ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第3章 診断


Research Question 1
変形性股関節症の明確な診断基準はあるか

要約
- 現時点で,世界的にコンセンサスの得られている変形性股関節症の明確な診断基準は存在しない.大規模な疫学調査においては,いくつかのX線学的病期分類や最小関節裂隙幅,アメリカリウマチ学会の基準などが診断基準として主に用いられている.


解説
変形性股関節症(股関節症)に関する臨床あるいは疫学研究を行うにあたっては,明確な診断基準のもとに患者の選択がなされるべきである.しかしながら実際のところは,世界的にコンセンサスの得られている明確な診断基準は存在しておらず,いくつかの診断基準に該当るものが存在し,それらが適用されているのが現状である.
海外における股関節症の大規模疫学調査においては,アメリカリウマチ学会基準(ACR基準),Kellgren and Lawrence grade(K/L grade),Croft's modification of K/L grade(Croft grade),最小関節裂隙幅(minimal joint space:MJS)などが診断基準として使用されている.これらのうち,大規模な研究結果からの明確な根拠に基づき設定されているものとしては,ACR基準がある(HF11871).
ACR基準は,股関節痛を訴える種々の患者の臨床的所見をもとに,股関節症の診断において感度と特異度の組み合わせがもっとも高くなる臨床的所見を導き出した研究結果から設定されている.股関節痛があり,かつ(1)赤血球沈降速度(ESR)<20mm/時,(2)大腿骨頭あるいは臼蓋の骨棘形成,(3)関節裂隙の狭小化,の3項目のうち2項目以上が該当するもの,というシンプルな内容からなっている.ESRの項目が入っていることにより,関節リウマチなどの炎症性疾患との鑑別には有用な基準である.臨床的で簡便ではあるが,疫学調査においては調査項目が増えるため使いにくい.また,厳密かつ大規模な研究結果をもとに設定された割には信頼度が低いとの報告もある(HF11915).
一方,K/L grade,Croft grade,MJSなどは,X線所見だけを唯一の診断根拠として扱っている基準である.K/L grade,Croft gradeはいわゆる病期分類であり,重症度に応じて段階付けがなされている.これらの基準は,症状や機能障害を加味したものでないため,大規模な疫学調査には使いやすいという利点がある半面,画像上は変形性股関節症でも無症候性であるX線学的変形性股関節症を含んでしまうという問題がある.また,鑑別診断および除外項目の範疇が明記されていないため,同様の画像所見を示す疾患群での鑑別が不十分である.ただし,MJSは症状や機能障害との相関が比較的高く,検者間での再現性も高いとされ,指標としては有用であるといえる(HF11869HF11915HF10117HF10230).また,K/L gradeは,予後の予測因子として有用であるといわれている(HF10230).
わが国で従来使用されている日本整形外科学会の病期分類は,日常診療において診断基準的役割も果たしていると思われる.わが国における一部の疫学調査では,K/L grade,Croft gradeと同様に診断基準として用いられている(HJ11346HJ11596).しかしながら,これもあくまでX線学的な病期分類であるため,もともと症状や機能障害を加味したものではないこと,前股関節症というわが国特有の概念を含んでいるため,診断基準として採用する場合は,臼蓋形成不全や先天性股関節脱臼後の遺残変形を異なった概念で扱っている海外との整合性がないなどの問題がある.
現時点では,わが国においても明確な診断基準は存在せず,あいまいな状態になっている.世界的にコンセンサスの得られた統一基準を設定するということには,股関節症の研究面で大きな意義があると思われる.しかしながら,それにあたっては,前述したような臼蓋形成不全および先天性股関節脱臼後の遺残変形の位置付けをどうするか,診断にあたり症状や機能障害の有無を加味するか,鑑別診断および除外項目の範疇など,いくつかの明確にしなければならない点がある.さらに,それらを明確にした上で,診断基準としての信頼性,妥当性を評価する研究も必要である.


