ガイドライン

(旧版)エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン[第1版]

書誌情報
I:胆道癌診療ガイドラインの目的・使用法・作成法

 
1.本ガイドラインの目的

胆道癌はいまだ予後不良の疾患であるが,これまで診療の指針となるガイドラインは見られていない。一方,cholangiocarcinomaに関しては,Khanら1)が2002年に発表している。その治療成績の向上には多くの課題が診断の面からも治療の面からも残されている。ことに胆道癌の診断,治療にはしばしば十分に経験を積んだ医師による高度な技術が求められることに注目し,ここに胆道癌の診療ガイドラインの作成を行った。
今回,問題になったことは,レベルの高いエビデンスが少ないことである。特に,診断および治療の実際は,各施設間で独自の経験に基づいた診療が行われており,その内容にばらつきが多くなっているのが日本のみならず世界での現状である。胆道癌領域において行われている医療行為にはエビデンスの高さに問題があるために,推奨度の判断においてガイドライン作成・出版委員会におけるコンセンサスを重視し,さらに,公開討論会を経て再修正されるものもあった。
診療ガイドラインは,多くの胆道癌診療に携わる医療者が各々の患者に対して最も適切な診療を行うための目安となり,胆道癌患者にとっては安心して医療を受けられる指標となろう。

2.本ガイドラインの使用法

本ガイドラインの全内容に関してはガイドライン作成委員ならびに出版委員全員による討論の上,承認されたものである。本ガイドラインの構成はまず,診断,治療に関するアルゴリズムを掲載した。そして,ガイドライン本体は,EBMを用いた診療ガイドライン作成・活用ガイド2)やJPN Guidelines for the Management of Acute Pancreatitis3),Tokyo Guidelines for the Management of Acute Cholangitis and Cholecystitis4)に推奨されているごとく,また,依然,治療方針に対しての施設間でのばらつきが大きい疾患であるという現状からクリニカルクエスチョンの形式を採用した。すなわち,本疾患に携わる医療従事者が抱くことが多いと考えられる臨床上の疑問点を明確化し,それに対する現時点での指針を明らかにすることを目的として,全体を8分野に分け,それぞれの分野での疑問点をクリニカルクエスチョンの形にし,これに対する推奨,その度合い(推奨度),推奨に至る解説を記載することとした。これらの推奨,解説はエビデンスに基づき作成,記載しており,それに基づいて各クリニカルクエスチョンに対する推奨度を以下に示す指針(ガイドライン作成法を参照)に従い決定した。しかし,胆道癌の診断,治療に対しては乳癌や胃癌などと比較して,圧倒的にRCTによるエビデンスの高い文献が少ないのが現状である。そのため,われわれは以下のコンセンサスを得た,推奨度を新たに5段階に分けた。A:行うよう強く勧められる。B:行うよう勧められる。C1:高いレベルの科学的根拠はないが,行うことを考慮してもよい。有用性が期待できる可能性がある。C2:十分な科学的根拠がないので,明確な推奨はできない。有用性を支持または否定する根拠が十分ではない。D:行わないよう勧められる。

3.診療ガイドラインの位置づけ

あらためて,診療ガイドラインの位置づけを示すと,これはあくまでも現時点でもっとも標準的な診療指針であり,実際の診療行為を強制するものではなく,各施設の状況(人員,診療経験,診療機器等)や個々の患者の個別性を加味して最終的に対処法を決定すべきである。
また,ガイドラインの記述に関してはその責を日本肝胆膵外科学会(旧日本胆道外科研究会を含む)が負うものとするが,治療結果についての責任は直接の治療担当者に帰属すべきものであり,学会,ガイドライン作成委員はこの責を負わない。なお,本文中の薬剤使用量などは成人を対象としたものである。

4.ガイドライン作成法

本ガイドラインはエビデンスの概念を中核にすることを旨として,2005年5月12日に第一回胆道癌診療ガイドライン作成委員会を開催し,本ガイドラインの作成方法は,以下の手順に従った。1)過去20年間の胆道癌に関係する論文をキーワードを用いて網羅的に検索した。2)検索されたすべての論文の抄録を,各文献最低2名の委員によって評価,及び,内容の分類を行い,ガイドライン作成に有用と思われる文献を抽出した。3)選択された文献を参照にし,各委員が担当分野についてのクリニカルクエスチョンの案を作成した。4)委員全体会議により,全委員から提案されたクリニカルクエスチョンの中からガイドラインに適していると考えられるものに絞り込みを行った。5)クリニカルクエスチョンの解説を担当分野ごとに作成した。6)全体会議にて作成されたクリニカルクエスチョンの推奨,推奨度,解説を検討し,その内容について校正した。7)最終版を全委員により校正した。8)これらの手順により作成されたものを評価委員の評価を受けた。9)また,一般公開した場での公聴会を開催し,広く意見を受け,さらに,10)ここで新たに出版委員会を作成委員会の構成メンバーのなかから選び,ガイドライン最終版をさらに検討し,より客観的にエビデンス評価を行い,また,各クリニカルクエスチョンの推奨度,解説は,全般的な統一性をはかり,さらに,解説文をより理解しやすいように修正し,最終版を作成した。

