ガイドライン

(旧版)変形性股関節症診療ガイドライン

書誌情報
第1章 疫学・自然経過


Research Question 5
変形性股関節症に遺伝の影響はあるか

推奨
Grade B 変形性股関節症の発症に遺伝の影響はある.


解説
これまでの家族研究の疫学研究から,変形性股関節症(股関節症)の発症には遺伝的要因が関与していることが明らかにされており,同胞発症での遺伝度(heritability=h2)は27%であった(HF11038).しかし,この研究から股関節症に比べて変形性膝関節症(膝関節症)がより同胞発症が強いことが明らかにされた.
これらの同胞発症の原因遺伝子について,最近のゲノム研究の発達に伴い,いくつかの遺伝子が同定されている.現時点で変形性関節症に関連する原因遺伝子についての報告がなされているが,股関節症に特異的な原因遺伝子の同定にはいたっていない.また,これらの遺伝子は,アジア人と欧米人とでは共通したリスクとならないものもあることから(HF10375),さらなる解析が必要である.
こうした背景のなか,現在,日本人における股関節症発症との関連が報告された遺伝子は,Calmodulin 1(CaM)蛋白の遺伝子(CALM1)の遺伝子多型である(HF10705).同研究では,CALM1のTT多型と,近年,日本人の膝関節症の発症のリスクとして報告されているasporin(アスポリン)のD14 alleleをともに有する患者群では,股関節症の発症のリスクが著しく増加することも明らかにされた.しかし,CALM1,アスポリン蛋白に関しては,イギリスでの研究では,股関節症,膝関節症の発症のリスクとはならないとの報告がなされていることから,疾患遺伝感受性には人種差がある可能性がある(HF10368HF11577).特にわが国では,臼蓋形成不全を基盤とした二次性の股関節症の発症が多いことから,臼蓋形成不全に関しても遺伝の影響を明らかにし,一次性と二次性の股関節症の発症を分けて考慮していく必要がある.


サイエンティフィックステートメント
  • 家族同胞における股関節症罹患の疫学的研究から,その発症には遺伝的要因が関与しているとする中等度のエビデンスがある(EV level R-III).
  • 日本人における股関節症の発症に,Calmodulin 1(CaM)蛋白の遺伝子(CALM1)の多型が関与しているとする中等度のエビデンスがある(EV level R-III).
  • 日本人において股関節症の発症との関与が報告されたCalmodulin 1(CaM)蛋白の遺伝子(CALM1)の多型は,白人においては関与はないとする中等度のエビデンスがある(EV level R-III).
  • アメリカの白人閉経後女性において,Frizzled-related protein gene(FRZB)の遺伝子多型が股関節症のリスクになるとする中等度のエビデンスがある(EV level R-II)が,オランダのcohort研究では,全身性の関節症(手指,膝関節)との関連性は認められたものの,股関節症との関連は認められなかった(EV level R-II)とする中等度のエビデンスがある.


エビデンス
  • 股関節症の発症には遺伝的要因が関与していることが明らかにされている.人工股関節全置換術を受けた患者266例と,その同胞1,171例における関節症の発症と,対象患者の配偶者376名との発症に関して調査し,関連について解析したところ,対象患者の同胞で,人工関節置換術(股関節・膝関節を含む)を受けていたものの割合は,配偶者に比べて有意に高く,末期股関節症の遺伝度(heritability=h2)は27%であった.具体的には,同胞発症(人工関節にいたる股関節症)のオッズ比は1.86(95%信頼区間:0.93-3.69)であった.しかし,この研究から,股関節症に比べて膝関節症のほうがより同胞発症が多いことが示された(HF11038, EV level R-III).
  • 日本人における股関節症発症との関連が報告された遺伝子は,Calmodulin 1(CaM)蛋白の遺伝子(CALM1)の遺伝子多型である.股関節症例428例(男24,女404)と対照群として股関節症のない1,008例(男517,女491)とを設定し,疾患感受性遺伝子を検索したところ,CAML1遺伝子の多型(TT型)が股関節症発症のリスクとなることが明らかにされた(オッズ比:2.40-2.76,95%信頼区間:1.43-4.78).同研究では,CALM1のTT多型と,近年,日本人の変形性膝関節症発症のリスクとして報告されているアスポリンのD14 alleleをともに有する患者群では,股関節症発症のリスクが著しく増加することも明らかにされた(オッズ比:13.16,95%信頼区間:1.66-104.06)(HF10705, EV level R-III).
  • CALM1,アスポリン蛋白に関しては,イギリスでの研究では,股関節症,膝関節症の発症のリスクとはならないとの報告がなされていることから,疾患遺伝感受性には人種差がある(CALM1についてはHF10368EV level R-III,アスポリンについてはHF11577, EV level R-III).
  • アメリカのcohort研究から,FRZBのArg200TrpとAre324Glyバリアントが白人閉経後女性の股関節症のリスクになることが報告され,さらには,その原因蛋白の血清値Frizzled-related proteinと股関節症との関連が明らかにされており,発症のリスクはGallele保有者のオッズ比は1.43(95%信頼区間:0.54-5.79),T allele保有者の股関節症のオッズ比:1.43(95%信頼区間:0.97-3.68)であった(HF10375, EV level R-II).
  • オランダのcohort研究に登録している対象者からの検討では,FRZBの遺伝子多型と股関節症との関連は認められなかったが,全身性の関節症(手,脊椎,膝,股関節のうち2ヵ所以上の関節症)の発症のリスクになることが明らかにされた(HF10364, EV level R-II).


文献

1) HF11038 Chitnavis J, Sinsheimer JS, Clipsham K, Loughlin J, Sykes B, Burge PD, Carr AJ. Genetic influences in end-stage osteoarthritis. Sibling risks of hip and knee replacement for idiopathic osteoarthritis. J Bone Joint Surg Br. 1997;79(4):660-4.
2) HF10705 Mototani H, Mabuchi A, Saito S, Fujioka M, Iida A, Takatori Y, Kotani A, Kubo T, Nakamura K, Sekine A, Murakami Y, Tsunoda T, Notoya K, Nakamura Y, Ikegawa S. A functional single nucleotide polymorphism in the core promoter region of CALM1 is associated with hip osteoarthritis in Japanese. Hum Mol Genet. 2005;14(8):1009-17. Epub 2005 Mar 3.
3) HF10368 Mustafa Z, Dowling B, Chapman K, Sinsheimer JS, Carr A, Loughlin J. Investigating the aspartic acid (D) repeat of asporin as a risk factor for osteoarthritis in a UK Caucasian population. Arthritis Rheum. 2005;52(11):3502-6.
4) HF11577 Loughlin J, Sinsheimer JS, Carr A, Chapman K. The CALM1 core promoter polymorphism is not associated with hip osteoarthritis in a United Kingdom Caucasian population. Osteoarthritis Cartilage. 2006;14(3):295-8. Epub 2005 Dec 13.
5) HF10375 Lane NE, Lian K, Nevitt MC, Zmuda JM, Lui L, Li J, Wang J, Fontecha M, Umblas N, Rosenbach M, de Leon P, Corr M. Frizzled-related protein variants are risk factors for hip osteoarthritis. Arthritis Rheum. 2006;54(4):1246-54.
6) HF10364 Min JL, Meulenbelt I, Riyazi N, Kloppenburg M, Houwing-Duistermaat JJ, Seymour AB, Pols HA, van Duijn CM, Slagboom PE. Association of the Frizzled-related protein gene with symptomatic osteoarthritis at multiple sites. Arthritis Rheum. 2005;52(4):1077-80.


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