ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

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第2章 病態


Research Question 1
変形性股関節症に特徴的な骨形態は

推奨
Grade B 大腿骨頚部の前捻増大や頚部の短縮は,臼蓋形成不全による変形性股関節症の特徴的骨形態である.
Grade C 臼蓋前壁および後壁の低形成,腸骨翼の形態異常は,臼蓋形成不全による変形性股関節症の特徴的骨形態である.
Grade B 一次性変形性股関節症とされる症例においても軽微な形成不全を有する例が多い.


解説
日本人の臼蓋形成不全による変形性股関節症(股関節症)における近位大腿骨形態の特徴として,頚部前捻角が大きく(HJ11529HJ11759HF11822HJ11511),頚部が短い(HJ10789HF11822)ことをCT像の計測で示した複数の報告がある.前捻角の増大には,頚部自体よりむしろ小転子以遠の回旋異常が寄与している(HJ11529HF11822).頚部平面における頚体角は正常例に比し必ずしも大きくはない(HJ10789HF11822).臼蓋側形態については,日本人の前股関節症と初期股関節症にかぎって詳細に検討した報告は少ないが,水平断面における腸骨翼前方開角の異常(内すぼまり状態)などの骨盤全体の形態異常を指摘する報告がある(HJ11817).欧米のCT像による検討では臼蓋前壁,後壁とも低形成を認め,臼蓋前捻角については必ずしも大きいとはされていない(HF11881HF11266).
わが国における一次性股関節症の定義は,「過去に股関節疾患の既往がなく,X線像で骨頭・頚部の形態異常を認めず,CE角19°以上,Sharp角45°以下,臼蓋荷重部傾斜角15°以下(または未満)のもの」としている報告が多い(HJ11719HJ10262HJ10124).この定義による日本人における一次性股関節症の頻度は1〜4%程度との報告が多いが,そのような症例にも軽微な臼蓋形成不全などの何らかの形態学的異常が認められている(HJ11719HJ10262HJ10124).一次性股関節症が多いとされる欧米においてもpistol-grip deformityなどの何らかの形態学的異常があることが多いとされ(HF10598),真の一次性股関節症の骨形態や,さらには一次性股関節症の存在そのものについても必ずしも明らかにされていない.


エビデンス
1)大腿骨近位部形態
  • 進行期・末期股関節症87例110関節と対照18例36関節の3次元CT像による計測で,大腿骨頚部前捻角は股関節症群(40.5±15.3°)が対照群(34.0±7.5°)より有意に大きく,幅広い分布を示した.頚部過前捻の影響は小転子下にまで及んでいた(HJ11529, EV level C-II).
  • 前股関節症から末期股関節症までの股関節症200例305関節の大腿骨頚部前捻角をCT像で計測したところ25.2±14.1°で,健側15.4±9.7°(70関節)より有意に大きかった(HJ11759, EV level C-II).
  • 脱臼股を含む臼蓋形成不全の日本人女性154関節と年齢をマッチさせた対照日本人女性53関節(大腿骨頭壊死や関節リウマチで形態変化のない例)の大腿骨各種パラメータをCT像再構築3次元モデルで計測.頚部短縮(形成不全群45.2±5.9mm,対照群47.7±4.8mm),前捻増大(形成不全群42.3±16.0°,対照群35.6±13.7°)などの形態異常を認めた.前捻増大は頚部ではなく小転子・峡部間で生じていた.頚部平面における頚体角は両群間に有意差を認めなかった(形成不全群124.5±10.1°,対照群124.3±6.8°)(HF11822, EV level C-II).
  • 日本人正常大腿骨(解剖学教室所蔵の外見上異常のない標本)100本と先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全による二次性股関節症43例60関節に対しCT像を撮像.股関節症例では大腿骨頚部前捻角が有意に大きかった(HJ11511, EV level C-II).
  • 人工股関節全置換術(THA)適応の股関節症患者86例109関節を正常女性ボランティア18例36関節とCT像の計測で比較.股関節症群では頚部長が有意に短かく,頚体角は有意差のない群と大きい群があった(HJ10789, EV level C-II).

