ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

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第3章 診断


Research Question 7
日本人の各種X線計測値の基準値は

推奨
Grade B 単純X線像における日本人成人股関節のCE角の平均値は男性30〜32°,女性27〜34°,Sharp角の平均値は男性35〜39°,女性34〜42°,acetabular head index(AHI)の平均値は男性82〜88%,女性80〜89%と報告されている.
Grade B 単純X線像における日本人のCE角の値は,イギリス人,フランス人に比べ小さい.


解説
日本人に生じる変形性股関節症(股関節症)は,その多くが臼蓋形成不全や先天性股関節脱臼などに起因する二次性股関節症である.そのため本症の病態把握には正常形態との比較が重要であり,臼蓋の急峻度や深さ,骨頭の被覆などの指標となる各種X線学的パラメータを用いて正常股関節と臼蓋形成不全との間に境界を設定することが必要となる.現在までに報告されてきた日本人の単純X線計測値の基準値に関する研究は,調査時において股関節疾患の存在を否定したいわゆる正常例を抽出して検討したもので,対象集団の特性から2つに大別される.1つは,股関節疾患以外の理由で受診した患者,患者家族,病院関係者,妊婦などを対象にしたhospital-basedの研究である(HJ10900HJ10901HJ11612HF11872HJ11863).これらはいわゆる正常ボランティアから抽出されたデータであり,幅広い年齢層の結果を網羅している.もう1つは住民台帳をもとに設定されたpopulation-basedの集団から無作為抽出された対象での研究である(HF10434HF11346).この方法は,当該地域の一般住民の基準値を提示するのに適している.計測に用いたX線写真の撮影条件が一致していない,正常と判断された基準が必ずしも明確でないなどの点からこれらの報告を一律に比較することは妥当とはいえないが,おおむね同等の値が報告されている.
複数の研究に共通して検討されているX線学的パラメータとして,CE角(骨頭中心を通る垂線と,骨頭中心と臼蓋外側縁を結んだ線とのなす角),Sharp角(臼蓋外側縁と涙痕先端を結ぶ線と,両側涙痕を結んだ線とのなす角),AHI(大腿骨頭内側端から臼蓋外側端までの距離を大腿骨頭横径で割ったもの)などがあげられる(図1).
このうち,CE角に関しては同一検者によりイギリス人,フランス人と比較した報告があり,日本人のCE角は前者に比べ明らかに少ない値であると述べられている(HF10434HF11872).

