ガイドライン

(旧版)食道癌診断・治療ガイドライン 2007年4月版

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VIII.放射線療法

 
要約

放射線単独療法に比較して同時化学放射線療法は有意に生存率を向上させるが,導入化学療法後の放射線療法は生存率を向上させない。同時化学放射線療法の適応は,全身状態のよいT1-3 N0,1 M0(UICC-TNM分類,2002年版)の切除可能例である。切除不能局所進行例(T4 N0,1 M0)や鎖骨上窩リンパ節転移を有する進行例(M1/LYM)にも同時化学放射線療法の適応はあるが,瘻孔形成などの重篤な合併症の危険性は高くなる。放射線単独根治照射では通常分割法で60〜70Gy/30〜35回/6〜7週が必要であるが,同時化学放射線療法での根治照射には,少なくとも通常分割法で50Gy/25回/5週以上に相当する線量が必要である。米国では50Gyが同時化学放射線療法の標準的線量となっているが,わが国では同時化学放射線療法においても約60Gyまでの照射が行われている。
全照射期間を短縮させる後期加速過分割照射は通常分割照射法よりも生存率が有意に向上し,同時化学放射線療法とも遜色のない生存率が得られるとの中国のランダム化比較試験があり,加速過分割照射は化学療法の併用が困難な食道扁平上皮癌患者には有用な照射法と考えられる。また,放射線単独療法の場合,照射期間の延長は局所制御率を低下させるので,休止期間をおかないよう勧められる。
外照射単独と腔内照射の併用はT1-2症例の比較的早期の食道癌に有効とのわが国のランダム化比較試験があるが,最近では化学放射線療法が一般的になり,化学放射線療法に腔内照射の追加を推奨するだけの十分な根拠はない。


放射線療法はこれまで主として手術や内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)の適応外の症例を対象に行われてきたが,近年では表在癌,局所進行癌の両者に放射線療法(特に化学放射線療法)が根治的治療法として広く行われている。
食道癌に対する標準的な放射線療法は,「照射法標準化のための委員会」報告,食道表在癌に対する放射線治療の標準化に関する研究班報告(日本放射線腫瘍学会),および放射線治療計画ガイドライン・2004(日本放射線科専門医会・医会,日本放射線腫瘍学会,日本医学放射線学会編)に従った221),222),223),224)。以下にその要点を記す。


根治的放射線療法
1)適応

放射線療法によりすべての病巣の制御が期待でき,治癒が望める場合である。根治的照射のよい適応となるのは,T1-3 N0,1 M0(UICC-TNM分類,2002年版)の切除可能例であるが,切除不能のT4 N0,1 M0症例や鎖骨上窩リンパ節転移を有する進行例も適応となる225),226),227),228),229),230)。なお化学療法を併用できる全身状態の良好な症例では,放射線単独療法よりも化学放射線療法が標準的治療である231),232)

2)標的体積
肉眼的腫瘍体積(gross tumor volume;GTV):
内視鏡および食道バリウム造影上での原発巣,および所属リンパ節転移がある場合(N1)はこれもGTVに含める。食道癌の場合,腫瘍径でのリンパ節転移の判定は難しいが,放射線療法においては偽陰性率を下げるためにCT,MRIにて短径が5mm以上のリンパ節は転移巣とみなし治療すべきであるとの報告もある233)
臨床標的体積1(clinical target volume;CTV1):
内視鏡および食道バリウム造影上のGTVを含む食道全周に頭尾側方向2〜4cmの顕微鏡的病変を見込んだ領域と,所属リンパ節領域をCTV1とする。ただし,壁深達度EP,LPMまでのT1a癌であればリンパ節転移の可能性はほとんどないので,リンパ節への照射は不要である。一方,表在癌であってもT1a-MMおよびSM癌では10〜50%にリンパ節転移があるので,進行食道癌同様に所属リンパ節領域への予防的照射を行う必要がある。しかしながら,どのリンパ節領域までをCTVとすべきかに関しての根拠はない。表5に,原発巣の部位別に標準的と考えられるCTV1を記載した。この領域には40〜46Gy/20〜23回照射する。

表5:原発巣の部位別に標準的と考えられるリンパ節領域(CTV1)
頸部食道原発(Ce):
  中深頸リンパ節[102-mid]から気管分岐部リンパ節[107]まで
  (short-T字型照射野)
胸部上部食道原発(Ut):
  鎖骨上窩リンパ節[104]から胸部中部食道傍リンパ節[108]まで
  (T字型照射野)
胸部中部食道原発(Mt):
  a.鎖骨上窩リンパ節[104]から胸部下部食道傍リンパ節[110]まで,あるいは胃周囲リンパ節まで(T字型照射野)
  b.反回神経リンパ節[106-rec]および胸部上部リンパ節[105]から胸部下部食道傍リンパ節[110]まで(I字型照射野),あるいは胃周囲リンパ節まで(L字型照射野)
胸部下部食道原発(Lt):
  反回神経リンパ節[106-rec]および胸部上部リンパ節[105]から胃周囲リンパ節(噴門リンパ節[1,2],小彎リンパ節[3],左胃動脈幹リンパ節[7])まで
  (L字型照射野)
高齢者や合併症を有する患者:
  原発巣周囲のリンパ節領域のみ(局所照射野,短冊型照射野)
注:胸部中部食道原発(Mt)の場合のCTV1に関しては,一定のコンセンサスはない。

