ガイドライン

(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン

書誌情報
V 骨粗鬆症の治療

 
D.骨粗鬆症の薬物治療
c.薬剤の併用療法

骨粗鬆症が多因子により発病する疾患であることはよく知られているところである。したがって,骨粗鬆症治療にもそのことを反映させ,作用機序の異なったいくつかの薬物を組み合わせて使用したくなるのは理解できるところである。しかし,一般的にいって,多剤併用療法が受け入れられるためには,その薬物の単独効果と併用による効果の差が,いくつかのエンドポイントを設定して確認されなければならない。

解説

併用療法の利点
骨粗鬆症の病態や成立機序は複雑であり,個々の症例で状態は異なっていることが一般的である。たとえば代謝回転が高い症例もあれば,それほど高くない症例もあるし,またビタミン類の不足がある例もあれば,そうでもない例もある。それらの症例に対し,理想的な治療を行おうとすれば,一つひとつの要因を解析し,もしもある状態がある薬剤単独で解消できないとするならば,その状態を改善しうる他の薬剤を併用することになる。このことにより基礎治療薬の効果を十分に引き出すことが可能かもしれないし,また併用した薬剤の効果が上乗せされる可能性がある。
併用療法の利点はこのことにつきるのであって,一般的にいえば現在使用しうる薬剤のいずれもが,完璧に骨粗鬆症を治癒せしめる能力はないので,もしも併用の利得が十分に予想されるか,もしくはそれが証明されていれば,併用は容認しうる治療方法の一つのオプションとして位置づけられるであろう。さらにある1剤を使用してもその薬剤がもつ効果が十分に発揮されない時,他剤を併用することにより当該薬剤の期待した効果がでる場合もあるとの報告もみられる478),479)

併用療法の欠点
しかし,併用したことにより起こりうる各種の欠点についての詳細な検討が必要であることは論をまたない。第一に考慮しなければならない点は,安全性の面であろう。各薬剤にはそれぞれ特有な安全性の面からみた問題があり,併用することにより安全性の問題もまた上乗せされる,もしくは増幅される可能性はつねに意識されなければならない。
第二に考えなければならないことは,併用により医療費は当然のことながら増大するという点である。保険診療においてこの問題は比較的意識されない点であるが,マクロ的にみた医療費を考慮すれば,骨粗鬆症が最小の医療費で効率よく治療されるべきであると考えられる。したがって,併用療法を行うにあたってはそれだけの医療費をかけることにより得られる利得が,受けられなかった場合の損失を上回ることが証明されなければならない。すなわち費用対効果が十分である必要がある。
第三に行おうとしている併用療法に,理論的にみて妥当な根拠がある必要がある。たとえば,ホルモン補充療法(HRT)とビスフォスフォネート製剤の併用療法といった報告480)もみられるが,このような併用は骨吸収抑制剤を二重に使用している可能性があり,問題なしとはしない。もちろんエストロゲン作用とビスフォスフォネート製剤とでは同じ骨吸収抑制剤の範疇に分類されるが,エストロゲン効果はビスフォスフォネート製剤ほど単純ではなく,骨吸収抑制以外の効果も期待しうる。しかしそうではあっても,この2剤を使用することの安全性(過剰な骨吸収抑制,エストロゲン副作用+ビスフォスフォネート副作用)の問題は,実際得られる臨床効果により相殺されるか否かがいまだに調査されてはいない481)
第四に併用することによりどちらか,または両者の効果が相殺されることもある可能性を考慮しなければならない。たとえば,わが国ではいまだに使用されていないが,PTHとアレンドロネートを併用したところ,PTHによる骨密度の増加や骨形成の増加が観察できなくなったとの報告がみられる482)。この理由は明らかではないが,アレンドロネートによる骨代謝回転の抑制効果が,PTHによる骨形成効果を抑制してしまった可能性が考えられる。しかし同じ骨吸収抑制剤の範疇に入れられるHRTとPTHの併用では骨折の発生が有意に抑制され,この併用では骨代謝マーカーは前値と同様に維持されていたという483)。このように併用の組み合わせによっては異なった結果が得られる可能性もあり,どのような薬物を組み合わせるかについては慎重な配慮が求められる。

併用療法において検証されなければならないこと
併用療法を行うにあたり,以下のことがらが証明されなければならない。
1 併用により単剤の使用よりも,より骨折予防効果が強いこと481),484)
2 併用により安全性に問題がないこと483),486)
3 併用により患者のQOLがよりよい状態に維持されること。
4 併用により代替エンドポイント(骨密度または骨代謝マーカー)がよりよい方向に推移すること。
5 併用療法が単剤の使用に比べ医療経済的側面からみて過剰な医療ではないことを証明すること481),484)
6 併用により一方の薬剤効果が相殺されることがないこと482)
現実にわが国で行われている併用療法は,これらいずの点においても十分に証明されたエビデンスはないといってよい。この理由は第一に併用を考慮されることが多い活性型ビタミンD3にしてもビタミンK2にしても,これらビタミン類が不足しているという報告はあっても,保険診療の範囲内でこれらの不足を証明する手段がないことによる。もしもこれらの指標が保険診療に導入され,対象となる患者でこれらの過不足が正しく評価できるようになれば併用療法は検討に値する治療法となる可能性はある。すなわち,どのような例で併用療法を考慮しなければならないのかについての評価系が臨床的に応用できていない。
第二の問題は,もしも併用療法の効果が単剤の使用よりも上回っていると推定されるのであれば,そのことを骨折予防の観点から証明しなければならない点にある。新規骨折の発生率は,特に基礎治療薬が強力であればきわめて低い確率にとどまるため,それ以上の上乗せ効果を証明するには実に多数の症例を集積した前向き試験が求められることになる。この問題は併用治療の効果を証明する場合,最大の障害となっている。
わが国においては現在,アレンドロネートに活性型ビタミンD3製剤を併用した場合,利点があるか否かを総合的に評価する試みが進行中である〔A-TOP研究会併用療法研究(JOINT 02):http://www.a-top.jp〕。この研究においてはアレンドロネート単独群とアレンドロネート+活性型ビタミンD3併用群,各1,000例,合計約2,000例規模の臨床試験が試みられている。試験期間は2年間であり,3年までの継続試験が行われている。エンドポイントは椎体新規骨折,安全性,QOL,身長短縮など多岐にわたっている。このような試験を介して初めて併用療法の妥当性が証明し得るわけで,このことをとらえても併用療法の採用がいかに困難な証明を要求されているかがわかる。


解説

以上の考察から,現段階では推奨し得る薬剤の併用はないといってよいと思われる(グレードC)。


 

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