ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第2章 病態


Research Question 5
変形性股関節症と骨盤傾斜・脊椎アライメントは関連があるか

推奨
Grade B 臼蓋形成不全による変形性股関節症では骨盤前傾と腰椎前弯の増強が認められる.
Grade B 高齢発症(およそ60歳以上)の変形性股関節症では骨盤後傾と腰椎後弯を認める例が多い.


解説
臼蓋形成不全による変形性股関節症(股関節症)では,病期や年齢にかかわらず骨盤前傾が強く(HF11689HJ10317HJ10596HJ10603HJ10886),腰椎の前弯の増強(HF11689HJ10317HJ10886)や屈曲と側屈の可動域減少の関与が示されている(HJ10070).また,股関節局所の変化では大腿骨頭の骨棘形成(HJ10516)やtent osteophyte(臼蓋内側の骨棘形成)(HJ10595)が強いほど骨盤前傾が強いことが示されている.
およそ60歳以上の高齢発症の股関節症では腰椎後弯と骨盤後傾が強いことを示した複数の報告があり,骨盤後傾に伴う臼蓋被覆[Sharp角,vertical center anterior(VCA)角]の減少と股関節症発症との関連が示されている(HF11689HJ10317HJ10133HJ10318).また,骨盤後傾例では臥位と立位における骨盤後傾の差が大きいことも報告されている(HJ11007).


エビデンス
  • 末期股関節症150例と対照150例における脊椎骨盤のX線学的検討で,腰椎前弯角は股関節症群(39.6±14.0°)で対照群(35.2±13.2°)より有意に大きく,仙骨傾斜角も股関節症群(41.4±10.3°)では対照群(31.2±10.5°)より有意に大きかった.また,脚長差は股関節症群(12.2±9.3mm)で対照群(3.3±4.6mm)より有意に大きく,骨盤側方傾斜も股関節症群(1.6±2.1°)が対照群(0.8±1.2°)より有意に大きかった.股関節症群における腰椎前弯角や仙骨傾斜角はSharp角と正の相関を有し(r=0.309,0.380),骨盤形態異常を有する症例では腰椎前弯の減少に伴い,臼蓋被覆が小さくなっていた(HF11689, EV level R-III).
  • 一次性の股関節症36例,二次性の股関節症215例,対照(腰痛で受診した症例)721例における年齢別の脊椎骨盤のX線学的検討で,二次性の股関節症群では腰椎前弯角と仙骨傾斜角は対照群より大きく,腰椎前弯角と仙骨傾斜角は年齢とともに減少していた.また,骨頭中心より重心線までの距離は一次性の股関節症群(10.3mm)が対照群(-7.2mm)や二次性の股関節症群(-11.0mm)より大きい(重心線が前方に移動する)ことが認められた(HJ10317, EV level R-III).
  • 前・初期の二次性の股関節症76例と対照15例の股関節X線像による検討.骨盤傾斜(土井口らの方法)は股関節症群(13.5±6.5°)では対照群(17.7±5.9°)より有意に小さく,骨盤は前傾していた(HJ10596, EV level R-IV).
  • 股関節痛や腰痛を有する250例について腰椎前弯角と腰仙角,およびCobb角を年齢別にX線学的に検討.股関節正常群では腰椎前弯角と腰仙角は加齢とともに有意に減少するが,股関節症群では腰椎前弯角と腰仙角の加齢による変化は認められなかった.また,股関節症群のうち2cm以上の脚長差を有する症例では全例にCobb角5°以上の側弯を認めた(HJ10603, EV level R-IV).
  • 二次性の股関節症53例(前・初期群:27例,進行期・末期群:26例)について,年齢を一致させた対照28例(30歳代:13例,50歳代:15例)とX線学的に検討した.腰椎前弯角は対照群で50歳代(29.4°)が30歳代(39.6°)より有意に小さいのに対して,股関節症の腰椎前弯角は進行期・末期群(34.7°)と前・初期群(39.4°)には差は認められず,骨盤傾斜角(pelvic angle)も進行期・末期群(28.3°)と前・初期群(24.3°)に有意差は認められなかった.股関節症では病期が進行しても腰椎前弯は保たれる(HJ10886, EV level R-IV).
  • 股関節症と診断され,5年以上の追跡調査期間に股関節症が進行した60例(進行群)と股関節症が進行しなかった40例(非進行群)について腰椎可動域を比較検討.進行群では腰椎の屈曲と側屈の可動域減少が認められた(HJ10070, EV level R-IV).
  • 末期股関節症69例85関節をdestructiveからhypertrophicまでの4群に分類し骨盤傾斜との関連を検討.骨盤傾斜角(土井口らの方法)はhypertrophic type群(肥大型群:20.8±10.1°)でdestructive type群(破壊型群:32.1±11.0°)やatrophic type群(萎縮型群:36.8±15.9°)より有意に小さく,atrophic type群(萎縮型群:36.8±15.9°)ではnormotrophic type群(正栄養群:25.4±11.5°)よりも有意に大きかった(HJ10516, EV level R-IV).
  • 末期股関節症105例133関節を臼蓋の骨棘形成過程別に分類し骨盤傾斜との関連を検討.骨盤傾斜角(土井口らの方法)はroof osteophyteの形成が強い群で有意に大きく骨盤は後傾し,tent osteophyteの厚みが大きい群で有意に小さく骨盤は前傾していた(HJ10595, EV level R-IV).
  • 二次性の股関節症131例における年齢と病期別の脊椎骨盤のX線学的検討.末期股関節症では骨盤前傾群(31%)と骨盤後傾群(26%)の二極化が認められ,骨盤後傾例では骨盤前傾例より高齢発症の股関節症例が多く認められた(HJ10133, EV level R-IV).
  • 高齢で骨盤後傾を有する13例26関節の自然経過の追跡調査で,仙骨大腿骨頭間距離は股関節症発生群3例6関節(65.00±5.35mm)が股関節症非発生群(34.00±4.53mm)より有意に大きく,股関節症発生群では骨盤後傾が強かった.またVCA角は発生群(17.2±7.3°)が非発生群(30.1±3.0°)より有意に小さかった(HJ10318, EV level R-IV).
  • 股関節症79例129関節の立位と臥位における骨盤X線像の変化を検討.骨盤傾斜角は後傾群(臥位:8.1°,立位:9.7°)では前傾群(臥位:4.7°,立位:2.6°)や中間群(臥位:4.4°,立位:3.3°)より有意に大きく,骨盤後傾例では立位と臥位における骨盤後傾の差が増大していた(HJ11007, EV level R-IV).