臨床標的体積2(CTV2):
CTV1に対する40〜46Gy照射後の臨床標的体積は,内視鏡および食道バリウム造影上のGTVを含む食道全周に頭尾側方向2cm程度の顕微鏡的病変を見込んだものとする(CTV2)。所属リンパ節転移がある場合(N1)は,これもCTV2に含める。外照射単独の場合,この領域には合計60〜70Gy/30〜35回まで照射する。
計画標的体積1(planning target volume;PTV1):
放射線療法開始時の計画標的体積は,CTV1に呼吸性移動,患者固定再現性の誤差などを見込んで,適切なマージン(側方向0.5〜1.0cm,頭尾側方向1〜2cm)を加えたものとし,PTV1とする。
計画標的体積2(PTV2):
40〜46Gy時点での照射野縮小に際しては,CTV2に適切なマージン(側方向0.5〜1.0cm,頭尾側方向1〜2cm)を含め,PTV2とする。この際,斜入対向二門法などで脊髄を照射野からはずす。

3)放射線治療計画および照射法
照射野の設定は,X線シミュレータによる二次元治療計画法あるいはCT画像を基にする三次元治療計画法を用いる。X線シミュレータを用いて位置決めを行う場合には,CT所見を参考にX線透視上で標的体積を決定する。また表在癌で食道バリウム造影において病変が描出できない場合は,内視鏡で病変の上下にクリッピングする。
最近ではCT画像を基にする三次元治療計画法が広く行われている。この方法では標的体積とリスク臓器の位置関係が三次元的に把握でき,多門照射法などでリスク臓器への線量を低減できる高精度放射線療法が実施できる。
外照射には6〜15MVのX線を使用する。線量評価点はX線シミュレータでの計画時には体厚中心のアイソセンターとする。三次元治療計画時にはPTV中心で線量評価を行う。照射は前後対向二門法あるいは固定多門照射法で開始し,放射線単独療法の場合には44〜46Gy,化学療法併用の場合には40Gy程度で脊髄遮蔽を行う。その際には胸部,腹部食道癌では斜入対向二門法,頸部食道癌では斜入前方二門法などが用いられる。

4)線量分割と併用療法
分割法は一般に通常分割照射が用いられる。米国では50Gy/25〜28回/5〜6週が化学放射線療法における標準的放射線量となっているが234),わが国では化学放射線療法の場合60Gy/30回/6〜8週程度,放射線単独療法では60〜70Gy/30〜35回/6〜7週が標準的に行われている225),226),227),228),229),230)。化学放射線療法については別章[IX.化学放射線療法]で詳しく述べられている。
食道表在癌に関しては日本放射線腫瘍学会(JASTRO)研究グループが標準的放射線治療法を提案しており(表6),これに準ずることが推奨されている221),222),223),224)。原則的にSM癌でもT2以上の進行癌と同様の線量が必要と考えられている。このガイドラインに従い放射線療法を行った表在癌141例の2年生存率はM癌で90%,SM癌で81%と良好な成績であった223)
食道扁平上皮癌の放射線療法において全照射期間は重要な因子で,全照射期間が延長すると局所制御率が下がることが知られている235)。このため放射線単独療法の場合,治療期間の延長は極力避けるようにしなくてはならない。中国で行われた全照射期間を短縮するため治療の後半で1日2回の過分割照射を行う後期加速過分割照射(68.4Gy/41回/6〜7週)と通常分割照射法(68.4Gy/38回/7〜8週)とのランダム化比較試験では,全照射期間が1週間短い後期加速過分割照射により生存率が有意に向上した236)。化学療法同時併用後期加速過分割照射と後期加速過分割照射単独とのランダム化比較試験では,後期加速過分割照射単独の生存率がやや低かったが,有意差を認めなかった237)。以上より,加速過分割照射は化学療法の併用が困難な患者には有用な照射法と考えられる。
腔内照射は原則として外部照射終了後に原発巣の制御目的で追加照射として行う。食道表在癌では病巣が粘膜面に限局し線源からの距離が短いため,腔内照射により腫瘍に十分な線量を照射できる。したがって,食道表在癌は腔内照射のよい適応と考えられ,わが国では腔内照射法が外部照射のブースト照射として行われている。表7に表在食道癌に対する外照射単独あるいは腔内照射併用での代表的な報告をまとめた223),236),237),238),239),240),241),242),243),244),245),246)。単施設からの遡及的報告では,腔内照射の追加により良好な治療成績が得られたとの報告がある238),239),240),241)。一方,根本ら242)のわが国の多施設での成績をまとめた報告では,外照射単独と腔内照射の併用による生存率の差はなかった。食道表在癌のみを対象としたランダム化比較試験での有効性は証明されていないが,わが国での進行癌を含んだ腔内照射のランダム化比較試験では,腔内照射は長径5cm以下の症例,あるいは深達度T1,2の食道癌に有効とされている247)。しかしながら,最近では同時化学放射線療法が一般的になっており,化学放射線療法に腔内照射追加の有効性と安全性は必ずしも明らかではない。腔内照射を併用する場合は,原則として放射線単独療法とし化学療法は併用しないほうが安全である。
腔内照射で使用するアプリケーターは直径15mm以上のバルーン式のものを使用し,線源の偏在を避ける。また食道壁の伸展性の良いものでは直径20mmのアプリケーターの使用が推奨される。線量評価点はアプリケーター表面から5mm外側(粘膜下5mm)とし,粘膜表面の線量も併記する。腔内照射の至適線量については外照射線量とも関連するため明確なコンセンサスはないが,50〜60Gyの外照射に引き続き,8〜12Gy/2〜4回(1回3〜4Gy)の腔内照射を追加するのが一般的である(表6)221),222),224)。腔内照射では1回線量が大きくなると食道潰瘍・穿孔などの晩期合併症の危険が高くなるので222),245),高線量率照射では1回線量4Gy以下,低線量率照射では1回線量6Gy以下とし週1〜2回の照射が推奨されている222),224)

