ガイドライン

(旧版)食道癌診断・治療ガイドライン 2007年4月版

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VI.術後補助療法

 
要約

術後化学療法:わが国で行われた手術単独と術後化学療法(5-FU/シスプラチン,2コース)併用のランダム化比較試験では,術後化学療法によって手術単独に比較して無再発生存率が有意に向上したが,生存率では有意差を認めなかった。同様の欧米のランダム化比較試験では両群に差を認めず,術後化学療法が治癒切除例の生存率を向上させるという根拠はない。しかしながら,わが国でのランダム化比較試験では無再発生存率が有意に向上しており,術後化学療法の再発予防効果は明らかにされている。わが国での根拠を重視すると,術後化学療法は術後再発予防に意義があるものと考えられる。
術後放射線療法:JCOG食道がんグループが行った術前・術後照射と術後照射のランダム化比較試験の結果,プロトコール治療を行いえた適格症例の全生存率は術後照射群で有意に高い値を示し,わが国では一時期予防的術後照射が広く行われた。一方,海外での手術単独と術後照射(通常分割法で45〜60Gy)のランダム化比較試験では,術後照射によって照射部位の局所再発は低下するものの,生存率の有意な向上を認めていない。したがって,治癒切除後の術後照射を標準的治療とする根拠は少ない。現時点において術後(化学)放射線療法の意義は不明である。非治癒切除例や術後局所再発例には実地臨床として(化学)放射線療法が行われ,有効との報告がみられる。十分な根拠はないものの,遠隔転移がなく肉眼的残存腫瘍のある非治癒切除例に何らかの局所療法は必要であり,(化学)放射線療法はその一つの有用な治療法と考えられる。


術後補助療法の理論的根拠は,外科的切除後の局所残存腫瘍,リンパ節転移,あるいは微小遠隔転移を制御して,遠隔成績の向上を期待するという考えである。術後補助療法の有利な点は,手術による正確な病期判定が可能であり,病期に応じた治療が可能であること,一方,不利な点としては評価可能病変がなく術後補助療法の効果判定が困難であることなどがある。欧米では術前補助療法が主流であるが,食道癌治療が外科主導で行われてきたわが国では,まず根治的切除を行い,その後に化学療法を加える術後化学療法が現在主流となっている。

術後化学療法(Adjuvant chemotherapy)

Japan Clinical Oncology Group(JCOG)食道がんグループが扁平上皮癌を対象に行ったランダム化比較試験(術後シスプラチン/ビンデシン,2コース105例と手術単独100例の比較)では5年生存率に有意差は認められず,術後化学療法による生存率の上乗せ効果を認めなかった178)。その後化学療法を5-FU/シスプラチンとして食道扁平上皮癌を対象に行ったランダム化比較試験(JCOG9204:術後5-FU/シスプラチン,2コース122例と手術単独120例の比較)では,生存率ではその差が明らかではなかったが,無再発生存率は58%と43%で術後化学療法により手術単独に比べ無再発生存期間が延長し,再発予防効果を認めた179)。特にリンパ節転移陽性例での再発予防効果が示唆されたが,リンパ節転移陰性例では再発予防効果を認めなかった。フランスで行われた術後化学療法のランダム化比較試験(術後5-FU/シスプラチン,6〜8コース52例と手術単独68例の比較)では,約半数が姑息的切除例であったが,生存期間中央値はいずれも14カ月で両群間に差はみられず,5-FU/シスプラチンの術後化学療法は有用ではないと報告している180)。これらのランダム化比較試験を基にしたメタアナリシスでも,術後化学療法の生存率に対する効果を認めなかった162)
以上のように術後化学療法が治癒切除例の生存率を向上させるという根拠はない。しかしながら,わが国でのランダム化比較試験(JCOG9204)では無再発生存率が有意に向上しており,術後化学療法の再発予防効果は明らかにされている179)。リンパ節郭清精度の高いわが国手術の特性を考慮し,わが国での根拠を重視すると,術後化学療法(5-FU/シスプラチン,2コース)は術後再発予防に意義があるものと考えられる。

術後放射線療法(Adjuvant radiotherapy)

わが国では過去に術前照射が標準的治療であった時代が長期間続いた。しかし,術前照射が生存率を向上させるという明確な報告はなかったので,JCOG食道がんグループでは1981〜84年に術前(30Gy/15回)・術後(24Gy/12回)照射と術後照射(50Gy/25回)のランダム化比較試験を施行した162)。この研究では非治癒切除や手術合併症のため解析から除外された症例が多く信頼性はやや低いが,プロトコール治療の行われた適格症例の全生存率は,術後照射群で有意に高い値を示した。本試験の結果,わが国では予防的術後照射が行われていた。
一方,海外で行われた手術単独と術後照射(通常分割法で45〜60Gy)のランダム化比較試験4報では,術後照射によって照射部位の局所再発率は低下するものの,生存率の有意な向上は認められていない182),183),184),185)。またこれらのランダム化比較試験を基にしたメタアナリシスでも術後照射による生存率の向上を認めていない162)。したがって治癒切除後の術後照射を標準的治療とする根拠は少ない。ただし,中国で行われた合計495例を対象とした大規模ランダム化比較試験のサブセット分析では185),III期症例に限れば有意に生存率を向上させているので術後照射も適切な対象を選べば意義がある可能性も残っている。

 

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