文献

1) HF11689 Yoshimoto H, Sato S, Masuda T, Kanno T, Shundo M, Hyakumachi T, Yanagibashi Y. Spinopelvic alignment in patients with osteoarthrosis of the hip: a radiographic comparison to patients with low back pain. Spine. 2005;30(14):1650-7.
2) HJ10317 中村泰裕,船山完一,北 純,田中正彦,藤井玄二.Hip-spine syndrome腰椎・骨盤・股関節の姿肢位と変形性股関節症.Hip Joint. 2001;27:145-50.
3) HJ10596 岡崎成弘,岡野邦彦,土井口祐一,高木基行,進藤裕幸.骨盤傾斜と股関節症.臼蓋形成不全を有する患者における骨盤傾斜の検討.Hip Joint. 2005;31:196-9.
4) HJ10603 帖佐悦男,坂本武郎,渡邊信二,前田和徳,濱田浩朗,関本朝久.骨盤傾斜と股関節症.Hip-spine syndrome Secondary hipspine syndromeにおける骨盤・脊椎アライメント.Hip Joint. 2005;31:235-8.
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7) HJ10516 千葉 恒,岡野邦彦,榎本 寛,土井口祐一,川原奈津美,進藤裕幸.骨盤傾斜と股関節症.変形性股関節症における大腿骨頭の骨棘形成と骨盤傾斜の関連.Hip Joint. 2004;30:298-301.
8) HJ10595 土井口祐一,岡野邦彦,進藤裕幸.変形性股関節症における臼蓋骨棘形成と骨盤傾斜との関連.Hip Joint. 2005;31:192-5.
9) HJ10133 中村泰裕,船山完一,北 純,ほか.腰椎・股関節X線形態像の相関(第3報).Hip Joint. 1997;23:321-5.
10) HJ10318 酒井紀典,梅原隆司,武田芳嗣,中野俊次,高原茂之,木下 勇.骨盤後傾例の自然経過 股関節症性変化の発生について.Hip Joint. 2001;27:151-4.
11) HJ11007 千葉 恒,岡野邦彦,榎本 寛,原田真一,伊藤 茂,土井口祐一,川原奈津美,進藤裕幸.臥位と立位における骨盤傾斜角の比較.整形外科と災害外科.2003;52(3):669-73.


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