ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

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第1章 疫学・自然経過


Research Question 6
肥満,スポーツ,職業,臼蓋形成不全,先天性股関節脱臼の既往は変形性股関節症の発症のリスクファクターか

推奨
Grade A 肥満とスポーツは,欧米人の変形性股関節症の発症のリスクファクターになる.
Grade A 職業(重量物の作業従事者)は変形性股関節症の発症のリスクファクターになる.
Grade B 臼蓋形成不全は,変形性股関節症の発症のリスクファクターになる.
Grade C 先天性股関節脱臼の既往は,変形性股関節症の発症のリスクファクターになる.


解説
肥満,スポーツ,職業のうち,日本人では,重量物作業が変形性股関節症(股関節症)発症のリスクファクターとなることが明らかにされている(HF11378).また,肥満は,欧米人では股関節症発症のリスクファクターとなるが(HF11642),日本人では明解な関係は見出されていない(HF11378).スポーツに関しては,欧米人でレクリエーションレベルに比べてアスリートレベルでは一次性股関節症の発症のリスクとなることが報告されているが(HF10344),日本人では明らかにされていない.臼蓋形成不全(HJ10322HF10010HF10362HF11111)や先天性股関節脱臼の既往(HF11103HJ10077)は,股関節症発症のリスクとなることが報告されている.


サイエンティフィックステートメント
  • 欧米人における肥満(body mass index:BMI25以上)は,BMI依存的に股関節症の発症リスクを上げるという質の高いエビデンスがある(EV level R-I).
  • 日本人における肥満は,股関節症の発症との明確な関係は見出されていないとする中等度のエビデンスがある(EV level R-III).
  • スポーツは,日本人では,股関節症の発症との明確な関係は見出されていないとする中等度のエビデンスがあるが(EV level R-III),欧米人ではリスクファクターとなるという質の高いエビデンスがある(EV level R-I).
  • 職業では,荷重負荷を増大させるような重量物を持つ作業(1日25kg以上を持ち上げる作業)は,股関節症の発症のリスクファクターとなるという質の高いエビデンスがある(日本人についてはEV level R-III,欧米人についてはEV level R-I).
  • 日本人では,就業開始年齢が18歳以前と以降では,より若年での就業が股関節症の発症のリスクファクターとなるという中等度のエビデンスがある(EV level R-III).
  • 臼蓋形成不全は,二次性股関節症の発症のリスクファクターとなるという中等度のエビデンスがある(EV level R-II).
  • 先天性股関節脱臼は,変形性股関節症の発症のリスクファクターになるという中等度のエビデンスがある(EV level R-IV).


エビデンス
  • 人工股関節全置換術を受けた114例と健常対照群114名とを比較したところ,発症のリスクとして,(1)仕事の開始年齢が低いほどリスクが高い,(2)重量物を持ち上げる職業歴(オッズ比:3.6),が明らかにされた(HF11378, EV level R-III).
  • 白人において肥満は,股関節症のリスクファクターであることがsystematicreviewによって明らかにされている.肥満のオッズ比は2である(HF11642, EV level R-I).
  • 職業は,白人においても股関節症の発症のリスクファクターとなることがsystematic reviewによって明らかにされている.オッズ比は3である(HF11386, EV level R-I).
  • スポーツは,白人における股関節症の発症のリスクファクターとなることがsystematic reviewによって明らかにされている(オッズ比:平均2).スポーツの種類ではランニングがもっともリスクが高い(HF10344, EV level R-I).
  • 5,618例の股関節症に対する調査から股関節症の原因疾患として,一次性より二次性(CDH,臼蓋形成不全)が著しく多い(CDHが42%,臼蓋形成不全が41%,一次性は1.5%)(HJ10322, EV level R-IV).
  • Copenhagen City Heart Studyにおいて男性1,429例,女性2,430例を解析した結果,二次性股関節症の発症と,CE角,acetabular depth ratio,femoral head extrusion index値といった臼蓋形成不全に関連したパラメータは有意な相関が認められた(HF10010, EV level R-II).
  • Rotterdamの10,275名の市民のうち,7,983名(78%)を調査した結果,9.3%に股関節症が認められた.股関節症ありの対象中,CE角<25°の症例は12.6%であり,股関節症なしの3.8%に比べて有意に多かった(HF10362, EV level R-II).
  • Copenhagen City Heart Studyにおいて,男性1,533名,女性2,618名を解析した結果,CE角<20°の臼蓋形成不全が,男性51名(5.6%),女性86名(2.3%)に認められた.これらの臼蓋形成不全のうち,10年後に調査可能であった81例(男性27例,女性54例)を縦断観察し股関節症の発症をX線学的に評価した.その結果,CE角と関節裂隙の狭小化には相関は認められたものの(p<0.0001),臼蓋形成不全例では,経年的な関節裂隙狭小の程度は,健常群に比べて高い傾向はあるが,有意なものではなかった(HF11111, EV level R-III).
  • 先天性股関節脱臼(58例)では,65%はSeverin分類I〜II,35%はIII〜IVであり,整復後40年後に,21%は人工股関節全置換術を受けていた(HF11103, EV level R-IV).
  • 先天性股関節脱臼40例48股(男性4例,女性36例)を平均35年間追跡した結果,最終観察時において,前股関節症36股,初期股関節症6股,進行期5股,末期1股であった.Severin分類でIV,V群は最終調査時にすべて初期以降の関節症変化をきたしており,先天性股関節脱臼の非観血的治療後のX線学的不良例は,股関節症の発症のリスクとなった(HJ10077, EV level R-IV).