図1:CE角,Sharp角,AHIの計測法
図1:CE角,Sharp角,AHIの計測法


エビデンス
  • 股関節疾患以外の理由で整形外科を受診し骨盤X線撮影を受けた17〜70歳までの200例400関節の骨盤X線正面像から得られた計測値は,男性(M),女性(F),男女合計(T)の順で平均±標準偏差がCE角M31.4±6.4,F29.9±6.9,T30.7±6.7,Sharp角M38.0±3.7,F40.1±3.8,T39.1±3.9であった(HJ10900, EV level C-Ib).
  • 腰背部痛で整形外科を受診した18〜60歳までの日本人成人男性340例,女性414例,合計754例を対象とした単純X線股関節正面像の計測では,CE角が男性(M)30.0±0.2,女性(F)27.8±6.8,95%信頼区間の限界値はM17.8°,F14.5°,Sharp角がM38.7±3.3,F41.5±3.5,95%信頼区間の限界値はM45.2°,F48.4°,AHIはM82.1±6.2%,F80.6±6.7%,95%信頼区間の限界値はM69.9%,F67.5%であった(HJ10901, EV level C-Ib).
  • 産婦人科病院において妊娠10ヵ月の妊婦の骨盤X線正面像を撮影し,股関節に何らかの愁訴を有する症例や撮影条件不良例を除外した平均年齢29.2歳(20〜44歳)の1,013関節の計測では,CE角の平均±標準偏差が27.2±6.14°,Sharp角の平均±標準偏差が41.5±3.18°であった(HJ11612, EV level C-II).
  • 整形外科を訪れた患者,その家族,病院職員,看護学生のなかで既往歴,基礎疾患などを考慮し股関節正常と考えられた男性191名,女性195名を5歳ごとに階層化した両股関節正面像の計測では,20歳以上の成人でSharp角平均値が男性35.9〜38.0,女性34.5〜37.9°,危険率5%のSharp角正常棄却限界が男性44.8°,女性44.7°,AHI平均値が男性81.5〜87.9,女性84.1〜88.5,危険率5%のAHI正常棄却限界が男性75.3%,女性76.4%であった(HJ11863, EV level C-II).
  • 同一検者により股関節症の有病率を日本人とフランス人で比較した調査のなかで,静脈性腎盂造影を行った20〜79歳の日本人782名(男性414,女性368)から得られた結果では,CE角は日本人男性平均35.1°,女性平均32.8°であり,フランス人男性平均37.8°,女性平均36.9°に比し明らかに少ないと述べられている(HF11872, EV level C-Ib).
  • 和歌山県美山村の住民台帳をもとに設定された集団の骨粗鬆症検診の際に得られた60〜79歳の男性196関節,女性195関節の両股関節正面像からの計測では,CE角は60歳代男性で右30.0±5.5°,左31.3±5.9°,60歳代女性で右30.4±6.9°,左30.8±8.4°,70歳代男性で右30.4±6.9°,左32.0±6.8°,70歳代女性で右31.5±8.1°,左33.5±7.°,AHIは60歳代男性で右83.3±5.7%,左83.8±6.2%,60歳代女性で右85.9±12.1%,左85.7±8.6%,70歳代男性で右83.4±6.2%,左84.7±6.7%,70歳代女性で右85.7±7.9%,左87.3±7.3%であり,CE角については同年代における男女差,左右差および同側股関節についての年齢差を認めなかった(HJ11346, EV level C-Ib).
  • 同一検者により判定された日本人とイギリス人との比較では,日本人が60〜79歳の単純X線股関節正面像198例からの計測であるのに対し,イギリス人は60〜75歳1,498例の尿路造影から得られたデータであるという違いはあるものの,CE角は日本人男性31°(95%信頼区間:29〜32°)に対しイギリス人男性36°(95%信頼区間:35〜37°),日本人女性31°(95%信頼区間:29〜33°)に対しイギリス人女性37°(95信頼区間:36〜38°)と,日本人のCE角は男女ともにイギリス人のそれに比して明らかに小さいと述べられている(HF10434, EV level C-Ib).


文献

1) HJ10900中村 茂.変形性股関節症X線計測.日本人股関節の臼蓋・骨頭指数―400股の計測値.整形外科.1994;45(8):769-72.
2) HJ10901 藤井玄二,桜井 実,船山完一,ほか.変形性股関節症X線計測.日本人成人股関節の臼蓋・骨頭指数.整形外科.1994;45(8):773-80.
3) HJ11612 水野正昇,岩田 久,朝井哲二,ほか.成人股関節単純X線像の計測とその検討.Hip Joint. 1985;11:105-9.
4) HJ11863 三浦利治.成人の正常股関節X線像における経年的変化に関する研究.日本整形外科学会雑誌.1971;45:703-14.
5) HF11872 Inoue K, Wicart P, Kawasaki T, Huang J, Ushiyama T, Hukuda S, Courpied J. Prevalence of hip osteoarthritis and acetabular dysplasia in french and japanese adults. Rheumatology (Oxford). 2000;39(7):745-8.
6) HJ11346 吉村典子,森岡聖次,笠森隆洋,ほか.地域住民の股関節裂隙値の性,年齢別分布.日本骨形態計測学会雑誌.1994;4(2):107-12.
7) HF10434 Yoshimura N, Campbell L, Hashimoto T, Kinoshita H, Okayasu T, Wilman C, Coggon D, Croft P, Cooper C. Acetabular dysplasia and hip osteoarthritis in Britain and Japan. Br J Rheumatol. 1998;37(11):1193-7.


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