ガイドライン

(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン

書誌情報
V 骨粗鬆症の治療

 
D.骨粗鬆症の薬物治療
b. 各薬剤の特徴とエビデンス
(7)カルシトニン製剤

解説

破骨細胞や前破骨細胞にはカルシトニン受容体が存在し437),カルシトニンはこれらの細胞に直接作用してその機能を抑制する骨吸収抑制剤である。わが国で使用可能なカルシトニン製剤は,サケカルシトニンおよびウナギカルシトニンの合成誘導体であるエルカトニン筋注製剤のみである。

骨密度に対する効果
エルカトニン20単位週1回(または10単位週2回)投与の骨密度増加効果については,これまでRCT304),378),439),440),441)(このうち一つは二重盲検下での試験)が5件,非無作為化比較試験(CCT)442)とケースシリーズ443)がそれぞれ一件報告されている。このうち,一つのRCT439),CCT442),ケースシリーズ443)で,単独投与あるいは乳酸カルシウムの併用により,対照群に比して腰椎骨密度の増加が観察された。このほかの試験で,橈骨378),第二中手骨304)の骨密度増加が認められた。

骨折予防効果
最近報告されたRCT378)では,エルカトニン20単位週1回の投与によって,椎体骨折発生を対照群に比較して59%低下させた(p<0.05)。しかしながらこの報告以外に,エルカトニンの骨折予防効果を証明したRCTあるいはCCTは現在までには報告されていない。また筋注サケカルシトニンによる骨折予防効果は証明されていない。
単独投与に比べて活性型ビタミンD3との併用投与で腰椎骨密度増加効果が大きいとするサケカルシトニンのRCT440),エルカトニンのCCT442)が報告されている。
骨代謝マーカーの推移については,エルカトニンに関してRCT378)で骨吸収マーカーの低下が観察された。一方,骨形成マーカーに関する報告は少なく,一定の結果が得られていない。
カルシトニンは中枢性の鎮痛作用を有し,この作用にはセロトニン抑制系の可塑的変化が関与していると考えられる444),445)。二重盲検下のRCT446)において,エルカトニンが,対照(低用量)に比べて有意に骨粗鬆症に伴う腰背痛の改善効果を示した(改善度が19%優っていた)。椎体骨折により生じた疼痛に対する鎮痛効果に関するシステマティックレビュー447)では,治療開始1〜4週間後から,継続的に日常生活動作での疼痛スコアが本剤投与により有意に低下すると結論された。また生活の質(QOL)に関して,SF-36を用いたCCTが行われ,3ヵ月目で対照との間に有意な差が観察された448)

[エビデンステーブル]
表53 カルシトニンの主な多施設二重盲検試験結果のまとめ
効果 文献 例数
(完了例)
試験デザイン 成績 エビデンス
レベル
骨密度 378) 全対象:396(372)
ECT:66(62)
対照:66(60)
RCT(オープン)
ECT(筋注20IU/週)
(試験期間:2年間),橈骨(DXA)
橈骨
  ECT群1.6%
対照群-3.3% p<0.001
II
  440) 全対象:202
SCT:49
αD3:50
SCT+αD3:51
対照:52
RCT(オープン)
SCT(筋注10IU×2/月)
αD3:(経口0.5µg×2/日)
2年間,腰椎(DXA)
1)SCT:2.21%
2)αD3:1.04%
3)SCT+αD3:4.51%
4)対照:-3.61%
1)>2),4):p<0.001,1)<3):p<0.01
4)<2),3):p<0.001
II
  442) 全対象:136
ECT:19
ECT+αD3:34
対照:27
CCT
ECT(筋注20IU/週)
αD3 1µg/日
(試験期間:3年間),腰椎(DXA)
腰椎
  対照群 -3.5%
ECT群 -0.6%(18ヵ月までは対照より高値p=0.0201)
ECT+D群 8.0% p=0.0004(vs対照)
III
  439) ECT:67(45)
対照:60(42)
RCT(オープン)
ECT(筋注20IU/週)
100mgカルシウムを基礎薬剤として投与(試験期間:24週間)
腰椎(DXA)
腰椎
  ECT群 1.87%
対照群 -0.39% p<0.05
II
  441) 全対象:73
ECT:19(12)
ECT+E:17(14)
E:22(16)
対照:15(10)
RCT(オープン)
ECT(筋注40IU×2/週)
E:E(経口1.25mg/日)
+P(経口10mg/日×10日/月)
2年間,腰椎(DXA)
ECT:1% NS
ECT+E:9.2% p<0.01
E:4.2% p<0.01
対照:-7.2% p<0.001
II
  304) 全対象:231(219)
ECT:115(110)
対照:116(109)
RCT(二重盲検)
ECT(筋注20IU/週)
300mgカルシウムを基礎薬剤として投与(試験期間:26週間)
橈骨骨密度(遠位1/3部位と遠位1/10部位)(SPA),
中手骨骨密度,
腰椎骨密度(QCT)
  ECT群 対照群  
橈骨遠位1/3 0.25% 0.82% NS
橈骨遠位1/10 6.27% 1.17% NS
中手骨MCI 2.59% -2.18% p<0.05
中手骨GSmin 4.86% -0.96% p<0.05
中手骨GS/D 2.78% -0.95% p<0.05
腰椎QCT -4.01% -5.93% NS
II
骨折
(椎体)
378) 全対象:396(372)
ECT:66(62)
対照:66(60)
RCT(オープン)
ECT(筋注20IU/週)
(試験期間:2年間)
ECT群 8例(12%)
対照群 17例(26%)
RR0.41(95%CI:0.17〜0.93) p<0.05
II
その他
(疼痛)
446) 全対象:230(218)
ECT
10IU:115(111)
ECT
2.5IU:115(107)
RCT(二重盲検)
ECT(筋注10IUまたは2.5IUを週2回),(試験期間:4週間),腰背痛
  10IU群 2.5IU群  
有効率 67.6% 48.6% p<0.01
II
  447) 5RCT:246 システマティックレビュー 椎体骨折後に鎮痛効果(解析対象の期間:4週間)がある I
ECT:エルカトニン,SCT:サケカルシトニン,αD3:αカルシドール,E:結合型エストロゲン,P:プロゲステロン


推奨

疼痛:鎮痛作用を有し,疼痛を改善する(グレードA)。
骨密度:わずかではあるが増加効果がある(グレードB)。
椎体骨折:椎体骨折を防止するとの報告がある(グレードB)。
非椎体骨折:非椎体骨折の防止効果が期待される(グレードC)。
カルシトニンは鎮痛作用を有し,疼痛を改善する。骨密度増加効果がわずかに認められるが,骨折防止効果に関するエビデンスは少ない。
(総合評価:グレードB)

Additional Statement
カルシトニンの有する骨吸収抑制,骨代謝回転抑制作用からすれば,高代謝回転型骨粗鬆症が最もよい適応と考えられる。また,骨粗鬆症に起因する腰背部痛を有する症例に対しては,本剤のもつ鎮痛作用を期待して投与される。したがって,骨粗鬆症に起因する腰背部痛を有する高代謝回転型骨粗鬆症の症例には,第一に選択される薬剤の一つである。
カルシトニンをヒトに投与すると用量に応じて抗体が産生するが,このような抗体は薬剤の効果に影響せず,副作用にも関係しないので,モニターする必要はない449)

 

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