2)臼蓋形態
  • 前股関節症と初期股関節症の女性31例60関節を婦人科受診女性43例86関節と単純X線像,CT像で比較.股関節症例においてはCE角,Sharp角の異常に加え両上前腸骨棘間距離が短い,水平断面での腸骨翼と前額面とのなす角度が大きいなどの異常を認めた(HJ11817, EV level C-II).
  • ノルウェーの施設でCE角20°未満の臼蓋形成不全成人患者14例23関節を対象にCT像を撮影.臼蓋は前方,後方共に対照群(正常成人女性40関節)に比し低形成であったが,臼蓋前捻角(23.2±5.9°)は対照群(21.5±5.1°)と有意差を認めなかった(HF11881, EV level C-II).
  • アメリカの施設で治療歴のない臼蓋形成不全女性24例39関節(3〜33歳)を片側股関節疾患女性(4〜22歳)の健側とCT像で比較.臼蓋形成不全群の前捻角は19.7±6.0°で対照群18.1±4.9°と有意差はなかったが,臼蓋形成不全群15歳以上の前捻角は15歳未満の前捻角に比し有意に大きかった(HF11266, EV level C-II).

3)一次性股関節症
  • 股関節症と診断された564例762関節のうち,一次性と考えられた12例17関節(2.2%)を対照群(大腿骨頚部骨折健側)とX線学的に比較.上方関節裂隙狭小型ではSharp角,臼蓋荷重部外方傾斜が有意に大きく,内側関節裂隙狭小型では臼蓋荷重部外方傾斜,頚体角が有意に小さかった(HJ11719, EV level C-II).
  • 一次性股関節症12例14関節をX線像で計測.すべての計測値で骨粗鬆症検診207例の年代別平均値±1SD以内に入ったのは21%のみであった(HJ10262, EV level C-II).
  • 股関節症と診断された310例中,一次性股関節症と診断された12例(3.9%)13関節をX線像で二次性股関節症と比較.一次性股関節症例のCE角は正常平均の-1SD〜-2SDのものが多く,高齢発症や骨棘形成に乏しいなどの点でも-2SD〜-3SDの軽度形成不全例と類似していた(HJ10124, EV level C-II).
  • カナダの施設でのTHA症例200例中,一次性股関節症と考えられた125例について術前2方向X線像と術中所見を検討.全例でpistol-grip deformityを認め,頚部前方および臼蓋前方の何らかの変化(骨棘,骨硬化,骨嚢腫)を全例で認めた(HF10598, EV level C-III).


文献

1) HJ11529 三浦利則,松本忠美,西野 暢,兼氏 歩,富田勝郎.日本人変形性股関節症の大腿骨形態計測.日本臨床バイオメカニクス学会誌.1998;19:177-81.
2) HJ11759 横畠由美子.CT像を中心にした変形性股関節症における股関節形態の検討.東京女子医科大学雑誌.1989;59(9):1131-40.
3) HF11822 Noble PC, Kamaric E, Sugano N, Matsubara M, Harada Y, Ohzono K, Paravic V. Three-dimensional shape of the dysplastic femur: implications for THR. Clin Orthop Relat Res. 2003;(417):27-40.
4) HJ11511 萩原雅司.日本人大腿骨近位部形態のCTによる検討. 日本整形外科学会雑誌.1995;69(11):1147-57.
5) HJ10789 小川原雅隆,兼氏 歩,松本忠美.日本人変形性股関節症における大腿骨髄腔形態の特徴. コンピューター支援設計法による大腿骨頸部及び遠位髄腔の形態解析.金沢医科大学雑誌.2000;25(3):242-50.
6) HJ11817 久米田秀光,船山完一,宮城島純.成人臼蓋不全股の骨盤形態の特徴Inward Wing CT像について.臨床整形外科.1986;21(1):67-75.
7) HF11881 Anda S, Terjesen T, Kvistad KA. Computed tomography measurements of the acetabulum in adult dysplastic hips: which level is appropriate? Skeletal Radiol. 1991;20(4):267-71.
8) HF11266 Kim SS, Frick SL, Wenger DR. Anteversion of the acetabulum in developmental dysplasia of the hip: analysis with computed tomography. J Pediatr Orthop. 1999;19(4):438-42.
9) HJ11719 島田恭光,岸本郁男,今井 秀,ほか.いわゆる一次性変形性股関節症のX線学的検討.中部日本整形外科災害外科学会雑誌.1986;29(1):523-6.
10) HJ10262 岡野 徹,豊島良太,萩野 浩,大塚哲也.一次性変形性股関節症の解剖学的異常.Hip Joint. 2000;26:250-2.
11) HJ10124 玉井健介,白井康正,武内俊次,ほか.いわゆる一次性股関節症の検討.Hip Joint. 1997;23:23-6.
12) HF10598 Tanzer M, Noiseux N. Osseous abnormalities and early osteoarthritis: the role of hip impingement. Clin Orthop Relat Res. 2004;(429):170-7.


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