステロイド,ヒアルロン酸)の治療効果は

推奨
Grade I 関節内注入(ステロイド,ヒアルロン酸)の長期的な病期進行予防効果に関しては不明である.
Grade C 関節内注入(ステロイド,ヒアルロン酸)は短期的には疼痛緩和に対して有効である.


解説
変形性股関節症(股関節症)に対する関節内ステロイド注入により,短期的には疼痛緩和や機能障害の改善が得られる(HF11401HF11576).しかし,その効果の持続期間は数週間である.また,長期的効果,安全性,股関節症の病期進行に及ぼす影響は不明である.関節内ステロイド注入が化膿性股関節炎やステロイド関節症の発生に及ぼす影響に関するエビデンスはない.人工股関節置換術前の関節内ステロイド注入は,術後感染に影響を及ぼさない(HF11941)というエビデンスがある一方,術後感染の危険性が増加する(HF11110)という中等度のエビデンスがあるため,関節内ステロイド注入は慎重に行う必要がある.
現在のところ,股関節症に対する関節内ヒアルロン酸注入はわが国では保険適用がない.対照のないオープン試験がほとんどであるが,短期的には疼痛緩和効果が認められている(HF10483).RCTは1試験のみである.その結果では,ヒアルロン酸注入群では歩行時痛が軽減したものの,プラセボ(生食注入)群でも同様に疼痛が軽減しており,両群間で明らかな差が認められていない(HF11576).これまでの試験は,1〜3回投与後の短期経過観察であり,継続的投与の報告や股関節症の病期進行に及ぼす影響について検討した報告がないため,股関節症に対する関節内ヒアルロン酸注入の有益性は確立していない.安全性に関しては,これまでの報告では問題ないと考えられる.


サイエンティフィックステートメント
  • 短期的には,疼痛,関節可動域,機能障害の改善が得られるという質の高いエビデンスがある(EV level-Ib).
  • 人工股関節置換術前の1年以内の関節内ステロイド注入は,感染リスクに影響を与えないという中等度のエビデンス(EV level-II)がある一方,関節内ステロイド注入により人工股関節置換術後の感染リスクが増加するという中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
  • 関節内ヒアルロン酸注入は疼痛緩和に対して,短期的には有効であるという質の高いエビデンスがある(EV level-Ia).
  • 関節内ヒアルロン酸注入は,関節内生食注入群と比べて明らかな効果を認めなかったという質の高いエビデンスがある(EV level-Ib).


エビデンス
  • 股関節症80例をステロイド関節内注入群と局所麻酔薬関節注入群に分け,投与後3週と12週で評価した試験において,ステロイド投与群では疼痛,関節可動域,機能障害の有意な改善が得られ,鎮痛剤の使用頻度が低下した(HF11401, EV level-Ib).
  • 股関節症101例を3群(生食群,ステロイド群,ヒアルロン酸群)に分け関節内注入(14日ごとに3回)を行ったRCTが行われた.ステロイド群は投与後2週,4週で生食群に比べて有意に歩行時痛が軽減した.ヒアルロン酸群は投与後2週,4週で生食群に比べ疼痛スコアは低値であったが,有意差を認めなかった.ステロイド群,ヒアルロン酸群の機能障害は投与後2週,4週で生食群に比べて改善したが,統計学的な有意差を認めなかった.3ヵ月後の最終観察時では3群間で疼痛スコア,機能障害ともに差を認めなかった(HF11576, EV level-Ib).
  • 人工股関節全置換術(THA)前の1年以内にステロイド関節内注入が行われた224関節と非注入群224関節の研究では,注入群では深部感染3関節,表層感染11関節,非注入群では深部感染1関節,表層感染8関節であった.統計学的検討では,THA前の1年以内のステロイド関節内注入は術後感染率に影響を与えていなかった.深部感染発生例のステロイド関節内注入時期は,術前の44±23日であった.したがって,THAを行う術前2ヵ月以内のステロイド関節内注入は注意すべきである(HF11941, EV level-II).
  • 人工股関節置換術前にステロイド関節内注入が行われた40関節と非注入群40関節の試験では,注入群では感染あるいは感染の疑いが12関節(30%),非注入群では3関節(7.5%)であった.注入群のうち5関節に再置換が行われ,そのうち4関節で深部感染があった(HF11110, EV level-IV).
  • 股関節症141例(hylan G-F20を用いた5つのオープン前向き試験)におけるsystematic reviewでは,1〜3回の関節内ヒアルロン酸注入は疼痛緩和に有効で,3〜12ヵ月の経過観察期間での有効率は約50%であった.股関節症31例におけるnon animal stabilized hyaluronic acidを用いたオープン試験では投与後6〜11ヵ月の観察期間において,疼痛,機能障害ともに有意に改善した.股関節症44例における3〜5回の関節内ヒアルロン酸注入を用いたオープン試験では6ヵ月間にわたり,68%の患者で明らかな疼痛緩和を認めた.股関節症28例における1〜3回の関節内ヒアルロン酸注入では,わずかな効果しか認めなかった.しかし,すべての研究において,関節内ヒアルロン酸注入は安全で耐用性があると報告されている(HF10483, EV level-Ia).


文献

1) HF11401 Kullenberg B, Runesson R, Tuvhag R, Olsson C, Resch S. Intraarticular corticosteroid injection: pain relief in osteoarthritis of the hip? J Rheumatol. 2004;31(11):2265-8.
2) HF11576 Qvistgaard E, Christensen R, Torp-Pedersen S, Bliddal H. Intra-articular treatment of hip osteoarthritis: a randomized trial of hyaluronic acid, corticosteroid, and isotonic saline. Osteoarthritis Cartilage. 2006;14(2):163-70. Epub 2005 Nov 14.
3) HF11941 McIntosh AL, Hanssen AD, Wenger DE, Osmon DR. Recent intraarticular steroid injection may increase infection rates in primary THA. Clin Orthop Relat Res. 2006;451:50-4.
4) HF11110 Kaspar S, de V de Beer J. Infection in hip arthroplasty after previous injection of steroid. J Bone Joint Surg Br. 2005;87(4):454-7.
5) HF10483 Conrozier T, Vignon E. Is there evidence to support the inclusion of viscosupplementation in the treatment paradigm for patients with hip osteoarthritis? Clin Exp Rheumatol. 2005;23(5):711-6.


書誌情報