1) 網羅的文献検索について
文献の検索は2005年6月に英文検索をMEDLINEで,和文検索を医学中央雑誌にて行った。検索式,文献数は次の通りである。また,以下の式によりシステマティックレビューの検索も行った。また,必要に応じてハンドサーチを行い,論文を追加した。
英文検索:
#1 biliary tract neoplasms[MeSH]Limits:Publication Date from 1985, English, Humans
#2 Publication types:Clinical trial or Meta-analysis or Practice guideline or Randomized Controlled Trial or Review 1,266件
和文検索:
(胆道腫瘍/TH or 胆道癌/AL)or(胆管腫瘍/TH or 胆管腫瘍/AL)or(胆管癌/TH or 胆管癌/AL)or(胆嚢腫瘍/TH or 胆嚢癌/AL)or(Klatskin腫瘍/TH or 肝門部胆管癌/AL)or(十二指腸乳頭部癌/TH or 十二指腸乳頭部癌/AL)or(総胆管腫瘍/TH or 総胆管癌/AL)and(DT=1985:2005 and PT=会議録除くand PT=症例報告除くand PT=原著and CK=ヒト) 2,233件
システマティックレビュー:
Cochrane libray:key word“biliary” 59件
MEDLINE:
Search#1“Biliary Tract Neoplasms”[MeSH]Limits:only items with abstracts, English, Publication Date from 1985 to 2006, Clinical Trial, Meta-Analysis, Randomized Controlled Trial, Review 1,136件
Search#2“Biliary Tract Neoplasms”[MeSH]OR“gallbladder cancer”OR“common bile duct cancer”Limits:English, Publication Date from 1985 to 2006, Humans 7,491件
Search#3(((((((((((“Meta-Analysis”[MeSH Terms]OR meta-analysis[pt])OR medline[tiab])OR((((metaanalyses[tiab]OR metaanalysis[tiab])OR metaanalytic[tiab])OR metaanalytical[tiab])OR metaanalytically[tiab]))OR“meta analysis”[All Fields])OR(((((overview[tiab]OR overview/literature[tiab])OR overviewed[tiab])OR overviewer[tiab])OR overviewing[tiab])OR overviews[tiab]))OR clinical trial[pt])OR multicenter study[pt])OR evaluation studies[pt])OR validation studies[pt])OR review[pt])OR(systematic review[All Fields]OR systematic reviews[All Fields])) 1,827,246件
Search #2 AND #3 NOT #1 314件

2) 委員による文献の絞り込み
これらの文献抄録を各文献につき最低2名の委員により評価し,重要度を評価し英文文献669件,和文文献1,098件に絞り込んだ。

3) クリニカルクエスチョン案の作成
これらの文献を参考に各委員が担当分野につきクリニカルクエスチョン案を作成し,合計227題の項目が提案された。

4) クリニカルクエスチョン案の絞り込み
2006年6月10日に全体会議を開き,8分野,33題のクリニカルクエスチョンにてガイドラインの骨格をなすことを決定した。

5) クリニカルクエスチョン解説の作成
各委員が担当分野のクリニカルクエスチョンの解説,及び各分野の序説を作成し,それを全体会議で再検討した。その結果,クリニカルクエスチョンを35題に改訂した。
各解説においては,そのクリニカルクエスチョンに対する推奨度を決定した。また,この推奨度決定の元となる参考文献のエビデンスレベルは以下に示す基準にて決定した。前述のように,胆道癌の治療に関しては高いレベルのエビデンスがないので,症例集積研究などから得られた知見を総合して治療方針が決定されている。

