ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第1章 疫学・自然経過


Research Question 8
変形性股関節症の自然経過は

推奨
Grade C 進行期および末期の変形性股関節症のなかには,十分な骨棘形成がみられると,疼痛やX線像の改善する例がある.
Grade C 両側の末期変形性股関節症では,片側に人工股関節全置換術を行った場合,術後1年で反対側のX線像が改善し,術後5年で関節裂隙が開大する可能性が20%程度ある.


解説
自然経過を対照群と比較する研究は難しく,すべての研究がエビデンスレベルの高くない分析的横断研究で,わが国からの和文文献であった.したがって本リサーチクエスチョンの推奨では,わが国で80%以上を占める亜脱臼,外反股,臼蓋形成不全を基盤(前股関節症)とする二次性の変形性股関節症(股関節症)について記載した.


サイエンティフィックステートメント
  • 進行期および末期の股関節症のなかには臼蓋に骨棘(roof osteophyte)が形成された場合には疼痛の軽減や臼蓋形成不全の改善するものがある.また十分なroof osteophyte,capital drop,double floorなどが存在する骨棘形成例では人工股関節全置換術(THA)を待機できる可能性があり,自然経過では約1割に疼痛の自然寛解がみられたとする中等度のエビデンスがある(EV level R-II).
  • 両側末期股関節症では,片側にTHAを行った場合,術後1年で反対側のX線像が改善する可能性があり,術後5年で関節裂隙の開大する可能性が20%程度あるとする中等度のエビデンスがある(EV level R-IV).


エビデンス
  • 初診時に股関節痛を有する股関節症で,手術を施行せずに10年以上の経過観察を行った52例76関節(前21関節,初期31関節,進行期18関節,末期6関節)の検討では,初診時に前・初期股関節症であった症例の40.4%,および進行期・末期股関節症であった症例の66.7%で変形の進行がみられた.進行期・末期股関節症における股関節痛の軽減群に,臼蓋外上方の骨棘形成がみられた.進行期・末期股関節症のなかには臼蓋に骨棘が形成され,疼痛が軽減する症例もあった(HJ11483, EV level R-IV).
  • 10年以上の経過観察が可能であった進行期・末期股関節症15例17関節の検討では,経過中に十分なroof osteophyte,capital drop,double floorなどの骨棘形成や,大腿骨頚部が短縮し寛骨臼下縁が小転子で支持された片側の進行期・末期股関節症ではTHAを待機できる可能性があった(HJ10111, EV level R-IV).
  • 保存療法にて10年以上経過した股関節症31例55関節(前17関節,初期23関節,進行期12関節,末期3関節)の調査では,前股関節症は26%に病期の進行を認め,初期股関節症では78%に変形の進行を認めた.進行期と末期股関節症で,症状の進行がなく10年以上の経過観察が可能な例では,roof osteophyteが形成され,臼蓋形成不全が改善されるものが多かった(HJ11477, EV level R-IV).
  • 先天性股関節脱臼および臼蓋形成不全に基づく二次性股関節症167例197関節(進行期36関節,末期161関節)において,進行期・末期股関節症の自然経過では,約1割の症例に疼痛の自然寛解がみられ,初診後1年間の経過観察が薦められた.関節面の適合性の改善,roof osteophyteやcapital dropの形成,骨硬化像の増強などの骨形成変化,remodelingは,疼痛の改善に関連した(HJ11624, EV level R-II).
  • 前股関節症と初期股関節症41例54関節の自然経過観察において,前股関節症の39関節ではX線学的に病期の進行する関節と進行しない関節が認められ,初期股関節症では6.7%のみが初期にとどまっていた.進行期から末期へ進行したのは35%であり,進行期にとどまった症例のなかにはX線所見の改善する症例があった.末期股関節症で,末期のままであったものは82%,進行期へ改善したものは18%であった.両側の股関節症で片側にTHAを施行して2年以上経過観察が可能であった56例の調査では,反対側の病期の進行を引き延ばすことがある程度可能であった(HJ10903, EV level R-IV).
  • 60歳未満の両側進行期あるいは末期股関節症で,片側のTHAの術後経過が良好な5年以上の追跡調査が可能であった33例における,非手術側の臨床症状およびX線所見の経過観察によれば,5年でX線所見の進行は67%,不変は15%,改善は18%であった.改善例ではTHA後,半年から1年で反対側の関節裂隙の拡大などの改善所見がみられた.X線所見の悪化例の半数以上では股関節痛の改善が1/3に認められ,X線像と疼痛の間には明らかな関連はなかった.両側股関節症に対する片側THA施行例で,反対側の病期の進行を引き延ばすことは,症例により可能であった(HJ11717, EV level R-IV).


文献

1) HJ11483 武田浩一郎,菊地臣一,佐藤信也,ほか.変形性股関節症の自然経過―10年以上の追跡調査.日本整形外科学会雑誌.1995;69(2):s427
2) HJ10111 赤沢啓史,花川志郎,三谷 茂,ほか.進行期・末期変股症の自然経過(10年以上).Hip Joint. 1996;22:352-5.
3) HJ11477 野沢雅彦,山内裕雄,広瀬友彦,ほか.変形性股関節症長期自然経過例の検討.日本整形外科学会雑誌.1995;69(2):s12.
4) HJ11624 海老原克彦,五十嵐勇人,種子田斎,ほか.変形性股関節症(進行期および末期)の自然経過.Hip Joint. 1989;15:98-101.
5) HJ10903 奥村秀雄,中村孝志.変形性股関節症―亜脱臼性股関節症の自然経過.整形外科.1994;45(8):790-6.
6) HJ11717 浅井富明,長屋郁郎,衛藤義人.両側変形性股関節症の長期経過観察.中部日本整形外科災害外科学会雑誌.1985;28(4):1540-1.


【参照】
第6章 人工股関節全置換術(THA) Research Question 1 THAはQOLの向上に有効か
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