ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

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第3章 診断


Research Question 10
変形性股関節症の病勢判断に有用な血液生化学検査はあるか

推奨
Grade I 変形性股関節症の病勢を反映する血液生化学検査で,エビデンスが確立し,臨床上応用されているものはないが,その可能性のある血液中の分子マーカーがある.


解説
変形性股関節症の進行を予測することは重要な課題である.そのため,病勢判断をする目的で,血液・関節液・尿などの検体を採取し,軟骨の代謝を反映する分子マーカーを用いた評価が試みられてきた.膝関節は穿刺による関節液の採取が容易であるが,股関節ではそれが困難なため,血液中の分子マーカーを用いた病勢の判断ができれば,評価法として利便性の高い有用なものとなるであろう.血液中の分子マーカーとして検討されている主なものを以下に提示する.
COMPは,thrombospondin gene familyに属する分子量524-kDaの五量体蛋白で,軟骨細胞外基質の主要な構成成分の1つである.関節裂隙幅(HF10200)や関節症性変化(HF10241),股関節症状(HF11562)と関連があったという報告がある.一方,関節裂隙幅とは関連がなく(HF11406),股関節症例でCOMP値の増加は検証できなかった(HF10241)という報告や,関節裂隙が狭小化する速さ(HF10200)と,股関節症の進行とは関連がなかった(HF10373)という報告もある.
MMP-1,MMP-3,MMP-9は,亜鉛を活性中心とし中性に至適pHをもつ蛋白分解酵素群で,現在まで23種類が知られており,分解する細胞外基質とその分子構造により8つのサブファミリーに分類されている.急速破壊性股関節症(RDC)群では通常の股関節症群よりもMMP-3とMMP-9の有意な増加があった(HF11916)という報告がある.一方,関節リウマチと異なり,股関節症患者では,MMP-1やMMP-3の増加は検証できなかった(HF10241)という報告もある.
TIMP-1:TIMPは,MMPを特異的に阻害する内在性蛋白で,TIMP-1からTIMP-4まで4種類がある.TIMP-1はこの1つで,MMPと1対1で結合することによりその作用を抑制する.関節裂隙が狭小化する速度が速い場合,血中のTIMP-1の濃度が減少している(HF11558)という報告がある.
25-(OH)vitamin Dと関節裂隙の狭小化と関連があった(HF10314)という報告がある.
Hyaluronan(HA)は,関節裂隙が狭小化すると高値となる(HF10241)という報告がある.
I型コラーゲンのN-telopeptide crosslinks(NTX)は,硬組織のターンオーバーを表すマーカーであるが,血清中のNTXは,股関節症の発生と関連があったが,進行とは関連はなかった(HF10373)という報告がある.
YKL-40(Cartilage glycoprotein 39)は,細菌などのキチン分解酵素に似た構造を部分的に持つ分子量39-KDaの可溶性蛋白で,主として関節軟骨や肝臓で発現・分泌されているが,股関節症の患者で増加しており,YKL-40とC-reactive protein(CRP)とが正の相関を示していた(HF10208)という報告がある.一方,股関節症の患者での増加を検証できなかった(HF10241)という報告もある.
osteocalcinは,X線所見とあわせて病期進展の予測に有効である(HJ11628)という報告がある.


エビデンス
  • ACR基準に合致する股関節症患者48例66関節を対象として,ベースライン時と1年後とで検討した結果,ベースライン時の血清COMP濃度は,関節裂隙幅および関節裂隙の狭小化速度と相関していた(HF10200, EV level C-Ib).
  • アメリカ4地域におけるcohort研究であるStudy of Osteoporotic Fractures(SOF)の登録者の母集団から抽出した200例に対して,血清COMP濃度と血清NTXとがX線像上,股関節症の発生とその進行とに関連があるかどうかを高齢の女性で検討した.その結果,COMP値とNTX値は股関節症の進行に関して有意差はなかったが,股関節症の発生とは中等度の関連があった(HF10373, EV level C-Ib).
  • Johnston County Osteoarthritis Projectの登録者3,189例から,無作為に抽出した白人145例について検討した.その結果,X線像上関節症性変化のない者でも,股関節症状があると血清COMP値が高かった(HF11562, EV level C-Ib).
  • フランスのcohort研究であるECHODIAH studyに登録し,ACR基準に合致する者333例に対して,分子マーカーと股関節症の進行との関連を検討した結果,股関節症の進行を予測する因子として,尿中CTX-IIと血清HAがあげられた.一方,血清COMP,血清YKL-40,MMP-1,MMP-3と股関節症の進行との関連を検証することはできなかった(HF10241, EV level C-Ib).
  • ECHODIAH studyに登録し,ACR基準に合致した股関節症患者376例に対して検討した結果,関節痛は尿中CTX-IIとCRPと関連があり,関節炎は,血清COMPと関連があった.関節裂隙の狭小化の程度は,尿中CTX-IIと関連があり,また軟骨下骨硬化像も尿中CTX-IIと関連があった.尿中CTX-IIが高いと疼痛のスコアは有意に高く,また,尿中CTX-IIが高値だと関節裂隙も有意に狭かった(HF11406, EV level C-II).
  • 年齢性別をマッチさせたRDC群16例と,通常の股関節症群20例の血中MMPとTIMPを検討した結果,RDC群でMMP-3とMMP-9濃度は,股関節症群よりも有意に高かった(HF11916, EV level C-II).
  • ACR基準を満たしK/L grade2または3の股関節症患者30例について評価した.その結果,血清TIMP-1濃度は対照群と比べて差がなかったが,関節裂隙の狭小化速度と相関があり,関節裂隙の狭小化速度が遅い群は,速い群と比べて有意に高値を示した(HF11558, EV level C-II).
  • アメリカ4地域におけるcohort研究SOFの登録者から無作為に抽出した400例のうち,調査項目を充足した237例を対象とした.25-vitamin D濃度に従い3群に分けた場合,高濃度群と比較すると,関節裂隙の狭小化に対するオッズ比は,中濃度群(23〜29ng/mL)で3.1,低濃度群(8〜22ng/mL)で3.4とリスクが高まった(HF10314, EV level C-Ib).
  • ACR基準に合致した股関節症群45例と対照群33例を対象とした.血清YKL-40値とCRP値は年齢とともに増加したが,関節裂隙幅との関連はなかった(HF10208, EV level C-II).
  • 片側の股関節症患者111例を病期別に検討した結果,血中Ca・P・ALPは病期別には有意差がなかったが,osteocalcinは初期,末期,進行期の順で前股関節症より有意に高値を示した(HJ11628, EV level C-II).