6) 推奨度とエビデンスレベル評価
推奨度提示の目的は,患者に対して最も安全で最も適切な治療を提供しようとする医療者に,その医療行為のお勧め度を提示することである。
推奨度については,作成・出版委員会および第2回公聴会にて度重なる検討が行われてきた。世界的にも,数多くのガイドラインに,数多くの推奨の強さの基準が存在するが,標準的なものは存在していない1),2),3),4),5)。英国のように,臨床における推奨度取り扱いをめぐる議論の末,推奨文のみで推奨度を提示しないmanualを示している例もある6)
本ガイドラインでは,これまでの度重なる討議を踏まえて,下記のような推奨度を公表するに至った。

推奨度
A 行うよう強く勧められる。
B 行うよう勧められる。
C1: 高いレベルの科学的根拠はないが,行うことを考慮してもよい。有用性が期待できる可能性がある。
C2: 十分な科学的根拠がないので,明確な推奨はできない。有用性を支持または否定する根拠が十分ではない。
D 行わないよう勧められる。

エビデンスレベル
レベル I システマティック・レビュー/メタアナリシス
レベル II 一つ以上のランダム化比較試験による
レベル III 非ランダム化比較試験による
レベル IV 分析疫学的研究(コホート研究や症例対象研究による)
レベル V 記述研究(症例報告やケースシリーズ)による
レベル VI 患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見


7) クリニカルクエスチョン確定とアルゴリズムの検討
各クリニカルクエスチョン解説を担当委員が修正し,2006年10月20日に再び全体会議を行い,全クエスチョンを検討した。その結果,全36題のクリニカルクエスチョンとなった。また,同時に診断,治療アルゴリズムを作成した。

8) 評価委員による評価
これらにより作成された最終案を計4名の外部評価委員の先生に評価・指導いただき,作成出版委員会の討議を経て,加筆修正を行った。

9) 公聴会の開催
下記2回の公聴会を開催し,広く本領域に関わる医師の意見を拝聴し,最終的な校正を行った。
第一回公聴会  平成19年6月7日:第19回日本肝胆膵外科学会学術総会
第二回公聴会  平成19年9月27日:第43回日本胆道学会学術大会

10) 出版委員会の開催
第一回の公聴会開催後,出版のための委員会を組織した。出版委員全員による全クリニカルクエスチョンおよび全文章の再検討と加筆修正を行った。内容に関しては,十分なコンセンサスが得られるまで繰り返し討論した。
修正版を第二回公聴会で公表し,一般会員からのご意見と外部委員の評価を総合して内容に反映させ,完成版を作成した。

11) 普及のための工夫
書籍:エビデンスに基づく胆道癌診療ガイドライン(医学図書出版株式会社)
インターネット:日本肝胆膵外科学会ホームページ,日本医療機能評価機構(Minds)ホームページ

5.改訂版作成の予定
日本肝胆膵外科学会に常設の胆道癌診療ガイドライン委員会において,毎年エビデンス評価・蓄積のための作業を継続し,約4年毎に改訂版を作成出版する予定である。尚,医療の進歩等により改訂時期は適宜調整する。

6.資金
このガイドライン作成に要した資金は,すべて厚生労働科学研究(医療安全・医療技術評価総合研究事業)班,旧日本胆道外科研究会,日本肝胆膵外科学会の支援によるものである。


引用文献
1) Khan SA, Davidson BR, Goldin R, Pereira SP, Rosenberg WM, Taylor-Robinson SD, et al; British Society of Gastroenterology. Guidelines for the diagnosis and treatment of cholangiocarcinoma: consensus document. Gut. 2002;51 Suppl 6:VI1-9.
2) 中山健夫.EBMを用いた診療ガイドライン作成・活用ガイド.金原出版,東京,2004.
3) Takada T, Hirata K, Kawarada Y, Mayumi T, Yoshida M, Sekimoto M, et al. JPN Guidelines for the Management of Acute Pancreatitis: Cutting-edge Information. J Hepatobiliary Pancreat Surg 2006;13:2-6.
4) Takada T, Kawarada Y, Nimura Y, YoshidaM, Mayumi T, SekimotoM, et al. Background: Tokyo Guidelines for the Management of Acute Cholangitis and Cholecystitis. J Hepatobiliary Pancreat Surg 2007;14:1-10.
5) 福井次矢,吉田雅博,山口直人.Minds診療ガイドライン作成の手引き2007.医学書院,東京,2007.
6) National Institute for Health and Clinical Excellence.[homepage on Internet]. London and Manchester: Chapter 11: Creating guideline recommendations. The guidelines manual(2006)p.67-74.[updated 2007 May 14;cited 2007.10.12]. Available from: http://www.nice.org.uk/page.aspx?o=429737

 

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