エビデンス
  • 股関節痛を認める201例(股関節症114例,対照87例)を分析した.対照群は股関節痛のある患者群で,43%が関節リウマチ,残りは他の疾患.Clinicalcriteriaを,(1)内旋15°以上で股関節痛があり,股関節の朝のこわばりが60分以下で,50歳以上,(2)内旋15°以下で,ESR 45mm/時以下か,屈曲115°以下,のどちらかを満たすものと定義し,Clinical + radiographic criteriaを,股関節痛と,(1)ESR<20mm/時,(2)大腿骨頭あるいは臼蓋の骨棘形成,(3)関節裂隙の狭小化,の3項目のうち2項目以上陽性のものと定義したところ,Clinicalcriteriaでは,感度86%,特異度75%であり,ある程度感受性は高いが,特異性に欠けていた.Clinical + radiographic criteriaでは,感度89%,特異度91%であった.大腿骨頭あるいは臼蓋の骨棘形成がもっともよい鑑別のcriteriaであった(HF11871, EV level C-II).
  • 変形性股関節症の診断基準として主に使われている基準(K/L grade,Croft grade,MJS,ACR基準,Laneのインデックスなど)の妥当性,信頼性,適用性を,種々の論文をレビューし比較しところ,もっとも信頼性が高く,股関節痛や可動域制限などの症状との関連がもっとも高いのはMJSであった.K/L gradeとLaneのインデックスは,それに次ぎ信頼性が高かった.Croft gradeはMJS,K/L gradeより信頼性と妥当性の点で低く,ACR基準はさらに低かった(HF11915, EV level C-Ia).
  • 静脈性尿路造影を受けた60〜75歳の男性1,315人のX線像から,7つの指標((1)外側関節裂隙幅,(2)上方関節裂隙幅,(3)内側関節裂隙幅,(4)MJS,(5)最大骨硬化幅,(6)骨棘サイズ,(7)Croft grade)を調べたところ,MJS(≦1.5mm)が他の指標ともっとも強く関連し,股関節痛とはMJS(≦1.5mm),骨硬化幅(≧6.5mm)とCroft grade(≧grade 4)が関連していた.検者間,検者内再現性の良好なものはMJSであった.これらよりMJSがもっともよい指標であるといえる(HF11869, EV level C-Ib).
  • Copenhagenに住む3,807人を対象に,股関節痛とX線上の所見との関連を調査した.股関節症の診断基準としてK/L grade(≧2),Croft grade(≧3),MJS(≦2.0mm)を採用し,股関節痛との関連を比較したところ,股関節痛ともっともよく相関したのはMJS(≦2.0mm)であった(HF10117, EV level C-Ib).
  • K/L grade,MJS,Croft gradeの信頼性と妥当性を検討するために,Rotterdamに住む3,585人を対象にX線像,股関節痛,下肢機能障害,THAへの移行の有無を調査した.症状との関連はK/L gradeとMJSで高く,THAのもっともよい予測因子となるのはK/L gradeであり,K/L gradeがもっともよい指標であった(HF10230, EV level C-Ib).


文献

1) HF11871 Altman R, Alarcón G, Appelrouth D, Bloch D, Borenstein D, Brandt K, Brown C, Cooke TD, Daniel W, Feldman D, et al. The American College of Rheumatology criteria for the classification and reporting of osteoarthritis of the hip. Arthritis Rheum. 1991;34(5):505-14.
2) HF11915 Reijman M, Hazes JM, Koes BW, Verhagen AP, Bierma-Zeinstra SM. Validity, reliability, and applicability of seven definitions of hip osteoarthritis used in epidemiological studies: a systematic appraisal. Ann Rheum Dis. 2004;63(3):226-32.
3) HF11869 Croft P, Cooper C, Wickham C, Coggon D. Defining osteoarthritis of the hip for epidemiologic studies. Am J Epidemiol. 1990;132(3):514-22.
4) HF10117 Jacobsen S, Sonne-Holm S, Soballe K, Gebuhr P, Lund B. Radiographic case definitions and prevalence of osteoarthrosis of the hip: a survey of 4 151 subjects in the Osteoarthritis Substudy of the Copenhagen City Heart Study. Acta Orthop Scand. 2004;75(6):713-20.
5) HF10230 Reijman M, Hazes JM, Pols HA, Bernsen RM, Koes BW, Bierma-Zeinstra SM. Validity and reliability of three definitions of hip osteoarthritis: cross sectional and longitudinal approach. Ann Rheum Dis. 2004;63(11):1427-33.
6) HJ11346 吉村典子,森岡聖次,笠松隆洋,ほか.地域住民の股関節間隙値の性,年齢別分布.日本骨形態計測学会雑誌.1994;4(2):107-12.
7) HJ11596 斎藤 昭,菊地臣一.変形性股関節症の疫学―1,601例の病院受診者に対する調査.臨床整形外科.2000;35(1):47-51.


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