文献

1) HF11378 Yoshimura N, Sasaki S, Iwasaki K, Danjoh S, Kinoshita H, Yasuda T, Tamaki T, Hashimoto T, Kellingray S, Croft P, Coggon D, Cooper C. Occupational lifting is associated with hip osteoarthritis: a Japanese case-control study. J Rheumatol. 2000;27(2):434-40.
2) HF11642 Lievense AM, Bierma-Zeinstra SM, Verhagen AP, van Baar ME, Verhaar JA, Koes BW. Influence of obesity on the development of osteoarthritis of the hip: a systematic review. Rheumatology (Oxford). 2002;41(10):1155-62.
3) HF11386 Lievense A, Bierma-Zeinstra S, Verhagen A, Verhaar J, Koes B. Influence of work on the development of osteoarthritis of the hip: a systematic review. J Rheumatol. 2001;28(11):2520-8.
4) HF10344 Lievense AM, Bierma-Zeinstra SM, Verhagen AP, Bernsen RM, Verhaar JA, Koes BW. Influence of sporting activities on the development of osteoarthritis of the hip: a systematic review. Arthritis Rheum. 2003;49(2):228-36.
5) HJ10322 林 靖人,村瀬鎮雄,勝又壮一,安岡晴海,藤井克之.股関節症の疫学.Hip Joint. 2001;27:194-7.
6) HF10010 Jacobsen S, Sonne-Holm S, Soballe K, Gebuhr P, Lund B. Hip dysplasia and osteoarthrosis: a survey of 4151 subjects from the Osteoarthrosis Substudy of the Copenhagen City Heart Study. Acta Orthop. 2005;76(2):149-58.
7) HF10362 Reijman M, Hazes JM, Pols HA, Koes BW, Bierma-Zeinstra SM. Acetabular dysplasia predicts incident osteoarthritis of the hip: the Rotterdam study. Arthritis Rheum. 2005;52(3):787-93.
8) HF11111 Jacobsen S, Sonne-Holm S, Søballe K, Gebuhr P, Lund B. Joint space width in dysplasia of the hip: a case-control study of 81 adults followed for ten years. J Bone Joint Surg Br. 2005;87(4):471-7.
9) HF11103 Albinana J, Dolan LA, Spratt KF, Morcuende J, Meyer MD, Weinstein SL. Acetabular dysplasia after treatment for developmental dysplasia of the hip. Implications for secondary procedures. J Bone Joint Surg Br. 2004;86(6):876-86.
10) HJ10077 中塚洋一,赤沢啓史,三谷 茂,他.30歳代の先天性股関節脱臼後の変股症の検討.Hip Joint. 1995;21:156-61.


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