ガイドライン

(旧版)食道癌診断・治療ガイドライン 2007年4月版

書誌情報
II.食道癌の診断

 
B.全身状態の評価
要約

食道癌根治術,特に開胸開腹を伴う手術は消化器癌手術の中でも最も侵襲の大きな術式である。近年の外科手術手技,麻酔手技,術後管理などの進歩により,食道癌根治術の安全性は高まってきたが,現在においても術後合併症発症率や,在院死亡率,手術関連死亡率は,他疾患と比較して依然高率である23),24),25)。また,食道癌の好発年齢は65〜70歳の高齢者層であり,これらの年齢層が各種の生活習慣病(高血圧,糖尿病,高脂血症など)を有している頻度が高いことに留意する必要がある。したがって,根治手術の適応は,各種重要臓器機能を評価して慎重に決定することが望ましい。また,化学療法・放射線療法あるいは化学放射線療法の施行に際しても重要臓器機能が一定の基準を満たしていることが望ましい。
そこで,以下に,全身状態・重要臓器機能を評価するために必要な主な諸検査と個々の検査における判断の目安を記載するが,全身状態に基づく治療適応の決定はあくまで総合的に評価されるべきものであり,厳密な数値基準を設けることは容易ではない。


活動状態(Performance status, PS)26)

全身状態を総合的に評価するうえで,簡便かつ有用な指標としてよく用いられる。食道癌根治手術や化学療法,放射線療法を施行する臨床試験においては,下記のPS0〜2を適格症例とすることが一般的である。
Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)活動状態スコア
PS0: 無症状で社会活動ができ,制限を受けることなく,発病前と同等に振る舞える。
PS1: 軽度の症状があり,肉体的労働は制限を受けるが,歩行,軽労働や坐業はできる。たとえば軽い家事,事務など。
PS2: 歩行や身の回りのことはできるが,時に少し介助がいることもある。軽労働はできないが,日中の50%以上は起居している。
PS3: 身の回りのある程度のことはできるが,しばしば介助がいり,日中の50%以上は就床している。
PS4: 身の回りのことができず,常に介助がいり,終日就床を必要としている。

肺機能検査

食道癌患者は加齢,喫煙歴が危険因子となっており,慢性閉塞性肺疾患の罹患頻度も比較的高い。開胸の可否を決定する際の重要な指標となる。スパイロメトリーにより%VC,FEV1.0%,%RV/TLC,動脈血ガス分析を行い,胸部X線所見,CT所見,喫煙歴,既往歴を考慮して総合的に判断する。%VC:40%以下,%FEV1.0:50%以下,FEV:1.5L未満,%RV/TLC:56%以上,動脈血酸素分圧:60Torr以下の症例については開胸術の適応を慎重に決定することが望ましい27),28)

心機能検査

弁膜疾患や心筋症による心不全,重症不整脈,発症後3カ月以内の心筋梗塞は原則として手術適応外と考えられる29)。安静時および運動負荷心電図を原則として施行し,何らかの異常所見が認められた場合,ホルター心電図,心エコー,心臓カテーテル検査,運動負荷心筋シンチグラフィーを施行する27)

肝機能検査

重症肝炎や劇症肝炎は原則として外科治療の適応外と考えられる。慢性肝炎,肝硬変症例については,血算,血液凝固能検査,血液生化学検査,ICG負荷試験(15分値),肝炎ウイルス検査を行い総合的に評価する。特殊な病態を除いて,肝機能障害に基づくICG負荷試験(15分値)40%以上の場合は原則として手術適応外となるが,20〜40%の場合には低侵襲手術の適応も考慮し,十分な注意を要する29)

腎機能検査

一般尿検査,血清Cr,BUN,電解質,クレアチニンクリアランス(Ccr)などが評価項目となる。腎機能低下のみで手術適応外とすることは比較的少ないが,血清Cr2.0mg/dL以上,Ccr30%以下の症例では,透析療法を要する可能性を説明することが望ましい29)

耐糖能検査

糖尿病,耐糖能低下例では周術期の血糖コントロールを厳密に施行する必要がある。空腹時血糖値測定,75g経口ブドウ糖負荷試験,HbA1c測定,尿糖定量検査,尿ケトン体検査を施行する。術前のコントロールの目安は,空腹時血糖<140mg/dL,1日尿糖排泄量10g以下,尿ケトン体陰性である。

その他

精神障害の有無を含む中枢神経機能を総合的に評価する。急性期脳血管障害は一般には食道癌根治術の適応にならない。うつ状態,不安,せん妄,認知症などについては精神科医の専門的評価を求めることが望ましい。

 

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