ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第2章 病態


Research Question 2
変形性股関節症による疼痛に関連する因子は何か

推奨
Grade A 関節裂隙の狭小化は変形性股関節症による疼痛に関連する因子である.
Grade B 臼蓋形成不全においてCE角は疼痛に関連する因子である.


解説
Kellgren and Lawrence grade(K/L grade)などの病期分類において,進行すると疼痛を有するようになる.特に関節裂隙の狭小化が疼痛と強く関連しているという複数の報告が海外からなされている(HF10117HF10352HF11649).
わが国においては臼蓋形成不全を基盤とした変形性股関節症(股関節症)の占める割合が多いが,股関節痛に関して日本人を母集団とした大規模な調査に基づく報告がきわめて少ない.日本人にかぎった調査ではBMIや性別や年齢などの従来疼痛に関連すると考えられていた因子と疼痛との関連が認められず,疼痛に関連した因子はCE角の低値であったとしている(HJ11596).CE角が小さいと臼蓋外縁における接触圧勾配が高くなることを力学的に裏づけ,実際に接触圧勾配が股関節症の臨床的なスコアとも相関したとする報告もある(HF11449).


サイエンティフィックステートメント
  • 股関節症において,X線上の関節裂隙の狭小化は股関節痛と強く相関していたとする質の高いエビデンスが複数ある(EV level C-Ib).
  • 股関節症において,X線上での関節症性変化が進行すると疼痛を有する率が高くなるとする質の高いエビデンスがある(EV level C-Ib).
  • 日本人の臼蓋形成不全において,疼痛のある群のCE角が有意に小さかったとする質の高いエビデンスがある(EV level C-Ib).
  • 日本人の臼蓋形成不全において,疼痛のある群と疼痛のない群との間で性別,年齢,BMIの有意差は認められなかったとする質の高いエビデンスがある(EV level C-Ib).


エビデンス
  • 白人4,151例を対象とした調査.男女ともに最小関節裂隙2mm以下でのカットオフが股関節痛と強く関連していた.一方,関節裂隙以外の骨棘や骨嚢胞や骨硬化を加味したK/L grade,Croft gradeは最小関節裂隙2mm以下でのカットオフより股関節痛との関連は弱かった(HF10117, EV level C-Ib).
  • 白人女性5,928例を対象とした調査.745例(12%)に股関節症の所見を認め,約半数の347例が股関節痛あり,396例が股関節痛なしであった.8年後に64.6%においてX線上の股関節症変化が進行した.関節裂隙の狭小化は股関節痛ありで53.7%,股関節痛なしで30.7%に認めた.股関節痛ありの女性で下肢機能障害が悪化していた(HF10352, EV level C-Ib).
  • イギリスの無作為抽出203例についての調査.X線上severe OA(K/L grade 4点以上,または関節裂隙1.5mm未満)は疼痛あり群に多く認められた.しかしmild or moderate OA(K/L grade 2点以上,または関節裂隙2.5mm未満)は疼痛あり群の55%,疼痛なし群の56%に認められ,あまり差がなかった.男性においてはsevere OA群が疼痛を有する率は高いが,mild or moderate OA群では疼痛とあまり関連しない.若年男性ではsevere OAでも22%しか疼痛を有していなかった.男性でのmild or moderate OAに対する疼痛のオッズ比は1.4であった.一方,女性ではmild or moderate OAに対する疼痛のオッズ比は2.8であった(HF11649, EV level C-Ib).
  • 日本人1,601例の調査.臼蓋形成不全例では疼痛あり群において有意にCE角が小さかった(疼痛あり群11.7°,疼痛なし群17.1°).性別,年齢,BMIでは疼痛あり群と疼痛なし群間での有意差は認められなかった.X線上での前股関節症と比較して,進行期や末期の股関節症の症例は有意に疼痛を有していた(HJ11596, EV level C-Ib).
  • 56例の臼蓋形成不全と正常146例の臼蓋の接触圧勾配を単純X線像からコンピュータで計算したところ,CE角と接触圧勾配は相関を示し,CE角が小さいと接触圧勾配は高くなっていた.またHarris hip scoreと接触圧勾配の間にも負の相関を認めた.接触圧勾配から計算するとCE角20°以下では臼蓋外側縁にかかるストレスが増えると考えられる(HF11449, EV level C-II).


文献

1) HF10117 Jacobsen S, Sonne-Holm S, Søballe K, Gebuhr P, Lund B. Radiographic case definitions and prevalence of osteoarthrosis of the hip: a survey of 4 151 subjects in the Osteoarthritis Substudy of the Copenhagen City Heart Study. Acta Orthop Scand. 2004;75(6):713-20.
2) HF10352 Lane NE, Nevitt MC, Hochberg MC, Hung YY, Palermo L. Progression of radiographic hip osteoarthritis over eight years in a community sample of elderly white women. Arthritis Rheum. 2004;50(5):1477-86.
3) HF11649 Birrell F, Lunt M, Macfarlane G, Silman A. Association between pain in the hip region and radiographic changes of osteoarthritis: results from a population-based study. Rheumatology (Oxford). 2005;44(3):337-41. Epub 2004 Nov 9.
4) HJ11596 斎藤 昭,菊地臣一.変形性股関節症の疫学―1,601例の病院受診者に対する調査.臨床整形外科.2000;35(1):47-51.
5) HF11449 Pompe B, Daniel M, Sochor M, Vengust R, Kralj-Iglic V, Iglic A. Gradient of contact stress in normal and dysplastic human hips. Med Eng Phys. 2003;25(5):379-85.


書誌情報