文献

1) HF10200 Conrozier T, Saxne T, Fan CS, Mathieu P, Tron AM, Heinegård D, Vignon E. Serum concentrations of cartilage oligomeric matrix protein and bone sialoprotein in hip osteoarthritis: a one year prospective study. Ann Rheum Dis. 1998;57(9):527-32.
2) HF10373 Kelman A, Lui L, Yao W, Krumme A, Nevitt M, Lane NE. Association of higher levels of serum cartilage oligomeric matrix protein and N-telopeptide crosslinks with the development of radiographic hip osteoarthritis in elderly women. Arthritis Rheum. 2006;54(1):236-43.
3) HF11562 Dragomir AD, Kraus VB, Renner JB, Luta G, Clark A, Vilim V, Hochberg MC, Helmick CG, Jordan JM. Serum cartilage oligomeric matrix protein and clinical signs and symptoms of potential pre-radiographic hip and knee pathology. Osteoarthritis Cartilage. 2002;10(9):687-91.
4) HF10241 Mazières B, Garnero P, Guéguen A, Abbal M, Berdah L, Lequesne M, Nguyen M, Salles JP, Vignon E, Dougados M. Molecular markers of cartilage breakdown and synovitis at baseline as predictors of structural progression of hip osteoarthritis. The ECHODIAH Cohort. Ann Rheum Dis. 2006;65(3):354-9. Epub 2005 Dec 1.
5) HF11406 Garnero P, Mazières B, Guéguen A, Abbal M, Berdah L, Lequesne M, Nguyen M, Salles JP, Vignon E, Dougados M. Cross-sectional association of 10 molecular markers of bone, cartilage, and synovium with disease activity and radiological joint damage in patients with hip osteoarthritis: the ECHODIAH cohort. J Rheumatol. 2005;32(4):697-703.
6) HF11558 Chevalier X, Conrozier T, Gehrmann M, Claudepierre P, Mathieu P, Unger S, Vignon E. Tissue inhibitor of metalloprotease-1 (TIMP-1) serum level may predict progression of hip osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2001;9(4):300-7.
7) HF10314 Lane NE, Gore LR, Cummings SR, Hochberg MC, Scott JC, Williams EN, Nevitt MC. Serum vitamin D levels and incident changes of radiographic hip osteoarthritis: a longitudinal study. Study of Osteoporotic Fractures Research Group. Arthritis Rheum. 1999;42(5):854-60.
8) HF10208 Conrozier T, Carlier MC, Mathieu P, Colson F, Debard AL, Richard S, Favret H, Bienvenu J, Vignon E. Serum levels of YKL-40 and C reactive protein in patients with hip osteoarthritis and healthy subjects: a cross sectional study. Ann Rheum Dis. 2000;59(10):828-31.
9) HJ11628 上好昭孝,檀上茂人,木下裕文,ほか.変形性股関節症における血中osteocalcinの測定意義.Hip Joint. 1990;16:240-4.
10) HF11916 Masuhara K, Nakai T, Yamaguchi K, Yamasaki S, Sasaguri Y. Significant increases in serum and plasma concentrations of matrix metalloproteinases 3 and 9 in patients with rapidly destructive osteoarthritis of the hip. Arthritis Rheum. 2002;46(10):2625-31.


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