ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

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第1章 疫学・自然経過


Research Question 7
変形性股関節症の進行の予測因子は何か

推奨
Grade B 病期として,Kellgren and Lawrence gradeが2以上は,変形性股関節症の進行の予測因子である.
Grade B 股関節痛は,変形性股関節症の進行の予測因子である.
Grade C 股関節屈曲制限は,変形性股関節症の進行の予測因子である.
Grade C atrophic type(萎縮型)は,変形性股関節症の進行の予測因子である.


解説
進行の予測因子に関しては,主に一次性の変形性股関節症(股関節症)を対象とした外国からの文献が多く,わが国からの文献は少なかった.股関節症の進行に関する研究では,人工股関節全置換術(THA)(HF10433HJ10491HF10413HF10239HF10320HF10352)あるいは関節裂隙幅(joint space width:JSW)の狭小化をエンドポイントとしているものが多かったが,特にTHAの適応に関しては国や施設により相違があるため,バイアスが生じている可能性がある.


サイエンティフィックステートメント
  • Kellgren and Lawrence grade(K/L grade)2以上は,股関節症の進行の予測因子であるとする中等度のエビデンスが複数ある(EV level R-IV).
  • 股関節痛は,股関節症の進行の予測因子であるとする中等度のエビデンスが複数ある(EV level R-II,IV).
  • 股関節屈曲制限は,股関節症の進行の予測因子であるとする中等度のエビデンスがある(EV level R-II).
  • 萎縮型の股関節症は,股関節症の進行の予測因子であるとする中等度のエビデンスがある(EV level R-II,IV).


エビデンス
  • Rotterdam studyで,K/L grade≧1の55歳以上を対象にした1,904例の調査によれば,X線学的に股関節症の進行は13.1%に認められ,35.8%はTHAにいたった.K/L gradeは股関節症の進行の強い予測因子であった.20%以上の股関節屈曲制限はオッズ比が3.1で,K/L grade 2以上かつ股関節痛が存在しているときはオッズ比が24.3であった(HF10413, EV level R-II).
  • アメリカリウマチ学会で定義された一次性股関節症のうち,歩行可能な40歳以上の外来患者で6ヵ月以上の股関節痛の既往があり,VASが30mm以上で,前の月に少なくとも14日間の疼痛があった505例を対象とした2年間の調査によると,THA施行率は37.4%であった.X線学的にK/L grade 4の患者のオッズ比は5.3,VASが47mm以上の痛みのある患者のオッズ比は2.2,非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)を必要とすることはオッズ比が1.5で,THAの予測因子であった.さらにこれらのうち2つの要素が存在する場合はオッズ比が3.0,3つの要素が存在する場合はオッズ比が5.6であった(HF10239, EV level R-II).
  • 股関節症にTHAを行った99例の,反対側の股関節における関節裂隙狭小化(joint space narrowing:JSN)の進行に関する調査では,K/L gradeが2より大きいと,より速くJSNが進行した.調査開始時JSW,年齢,性別,体重,身長,BMI,股関節痛はJSNの急速な進行のリスクファクターではなかった(HF10320, EV level R-IV).
  • アメリカでの骨粗鬆症骨折研究から,65歳以上の閉経後の白人女性745例を対象とした調査によると,疼痛のある股関節のうち23.6%はTHAにいたったが,疼痛のない股関節では2.7%であった.疼痛のある股関節のうち最小関節裂隙幅が8年間で0.5mm以上減少した関節は53.7%であり,疼痛のない股関節では30.7%であった(HF10352, EV level R-II).
  • フランスでの,股関節症に対してTHAを行った患者61例69関節のX線学的なJSNの進行について評価した調査では,JSNの急速な進行,高齢者,骨棘の欠損はTHAにいたる主要なファクターであった.萎縮型股関節症の存在は年間平均狭小化率を増加させたが,hypertrophic type(肥大型)の股関節症は変化させなかった(HF10433, EV level R-IV).
  • 両側進行期以上の股関節症で片側のTHA施行後,2年以内に反対側にもTHAを行った手術群36例と,5年以上手術を施行しなかった非手術群31例の比較検討における,反対側が早期にTHAにいたる危険因子の調査によると,早期に反対側にTHAを要したのは萎縮型が多く,5年以上手術不要であったのは大多数が肥大型であった(HJ10491, EV level R-IV).
  • 3施設において2年以上観察した有症状の股関節症136例192関節を対象とした,大腿骨頭の移動と骨反応パターンによる予後評価の研究.大腿骨頭の上方への移動,萎縮型の骨反応,高齢発症の女性と,X線所見の急速な進行が関係あった.進行との関連を示さなかった項目は,不定型,内方,軸方向への移動,protrusio変形,中等度の股関節症(K/L grade 2),BMI,紹介時年齢,症状の持続期間,結節性変化の存在,多発性の関節症性変化,Forestier病,軟骨石灰化症などであった(HF10189, EV level R-II).
  • 40歳代の両側二次性股関節症62例中,1年以上追跡可能であった32例の,特に非手術側に及ぶ影響についての検討.両側の進行期と末期例において,手術施行群の非手術側と自然経過群とを比較すると,両群とも約半数は悪化し,2群間に有意差はなかった.手術施行例の非手術側において,骨頭が球形で,萎縮骨頭の進行期股関節症の予後は不良であった(HJ11802, EV level R-IV).


文献

1) HF10413 Reijman M, Hazes JM, Pols HA, Bernsen RM, Koes BW, Bierma-Zeinstra SM. Role of radiography in predicting progression of osteoarthritis of the hip: prospective cohort study. BMJ. 2005;330(7501):1183. Epub 2005 May 13.
2) HF10239 Gossec L, Tubach F, Baron G, Ravaud P, Logeart I, Dougados M. Predictive factors of total hip replacement due to primary osteoarthritis: a prospective 2 year study of 505 patients. Ann Rheum Dis. 2005;64(7):1028-32. Epub 2005 Jan 7.
3) HF10320 Goker B, Doughan AM, Schnitzer TJ, Block JA. Quantification of progressive joint space narrowing in osteoarthritis of the hip: longitudinal analysis of the contralateral hip after total hip arthroplasty. Arthritis Rheum. 2000;43(5):988-94.
4) HF10352 Lane NE, Nevitt MC, Hochberg MC, Hung YY, Palermo L. Progression of radiographic hip osteoarthritis over eight years in a community sample of elderly white women. Arthritis Rheum. 2004;50(5):1477-86.
5) HF10433 Conrozier T, Jousseaume CA, Mathieu P, Tron AM, Caton J, Bejui J, Vignon E. Quantitative measurement of joint space narrowing progression in hip osteoarthritis: a longitudinal retrospective study of patients treated by total hip arthroplasty. Br J Rheumatol. 1998;37(9):961-8.
6) HJ10491 野村隆洋.両側変形性股関節症の人工股関節非手術側の自然経過―萎縮型股関節症が形成型より痛い理由.Hip Joint. 2004;30:72-5.
7) HF10189 Ledingham J, Dawson S, Preston B, Milligan G, Doherty M. Radiographic progression of hospital referred osteoarthritis of the hip. Ann Rheum Dis. 1993;52(4):263-7.
8) HJ11802 後藤英司,安藤御史,松浦 順,ほか.40歳代の両側変形性股関節症の治療―自然経過例と片側手術による非手術側との比較.北海道整形災害外科雑誌.1987;31(1〜2):59-63.


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