ガイドライン

(旧版)食道癌診断・治療ガイドライン 2007年4月版

書誌情報
IV.外科治療

 
D.その他の治療法
要約

食道癌に対する根治的手術療法は,切除,リンパ節郭清,再建を基本とするが,癌の進行度,悪性度,全身状態などの状況からこれらを完遂することが困難あるいは不要な場合にその他の治療法を用いる場合がある。経食道裂孔的非開胸食道抜去術は,内視鏡的治療が困難な粘膜癌や腹部食道癌などにおいて縦隔リンパ節郭清を省略することが可能と考えられる症例に対する根治手術,低肺機能などのため開胸,縦隔リンパ節郭清を行うことが困難な症例に対する姑息的手術として用いられてきた。近年,内視鏡的治療の適応拡大,食道温存療法として化学放射線療法の普及により,その適応は限定的になりつつある。
近年の内視鏡下手術の普及に伴い,食道癌根治術においても胸腔鏡,腹腔鏡が用いられる場合がある。現時点では臨床研究の段階にあり,従来の標準的手術と比較した場合の低侵襲性,根治性の評価に関する結論は得られていない。今後も手術器材,手術手技の改良がなされるものと考えられる。
食道癌ないし食道癌治療後の変化による食道狭窄のため経口摂取困難な症例に対する姑息的治療として食道ステント挿入術がある。自己拡張型メタリックステントが開発され比較的安全に施行できるようになったが,食道ステント挿入後の放射線ないし化学放射線療法の施行,放射線ないし化学放射線療法後の食道ステント挿入は,出血,瘻孔形成などの有害事象の発生が多いことが報告されており,原則として避けることが望ましい。このような状況では,バイパス手術,栄養瘻造設術を考慮する。


経食道裂孔的非開胸食道切除・再建術

開腹下に横隔膜食道裂孔を切開開大して,開胸せずに頸部と腹部からの操作で胸部食道を抜去切除する方法で,1933年Turner127)により初めて報告された。わが国では1971年に秋山ら128)により導入され,以来,広く臨床応用されてきた。適応は頸部食道癌の切除再建法,胸部・腹部食道癌で胸膜の高度癒着や低肺機能のために開胸切除が困難な症例,高齢者,リンパ節郭清が不要な粘膜癌などの切除再建法として施行されてきた129),130)。本術式では腹部〜下縦隔のリンパ節郭清はある程度可能であるが,上〜中縦隔の郭清は困難である。

体腔鏡を用いた食道切除・再建術

低侵襲性,根治性,遠隔治療成績などに関して現時点では研究段階であるが,将来的に期待できる治療法として,胸腔鏡・腹腔鏡下食道切除・再建術132),133),134),135),136),137)や縦隔鏡,腹腔鏡補助下経食道裂孔的非開胸食道抜去術135)等が報告されている。内視鏡下手術はリンパ節郭清を伴う切除法として施行されており施設により適応はさまざまであるが,T3癌まで行っている施設もある。経験症例数を重ねた施設では手術時間,出血量,郭清リンパ節個数などを指標とした場合,従来の標準的開胸手術例と比較して大差なく,術後の疼痛の軽減,肺活量の回復が早いなどの利点が報告されている131),133),136),137)。一方,反回神経麻痺などの発生は標準的開胸手術例に比べ多いとの報告もある133)
内視鏡下手術を安全に施行し,手術時間の短縮,郭清精度を上げるため,小切開創より直接操作する方法や片手を挿入し,手術操作を行うVATS(Video Assisted Thoracoscopic Surgery)法133),HALS(Hand Assisted Laparoscopic Surgery)法132)の応用も検討されている。また,頸部創から縦隔鏡を挿入し,縦隔のリンパ節郭清をする経食道裂孔的非開胸食道抜去術,腹腔鏡下に縦隔郭清を伴う経食道裂孔的非開胸食道抜去術も報告されている135)。内視鏡下手術では,拡大視効果により精度が高いリンパ節郭清が施行できるという報告もあるが,従来の開胸切除・郭清術と比較した長期成績についてはランダム化比較試験の施行が必要であり,現時点において結論は得られていない。

切除不能症例に対する治療法

他臓器浸潤や遠隔転移などで切除不能である進行食道癌の治療は,まず放射線療法や化学療法に委ねられる。しかし,これらの治療でも改善しない食道狭窄や食道気道瘻を伴う症例では経口摂取障害により,患者のQOLは著しく低下する。このような悪性閉塞症例に対する経口摂取や経管栄養を可能にするための対症療法として次のような治療が行われる。

1)バイパス手術
胸部食道を空置し,消化管を再建する方法で,ステント挿入が適さない高度狭窄例,食道気道瘻形成症例に行われる138),139)
消化管の再建ルートは胸壁前あるいは胸骨後経路で行われるが,進行癌で栄養状態が低下している症例が多く,吻合部の縫合不全の発生率が高いことから予防策が重要である140)。近年,根治的化学放射線療法後のsalvage surgeryにおいて主病巣が切除不能と判断された場合の姑息的手術としても施行される。

2)食道ステント挿入術
X線透視下に,内視鏡を用いて,癌腫狭窄部にステントを挿入し,内腔を拡張し経口摂取を可能とする方法であり,少ない侵襲で短期間に経口摂取が可能になる。最近では自己拡張型の網目状あるいはZ状に編んだ軟らかいメタリックステントが開発されている。従来のプラスチック製品に比して挿入が容易でかつ安全であり141),142),さらにカバー付きのものがそうでないものに比して腫瘍増殖による再狭窄が防止できることが示された143)。遠隔臓器転移を有する高度狭窄症例(根治切除,化学放射線療法適応外)や食道気道瘻形成症例に用いられている。また,食道気道瘻形成症例に対しては,状況や部位によって気道ステントとの適応も検討することが望ましい。

3)腸瘻・胃瘻造設
根治的化学放射線ないし放射線療法後で根治手術が期待できない高度狭窄症例などにおいて,食道ステント挿入が困難あるいは危険であると判断された場合,在宅療法への移行を目的として栄養瘻の造設が行われる。胃瘻は通常内視鏡を用いて低侵襲な手法で造設可能であり第1選択となる144)。また,経皮的内視鏡的胃瘻造設術は,高度狭窄例に対して集学的治療施行前に行われる場合もある145)。細径内視鏡も通過困難な高度狭窄例や腹部手術の既往などにより経皮的内視鏡的胃瘻造設術が困難な症例においては開腹下に胃瘻,空腸瘻造設が行われる。

【参照】
IV.外科治療 B.胸部食道癌に対する手術 切除
XII.緩和医療 要約

 

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