ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

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第3章 診断


Research Question 5
変形性股関節症の特徴的身体所見は

推奨
Grade B 変形性股関節症では股関節可動域制限(特に内旋制限),鼡径部痛,跛行が特徴的であり,他疾患との鑑別で有用である.
Grade C Trendelenburg徴候は,変形性股関節症における有用な身体所見である.


解説
変形性股関節症(股関節症)に特徴的な身体所見は教科書的には脚長差,筋萎縮,Trendelenburg test陽性,跛行,鼡径部痛,関節可動域制限およびPatrick test陽性などがあげられるが,実際にこれらの身体所見に関して論じた研究は少ない.諸外国では,かかりつけ医がプライマリー診療にあたって股関節X線検査を行う動機づけとして身体所見を重要視しているようである.また,脊椎疾患との鑑別の上(HF10591)で身体所見は重要であり,脊椎疾患に特徴的な身体所見を知ることも重要である.


サイエンティフィックステートメント
  • 股関節痛を有する患者で,股関節可動域制限(特に内旋制限)は股関節症が存在することを予測する因子となり得るとする質の高いエビデンスがある(EV level C-Ib).
  • 股関節疾患を脊椎疾患と鑑別するには跛行,鼡径部痛,内旋制限が指標になるとする中等度のエビデンスがある(EV level C-II).
  • 股関節症においては病期の進行に伴い,最初に最大屈曲位における外転が制限されるとする中等度のエビデンスがある(EV level C-II).
  • Trendelenburg testは,正しく施行され解釈されれば,Trendelenburg徴候を検出する有用な臨床検査法であり,時間を測定することで遅発性陽性例を検出できるとする中等度のエビデンスがある(EV level C-II).


エビデンス
  • 股関節痛を主訴にかかりつけ医を受診した40歳以上の患者195例において,股関節症のX線像での軽―中等症群,重症群(オッズ比:46.8)ともにもっとも診断精度の高い可動域制限は内旋であった.股関節症診断のための可動域制限のカットオフ値は内旋,外旋はともに可動域制限が23°以下,屈曲は94°以下であった.内旋制限23°以下をカットオフ値とした場合,軽―中等症の股関節症診断の感度は86%,特異度は54%,重症の股関節症診断の感度は100%,特異度は42%であった(HF11636, EV level C-Ib).
  • 男性股関節症患者27例と対照群30例において,対照群の股関節可動域は股関節症群より13〜52%大きかった.進行した病変の股関節では外転と内外旋が明らかに低下していた(HF10296, EV level C-II).
  • 股関節痛を主訴にかかりつけ医を受診し,X線撮影を行った50歳以上の患者220例(最終診断は股関節症40%,大転子滑液包炎・腱炎10%など)において,有意差を認めたのは,関節裂隙2.5mm以下の軽症例では60歳以上,3ヵ月以上の疼痛の持続,座位で疼痛の増悪がない,鼡径部の圧痛および外旋制限(21°未満)の5項目であった.1.5mm以下の重症例では60歳以上,鼡径部の圧痛,外旋制限,内旋制限,内転制限(10°未満),受動運動時の骨性可動域制限および外転筋力低下の7項目であった(HF11835, EV level C-II).
  • 下肢痛のため股関節疾患と脊椎疾患の鑑別診断を要する95例(股関節疾患のみ43例,脊椎疾患のみ18例,両方34例)において,脊椎疾患のみを他の2群と区別する指標は,跛行(オッズ比:0.14),鼡径部痛(オッズ比:0.15)および内旋制限(オッズ比:0.07)であった.股関節疾患のみを他の2群と区別する指標は跛行(オッズ比:3.94),鼡径部痛(オッズ比:3.40),femoral nerve stretch test(オッズ比:0.21)および脚短縮(オッズ比:0.08)であった.両方を他の2群と区別する指標は内旋制限(オッズ比:3.63)とfemoral nerve stretch test(オッズ比:4.36)であった.脊椎のみを両方と区別する指標は鼡径部痛(オッズ比:0.13)と内旋制限(オッズ比:0.04)で,脊椎のみを股関節のみと区別する指標は跛行(オッズ比:0.11),鼡径部痛(オッズ比:0.13)および内旋制限(オッズ比:0.13)であった.股関節のみを両方と区別する指標はfemoral nerve stretch test(オッズ比:0.22),可動域制限(オッズ比:0.12)および脚短縮(オッズ比:0.12)であった(HF10591, EV level C-II).
  • 股関節症19例21関節(前期5関節,初期5関節,進行期4関節,末期7関節)とそれらの健側17関節において,初期には深屈曲位における外転制限が出現し,病期の進行とともに屈伸および内外転の可動域が次第に狭くなった(HJ10080, EV level C-II).
  • 健常人ボランティア50人と神経疾患,脊椎・股関節疾患患者103例のTrendelenburg testにおいて,非荷重脚を股関節屈曲30°以内で持ち上げ,バランスがとれた時点で非荷重側の骨盤をできるだけ持ち上げるよう指示し30秒維持できれば正常(陰性),最大に持ち上がらない場合や30秒維持できない場合は異常(陽性)とした.股関節疾患では先天性股関節脱臼は全例陽性,亜脱臼股の2例は陽性,内反股は頚体角100°以上は陰性で内反骨切り後頚体角90°の小児で陽性であった(HF11832, EV level C-II).


文献

1) HF11636 Birrell F, Croft P, Cooper C, Hosie G, Macfarlane G, Silman A; PCR Hip Study Group. Predicting radiographic hip osteoarthritis from range of movement. Rheumatology (Oxford). 2001;40(5):506-12.
2) HF10296 Arokoski MH, Haara M, Helminen HJ, Arokoski JP. Physical function in men with and without hip osteoarthritis. Arch Phys Med Rehabil. 2004;85(4):574-81.
3) HF11835 Bierma-Zeinstra SM, Oster JD, Bernsen RM, Verhaar JA, Ginai AZ, Bohnen AM. Joint space narrowing and relationship with symptoms and signs in adults consulting for hip pain in primary care. J Rheumatol. 2002;29(8):1713-8.
4) HF10591 Brown MD, Gomez-Marin O, Brookfield KF, Li PS. Differential diagnosis of hip disease versus spine disease. Clin Orthop Relat Res. 2004;(419):280-4.
5) HJ10080 宮崎 清,野口康男,岡崎 賢,ほか.変形性股関節症における複合的股関節可動域の変化.Hip Joint. 1995;21:178-82.
6) HF11832 Hardcastle P, Nade S. The significance of the Trendelenburg test. J Bone Joint Surg Br. 1985;67(5):741-6.


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