表6:食道表在癌治療のガイドライン(JASTRO研究グループ)
深達度   外照射 腔内照射 合計線量
T1a-EP〜T1a-LPM 外照射単独 60〜66Gy/30〜33回/
6〜6.6週
60〜66Gy
高線量率
腔内照射単独
28〜32Gy/7〜8回/
週2回
28〜32Gy
32.5〜35Gy/13〜14回/
週4回
35Gy
T1a-MM〜T1b-SM3 外照射単独 60〜70Gy/通常分割法
あるいは加速過分割照射
60〜70Gy
外照射+
高線量率
腔内照射
50〜60Gy/25〜30回/
5〜6週
8〜12Gy/3〜4回 58〜72Gy
外照射+
低線量率
腔内照射
60Gy/30回/6週 12Gy/3回 72Gy
JASTRO:Japanese Society for Therapeutic Radiology and Oncology,日本放射線腫瘍学会

表7:わが国からの食道表在癌に対する外照射単独あるいは腔内照射併用での治療成績
報告者 症例数 病期 局所制御率 全生存率
外照射単独 腔内照射併用 2年 5年
Okawa(1995)* 115 T1a,T1b 72% 85% 75% 39%
Akagi(1999) 35 T1a,T1b 74% 38%
Nishimura(1999) 21 T1a,T1b 45%(2y) 85%(2y) 76%
Nemoto(2000)* 78 T1b 66% 73% 45%
Nemoto(2001)* 95 T1b no difference 72% 42%
Kodaira(2003) 33# T1a,T1b 74%
Sai(2005) 34 T1a,T1b 54%(2y) 79%(2y) 70% 59%
Ishikawa(2005) 38 T1a,T1b 78% 90% 80% 61%
Shioyama(2005) 29# T1a,T1b no difference 81% 62%
Nemoto(2006)* 42# T1a no difference 90%
  99# T1b no difference 81%
T1a:粘膜癌,T1b:粘膜下層癌
*多施設の症例をまとめた報告
#同時化学放射線療法症例を含む。症例数に無印は放射線単独療法。

5)合併症
早期有害事象としては放射線皮膚炎,放射線食道炎,放射線肺炎が代表的である。放射線食道炎はほぼ必発であるが,食道真菌症や逆流性食道炎の可能性も常に考慮しておく。放射線肺炎も時に重篤になるが,感染症や癌性リンパ管炎との鑑別が必要である。
晩期有害事象としては食道穿孔,出血は放射線療法症例の数パーセントに発生する。T4症例ではさらに頻度が高くなる。高線量率腔内照射を併用した際には食道潰瘍の発生には特に留意する必要がある222),245)。このほか全周性の症例や,EMRを繰り返した症例などでは食道狭窄も生じる。照射野内の胸椎圧迫骨折は,骨転移との鑑別が必要となる場合があり注意が必要である。
化学放射線療法では放射線心外膜炎,放射線胸膜炎の頻度が高くなる248)。放射線脊髄炎は重篤かつ稀な晩期合併症であるが,同時化学放射線療法では脊髄への線量が44Gyでも放射線脊髄炎を起こしたとの報告があり249),特に注意を要する合併症である。


症状緩和のための放射線療法

自覚症状,QOL(quality of life)の改善を目的として行われる放射線療法で癌病巣の治療効果は問わないものとする。放射線療法が患者の全身状態に与える影響を考慮し,目的達成のための必要最低限度の照射野と総線量を設定し可能な限り短期間で治療が終了するように努める。


【参照】
IX.化学放射線療法 根治的化学放射線療法の放射線照射量
IX.化学放射線療法 根治的化学放射線療法による有害事象
X.食道癌治療後の経過観察 根治的化学放射線療法後の経過観察

 

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