ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第2章 病態


Research Question 3
変形性股関節症と関節唇損傷との関連は

推奨
Grade B 股関節痛のある臼蓋形成不全による変形性股関節症の大部分に関節唇損傷を認める.


解説
MRIや関節造影による研究で臼蓋形成不全における関節唇の幅の増大が確認されており,正常股関節の場合と比較して関節唇への荷重負荷が大きいと考えられる(HJ10708HF10109).臼蓋形成不全における関節唇損傷は変形性股関節症(股関節症)の病期のきわめて早い時期から大部分の症例において観察されており,損傷部位は関節唇の前上方から上方に多い(HF10379HJ10103HF11883HF10617).病理学的に関節唇には知覚の受容器である神経終末が存在すること(HF11887HJ11067)を考え合わせると,関節唇損傷は臼蓋形成不全における疼痛の発生に関与する重要な因子と考えられる.ただし,臼蓋形成不全のない股関節において関節唇損傷が股関節症の発症や進行の原因となるかは不明である(HF11868).


サイエンティフィックステートメント
  • 疼痛のある臼蓋形成不全においては前股関節症から関節唇損傷を認めるとする質の高いエビデンスがある(EV level C-Ib).
  • 臼蓋形成不全では骨頭被覆に占める関節唇の割合が大きいとする中等度のエビデンスが複数ある(EV level C-II).


エビデンス
  • 股関節造影を用いて臼蓋形成不全47関節の関節唇形態について検討した.骨性臼蓋が浅くなると関節唇外縁まで含めた臼蓋も浅くなる.臼蓋形成不全の程度が強くなると骨頭被覆に占める関節唇の割合が大きくなる.関節唇断裂群は非断裂群に比較して骨頭被覆に占める関節唇の割合が大きい(HJ10708, EV level C-II).
  • 臼蓋形成不全38例51関節の関節唇をMRIを用いて観察した.臼蓋形成不全では正常より大きな関節唇で骨頭が被覆される.臼蓋形成不全の程度と関節唇の被覆度は相関しない.関節唇による被覆の割合は,どの部位でも臼蓋形成不全のほうが正常股関節より大きかった(HF10109, EV level C-II).
  • 股関節痛のある臼蓋形成不全120関節の股関節鏡所見において,前股関節症の88%に関節唇断裂を認め,部位は前上方と上方が多かった.また前股関節症と初期股関節症の両者で臼蓋軟骨は骨頭軟骨より変性ポイントが有意に高かった.関節唇損傷は臼蓋形成不全に由来する二次性股関節症の疼痛に強く関与していると考えられた(HF10379, EV level C-Ib).
  • 股関節症60関節においてMRIを用いて関節唇を観察した.X線上の股関節症の進行と共に関節唇のMR信号変化のある部位が増加し信号変化の程度も強くなった.形態異常は後上方で程度が強かった.信号異常は前上方で程度が強かった(HJ10103, EV level C-II).
  • 関節症性変化が進んでおらず股関節痛のある臼蓋形成不全29関節に対して手術中に直視下に関節唇の状態を観察した.全例に関節唇損傷を認め,剪断力や臼蓋縁の損傷によって関節不安定性が増して関節唇損傷が発生したと考えられた.骨外ガングリオンは適合性の悪い臼蓋形成不全の程度の強い例で認められた(HF11883, EV level C-III).
  • 股関節鏡手術を施行した78関節において,関節唇断裂群の36%に臼蓋形成不全(CE角25°以下)を,18%にhead-neck offsetの減少(9mm未満)を,29%に骨頭変形を認めた.関節唇断裂の基礎疾患として臼蓋形成不全がもっとも多く,骨性の形態異常も治療の際に考慮すべきである(HF10617, EV level C-III).


文献

1) HJ10708 石濱琢央.臼蓋形成不全股における関節唇形態の研究.岡山医学会雑誌.2004;115(3):203-10.
2) HF10109 Horii M, Kubo T, Inoue S, Kim WC. Coverage of the femoral head by the acetabular labrum in dysplastic hips: quantitative analysis with radial MR imaging. Acta Orthop Scand. 2003;74(3):287-92.
3) HF10379 Noguchi Y, Miura H, Takasugi S, Iwamoto Y. Cartilage and labrum degeneration in the dysplastic hip generally originates in the anterosuperior weight-bearing area: an arthroscopic observation. Arthroscopy. 1999;15(5):496-506.
4) HJ10103 久保俊一,赤木祥範,堀井基行,ほか.変形性股関節症における寛骨臼関節唇放射状MRIによる観察.Hip Joint. 1996;22:107-13.
5) HF11883 Klaue K, Durnin CW, Ganz R. The acetabular rim syndrome. A clinical presentation of dysplasia of the hip. J Bone Joint Surg Br. 1991;73(3):423-9.
6) HF10617 Peelle MW, Della Rocca GJ, Maloney WJ, Curry MC, Clohisy JC. Acetabular and femoral radiographic abnormalities associated with labral tears. Clin Orthop Relat Res. 2005;441:327-33.
7) HF11887 Kim YT, Azuma H. The nerve endings of the acetabular labrum. Clin Orthop Relat Res. 1995;(320):176-81.
8) HJ11067 道中泰典,川上照彦,森沢 豊,ほか.変形性股関節症における関節唇の変化神経染色による検討.中部日本整形外科災害外科学会雑誌.1993;36(4):1075-6.
9) HF11868 Abe I, Harada Y, Oinuma K, Kamikawa K, Kitahara H, Morita F, Moriya H. Acetabular labrum: abnormal findings at MR imaging in asymptomatic hips. Radiology. 2000;216(2):576-81.


書誌情報